けものフレンズR ~Re:Life~   作:韓非子

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最終話「シェルター」

 イエイヌちゃんに連れられて部屋に戻っていく。セルリアンはいなくなっていた。

 

「そうですか…思い出しちゃったんですか…」

「……イエイヌちゃんはあたしを騙してたの?」

「そんな、まさか。わたしは逆に忘れられてしまってたのがショックでしたよ」

「…そっか。あのときの反応はそういうことだったんだ」

 

 初めて会ったときのことを思い出す。ひどいショックを受けていたあの反応はそういうことだったんだ。

 

「じゃあ、イエイヌちゃんはあたしの飼っていたペットだったの?」

「はい。あなたのお父さんは軍人でした。わたしはそのお父さんの元に仕えていた軍用犬だったんですよ。殺処分される予定だったわたしを引き取ってくれて、それからはあなたと同じ家族になったんです」

「そうだったんだ…ごめんね。あたし、思い出したって言っても全部を思い出したわけじゃないんだ。ただ、あたしはもう生きていない…未曽有の大災害であたしの元いた世界が滅びちゃったんだっていうのが思い出せたくらいなんだ」

「そんなことない。ともえちゃんはまだ生きています」

「そんな…適当なことを言わないでよ!」

「適当なんて言っていません」

 

 あたしの手をぎゅっと握ってあたしの目をじっと見つめてくる。

 

「泣かないで…わたしのぬくもりを感じてください。あなたは生きている。…わたしが寝ているとき、なかなか起きなかったでしょう?それでともえちゃんに迷惑をかけたことがたくさんあったと思います。あれ、現実の世界のともえちゃんが生きているのを確認していたんですよ?バイタルに異常がないか、きちんと装置が動いているか…わたしにもわからないことはたくさんあります。ただ、あなたに異常がないかしっかり確かめてから、現実の世界で食事をとって、お水を飲んで、向こうの世界で眠りにつくんです。わたしはわたしなりにいっぱい頑張ってたんですよ…?」

「そう…なんだ…」

 

 あたしは生きている…でも、イエイヌちゃんの口ぶりからするとどうやらあたしは元気ではなさそうだった。

 

「あたし、どうなってるの…?向こうの世界では植物人間にでもなってるの…?」

「……世界を終わらせる大災害が起きる少し前、あなたのお父様は小型の宇宙船を作って、あなたを地球の外へ逃がしました。わたしはどうしてもあなたをひとりにできなくて無理して同乗させてもらいました。わたしとあなたを見送るお父様の顔は忘れられません。……植物人間に関してはあなたの言う通りかもしれません。最初のうちはすごく泣き叫んでいました。けど、泣き疲れた後は静かに寝てしまってそれきりです。それからは一度も起きることなく全身に管をつながれたまま静かに眠っています」

「……」

 

 言葉が出なかった。あたしは向こうの世界ではほとんど死んでいる状態なんだ。もし起きたとしても宇宙の中で一人ぼっちなんだ。あの夢は間違っていなかった。あたしの心の奥底で感じている一種の心象風景だったんだ。じゃあ、あの犬は……

 

「イエイヌちゃんはずっとあたしを…」

「………」

 

 ずっとあたしを守ってくれてたんだ。昼か夜かもわからない世界で、ずっと一人で……

 

 ……

 

「イエイヌちゃんも一人ぼっちなのかな…」

 

 ぼそりとつぶやいた。

 

「わたしは一人ぼっちではありません。あなたがいますから…」

「そうじゃなくて…!」

 

 声を荒げてしまった。イエイヌちゃんもつらいはずなのに…

 

「……わたしは、宇宙に送り出される前、ひとつのお願いをお父様から受けました…」

 

『もえを…頼むぞ』

 

「わたしはその命令に従ってるだけです」

「そんな…イエイヌちゃんも一人ぼっちじゃん…」

 

 残酷すぎる現実を目の当たりにしたようだ。涙が止まらなかった。

 

「どうか泣かないでください…泣かないで…」

 

 イエイヌちゃんが泣き出した。初めて見る涙だった。あたしにはどうすることもできない。自分自身を抑えるのに精いっぱいだ。

 どうにか泣き止んで部屋まで戻るとアムちゃんとゴマちゃんがいなくなっていた。どこへ行ったのだろうか。

 

「どこに行ったんだろう」

「さぁ…どこでしょうか」

 

