さすらいの矛盾小隊   作:めーりん

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PHASE-05

†††

 

廃棄された拠点から道無き道をハンヴィーで踏破し、409小隊(私達)はついにS9地区の最外縁部へと辿り着いた。とはいえ404小隊(彼女)から渡された例の部隊(AR小隊)の作戦予定エリアからはやや離れた位置に、ではあるが。

 

『さて、現時点から無線封鎖。409小隊(私達)らしく行きましょうか』

 

『了解だリーダー(イーグルアイ)。しかし今からか?』

 

『確かに。こんなに離れた位置から無線封鎖は珍しいですね隊長(イーグルアイ)

 

ハンヴィーを倒壊した建物の影に隠し、各々が自分の武器や弾薬を持って降りてくるなりイーグルアイ()が部隊間通信で指示を出したことに皆は驚きながらも従う。だがその中で唯一、ハンヴィーの中で私の指示で電子的索敵を行なっていたマテバ(シーカー)がハンヴィーから出てくるなり険しい表情で、隣に立つフィア(アッシュ)から地図を受け取っていた。

 

隊長(イーグルアイ)、この地区にほど近い場所に鉄血の大部隊が接近中。規模は下手したら旅団クラス、最低でも大隊規模。予測進路は例の部隊(AR小隊)の作戦予定地点で、現時点でその地点(AR小隊の作戦地点)付近に居るのは全て代理人(エージェント)直轄の部隊。敵の戦力から考えても直接戦闘だと足手まといにしかならない私はこのままハンヴィーから皆を支援する』

 

代理人(エージェント)が自ら動いているって事は、例の部隊(AR小隊)をそれだけ注視しているって事かしら。というか最低でも大隊規模とかこの辺り一帯の部隊を根こそぎ投入してるって事よね』

 

『作戦変更よ。シグ(ヴァルキリー)は予定地点に先行して周辺に罠よろしく。フィア(アッシュ)シグ(ヴァルキリー)にC4を追加で5kg位渡して。エイト(バック)、乱戦を想定してアンダーはMASS、弾種はバックショット。ただし初弾だけは一粒(スラッグ)でお願い』

 

了解(Copy)

 

『了解だ』

 

ウニカ(シーカー)の緊張した報告に、フィア(アッシュ)が顎に手を当てて考え込む。イーグルアイ()は即座に当初の予定を破棄して新たに作戦を組み上げると指示を出す。フィア(アッシュ)がバックパックから取り出した5kg弱のC4を受け取ったシグ(ヴァルキリー)がバックパックを担いで素早くラペリングワイヤーで建物に登ると建物の上を先行して行く。エイト(バック)C8-SFW(自身の分身)のアンダーレールにバックパックから取り出したM26 MASSを取り付けていた。

 

ウニカ(シーカー)はこの場から複数の上級人形(ハイエンドモデル)との乱戦を前提にした全力電子支援。ただし、危険になったら即座にこれ(ハンヴィー)で合流』

 

『了解だよ隊長(イーグルアイ)

 

ウニカ(シーカー)に指示を出しながらもイーグルアイ()はハンヴィーの後部ハッチから複数のガンケースと四つの特注大型(・・・・)アサルトパックを取り出すと、その半数をフィア(アッシュ)に渡す。

 

リーダー(イーグルアイ)それ(・・)マジで使う気か?』

 

代理人(エージェント)が来るみたいだし、最低でも大隊規模の奴ら相手だからね。まあ備えあれば何とやら、よ。フィア(アッシュ)と私の機能制限を限定解除。それと、現場にはあの(・・)方法で向かうわ』

 

『了解です』

 

その(・・)ガンケースとアサルトパックの正体を知るエイト(バック)が顔を引攣らせるが、イーグルアイ()としては使う事がないに越した事はないモノだけに、あくまでも念には念を入れてのモノだと説明する。そして諦めたのかイーグルアイ()フィア(アッシュ)の間にエイト(バック)が立った事を確認すると、フィア(アッシュ)イーグルアイ()に掛けてある機能の制限を限定的に解除する。

 

『行くわよ。合わせなさいフィア(アッシュ)エイト(バック)、着地はヘマしないでよ?』

 

『はい』

 

『任せとけって』

 

