あたしの名前はアムールトラ。みんなはあたしのことをビーストと呼んでいる。
どうやらあたしはフレンズ化する際にセルリウム…サンドスター・ロウを吸収してしまったようだった。
そのせいかはわからないがあたしの中で破壊衝動や憎悪、憤怒といった感情が無尽蔵に湧いて出てくる。
どれだけのフレンズやセルリアンに手をかけてきただろうか。数多のセルリアンやフレンズを手にかけてもこれらの感情が鎮まることはなかった。
だが、あの子…あのヒトの子にだけは手を出せなかった。あたしの中の声が言うのだ。
「あの子に手を出してはならぬ…あの子を手にかけてはならない…」
「どうなるかはわかっているだろう…?」
あの時、あたしの中に声が聞こえた。あたしは憎悪や殺戮衝動を押し殺して必死になってあの場から去ったのだ。なぜ殺しては駄目なのかあたしにはわからなかった。だけど殺してはいけないことだけはわかった。
だけどいつか…あたしは再びあの子に会ったとしてこの限りのない殺戮衝動を堪えることはできるのだろうか。もしできずに殺してしまったら?もしあの子を殺めてしまったら?どうなるのかあたしにはわからない。
ただ、あたしやあの子のためにもあたしたちは会わない方が良いだろう。それだけはわかっていた。
だからあたしはあの子たちに会わないようにしながら今日もケダモノのごとく殺戮を繰り返していく。
…………
「これは興味深いですね、博士」
「サンドスター・ロウを吸収したフレンズ…さしずめフレンズとセルリアンの混血といったところなのでしょうか。しかしすごい殺気なのです、助手」
「この場にいるだけで空気がビリビリと張りつめているようなのです」
この子達は一体何を言っているのだ…?
手足が鎖でつながれている。身動きが取れない。気が付くとあたしは二人の鳥を模したような子の前で縛られていた。
「どうしますか?博士。このまま生かしておくとパークのフレンズたちに甚大な被害が出るのです」
生かしておくと…?どういう意味だ…?
「セルリアンに食わせるかこの場で殺すか…になるのですかね、助手」
殺す…?あたしを…?なぜ…?
言い知れようのない怒りがこみあげてくる。
「怒っているようなのです、博士」
「驚きましたね、助手。わたしたちの言葉が理解できているようなのです。てっきり理解できないと踏んでいたのですが」
理解できないはずがない。こいつたちははっきりとあたしを殺すといった。それともセルリアンとやらに食わせるといったか。いずれにせよ絶対に許せない。
「野生解放してきましたよ、博士。わたしたちとやる気のようなのです」
「まともにやって勝てるはずがないのです。手っ取り早く処分するのですよ」
させるものか…!
バッキン!!!
「こいつ…!」
「ウ゛オ゛ア゛ア゛ア゛ア゛ア゛ア゛ア゛ア゛ア゛ア゛ア゛ア゛ア゛ア゛ア゛ア゛ア゛ア゛!゛!゛!゛」
殺られるものか…殺されてなるものか!なぜ殺されなければならない!!!
「ウ゛ア゛ア゛ア゛ア゛ア゛ア゛ア゛ア゛ア゛ア゛ア゛!゛!゛」
ズガンッ!
「なんという力…!このままでは…!」
「博士!わたしたちでは手に負えないのです!ここはいったん逃げるのです!」
逃がさん…!殺される前に殺してやる…!
「博士!!!」
……あと少しというところで逃げられてしまった。あたしの上を飛ぶ二人を睨む。憎い…憎い憎い憎い…ッ!!!許せないッ!!!
「…睨まれているだけなのに身震いするようなのです」
「尋常じゃない殺意なのです…きっとこのままでは確実にあいつに殺されてしまうのです」
「どうしますか?博士」
「そうですね…あまりこういうことはしたくないのですが…」
なにをしている…?早く降りてこい!殺してやる!
ボッ!