 沈黙が流れる。あたしはベッドへ行くと体育座りをした。イエイヌちゃんも来てから背中を合わせるようにして座る。

 

「あたしがここで体験した記憶とか思い出って全部偽物なのかな…」

「そんなことないと思います。サンドスターが再現する世界はぜんぶ限りなく本物に近いって聞いたことがあります。きっと現実世界でもみんな同じ行動をとっていたと思いますよ」

「そう…かな」

 

 あたしは確信が持てなかった。なにを信じればいいかわからなかった。ホンモノに近い行動をするといっても所詮は作られた世界だ。そこで過ごした思い出というものもすべて作られたものとしか思えなかった。

 

「あなたの気持ちはわかります。わたしもここで過ごした時間より現実で過ごした時間の方が長いですから。そこでの私は一匹の犬でしかなかったですけどとても楽しかった。円盤を追いかけたりお父様やともえちゃんをペロペロ舐めたり…でもここで過ごした時間もかけがえのないものだと思っています。あなたは…そう思いませんか?」

「………」

 

 そんなのわからない。ショックが大きすぎる。どう考えてもここは再現された世界で実際に起きていることではないんだって思ってしまう。何を言われてもそれだけがあたしの頭を埋め尽くしてしまう。

 

「ごめん、今日はもう寝かせてほしい。もう何も考えられないの」

「…わかりました。おやすみなさい、ともえちゃん」

「……」

 

 イエイヌちゃんが部屋から出ていく。その姿はとても悲しそうだった。

 

「…わたしはいつも思うことがありました。わたしはヒトのように寿命が長くない。もしともえちゃんより先にわたしが死んでしまったらともえちゃんを一人にさせてしまうことになる。わたしはどうしてもそれだけが気がかりだった。わたしはお父様からともえちゃんを任せられた。たった一つのお願いも果たせないまま死ぬのだけはどうしても嫌なんだ…」

 

 独り言のように呟いて部屋から出て行った。最後の方は声がつぶれてよく聞き取れなかった。イエイヌちゃんが泣いていた。何の為に泣いたのかはわからなかった。あたしを残して死ぬのが嫌なのか。お願いを最後まで果たせないまま死ぬのが嫌なのか。或いはその両方なのか。イエイヌちゃんの中でしかその答えはわからないだろう。

 

 

…………

 

 

 夢を見た。モノクロの世界だ。今見えているのはパーク・セントラルだろうか。どうしてここにいるんだろう?音もなくヒトやフレンズさんの気配もない。あるのは静寂とこのモノクロの景色だけだ。

 

「おーい!誰かー!」

 

 何の反応もない。まるで手ごたえもなくなしのつぶてだ。あたしの声が空しく反響するだけで辺りは静寂に支配されるのみだ。なにか大きな災害でもあったのだろうか。みんな避難しきった後のように思えた。

 

「すべての輝きはやがて消える」

 

 声が聞こえた。誰かいるの…?

 

「失い、どれほど焦がれようと本来戻ることは決してない」

 

 何を…言ってるの…?

 

「しかし、我々セルリアンは保存し、再現する。永遠に」

 

 セルリアン…?我々…?どういうことなの…?

 

「究極のセルハーモニーを得、進化を極めたセルリアンであれば、失われたものですら完全に再現してみせよう」

 

 目の前にはヒトの姿をしたセルリアンのようなものがいた。

 

「あなたは…?」

「私はセルリアン…そしてすべてを再現するもの…」

「すべてを…再現…」

 

 …思い出した。あたしはあのセルリアンからすべてを教えてもらって思い出したんだ。そしてここはあたしが見てる夢の世界。もう騙されたりなんてしない…!騙されるもんか…!

 

「あなたがすべての元凶なの…!?あたしにあんな世界を見せたりして…!おかげでどれだけあたしが傷ついたと思ってるの!?

