けものフレンズR ~Re:Life~   作:韓非子

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第11話「ちぇいさー」

 夢を見た。遠い宇宙のかなたで一人ぼっちでさまよっている夢だ。周りには何もなく、遠くで星々が瞬いているだけ。その中をただ一人漂っている。

 ひどい孤独感だ。行けども行けども目の前に広がるのは何もない黒い空間だけ。上も下もわからないこの広い空間だけが存在する。その中であたしは一人ぼっち。気が狂うかのようだ。

 気が付くと足元に一匹の犬がいた。体をあたしの足にすりすりと擦り付けてくる。まるであたしは一人ではないと語りかけてくるように思えた。もちろんそんなのはあたしの勝手な妄想だ。けどどうしてもあたしにはそう思えてしょうがなかった。

 顔を近づけるとぺろぺろとあたしの顔をなめてきた。ちょっとくすぐったい。その犬はじっとあたしの顔を見つめてくる。その真っ直ぐな目を見ているとなぜだか涙があふれてきた。寂しさから抱きしめるとその犬はあたしに語り掛けてきた。

 

「大丈夫…大丈夫ですからね…」

 

 目の前が白んでくるとやがて夢はそこで終わった。

 

 

…………

 

 

 目を覚ました。寝ている間に泣いていたようだった。イエイヌちゃんもゴマちゃんもすやすやと寝ている。だけどアムちゃんだけは起きていた。

 

「寝れないの…?」

「……夢を…見たんだ…フレンズたちを殺す夢…みんなあたしが殺したフレンズだ…みんなあたしを怖がっていて…怒ってる…その子たちをみんな殺していくんだ…」

 

 そう言うと頭を抱えて泣き出した。アムちゃんは今にも壊れそうだった。あたしは優しく抱きしめた。

 

「大丈夫…大丈夫だよ…誰もアムちゃんを傷つけはしないから…」

「……ッ」

「あたしがずっとアムちゃんのそばにいてあげるからね…アムちゃんを一人ぼっちにはさせないから…」

 

 声を押し殺して泣いている。あたしは優しく諭すように言った。

 

「大丈夫だよ。いっぱい泣いたら一緒に寝よっか」

 

 今までずっと一人ぼっちだったんだ。これからはあたしがそばにいてあげる…甘え方も教えてあげる。一緒に遊ぶことも一緒に笑うことも教えてあげるんだ。それがあたしにできる唯一のことだから。

 アムちゃんは気づかない間に泣き止んで寝息を立てていた。あたしはしっかりそれを確認するとアムちゃんに寄り添うように眠った。

 

 

…………

 

 

「しっかしおっきいなー、お前」

 

 ゴマちゃんがアムちゃんの周りをちょろちょろと走り回る。アムちゃんは少しうつむきながら恥ずかしそうにしている。あまり良い気持ちではなさそうだ。

 

「あまり見ないでほしい…あたしのこの姿はみんなを怖がらせるだけだから…」

「そんなことありませんよ。今のあなたはとても頼もしい。ほら、もっとシャキッとしてください。せっかくのきれいな顔もそれでは台無しです」

「きっ、きれいだなんてそんな…」

 

 顔が真っ赤になるアムちゃん。耳までまっかっかになってる。そんなに照れるようなことは言ってないようにおもうけど……どうやら本当に会話という会話をしたことがないようだ。

 

「それ!笑え!うりゃりゃりゃりゃ!」

「ちょ!何を!」

 

 ゴマちゃんがアムちゃんの脇腹をおもむろにくすぐり始めた。アムちゃんがらしくない声で大声を上げながら笑う。これはいいアイデアかもしれない!

 

「イエイヌちゃん!手伝って!」

「は、はい!」

 

 ……な、なんという力…これではくすぐって笑わせるつもりがレスリングをしているようだ…ゴマちゃんはいいポジションにいるおかげで脇腹を攻めていけてるけど、あたしとイエイヌちゃんはそのパワーに負けまいと必死に抗っていた。なんとか目的の個所に触れることができても次の瞬間には突き放されてしまう。これはすごく参った…

 

 

…………

 

 

「はぁぁぁ…はぁぁぁ…」

 

 アムちゃんがぴくぴく痙攣しながら苦笑いのような笑顔を浮かべている。少しは効果があったようだ。あたしとイエイヌちゃんはその容赦ない抵抗にバテて動くなくなっていた。この数分で2000キロカロリーは使ったのではなかろうか。

