メリーを追って   作:平熱クラブ

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ごめんなさい、1ヶ月も空きました。
ホントにごめんなさい…………!(土下座)

今回は、いつもよりは長いから……………(震え声)


第3話

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 バシャッ!! 

 

 

 靴の両側から水しぶきが飛ぶのと同時に、肌に突き刺さるような冷たさが爪先に浸透してくる。

 あっという間と言うべきか、街は夜闇に包まれていた。

 まるで、先程までの天気がウソだったかのように滝のような大雨が降り、水の跳ねる音が 其処彼処(そこかしこ )から聴こえてくる。

 傘など持ってきていない。

 全身を大量の雨粒が叩きつけるが、それに構うことなく私は走っていた。

 

「ハァ…………ハァ…………!」

 

 押し潰されそうな肺の感覚、上下に揺れる視界、肌に吸い付く服、一歩踏み込む度に水を噴き出す靴、踏み出す度に段々と重さを増していく脚、すれ違いざまに驚いた表情で振り返る人々。

 その中で私は記憶の中に残された、たった1つの手掛かりのことだけを思い浮かべていた。

 

 ‪ ‬

 –––––––まだ1つだけ行ってない場所がある…………! 

 

 

 それは、街外れの山奥にある場所。

 

 

 –––––––メリーは多分、そこにいる…………! 

 

 

 それは、私がメリーと初めて出会った場所。

 

 

「ッ…………! メリッ…………!」

 

 

 

 

 

 

 博麗神社。

 メリーはきっとそこにいる…………

 

 

 

 

 

 

 ◻︎ ◻︎ ◻︎ ◻︎ ◻︎ ◻︎ ◻︎ ◻︎ ◻︎ ◻︎ ◻︎ ◻︎ ◻︎ ◻︎ ◻︎ ◻︎ ◻︎

 

 

 

 

 

 

 聴こえてくるのは、雨が木々を打つ音と自身の乱れた呼吸。

 視えるのは、真っ暗闇に浮かぶ木々と大きな鳥居のシルエット。

 身体はもう濡れに濡れまくってるが、それが汗なのか雨なのかは判別出来ない。色が変わるほど濡れた服がベッタリと張り付き、身体にズシリとした重みがのし掛かる。

 

 

「…………来るのはいつ以来だったか…………夜だとさらに不気味ね……」

 

 

 私は博麗神社に着いていた。

 

 

 

 

 

 –––––––博麗神社

 

 

 それは、古来より妖怪退治を生業としてきた" 博麗の巫女 "の住処だったという。畑を荒らし、家屋を壊し、人を喰らい…………

 そうした人々の脅威となる妖魔を懲らしめ、或いは占いや神降ろしの儀式等の依頼をこなすことで、巫女としての地位を代々築いてきた。

 ところが、11代目を数えるときに事件は起こった。

 

 

 11代目の巫女は突如として姿を消した。

 

 

 なんの前触れもなく姿を消した事実に村人たちは、ただただ動揺するだけだった。巫女の他に、妖怪に対抗する術を持つ者はいない…………。巫女の失踪の噂は瞬く間に広まったいき、そして、恐れていた事態は現実のものとなった。

 この時を待っていたと言わんばかりに、妖怪は暴虐の限りを尽くした。

 火を放ち、人を喰らい…………

 生まれたての赤ん坊の命も寿命の近い老人の命も分け隔てなく奪っていった。阿鼻叫喚( あびきょうかん)(ちまた )と化した村。路地には腐った肉塊(にくかい)が散らばり、()びた鉄の匂いが風に運ばれた。

 妖怪の蹂躙(じゅうりん)に為す術もない村人たちはすぐさま捜索に出た。深い崖を挟んで隣在する集落、南方に位置する" 送り火山 (おくりびやま)"、妖魔が跋扈(ばっこ)すると言われていた" 霊魂峠 (れいこんとうげ)"、川の上流にある滝裏の" 哭き歌洞穴 (なきうたどうけつ)"。