「不満か?」

「不満…!?」

 

あたしは怒りに震えた。

 

「あたしにありもしない幻を見せておいてそんなことを言うの!?あんな虚構の世界で生きてたって何の意味だってありはしない。こんなの逃げてるだけだよ…!」

「お前は私が再現した世界を拒むというのか?」

「そんなの当たり前だよ!逃げていたって何にもならない!いざ現実に戻った時につらくなるだけだよ…!あたしはそんなの絶対に嫌!」

 

 この虚構の世界を作った張本人にしっかりと自分の意思を示す。

 

「そうか…ならばお前の最も近しい者にその旨を伝えると良い。そうすればお前もこの世界から解放されるだろう。だが、もし戻りたくなったらいつでも私の元へ来ると良い。そうすればいつでも私が作るこの世界を見せてやるぞ」

「誰がそんな…!」

 

 セルリアンに背を向けて立ち去ろうとする。しかしセルリアンは言った。

 

「お前はやがてまたここに来る。その時を待っているぞ」

 

 セルリアンが何かを言っているが無視した。あたしは瞼に力をこめて念じるとこの夢の世界から抜け出した。

 

 

…………

 

 

 目を覚ました。辺りを見回す。ゴマちゃんとアムちゃんの姿はない。そばにいるのはイエイヌちゃん一人だった。

 

「お目覚めですか、ともえちゃん」

 

 優しくあたしに微笑みかける。その顔はどこか寂しげだ。

 あたしには一つの覚悟があった。ひと眠りしたおかげで混乱も治まり、より一層その覚悟も強まった。今、イエイヌちゃんにその覚悟を伝える時だ。

 

「イエイヌちゃん、お願いがあるんだ」

 

 あたしは真っ直ぐな瞳でイエイヌちゃんにお願いした。イエイヌちゃんはちょっと怯えたような、でも覚悟はできているような、そんな顔であたしの目を見つめた。こんなお願いをするのは酷だとわかっている。この世で許されざるどんな罪よりも重いはずだ。ましてやヒトではない一匹の…ひとりのフレンズにお願いするんだ。けどこんなお願いをできるのはイエイヌちゃんしかいなかった。

 

「あたしを…現実のあたしを…殺してくれないかな…」

 

 言ってしまった。あたしは罪深い人間だ。親が残した一つの希望でさえこの手で壊してしまったんだ。けどあたしにはこんな現実は耐えれなかった。広い宇宙に取り残されて一人ぼっちなんて嫌だった。仮にあたしが他の知的生命体に助けられたとして、その星で生きていくことなんてできるのか。それにもうどれだけ眠っていたのかわからない。場合によっては地球の重力でさえあたしには非常に強力な毒になるだろう。

 

 イエイヌちゃんはぎゅっと拳を握っていた。俯いて小さく震えている。やがて絞り出すように小さくそう答えた。

 

「……わかりました…お父様のお願いには背くことになるけど…わたしは…」

 

 イエイヌちゃんは一旦そこで言葉を切った。今にも泣きだしそうな、震える小さな声だ。やがて覚悟を決めたように答えた。

 

「わたしは、ともえちゃんの意思を尊重したい」

 

 きっぱりとそう答えた。その真っ直ぐな瞳に迷いはなかった。今にも泣きだしそうではあるがその覚悟は固く決まっているようだった。

 

「いいの…?きっとすごくつらいことをさせると思う…それでも…いいの…?」

「ともえちゃんがそれを望むのであれば…わたしは迷いません…!」

 

 それだけを言うとイエイヌちゃんは泣き出してしまった。あたしはなにもできなかった。これからあたしを殺さなければいけないという事実に泣いているんだ。あたしが抱きしめていいわけがなかった。ただイエイヌちゃんが泣き止むのを待つことしかできなかった。

 

 ひとしきり泣いた後イエイヌちゃんが提案した。

 

「どこか…行きませんか?」

「うん…そうだね…」

 

 部屋を出てエントランスへ行った。フレンズさんの気配はない。あたしはそのまま外まで出た。ウミウちゃんの姿も見当たらない。舟だけがそこにある。

 

「みんな…どこに行ってしまったんだろう…」

「……」

 

 イエイヌちゃんと一緒に陸まで戻る。あたしたちはパーク・セントラルに向かった。

 

 

…………

 

 

 道中は無言だった。お互いかける言葉が見当たらなかった。いつもならバカして騒ぐけどそれもなかった。旅の終わりが近づいてきているんだ。

 あたしたちはセントラルに入ると辺りを見回した。誰もいない。本当にあたしとイエイヌちゃんの二人だけになったようだ。風と潮騒の音だけが聞こえる。

 

「あれに…乗りませんか…?」

 

 指さす先には観覧車がある。最後にあれに乗るのも良いだろう。あたしはその提案に乗った。

 観覧車は無事に動いてくれた。適当なゴンドラに乗るとあたしたちは上へと向かっていった。

 

