けものフレンズR ~Re:Life~   作:韓非子

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第10話「ビーストとフレンズとアムールトラ」

 …もう丸一日経っている。夕日も沈みあたしたちは二回目の夜を迎えた。松明も無限にあるわけではない。かばんに入れていたじゃぱりマンと水ももう底をついている。

 イエイヌちゃんも四六時中ずっと音とニオイでビーストを探っているせいで憔悴しきっている。そういうあたしも心身ともに擦り切っていた。

 ビーストもずっと草むらに隠れてこちらの様子をうかがっている。集中力を切らして膝をついた瞬間が負けだ。少しでも気を抜いたら一瞬にして切り裂かれてしまうだろう。

 流れる汗と飛び回る羽虫があたしの集中力を乱す。ある意味ビーストよりも厄介だ。けどこんなのに負けるわけにはいかない。あたしは負けない。きっとゴマちゃんは助けを呼んできてくれる。それだけがあたしに残された唯一の希望だった。

 

「ゴマちゃんはきっと来る。きっと…」

「~~~♪゛ ~~♪゛」

「!?」

 

 急にビーストとは違う別の叫び声が聞こえた。不気味な怪物のうめき声というかなんというか…

 ビーストとは違う別の敵がやってきたの…?あたしは気を失いそうになった。

 

「いたぞ!そこだ!」

 

 急に声が聞こえた。ゴマちゃんだ…!

 

「ともえよ!助けに来たぞ!」

「待たせたね!」

 

 二人のフレンズさんが空から降りてきた。大きな角が特徴のフレンズさんと大きなたてがみが特徴のフレンズさんだ。

 

「あれがビーストだね…すごい殺気だ…だけど負けないよ!野生解放で一気に片を付けてやる!」

「お前たちもよく耐えたな。ここからは私たちに任せな!」

 

 あっけにとられて茫然としていた。助けが来たんだ…本当に…

 

「お前ら!大丈夫か!?」

「あ…あ…ゴマ…ちゃん…」

「もう大丈夫だからな!しっかり助けは呼んできたからな!?」

 

 ゴマちゃんが戻ってきてくれた。ゴマちゃんもボロボロになっている。感情がぐちゃぐちゃになってあたしは泣きながらゴマちゃんに抱きついた。

 

「怖かった…怖かったよぉ…」

「すまねぇな…遅れ…ちまった…」

 

 ゴマちゃんもそう言って泣き出した。二人でわんわんと声を上げながら泣きあった。

 

「すまねぇ!私、何回ももう諦めようとかもうダメなんじゃないかって逃げ出そうとしちまった!私、お前たちになんて詫びをすればいいか…」

「あたしもだよ!あたしも何回も助けは来ないんじゃないかって思って諦めようとしたもん!あたし、ゴマちゃんを信じ切れなかったんだ…」

 

 二人で激白しあって互いにまたわんわんと泣き出す。そしてゴマちゃんの後ろで白い鳥のフレンズさんが言い出した。

 

「あなたも疲れたでしょう。こっちにいらっしゃい。今だけ私があなたを癒してあげるわ」

「あ…あぁ…」

 

 イエイヌちゃんはよろよろとその鳥のフレンズさんの元へ行き、倒れこむようにその体をあずけた。そのフレンズさんは優しくイエイヌちゃんを抱擁しているようだった。

 

「よしよし、ビースト相手によく頑張ったわね。偉いわ」

「……っ!」

 

 声を押し殺して泣いているようだ。イエイヌちゃんもよほどきつかったのだろう。それもそのはずだ。あたしに代わってビーストとずっと対峙していたんだ。きつくないはずがない。あたしは胸を貸すことも慰めることもできない。そんな自分が嫌いになりそうだった。

 

「ウ゛オ゛ア゛ア゛ア゛ア゛ア゛ア゛ア゛ア゛ア゛ア゛ア゛ア゛ア゛ア゛ア゛ア゛ア゛ア゛ア゛ア゛ア゛ア゛ッ゛ッ゛ッ゛!゛!゛!゛」

 

 ビーストが絶叫する。再び辺りがビーストの殺気に包まれる。あたしもゴマちゃんもその雰囲気に気圧されて黙ってしまった。

 

「な゛せ゛た゛!゛!゛な゛せ゛あ゛た゛し゛か゛こ゛ろ゛さ゛れ゛な゛け゛れ゛は゛な゛ら゛な゛い゛!゛!゛!゛あ゛た゛し゛か゛な゛に゛を゛し゛た゛と゛い゛う゛の゛た゛!゛!゛!゛」

 

ビーストが呪いの言葉を叫ぶ。あれだけのフレンズさんたちを殺しておいてそんなことを言うの…!?現にあたしたちを殺そうとしているのに…!信じられない…!