 数多の犠牲を払い、決して人々が近づいてはならない禁断の領域に足を踏み入れてまで探したが、村人が何1つとして手掛かりを得ることはなかった。

 

 

 

 

 ある者は唱えた。

 

「巫女は妖怪に喰われた」

 

 何者かによって巫女は、その首を討ち取られた。これにより、自分達を脅かす者がいなくなったと踏んだ妖怪達は、邪魔者がいなくなった村を襲った。

 

 

 またある者は、こう唱えた。

 

「巫女は我々を見捨てた」

 

 元々、巫女は妖怪が襲撃することを予見していた。その妖怪達の力が自分の手に余ると考えた巫女は、妖怪の追っ手が迫らないよう村人達を敢えて残し、彼らを妖怪への生贄にすることで、自分だけが助かることを目的に保身に走ったというもの。

 

 

 

 どちらの説にしても、巫女が姿を消した時期と妖怪が襲撃を仕掛けた時期は、上手い具合に重なっていた。

 こうした様々な憶測が飛び交う中、さらに事件は起きた。

 巫女が住んでいた村、並びにその周囲の集落も姿を消した。人も家屋も、そして妖怪も。たった一晩で、何もかもが消えていた。残ったのは、いま、目の前にある博麗神社だけだった。

 こうした出来事から、ここの一帯は" 神隠しの里 "と呼ばれるようになった––––––

 

 

 

 ここまでが、この地に伝わる言い伝えだ。

 言い伝え自体は現在では都市伝説のような扱いを受けており、人々の想像の域もとい、伝説の域を出ることはない。しかし、この博麗神社周辺は心霊スポットとしては有名な地域である。

 

 

 " 複数人で行ったら1人、行方不明になった"

 "異界に繋がる道を見つけた"

 "九つの尾を持つ狐がいた"

 "いきなり目の前が真っ暗になったかと思えば、大量の目玉が浮かぶ空間にいた"

 

 

 様々な目撃例や体験談が報告されているが、いずれも真偽はハッキリしない。(というより、ほぼ全ての報告がデマである可能性が高い)

 私が以前に此処を訪れたのは、この言い伝えに関する情報を調べたかったからだ。結局、何一つとして手掛かりは得られなかったが。

 

「ここまで来たら…………」

 

 シャワーを浴びたかのように濡れた髪の水滴を、手でクシャクシャと払い落とした。

 赤い鳥居をくぐり抜けると、所々に苔が繁茂(はんも)した石畳の細い道が見え、その果てには小屋のような影が待ち構えていた。スマホを取り出し、懐中電灯の機能を使って照らし出す。

 幾筋もの細長い雨粒が暗闇に浮かび上がり、古びた小さな木造建築の境内の姿が露わになる。

 それは、今にも崩れ落ちそうなほど古い神社だった。

 光が照らしだしたのは、朽ちて所々欠けた細い木製の四角い柱。

 

「…………?」

 

 そこで何か違和感を感じた。木目(もくめ )が動いたような気がした。それが気になった私はそっと顔を近づけてみるが、その正体が分かった瞬間に悲鳴をあげて飛び退いた。

 その欠けた部分の内側では白い粒の行列が、縦横無尽に(うごめ )いていた。

 その一粒一粒が、黄色がかった白い胴体に蜂蜜色(はちみついろ )の頭部を持ち、細かい数本の足や頭部の触角がバラバラに動いていた。ぷっくりと楕円形に膨らんだお尻を上下に揺らしながら、団子のようにウジャウジャ群がっているのが分かった。

 これがシロアリの群れと気づくのに時間はかからなかったが、それよりも早く背筋に悪寒が走った。

 その群れを見ていると、いま感じているこの悪寒の正体が、背筋をこの虫が這い上がっている感覚のように思えてしまい、思わず後ずさりをしてしまう。

 

「ッ〜…………!」

 