 

「はぁ…はぁ…どうだ、少しは気は晴れたか」

「う、うん。ありがとう…少し良くなった」

 

 ちょっと固いけど良い笑顔を浮かべながらそう答える。苦労した甲斐はあったようだ。

 

「ぜぇ…ぜぇ…や、やったよイエイヌちゃん…あたしたちは勝ったんだ…」

「そ、そのようですね…」

 

 お互いやったとサムズアップをしてみせる。以心伝心だ。

 

「そうそう。その顔だぜ!泣いたり暗い顔してたりするよりよっぽど良い顔になってるぜ!その顔忘れんなよ!」

「…うん」

 

 そうして気を取り直したあたしたちは再び歩きはじめた。あたしたちの努力の甲斐あってかアムちゃんも少し笑顔が増えたようだ。もっぱら聞き役の方が多いけどあたしたちの会話にも割と入ってきている。けどこうして見ると結構美人さんだなぁ…思わず見とれてしまう。

 

「な…なに…?」

「あ、いっ、いや、何でもない…」

「…?」

 

 大人びたスラっとした体にどことなく妖しい雰囲気を漂わせるきれいな顔。あたしはフレンズさんとかけものとか抜きにしてその魅力に惹かれていた。それにそんな大人な雰囲気を漂わせているのに本人はちょっと自信なさ気で泣き虫さんだ。そのギャップにまた魅了されていた。

 

「ほーん…」

「な、なに?」

 

 ニヤニヤとゴマちゃんが見てくる。あたしの心の中を読んでいるかのようだ。

 

「アム、ともえのやつお前にぞっこんみたいだぜ!」

「ぶっ!!!」

 

 図星だった。完全に心を見透かされていた。ものすごく恥ずかしい。

 

「ともえちゃん…」

「やめて!そんな目で見ないで!」

「へへへ~。でもわかるぜ?こんなにきれいな顔しているんだもんな~」

 

 ニヤニヤしながらゴマちゃんが言う。アムちゃんは顔を真っ赤にしながらうつむいている。あたしとアムちゃんのためにもどうかやめてほしい。けどそんな思いも空しく煽り立ててくる。

 

「見つけたのだ!ビーストなのだ!」

「え?」

 

 不意に声が聞こえた。声のする方を見るとひとりのフレンズさんが猛突進してきているところだった。

 

「うわわ!なに!?」

「あ…あたし…?」

「覚悟するのだー!」

 

 やられると思った瞬間イエイヌちゃんが前に飛び出て、そのフレンズさんをきれいに吹き飛ばした。きれいな放物線を描きながら飛んでいく。その飛ばされように一つの美しさを感じた。

 

「ぎゃふ!?」

「アムールトラさんはビーストではありません!フレンズとなった今、わたしたちの群れの仲間です!その仲間に手を出すようであればこのわたしが許しません!」

 

 仁王立ちのイエイヌちゃんが吠える。その背中は非常に頼もしい。あの超大型セルリアンやビーストだったころのアムちゃんを相手にしてきたんだ。あのフレンズさんであればすぐに追い返せるだろう。

 

「ぐぬぬ…!そこをどくのだ!なぜビーストの味方をするのだ!?そいつはパークを脅かす敵なのだ!さてはお前もサンドスター・ロウに汚染されてしまったのか!?」

 

 …いろいろと誤解をしている。どうにかして誤解を解かないと…

 

「うっ…」

 

 あの小さいフレンズさんにアムちゃんがたじろいでいる。少しは笑うようになってもビーストの呪いはまだ続いているようだ。ビーストの枷から解放されるのはまだまだ先のことになりそうだ。

 

「へいへーい!お前さんフレンズ違いじゃねーかい!?あいつはビーストじゃないぜ!」

「なに!?」

 

 ゴマちゃんが先陣を切って相手を諭しに行く。ここはゴマちゃんに頼ろう。

 

「ア、アライさんが間違えるはずがないのだ!あいつは確かにビーストなのだ!あの手と大きな体は間違いなく博士たちのいうビーストなのだ!」

「けどあの顔を見ろよ。お前さんに怯え切ってるぜ?ビーストはもっと凶暴で獰猛なはずだろ?もし本当にビーストだったらお前なんてとっくに死んでるぜ?」

「ぐぬぬ…」

 