 

「はっ…!すごい絶叫と殺意だな…武者震いがしてくるようだぞ…!」

「正直言ってわたしも怖いと思ってるよ…こんなのに勝てるのかね…」

「だが確実にダメージは与えていっている…ライオンよ、腕だ。腕を狙え。そうすれば攻撃が鈍って戦いやすくなるぞ!」

「りょうかい…!」

 

 攻撃を躱し懐に入り込んで双頭の槍で腕に連撃を与えていっている。ビーストが怯んでる…!

 

「ライオン!」

「ああ!ズアアアアアアアアッッ!!!」

 

 ライオンの一撃がビーストの頭にクリーンヒットした。ビーストもたまらずダウンする。

 

「ク゛ゥ゛ゥ゛・・・」

 

「よし!いいぞ!このままトドメを…」

 

 ズゥゥン…ズゥゥン…

 

 遠くから地響きが聞こえる。一定のリズムで響いているようだ。今度はいったい何が起きるの…?

 

「このにおい…セルリアン…!」

 

 セルリアンが来る…?このタイミングで…?

 目の前が暗くなるのを堪えて必死に自分を保つ。

 

「みんなが戦ってくれているのにあたしだけ……負けるもんか……!」

 

「みんな!大変だ!超大型の黒いセルリアンだ!他に大きいのや小さいのがわんさかいやがる!」

 

 ゴマちゃんが上空からセルリアンが来たと伝える。あのサバンナ地方で見た大きいセルリアンの他にもいっぱいいるらしい。どうしたらいいの…!

 対策を考えようと混乱する頭でいろんな考えを張り巡らせる。

 

「ごめんなさいね。私の歌声でセルリアンを呼びつけちゃったみたい」

「えぇ!?」

 

 どうやらこのトキちゃんの歌声にはセルリアンを呼び寄せる効果があるらしい。そんなのってないよ…

 

「来るぞお!!!」

 

 次の瞬間上空に黒いセルリアンの体が見えた。体調は優に300mは超えているだろうか。サバンナで見たあの黒いセルリアンと違って複数の目が見える。どうやら複数のセルリアンの集合体のようだ。

 あたしは深い絶望感に襲われた。ビーストだけならまだしもこんなものを見せられたら誰だって心が折れると思うんだ。

 

「うわぁ!」

 

 ヘラジカちゃんとライオンちゃんの悲鳴が聞こえた。

 次の瞬間ビーストがセルリアンに突進していくのが見えた。ビーストとセルリアンが交戦するのをしっかり確認するとあたしはヘラジカちゃんとライオンちゃんの元に駆け寄った。

 

「ゆ、油断した…情けない限りだ…」

「た、大変!血が出てる!手当しないと…」

「大丈夫だ、たいしたことない…それよりライオンは…?」

「わたしも大丈夫…それよりあいつは…」

 

 遠くを見やるとビーストがセルリアンと戦っている。黒い体に寄生しているセルリアンから触手が生えている。ビーストはそれを掴んではちぎって、その爪でセルリアンを引き裂いている。

 

「みんな、セルリアンの来襲です!気を付けてください!」

 

 イエイヌちゃんが叫ぶ。木々の隙間や草むらから青や紫や橙のいろんな色のセルリアンが姿を出してきた。

 

「任せておけ。数はともかくこれくらいの大きさの相手なら私とライオンで十分だ。なぁアイオンよ!」

「あぁ、これくらいなら!」

 

 二人は次々とセルリアンを薙いでいく。裂いて、叩いて、切っていって次々と撃退していっている。けどあまりにも数が多すぎる。石を叩けない分完全な撃破はできず二人は徐々に体力を消耗していくばかりだ。

 

 パッカーン!

 

 セルリアンの一匹がはじけ飛ぶ。そして次々と周りのセルリアンも弾けていく。

 

「石の破壊は私に任せてください!二人はセルリアンがともえちゃんに近づかないように撃退をお願いします!」

「任された!」

「あいよ!」

 

 そうして三人は連携して次々とセルリアンの群れを退いていく。およそ数え切れる数ではないセルリアンを次々と撃退していき、ついには10匹程度にまで減らすことができた。

 

「はぁ…はぁ…さすがに疲れたな…」

「さすがにあの数はちょっと堪えるものがあるねぇ…」

「けどあともう少しです。もう少しだけ頑張りましょう!」

「おう!」

「了解!」

 

 オオォォォォォォォォォ…

 

 上空の巨大な黒いセルリアンが鳴いた。見るとなにやら長い棒状のようなものが降ってくる。

 

「逃げるぞ!」

 

 ヘラジカちゃんたちが逃げていく。あたしは状況が理解できず立ち尽くしていた。

 

「ともえちゃん!」

 