 自分でも顔が引きつっているのが分かった。しかし、ここまで来て帰るワケにはいかない。柱からそっと離れ、境内の方を向く。視界に入ったのは、ボロボロで腐っているように見える注連縄(しめなわ )。それに垂れ下がる破れた2組の紙垂(しで)。一枚一枚の紙がひし形に切り取られ、数枚ほど連なった和紙が風に虚しく吹かれていた。

 その下には、原型を留めないほどに壊れた賽銭箱が置かれており、辺りに木の破片と錆びて赤茶けた銭が散らばっていた。

 そこから視線を上げると、ボロボロに破れた障子が。先程の柱と同じく、虫が食い荒らした痕があった。そして、その破れた隙間からこちらを覗きこむ底の見えない暗闇………………

 

「メリー………………? いたら、返事して!!」

 

 私の声は虚しく響いただけだった。

 部屋の中を調べようと、階段に一歩踏み出すが、踏みつけた階段の木材がバキバキと割れる音が響いたので、一度断念する。

 危険が付き纏う探索は好きな部類だが、流石にこの、今にも崩れそうな神社に踏み入る勇気はない。

 この神社の心当たりのある場所があるとすれば、目の前にある境内だったのだが、今にも崩壊しそうな建物に上がり込むとは考えにくい。…………だとすれば、メリーはこの建造物の中にはおらず、この周辺に身を隠している可能性がある…………そう考えた私は、この建物の周囲を探すことにした。

 

 

 

 

 

 ◻︎ ◻︎ ◻︎ ◻︎ ◻︎ ◻︎ ◻︎ ◻︎ ◻︎ ◻︎ ◻︎ ◻︎ ◻︎ ◻︎ ◻︎ ◻︎ ◻︎

 

 

 

 

 博麗神社での捜索を始めて何分、いや何時間が経過したか分からない。何度、彼女の名を叫んだか分からない。そして、どれほどの間、雨に打たれていたのかも分からない。しかし、ここまで人らしい姿は一切見当たらなかった。

 悪寒が肌に突き刺さる一方で、身体の内側では灼熱が渦巻いていた。

 頭が割れるような痛みが襲い、視界がぼやけ始める。

 

「メリー!! お願いだから出てきて頂戴!!」

 

 意識の薄れを覚ますかのように私は叫んだ。

 

「メリィィィィィ!!!!!!」

 

 結局、自分の声が周囲に木霊するだけだった。

 

「………………」

 

 

 

 ザァァァァァァァ……………………

 

 

 

 耳に入ってくるのは、雨が降る音のみ。

 結局…………希望を託した最後の手掛かりも、何も意味はなかった。

 

 

 ––––––––––私、秘封倶楽部やめるから

 

 

 ––––––––––私はきっと、ここに長く居過ぎたんだ…………

 

 

 去り際に、メリーが残した言葉。

 彼女が姿を消した理由は分からなかった。彼女が姿を消したことに納得がいかなかった。

 せめて、話だけでもしたかった。私の知らないところで、一体何を抱えこんでいたのか……。このまま二度と会えなければ、私はこの後悔を一生引きずるだろう………………

 

 

「メリー…………」

 

 

 

 そう呟いた時だった。

 

 

 

 

 

「こんばんは」

 

 

 

 

 

 聴こえてきたのは、背後から。

 

 

 

 

 

 

 –––––メリー…………? 

 

 

 しかし、「それはない」とすぐさま考えを否定する。そもそも、声が全くの別人だったからだ。

 それでも…………と、ほんの僅かな期待を抱いて振り返る。が、案の定私が探していた人物ではなかった。

 幾房毎に赤いリボンで纏めた腰まで届くブロンドヘアに、妖艶(ようえん)さを放つ紫の瞳と表情。瞳と同色の前がけをつけた白い衣を身に纏い、赤いリボンの巻かれた白の帽子をかぶり、右手で薄桃色の傘をさしていた。

 

 

「貴女も…………幻想を信じる人間なのかしら?」

 

 ゾッとするほど妖艶な笑みを浮かべて、こちらに歩み寄る。

 

