(今回も短め…………)
しばらく、私は無言のまま立っていた。
誰もいない廊下、静寂に包まれた空間の中に私はいる。その空間を支配する僅かな間の沈黙を、私は永遠の時間のように感じていた。
「メリー…………」
"あの告白"の後、私はすぐに部屋を出てメリーを追った。だが、彼女の姿は影も形もなかった。視界に映るのは
1人取り残された時間の中で、私は妙な焦燥感に駆られていた。
––––––––––私はきっと、ここに長く居過ぎたんだ…………
先程のメリーの言葉が頭をよぎる。それが何を意味していたのかは分からない。
…………だが、どうにも嫌な予感が拭えなかった。
去り際に見せた、彼女の表情が頭から離れなかったのだ。私が動けずにいたのは、それが原因だった。
何かをこらえるように細めた目。光に揺れた瞳。
私を追わないで欲しい…………
まるで、そう訴えかけているような目だった。
ただの考え過ぎだろう…………そう思いたかった。だが、その直感が正しかったことを裏付けるように、実際にメリーは消えてしまった。それでも、認めたくないとばかりに右、左と交互に見返すが、先程と景色は全く変わらない。
–––––––ここで見つけられなければ、二度と会えないのではないか…………
そんな気がしてならなかった。考えれば考えるほど、不安に呑み込まれていく。その不安が、徐々に私を蝕んでいく。真っ白な布に出来た染みがどんどん広がっていくように、私の身体の末端までもが、不安という感情に震えていく。
その時の私の心情を表すかのように、冷たい汗が頰を流れていった。
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「マエリベリー・ハーン?」
私が尋ねた者は、全員が同じ回答をした。私は、彼女のことを知る者に尋ねたはずだった。だが、全員が彼女のことはおろか、名前すら知らないと答えた。
「そんなはずはない」
何度も同じ反論を繰り返したが、人々は困ったような顔をしつつ、私をあしらい、その場を去っていった。
その背を見届けたあとは、次に心当たりのある人間を捕まえ、彼女のことを問いただした。この作業をどれほど繰り返したかは、覚えていない。
結局、誰も彼女のことは覚えておらず、1人の友人から学生課を訪ねることを勧められた私は、事務局へ向かった。
だが、返ってきた答えは落胆と衝撃、その2つを同時に私に与えた。
「マエリベリー・ハーン、そのような名前の学生の籍は、この大学に存在しない」
何度目になるか分からない"反論"。
「そんなはずはない」
その一言をただただ、繰り返した。最初は丁寧に対応していた事務員も、最終的にはイラつきを隠すことなく私を追い出した。
「違う…………メリーは確かにいた。メリーは見つかるはず…………!」
私は片っ端から、心当たりのある場所へ訪れていった。先ずは、彼女の家のあるアパート。
そこに向かったが、メリーのいた部屋が、ただの空き部屋になったのが分かっただけだった。そこから、街外れの丘、いつか一緒に訪れた墓地、待ち合わせの場として使われた駅、そして市役所の住民課………………
結局、何処にも彼女の存在を示すものはなかった。
いつもと変わらない風景…………オレンジの光を反射して輝くビル郡を眺めながら、私は今日という日の出来事を思い浮かべていた。
だが、記憶の何処を探っても手掛かりになりそうなものは見つからない。
「………………」
歩道橋の上で夕陽に晒されながら、スマホを取り出す。写真のアルバムを開いてみるが、メリーの写った画像は全て消えていた。メールを開いても、彼女とのやり取りは1通も残っていなかった。
––––––また、明日探しに行こう…………
今はもう、疲労が限界まできていた。視界もボヤけはじめ、
チラリと、向かい側の階段を見てみる。降りた先には、放課後にメリーとよく訪れていた喫茶店があった。
ふらつき始める脚を踏みしめ、そこを目指して歩いた。
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注文したコーヒーを受け取り、私は休憩を取っていた。
「………………」
疲労のためか、いつもより自分の身体が重かった。正直に言えば、もう歩くのも嫌だった。
テーブルに上体を伏せたまま、私は考えごとをしていた。
–––––––今日、訪れた場所以外に心当たりのある場所はないのか…………
この世界にメリーが存在していた唯一の証拠、私の記憶がだけが頼りだった。
真っ暗闇の中を手探りで彷徨うような感覚を、5分…………いや、何分経ったか分からないが私は味わっていた。
––––––思い出せ…………何か肝心なことを忘れているはずだ…………
再び汗が頰を流れ落ちた。
–––––思い出せ…………
記憶の隅々まで探る中、何か電気のようなものが脳内を走った。
––––––私がまだ訪れていない場所、私とメリーが初めて出会った場所…………
その2つの条件に該当する場所が、1つだけあった。
「博麗神社………………」
その地を思い出すと同時に、私は呟いた。気付いた時には、既に体が動いていた