 アライさんを名乗るそのフレンズさんは納得しないながらも分かってくれたようだった。

 

 ここで一時休戦。

 

 アライさんのお供と名乗るフェネックちゃんが飄々とした様子で言ってきた。

 

「やー、申し訳ないねー。アライさんは一度走り出したら止まらないからねー」

「しっかりしてくださいよ!お供だか友達だか知りませんがあなたの相方の暴走のせいでわたしの友達がケガするところだったんですよ!」

「あはは、ごめんってばー」

 

 じーっとアライさんがアムちゃんの顔を睨んでいる。その視線に耐え切れずアムちゃんは顔をそらす。

 

「けどビーストじゃなくてフレンズねー…アムールトラだっけ?どう見てもビーストなんだけど…見てくれはともかく噂に聞くような凶暴さは全然ないねー。本当にフレンズなのかなぁ」

「アライはすぐに納得してくれたぜぇ?お前は納得してくれねえのか?」

「やー、本当にそうなのかなーって。もし違ってまた暴走とかされたらたまらないしねー」

「そんなこと…!」

 

 そんなことないと思って思わず立ち上がった。キッとフェネックちゃんを睨むけどフェネックちゃんはどこ吹く風といった様子だ。

 

「…いいんだ、ともえ…その子たちの言うことは正しい…あたしもいつビーストに戻るかわからない…あたしも…こわいんだ…」

「アムちゃん…」

「あなたたちがあたしを庇ってくれるのは嬉しいけど、あたしにビーストの過去がある以上責めらるのは仕方がないんだ…」

 

 そういって再びふさぎ込む。こうなってはあたしにはどうしようもない。かける言葉が見当たらない。

 

「…ごめんなのだ…」

「え…?」

「お前がこうつらい思いをしているとは知らなかったのだ。なのにビーストと間違えて襲ってしまったのだ…ごめんなさいなのだ…」

 

 アライさんが謝った…?

 

「そ、そんな!あなたたちはなにも悪くないんだ!もとはといえばあたしが…!」

「いーや!アライさんが悪いのだ!襲ったりしてごめんなさいなのだ!」

 

 地面に頭が付かんばかりの勢いで頭を下げて謝るアライさん。そんなアライさんに終始押されっぱなしのアムちゃん。結構このコンビ良いのかもしれない。

 

「いきなり襲ってきて不埒な子だと思いましたけど、結構根は実直で誰よりも素直で正義感が強い子なのかもしれませんね」

「だね…」

 

「そこまで悪いと思うならお詫びにアライさんをたかいたかいするのだ!」

「た、たかいたかい…?」

「見たところお前はすごく背が高いのだ!そんなお前がたかいたかいしたらきっとすごいのだ!だから早くするのだ!」

「う、うん」

 

 アムちゃんはアライさんに促されると両脇を掴んで思い切り高く持ち上げた。頭上高くアライさんの体が持ち上がると、アライさんの顔がパァっと輝いた。

 

「わあ!すごいのだ!とても高いのだ!すごいのだアムールトラ!お前はすごいのだ!」

「っ……」

 

 ポカーンとした様子でアライさんを見上げている。その顔にいっさいの曇りはなく、純粋な子供のように見えた。

 

「アライさん…」

「ん?どうしたのだ?」

「一緒に…走ろう!」

 

 そう言うとアライさんを肩車して走りだした。

 

「わわ!速いのだ!」

「アライさん、あたし、楽しい…!」

「アライさんも楽しいのだ!わっははー!」

 

 二人で大はしゃぎしている。子供と遊ぶ親とも二人のじゃれあう子供とも見て取れる。

 

「あれがビーストに見えるか?」

「……いーや、見えないかなー…」

「アライのやつは早くからアレのカガヤキに気付いたっぽいぜ?お前も飄々とすましてるけどまだまだだなー」

「……だねー。私もアライさんにはまだまだかなわないなー」

 

 その日、アムちゃんはアライさんと全力で楽しんだ。アライさんは全力で突っ走って周りを巻き込んでみんなを幸せにするポテンシャルを持っているのかもしれない。アムちゃんもそんなアライさんに救われたんだ。あたしたち三人で成しえなかったことをたった一人で、それも短時間で成し遂げた。最初はなんて子だと思ったけどこれではあたしたちの完敗だ。もしかしたらアライさんだったら一人でもビーストを倒す…救えたのかもしれない。そう思いながら今日を終えた。