自身の分身たる銃をそれぞれ背負い、そのガンケースとアサルトパックを私達(元鉄血組)が持つとそれぞれのベルトにラペリングロープを繋いだエイト(バック)が頷く。それを確認したイーグルアイ()フィア(アッシュ)はタイミングを合わせて建物の上に跳び上がる(・・・・・)と次々と建物から建物へと跳び移って(・・・・・)移動するのだった。

 

††††

 

その頃、S9地区にほど近い場所で16LABからの依頼で"とある人物"のデータを回収していたAR小隊。その人物の情報を回収している最中、AR小隊は鉄血の上級人形(ハイエンドモデル)の一人であり、上級人形(ハイエンドモデル)の中でも指揮官級であるとされている代理人(エージェント)傘下の部隊からの絶え間ない猛攻を受けていた。

 

AR小隊の隊長であり、AR小隊の中でも特に特別な仕様である戦術人形"M4A1"は数日前にS9地区付近で、鉄血の猛攻が原因で廃棄された司令部に所属していた他の戦術人形らを自身の傘下に加えると、絶望的とも言える防衛戦を展開する。

 

「M16姉さん、データの転送が終わりました!AR-15達を呼び戻して、急いでこの場を離れないと・・・!」

 

「逃がしませんよ・・・・!」

 

代理人(エージェント)の反応が防衛線の反対側から急速接近中!?M4、今すぐそこから・・・!」

 

目的のデータを秘匿通信を利用して転送を完了し、離脱するために仲間に連絡しようとするM4A1。しかしそれを許さない、とばかりに代理人(エージェント)AR小隊(彼女達)の予想とは違う場所から突撃してきていた。小さく聞こえた爆音にいち早く気づいたM16A1だったが、注意を促す前に部屋の壁が爆散する。

 

「M16・・・・姉さん・・・・?」

 

「人の心配をする前に、自分の心配をするべきよ?M4A1・・・!」

 

「うぐっ・・・・!代理人(エージェント)・・・・・!(何故代理人(エージェント)はあそこまでズタボロに?それに代理人(エージェント)の侵入方向には何もなかったはずなのに何故反対側から・・・・!)」

 

爆風で吹き飛び、そのダメージで意識が朦朧とするM4A1。そんな彼女の首を右手で容赦なく掴み上げる代理人(エージェント)。掴み上げられたM4A1だったが、そこで彼女は代理人(エージェント)がかなりのダメージを受けている事に気づく。

 

「ご主人様の大事な物を盗んでおきながら、無事に逃げられるとでも思っていたのかしら?まずは貴女、次に忌々しいAR小隊。次に健気に戦っているグリフィンの戦術人形(ゴミクズ供)。全員ボロ雑巾のようにわたくしたちの餌食にしてさしあげるわ」

 

「っ・・・・!(M4A1(そいつ)を死なせるわけにはいかないのに・・・・!)」

 

忌々しそうな掴み上げたM4A1を睨みつける代理人(エージェント)。その様子を不運にも瓦礫に挟まってしまったM16A1は意識が朦朧としていながらも唇を噛み、必死に意識を繋ぎとめながら睨みつける。

 

「さあ、まずは貴女が死ぬ時間よ?M4A1・・・・!」

 

「残念だけど、その予定は永遠にキャンセルよ代理人(エージェント)。ってかあれだけ叩き込まれながらも建物に突入するなんてね」

 

「っ・・・・!?」

 

サディスティックな笑みを浮かべて両足のサブアームをM4A1に突きつける代理人(エージェント)。だが、次の瞬間、破壊された部屋のスピーカーから(M4A1達は知らないが代理人(エージェント)は知っている)ややノイズ混じりの声が発せられ、その声に思わず代理人(エージェント)が反応、周辺にサブアームを向ける。

 

エイト(バック)エイト(ヴァルキリー)突入(チャージ)ウニカ(シーカー)、やれ!』

 

『了解』

 

了解(Copy)

 

了解(ラジャ)

 

「なっ・・・!?」

 

代理人(エージェント)が驚きで目を見開く。なにせ天井と壁の一部が粉砕され(・・・・・・・・・・・・)、それぞれの場所からM16A1とUMP45によく似た戦術人形が突入してきたかと思いきや、自身(エージェント)の索敵システムと配下の鉄血兵との戦術リンクが一斉にダウンしたのだから。

 

「貴様らまさか・・・・!」

 

「ぶっ飛べボケ・・・・!」

 

「そのまま死ね・・・・!」

 