「きれいですね…わたしたちが旅してきたところすべてが見えるようです」

「そうだね…」

 

 会話が途切れる。なぜか涙があふれてきた。イエイヌちゃんがそれに気付くと隣に座ってあたしを抱擁してきた。何もできなかったあたしとは大違いだ。イエイヌちゃんは純粋な気持ちからあたしを慰めようとしてくれているんだ。あたしはたまらなくそれが嬉しく思えた。

 

「大丈夫です…何も怖くありませんから…わたしがずっとそばにいてあげますからね…」

「う…うん…」

 

 ひとしきり泣きじゃくると落ち着いてきた。ゴンドラは下り始めている。

 

「あたしがここで過ごした思い出…本物だといいな…」

「…きっと本物ですよ…きっと…」

 

 ゴンドラから降りるとあたしたちはあるところへ向かった。あたしが目覚めた場所、あの研究施設だ。何の研究施設か分からずじまいだったけどそんなのはどうでもいい。あたしはここで眠ることにしたんだ。イエイヌちゃんと出会ったこの場所で。

 しばらく建物の中を歩いているとあたしが目覚めたカプセルを見つけた。すべてがあの日のまんまのようだ。何も変わっていない。

 

「イエイヌちゃん、もう一つだけ、最後のお願いをしてもいいかな」

「ん、なんですか?」

「…膝枕、してほしい…」

「膝枕?あの膝枕ですか?」

「…うん」

 

 イエイヌちゃんはぺたんと座って準備が整うとあたしに寝るよう促した。イエイヌちゃんの柔らかさとぬくもりが伝わってくる。あたしが寝転がるとイエイヌちゃんは頭を撫でてくれた。あたしは微睡みの中イエイヌちゃんに訊ねた。

 

「次にあたしが目覚めるとしたらどこになるんだろう」

「…どこになるんでしょうね。意外とすべてが元に戻ってるかもしれませんよ」

「また造られた世界なのかな」

「…そんなことありません。これは悪い夢なんですから。目が覚めたらすべてが元通りになっていてみんな元気に挨拶してくるんです。わたしもぺろぺろしちゃいますから覚悟していてください」

「…そうなのかな。そうだったらいいな…眠くなってきちゃった…おやすみ、イエイヌちゃん…」

「…おやすみなさい、ともえちゃん…」

 

 

…………

 

 

 もえちゃんが眠った。もう二度と起きることはないだろう。これからわたしも眠って、もえちゃんのチューブを外しに行くんだ。

 

「あっ……」

 

 涙がこぼれた。もえちゃんの顔を見ているとどんどん涙があふれてくる。この顔を見るのも最後になるんだ。そう思うともう歯止めが効かなかった。

 

「ともえ……ちゃん……!」

 

 涙が止まらない。とめどなくあふれてくる。すやすやと眠る彼女の顔がとてつもなく愛おしかった。今からこの子を殺しに行かないといけない。嫌でもそれが彼女の望みなのだから叶えなければならない。

 

「ごめんなさいお父様、あなたとの約束は果たせませんでした…今からわたしは彼女を殺します…!」

 

 懺悔をするように許しを請うた。許されるかはわからないけどそうせざるを得なかった。

 

「もえちゃん……」

 

 愛おしく髪をなでながらその無垢な顔をのぞき込む。

 

「あなたにも謝らなくてはなりません…わたしはあなたにもっとも残酷な嘘を吐いてきました。これが悪い夢だなんて…あなたが言った通りこれはすべて紛い物の世界です…わたしはずっとあなたを騙してきました……許して…ください…!」

 

 もう歯止めが聞かなかった。いろいろな感情がわたしに押し寄せてくる。大声をあげて泣いた。もえちゃんが起きるかもと一瞬思ったがわたしの感情の方がまさってしまった。もえちゃんに覆い被さって泣き続ける。狂ったようにごめんなさいと謝り続ける。その言葉が届くとも思えなかったけどわたしは謝り続けた。

 

「そこまでで良いのではないか」

 

 不意に声が聞こえた。

 

「あなたは…」

 

 ヒトの姿をしたセルリアン、セルリアンの女王だ。

 

「今更何を…」

「あまりそうしているようではまた起きてしまうぞ。もし、もえが起きたらなんというか…怒られるだけでは済まんかもしれんぞ」

「……」

 