 

 

…………

 

 

 ゴマちゃんやアライさんがたちが寝静まったのを確認すると一人で焚火を始めた。パチパチと弾ける火を見ていると心が落ち着いてくる。火には不思議な魅力がある。このゆらゆらと揺れる火には悪を払い除ける力があるという。あたしのいけないと思う心の部分も洗われていくかのようだ。

 

「隣いーかなー?」

「フェネックちゃん…まだ起きてたんだ」

「へへー。寝れなくてねー」

 

 ふたりでパチパチと火にあたる。

 

「火、平気なの?」

「ちょっと怖いけどへーき」

 

 ……

 少しの沈黙が流れる。

 

「昼間はごめんねー。いじわるしちゃったよー」

「いいよ、すぎたことだから」

「うーん…でもわかってほしいなー。私は私で本気でパークのことを心配してるんだよー。ビーストは出会うフレンズを皆殺しにしながらあちこちで暴れ回ってるから正直すごく怖かったんだよねー」

「そうなんだ…」

「ほら見てよ、これ」

 

 震える手をあたしに差し出す。

 

「正直、今でも怖いって思ってるんだ…」

「フェネックちゃん…」

 

 そうだったんだ…また、あたしは…

 

「私、アライさんがビーストをやっつけに行くって言ったとき、何を言ってるか理解できなかったんだよね。フレンズやセルリアンを見境なく殺して回る歩く災害みたいなものにどうやって勝つんだって。私だってパークのためにどうにかしたいって思ってたけど、今回ばかりはどうにもならないって思ったよ。けどアライさんの真っ直ぐな姿勢を見ていると、私も感化されちゃったのかな。私も行きたいって思うようになったんだよね。それでビーストを探してあちこち旅しているときに見つけたんだよ。今日あんたたちがそいつと一緒に歩いてるのをね。びっくりしちゃった。ビーストがフレンズと一緒にいるってね。なにか企んでるって思ったんだね。それですごい警戒しちゃった。信じられなかったんだ。ビーストもフレンズを騙すだけの知識を持ってるのかって。けど…そういうことではなかったんだね。あの子はビーストなんかではなかった」

 

 フェネックちゃんの独白が続く。やがてそれが終わるとフェネックちゃんが謝ってきた。

 

「あはは、ごめんねー。一人で長々としゃべっちゃったー」

「ううん、いいよ。フェネックちゃんの気持ちが聞けて嬉しかった。フェネックちゃんも色々溜めてたんだね。あたしこそごめんね。フェネックちゃんのことを何も知らなくて…」

「いいよいいよー。私、こんな性格だからさー」

 

 そう言ってへらへらと笑ってみせる。この態度の裏にも色々溜めてるものがあるんだ。アライさんはそういうものも全部一人で受け止めて、持ち前の元気さでみんなを引っ張ってきたんだろう。愚直で単純な子だと思ってたけどそれに惹かれてついていく子もいるんだ。アライさんのそういうところはあたしも見習うべきなのかもしれない。

 

「そういえばあんたたちはどこに向かってるのさー」

「特に決めてないかな。どこかこの辺でフレンズさんが集まるようなスポットってないかな」

「だったらこの先を進んでいったら海に付くからそこに行けばいいと思うよー。海から頭を出してる変な建物があってそこで三人の子がホテルっていうのを営んでるんだー。とりあえずそこを目標にしてみたらー?」

「そうだねぇ…わかった!そこに行ってみるよ!ありがと!フェネックちゃん!」

「へへーん。どういたしましてー」

 

 フェネックちゃんにお礼を言って再び火に当たる。薪を適当な棒で突くとパチンと弾ける。なんだか眠くなってきちゃった。

 

「さて、あたしももう寝ようかな。フェネックちゃんはどうするの?」

「んー、もうちょっと起きとくよー。どうせ寝れないしねー」

「うん、わかった。じゃあ、火の始末お願いするね」

「はいよー」

 

 ホテルかあ。どんなところだろう。海から頭を出している?水没してるってことなのかな。とりあえず明日はそこに行ってみよう。ホテルを営む三人の子っていうのも気になるしね。なんだかとても楽しみだ。

 そうして明日のことを想いながらあたしも眠りについた。

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