咄嗟にサブアームを交差させて防御態勢をとる代理人(エージェント)。そこに容赦なくヤクザキックを叩き込んでから更にC8-SFW(自身の相棒)のアンダーレールに装備したM26 MASSから一粒弾(スラッグ)代理人(エージェント)のサブアームにほぼゼロ距離から撃ち込むエイト(バック)

 

サブアーム越しに一粒弾(スラッグ)をほぼゼロ距離から撃ち込まれ、その衝撃に思わず蹲った代理人(エージェント)の右肘を可動域の勢いよく反対側から蹴りを入れて破砕し、M4A1を救出すると飛び下がりながらMPX-SD (自身の相棒)代理人(エージェント)に叩き込むシグ(ヴァルキリー)

 

「これで死なないとか、マジで頑丈だな?代理人(エージェント)よお。や、殺す気で構わないって言われてだけどさ、流石は上級人形(ハイエンドモデル)の指揮官級。呆れた頑丈さだぜ」

 

「ま、今回の目的は代理人(アンタ)じゃないからね。その悪運に感謝なさい」

 

右肘を粉砕され、更にシグ(ヴァルキリー)MPX-SD (相棒)の1マガジン全弾とエイト(バック)がM26 MASSに装填されていた全弾叩き込んだためにサブアームは全損し、全身血まみれとなった代理人(エージェント)が壁にめり込むようにもたれかかる。

 

余りのダメージに睨みつける事しかできない代理人(エージェント)を嗤いながら瓦礫に挟まっていたM16A1を救出するエイト(バック)と抱えていたM4A1を地面に下ろすシグ(ヴァルキリー)

 

「あの、貴女達は・・・・」

 

「それは後回しだ。リーダー(イーグルアイ)フィア(アッシュ)が足止めをしているけど、敵に案山子(スケアクロウ)複数(・・)確認してると連絡があった。409小隊(私たち)が足止めするからAR小隊(あんた達)は逃げろって話だ」

 

「ついでに傘下の部隊も引き連れて行きなさい。一番近いS9地区に新米だけど指揮官が着任すると聞いている。上手くいけばヘリアンと連絡を取れるでしょ」

 

M4A1の問いに、遮るようにエイト(バック)が情報を伝えると、シグ(ヴァルキリー)が補足を入れる。その内容にM4A1はM16A1と顔を見合わせる。

 

「それは構わないが、お前達はどうするんだ?AR小隊(私達)みたいに特別製だというのは分かるが・・・・」

 

「もう一つの依頼があるからある程度鉄血の人形を減らすさ。もし、縁があればまた会えるだろうよ」

 

「ほら、仲間が来たみたいだから早く行きなさい。隊長(イーグルアイ)が敵を足止めしてるみたいだし」

 

M16A1の問いかけに、飄々とした笑みを浮かべてM26 MASSの弾倉を取り替えるエイト(バック)シグ(ヴァルキリー)も小さく笑みを浮かべると、こちらにやってくるAR小隊のメンバーである"ST AR-15"と"SOPMODⅡ"の二人と、M4A1が傘下に加えたグリフィンの戦術人形達を見やる。

 

「ああ、代理人(エージェント)は破壊しないでくれ。ヤツを破壊されると電子戦で面倒なことになるからな」

 

「いくら409小隊(ウチ)電子戦担当(シーカー)が優秀とはいえ、案山子(スケアクロウ)三体と竜騎兵(ドラグーン)護衛(ガード)の群れを同時に相手にするのはキツイのよ。でも、今は代理人(エージェント)がコイツらを統括しているからね。エージェント(ソイツ)を抑えればなんとかなるのよ」

 

壁にもたれかかる血まみれの代理人(エージェント)にAR-15とSOPMODⅡが銃口を向ける。しかしそれをエイト(バック)が止め、シグ(ヴァルキリー)が理由を告げる。

 

「ほら、とっとと離脱する。じゃないと409小隊(私達)も撤退の準備ができないんだから」

 

「ま、安心しろって。409小隊(ウチら)にとっては日常茶飯事な状況だからさー」

 

「分かりました。・・・・・ありがとう、ございます

 

「よし、離脱するぞ!」

 

C4を超高張力ワイヤーで蓑巻きにした代理人(エージェント)の周辺に設置しながらシグ(ヴァルキリー)が促し、エイト(バック)も朗らかに笑う。それを見たM4A1は小さく礼を述べるとM16A1の声に頷き、グリフィンの部隊を率いて離脱を開始するのであった。


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