 イエイヌちゃんに抱きかかえられてその場から退避する。すんでのところであたしは回避することができた。

 

「大丈夫ですか!?」

「う、うん…ありがとう…」

 

 ズゥゥゥゥゥゥゥン…

 

 上の方で鈍い音が鳴り響く。ビーストが長い棒状のようなもので黒いセルリアンを殴っているのが見える。もしかして尻尾をもいだのだろうか。やがてそれは耐えきれなくなると黒い塊となって弾け飛んだ。

 ビーストは本能のままに黒いセルリアンの体を切り刻んでいる。セルリアンは体をよじると黒い塊と一緒にビーストを振り払った。振り払われたビーストがあたしたちのところに飛んでくる。

 

「ッ…!!」

 

 あたしたちの目の前に着地するビースト。だがあたしたちには目もくれず上空の黒いセルリアンを睨む。

 次の瞬間黒いセルリアンの前足が横から木々を薙ぎながらあたしたちを襲ってきた。

 

「あれに巻き込まれるとまずいぞ!逃げろォ!」

 

 まるで津波のようだ。すべてを飲み込みながらあたしたちに迫ってくる。

 

「ともえちゃん!逃げて!」

 

 あたしは完全に腰が抜けていた。足は震えて腰に力が入らない。もう終わりだと思った。

 

「任せて」

 

 ふわりと体が舞い上がる。トキちゃんがあたしと持ち上げてくれたんだ。

 

「うわっ!」

 

 黒いセルリアンの攻撃をかわすことはできたけど追い風に巻き込まれてしまった。けどトキちゃんがしっかり支えてくれたおかげで吹き飛ばされずにすんだ。

 

「ウ゛ア゛ア゛ア゛ア゛ア゛ア゛ア゛ア゛ア゛ア゛ア゛!゛!゛!゛」

 

 ビーストの咆哮が聞こえる。見ると半身をセルリアンに呑まれている。さっきの一撃をかわさずに攻撃を受け止めたのであろうか。

 

「ア゛・・・ア゛・・・ウ゛ア゛ァ゛ァ゛ァ゛・・・」

 

 様子がおかしい。みるみると黒いオーラと野生解放特有の目の輝きが消えていっている。もしかして…

 

「ヘラジカちゃん!あのセルリアンの腕を切って!」

「何を言っている!?そしたらあのビーストを助けることになるぞ!」

「いいから!あたしに考えがあるの!」

「くっ…責任は取らないからな!」

 

 再び野生解放をしたヘラジカちゃんが宙へ飛ぶ。そしてセルリアンの左前脚に一撃を加えた。

 

「くっ…!浅いか…!」

「任せな!」

 

 続くライオンの一撃がセルリアンの腕をぶった切った。たまらずセルリアンはバランスを崩して倒れていく。

 

「うわわわ!倒れてくるよ!」

「こっちです!」

 

 イエイヌちゃんに引っ張られてその場から退避する。間もなくその巨体があたしがいたところに轟音を立てて倒れてきた。

 

 オオォォォォォォォォォ…

 

 この世のものとは思えない不気味な声を上げながら抵抗しようと身をよじっている。背中に付いた無数の目があたしたちを見つめてくる。このまま攻撃してくるのも時間の問題だろう。どうにかしようとあたしは必死に頭をフル回転させた。

 

 そのときだった。

 

 バッシィィィィィィン!!!

 

 セルリアンの背中が弾けた。見るとビーストが一心不乱にセルリアンの背中を叩いている。やがてセルリアンの弱点である石が露出した。

 危機を察知したのかセルリアンはビーストの両腕を触手で縛ると鞭を打つように全身を激しく叩き始めた。

 

「今だ!!石を叩け!!」

 

 あっけにとられて茫然としてしまうあたしたち。何が起きているのか理解できなかった。

 

「何をしている!!早くやれ!!」

 

 ハッと我に返る。両腕を縛られたビーストが脇腹や背中に苛烈な攻撃を受けている。

 

「イエイヌちゃん…!」

「…はい!」

 

 イエイヌちゃんがセルリアンに飛びかかり、石を砕いた。ビーストを攻撃していた触手の攻撃も止まる。

 ビーストが力なく跪く。以前のような殺気めいた覇気を感じられない。震える肩から呻くような息遣いだけが聞こえる。やっぱり様子が変だ。

 

「どけ」

 

ヘラジカちゃんが後ろから低い声であたしに命令してきた。

 

「こいつは無差別にフレンズを襲うケダモノだ。私自らが天誅を下す。邪魔をしてくれるな」

「………ヘラジカちゃん…お願い、この子を助けてあげて」

「…正気か、貴様…つい先ほどお前も殺されかけたばかりだろう。そんな奴を助けるというのか?それに、こいつに殺された者の無念はどうなる!?どれだけの者が…フレンズが、こいつに殺されたと思っている!?」