突如あたしの前で何かが爆発した。あたりが燃えている。あたしの中で得体のしれない恐怖が巻き起こる。
「いざというときのために作っておいた博士ちゃん特製の簡易的な焼夷爆弾なのです。延焼しなければいいのですが…とりあえず今は逃げるのです」
「外してんじゃねえよなのです」
炎に気を取られている間に逃げられてしまった。
……だが今はいい。今はとりあえず逃げるのだ。そしてその後のことを考えればいい。いつか必ず…あの二人を…
「…あれはフレンズと言っていいのでしょうか、博士」
「あれはフレンズではないのです。サンドスター・ロウを吸収したけもの…ビーストと呼ぶのが適当なのです」
「ですね、博士。今のうちにビーストのことを皆に広めるのです。あれはセルリアンよりもずっと厄介なのです」
「そうですね、助手。けもの本来が持つ凶暴性とフレンズの身体能力、そしてセルリアンのごとく無差別にフレンズを襲う習性…一刻も早く皆に知らせるべきなのです」
…………
「た、たすけ…」
今日も一人フレンズに手をかけた。罪悪感なんて感じなかった。あたしはあたしの本能に従ってフレンズを殺したのだ。
そこに罪悪感とか後ろめたさなんてなかった。
中には得物で抵抗してくる者もいたがあたしの爪の前には無力に等しかった。自分から挑んでくる分逃げまわるフレンズより殺しやすかった。
傷つきはしたがそんな些細なことはどうでもよかった。しばらくもしないうちに治るからだ。
次の獲物を探しに行く。セルリアンなんて脆弱で無反応なものよりフレンズが良い。だけどいないよりはマシなのでセルリアンでも見つけ次第容赦なく叩き潰していく。
そこに彼女はいた。
「あっ…」
……あのヒトの子だ。出会いたくはなかったが会ってしまった以上は仕様がない。ここで殺す。
「ともえちゃん!逃げて!」
「ビースト…!」
(殺してはならない…)
───またあの声だ…頭の中でぐわんぐわんと響く。
「ウ゛、ウ゛ア゛ア゛ア゛ア゛ア゛ア゛ア゛・・・!゛」
「よ、様子が変だぞ…!」
「ともえちゃん!今のうちに!」
「う、うん!」
頭の中が激しくきしむ。あたしの意思とは違う別の"なにか"があたしに命令している。精神が分裂するようだ。
…うるさい…うるさいうるさいうるさい!!!
あたしに命令するなッ!!!
「ウ゛ア゛ア゛ア゛ア゛ア゛ア゛ア゛ア゛ア゛ア゛ア゛ア゛ア゛ア゛ア゛ア゛ア゛ッ゛!゛!゛」
ケダモノのような咆哮を上げて突進する。獲物は目と鼻の先にある。
「っ…!」
「させません!」
横やりを食らう。イヌのようなフレンズがあたしの邪魔をしてきた。邪魔をされるのは癪だが獲物は多い方が良い。あたしは一人一人いたぶることにした。
「グルルルルル…」
威嚇のつもりか…?矮小な体で威嚇をされても逆にあたしを昂らせるだ。
やがてそいつはあたしに向かって飛び込んできた。動きは機敏だがリーチが短すぎる。こんなもの少しかわしてあたしの腕で薙ぎ払えば一撃で沈むだろう。
「イエイヌちゃん!逃げて!」
「ともえちゃんこそ逃げてください!わたしはここで食い止めます!」
逃げる?逃がしはせん。ここでまとめて潰してやる。
大振りに腕を上げ勢いよくこのイヌに振り下ろす。だがこいつはちょこまかとあっちへこっちへとかわしていく。攻撃が当たらないと踏んだのか攻撃してこなくなった。
こうなっては面白みがない。ただ鬱陶しいだけの存在だ。
沸々と憤怒の情が込み上げてくる。
「ウ゛ア゛ア゛ア゛ア゛ア゛ア゛ア゛ア゛ア゛ア゛ア゛ア゛ア゛ア゛ア゛ア゛ア゛ア゛ア゛ア゛ア゛ア゛ア゛ア゛ア゛ッ゛ッ゛ッ゛!゛!゛!゛」
「ッ…!!」
一直線にイヌを睨む。あたしの咆哮で怖気づいたようだ。
……殺すなら今……
「う、うあーーーーーっ!」
「!?」
あのヒトの子が叫ぶ。
……その手には燃える松明を持っていた。
あの時に感じた恐怖の感情が蘇ってくる。
───怯んでは駄目だ……怯えては駄目だ……だが本能があれに近づいてはならないと警鐘を鳴らしている。
「うあーーーーーっ!うあーーーーーーっ!」
あんな脆弱で触れただけで死んでしまうような存在に何を怯える必要がある。あたしに歯向かってきているなら今がチャンスではないのか。
そう思ったとき再びあの声が聞こえてきた。
(殺してはならない…手を出してはいけない…)
「ヌ゛ゥ゛・・・ッ゛!゛ク゛ウ゛ウ゛ウ゛ウ゛ゥ゛ゥ゛ゥ゛ゥ゛ゥ゛・・・ッ゛ッ゛!゛!゛」
頭が痛い……ッ!頭が…割れるようだ……ッ!
「イエイヌちゃん!こっちに!」
「!!」
ク…ッ!一匹に逃げられたか…ッ!
「うあーーーーー!あっちに行けーーーー!」
松明を振り回してあたしに威嚇してくる。癪だがいったん引いて松明を下ろすのを待つしかないだろう。
確実に仕留めてやる…
「ゴマちゃん…」
「っ…!!」
「お願い…助けを…呼んできてもらえるかな…」
「………無理だ…私…怖くてうごけねえ…」
「ゴマちゃんしか頼める子がいないの!早く行って!」
「ッ…!!わ…わかった……ぜ……」
鳥が一匹逃げたか…あの中ではもっともうまみのない奴だろうが…まぁ良い。手早くあの二匹を片付けなければ。
厄介なことになる前にな…