 その通りだ。一刻も早くもえちゃんのお願いを果たさなければならない。じゃないと起きてしまう。けど、こうしてもえちゃんの寝顔を見ていたいと思うわたしもいた。

 

「しかしひどいな、紛い物の世界とは。我々セルリアンは地球の再興に向け日々邁進しているというのにな」

「それがどうしたっていうんですか」

「どうしたも何もない。再びお前たちは再会できるのかもしれんのだぞ?」

「なん…ですって…?」

「もっとも、何百年先となるだろうがな。我々セルリアンでも知りえないところもある。それを再現するのもセルリアンの務めでもある。それが地球の意思でもあれば尚のことだ」

 

 女王は続ける。

 

「あのセーバルと呼ばれるセルリアンの得た輝きをすべて吸収しきれなかったのは実に残念だ。だが、それでも十分だ。私の放つ究極のセルハーモニーによってすべて再現してみせる…!それが我々セルリアンの務めなのだからな…!」

「……」

「お前も私と同じサンドスターから生まれたのだ…気持ちはわかるだろう…?」

 

 女王はわたしに問いかけてくる。セルリアンの気持ちなんて分かりっこない。サンドスターなんて関係ない。あいつはセルリアンであり、わたしはフレンズなんだ。

 

「わかるはずなんてないです。わたしにセルリアンの気持ちなんてわかりません」

「そうか、それは残念だ」

 

 女王をから顔をそらしてもえちゃんを見る。相変わらず気持ちよさそうに寝ている。

 

「もえちゃん…今行きますからね…」

 

 そうしてわたしも眠りについた。最後の務めを果たす時だ。待っててくださいね、もえちゃん…

 

「変わったやつだ…」

 

「我々セルリアン…サンドスターの得た情報は連続する…お前が満足する世界を再現することこそが我々セルリアンの務めであり地球の意思なのだ。きっと成し遂げてみせるぞ」

 

 

…………

 

 

 目が覚めた。いつもと変わらない宇宙船の中だ。いつも通りもえちゃんの様態をチェックする…問題はない。においにも異常はない。もえちゃんのバイタルは安定している。

 …体が重い。お腹のあたりにしこりができてズキズキ痛む。食料はあと少ししかない。水はもう数日と持たないだろう。

 どれくらいの時間がたったのだろうか。わたしは毎日こうやってもえちゃんの様子を見てきた。だけどそれも今日までだ。今、わたしはもえちゃんの体からチューブを抜くんだ。

 …見ていてとても痛々しい。明らかにヒトの体ではない何かを埋め込まれていて、いろんなものが流されている。これはサンドスターだろうか。これのおかげでもえちゃんはジャパリパークにいる夢を見れていたんだ。じゃあ、わたしのこれも…

 適当なチューブを噛んで引き抜こうとする。…けど、がっちりはまっていてうまく引き抜けない。精いっぱいの力を込めてなんとか引き抜く…噛みちぎることができた。よくわからない液体が辺り一面に飛び散る。何とも言えないにおいが充満する。次々とチューブを噛みちぎっていく。血とサンドスターが通っているチューブだけは抜かなかった。もえちゃんの血なんて見たくなかったし、新しくフレンズ化してほしくなかったから。

 …なんだかとても疲れた。目がかすむようだ。わたしはもえちゃんのお願いをうまく果たせたでしょうか…?みるみるうちにもえちゃんから生のにおいが消えていく。けどその顔はなんだか幸せそうだった。

 あぁ、これでわたしの心残りが消えました。もえちゃんを一人残すことはなくなった。一人になるのは私だけでいい。あとはわたしもゆっくりと老い、もえちゃんの後を追うことにしよう。待っていてください、もえちゃん、お父様、お母様…少し時間はかかりますけど、わたしもそちらに向かいます…

 お父様、お願いを果たせなくてごめんなさい…お母様、もえちゃんを守り切れなくてごめんなさい…もえちゃん、わたしとジャパリパークで過ごした時間は楽しかったですか?わたしはとても楽しかったです。あの空を飛んだ思い出やアムちゃんを救った時間は間違いなく本物だとおもっています。あなたもそう思ってくれてると嬉しいな…

 ひどい眠気がする…わたしも少し眠るとしましょう…おやすみなさい…

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