「…ヘラジカちゃんの言うことはもっともだよ。確かに許されることじゃない。けどこの子…ビーストも認めてあげてほしいって思うんだ。生まれただけで危険な子として扱われて、嫌われて、避けられて…あたし、あまりにもかわいそうだと思うんだ」

「…………」

「あたし、図書館で読んだんだ。そういうの、いじめっていうんだよ。ヒトの間でもよくいじめがあったって…生まれただけで、肌の色が違うだけでいじめられたり、病気をしてるだけで避けられたり、いっぱい、いっぱい、いろんないじめがあったって…ヘラジカちゃんも、パークのみんなもそうなんじゃないの…?あまりにも…かわいそうだよ…」

 

「それに言ってたよ。なぜあたしが殺されなくちゃいけないんだって…この子も怖かったんだよ。怖いから攻撃してたんだよ。周りのみんなが怖いから、理由もなく嫌うから、許せなかったんだよ」

 

「それにこの子はもうビーストなんかじゃない…ねぇ、こっちを…向いて…?」

 

 肩が小さく震えている。その子は今にも泣きだしそうな声で呟いた。

 

「それは…できない…またお前たちを傷つける…それだけは…したくない」

 

 あたしは無言で前に回った。そしてにっこりと笑ってこう言った。

 

「じゃあ…名前を教えてくれるかな」

 

 キョトンとあたしの顔を見上げている。その顔にビーストの面影はない。何も知らない無垢な子供のような顔だった。

 

「……ア…」

「ア…?」

「……アムール…トラ……」

「アムールトラちゃんだね…!」

 

 名前を言った!ビーストなんかじゃない!やっぱりこの子もフレンズなんだ!

 

「ねぇ!みんな聞いた!?この子はアムールトラちゃんだよ!ビーストなんかじゃない!みんなと同じフレンズなんだよ!」

「やめて…!あたしはビーストなんだ…!フレンズを殺すケダモノなんだよ…!」

「そんなことない!今のアムールトラちゃんはビーストなんかじゃない!フレンズなんだよ!しっかりと名前も持ってるじゃん!ビーストは名前なんて持たないよ!」

「っ……!!!」

 

 顔をくしゃくしゃにして泣き始めた。様々な大きな重圧から解放されたようだった。この子は今までずっと孤独だったんだと思う。生まれた時からビーストという烙印を押されて、みんなに嫌われて、一人みんなに殺されるという恐怖の中に生きてきたんだと思う。そう思うとあたしも心が痛むようだった。だけど今ここにいるのはただ一人のビーストの殻から生まれたフレンズだ。この子に罪はないはずだ。

 

 ヘラジカちゃんが近づいてきた。顔は依然として厳しいままだ。

 

「ヘラジカちゃん…」

 

 無言であたしを払いのけるとそのままアムールトラちゃんの前へ立った。アムールトラちゃんは未だ泣いている。

 無言で手を差し伸ばす。それに気づいたアムールトラちゃんはビクッと体を震わせた。

 

「立て」

 

 差し出された手に怯えるようにけもののような手を差し出すアムールトラちゃん。不釣り合いな大きい手を力強く引っ張るとヘラジカちゃんはニカッと笑ってこう言った。

 

「お前、強いな!またいつか手合わせ願うぞ!」

 

 はっはっはっはと大きく笑ってその場を後にする。

 

「みんな帰るぞ!ビースト退治はおしまいだ!」

 

 そう言ってぞろぞろとみんなが帰っていく。残されたのはあたしとイエイヌちゃんとゴマちゃんとアムールトラちゃんの四人だった。

 

「どうするんだ、これ」

 

 ぶっきらぼうにゴマちゃんが聞く。

 

「決まってるよ。一緒に行こ!アムちゃん!」

「アム…ちゃん…?」

「うん!アムールトラちゃんだから略してアムちゃん!キミの名前だよ!」

「あたしが…アムちゃん…」

「ふふふ、良い名前をいただきましたね」

「っっっ……!!」

 

 再び泣き出すアムちゃん。意外と泣き虫さんなのかもしれない。あたしは泣き止むまで待つことにした。

 

「なーんだ。ビーストのときはあんなに怖かったのに今度は泣き虫になりやがった。変なやーつー」

「こら!ゴマちゃん!」

「ふふふ」

 

 あたしたちの仲間が一人増えた。体は大きいけど結構弱虫さんなアムちゃんだ。パークからビーストが消えて代わりにアムールトラちゃんというフレンズさんが増えた。これはすごくすごく喜ばしいことだ。

 それぞれ個性豊かなお友達に囲まれてあたしの冒険は新しく始まった。旅は続く。

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