「…………誰?」

「幻想を統べし者………………八雲紫(やくも ゆかり )ですわ、初めまして」

「………………」

 

 

 八雲紫と名乗った女性。見た目は、二十代頃の人間となんら変わりは無い。だが、その妖艶さ故か、どこか人外じみた雰囲気を纏っていた。人間のものとは思えない、その美貌。陶磁器のような真っ白な肌に、柔らかな桜色の唇。宝石をはめ込んだような瞳は、人を(とりこ )にしてしまうには十分なほど美麗だった。

 私は黙ったまま見据えていた。その美しさに見惚れていたのかもしれない。だが、一つ、気になったことがあった。

 

 

 ––––––––––この人、メリーに似ている………? 

 

 

 なんとなく………………なんとなくだが、そんな気がした。

 彼女は、メリーと何かしらの関わりがあるのではないか……? 

 メリーに似ている。ただそれだけで…………根拠と言えない根拠をもとに、私は彼女に尋ねた。

 

 

 

 

「…………貴女、メリーを知らない……? 

 ………………この辺りで、貴女みたいな金髪の子を見かけなかったかしら?」

 

 八雲紫は、表情を変えずに答えた。

 

「あら、そちらは名乗ってくれないのね。まあ、知ってるから別にいいけど………………」

 

「あ……」

 

 すみません…………と謝罪しようとしたが、一瞬だけ、思考が止まる。

 何故、私の名前を知っているのか。

 当然だが、面識など全くない。

 私が抱いた疑問に答えることなく、紫は続けた。

 

「貴女が言うメリーという子………………マエリベリー・ハーンが、" どうなったか "は知っていますわ。捜していたのでしょう? だから、この博麗神社にまで貴女は足を運んだ」

「…………!」

 

 やはり、彼女はメリーと何かしらの関係があった。

 自分の予想が当たっていたことに、ちょっとした安堵を得るのと同時に、また疑問を抱く。

 何故、「マエリベリー・ハーン」というフルネーム、私がメリーを捜していたことを知っているのだろうか。

 そうした疑問が湧くと同時に、ようやくメリーの手掛かりを掴めた戸惑いと嬉しさが込み上げてくるが、ここでまた、彼女の言葉が引っかかった。

 

 

 ––––––––マエリベリー・ハーンが、" どうなったか " は知っていますわ

 

 

 " どうなったか "

 

 " 何処にいる " ではない。" どうなったか " だ。

 

 ––––––––まさか…………! 

 

 

「あの子はどこ!? 教えてちょうだい!」

 

 思わず気が動転してしまい、彼女に詰め寄り、肩を揺さぶっていた。

 

 ––––––––このままでは、メリーが危ない。

 

 今は、その気持ちだけが私を動かしていた。

 しかし、彼女は激しく揺さぶられても表情一つ変えずにいた。

 

「…………離してくれないかしら? 教えを乞うなら、それなりの礼儀を弁えて欲しいわね……」

「ッ…………!」

 

 ギロリと、射抜くような視線を向ける瞳。先程、私を突き動かした焦燥感。それは彼女の放った威圧の前に、呆気なく消え去った。

 

「………………ごめんなさい」

 

 肩から手を離し、後ろに数歩さがる。私は、次の言葉を待った。

 

「ま、いいですわ。取り敢えずは話しましょう。先ずは、あの子が何者なのかについて話さねばなりませんが…………」

「…………?」

 

 何者なのか……? 

 それはメリーについてのことなのだろうか……? なぜ、メリーが何かしらの秘密を抱くかのような言い方をするのだろうか……? 

 疑問符ばかりが浮かぶ私に構うことなく、紫は衝撃の一言を放った。

 

 

「マエリベリー・ハーン………………それは、私が自らの手で作り出した完全自律人形。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ––––––––宇佐見蓮子、貴女を殺す為にね」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 直後、視界が真っ白な光に包まれ、落雷の音が聴覚を支配した。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

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