あれから数日が経った。
パラグライダーも無事完成し、いよいよ飛び立つ時だ。けどこの場所から飛び立つことはできない。どこか飛ぶのに適した場所を探さなくちゃ…
「どこか上昇気流が起きるところとか高くて風が吹くところとかってないかな」
「アルパカが経営してるカフェはどうでしょう。あそこだと砂漠チホーやサバンナチホー、森林チホーと隣接しててそれなりに風も吹いているはずです」
と、助手ちゃんが言う。
「じゃあ早速そこに行こう!」
パラグライダーをたたんで早速その"カフェ"に向かうことにした。
…………
「結構遠いんだねー…」
「もう2日は荷車に揺られてるぜー…」
ごっとんごっとん。
「ふわ~。この干し草に埋もれるのも飽きてきたぜー…」
「そろそろ水とじゃぱりマンも心もとないね…うん?」
「どうかしたか~?」
「あの山…あの山のどれかにカフェがあるのかな?」
正面にいくつもの山が見える。
「ゴマちゃん、ちょっとあの山のどれかにカフェがあるか見てきてくれない?」
「合点だ!」
「イエイヌちゃんも今のうちにちょっと休憩しよう」
「はい!」
そう返事すると荷台に上って大の字で干し草に寝転んだ。う~んと大きく伸びをすると脱力するようにリラックスした。
「ごめんね。何もかも任せっきりで」
「いいですよ。こうしてヒトに使えるのがイエイヌの務めですし。犬ぞりに乗ったつもりでいてください!」
「あはは。うん、そうするよ」
二人で干し草の山で大の字になる。風の音、干し草がすれる音、木々のざわめき、イエイヌちゃんが息をする音が聞こえる。
「イエイヌちゃん…」
「ん、なんですか?」
「もふもふ…したい…」
「ふふ、いいですよ」
そういうとイエイヌちゃんが抱き着いてきた。
「心行くまでわたしで癒されてくださいね」
「ぅぅん…イエイヌちゃん…」
…………
「へへへ、案外簡単に見つかったな。でっかい印を描いてくれてたおかげであっという間に見つかったぜ。……お?」
眼下を見下ろすと二人が抱き合って寝ているのが見えた。
「あいつらめ…人がせっかくカフェを探し回ってるっていうときに二人でイチャコラしやがって…」
荷台のふちに飛び降りると息をいっぱい吸い込んで…
「起きろおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおお!!!!」
…思いっきり叫んだ。
…………
突然の大声にあたしは飛び起きた。ゴマちゃんだ。
「うわぁぁ!ゴマちゃん!?」
「ったく。人がせっかく探しに行ってるのに二人で抱きながら寝やがって…」
「あはは…ごめん…つい…」
「…ん?なんだイエイヌのやつまだ起きねえのか。呆れたやつだな」
「イエイヌちゃんは一度寝たらなかなか起きないんだ。ゆすっても声をかけてもダメでイエイヌちゃんが自然に起きるのを待つしかないんだよ」
「ほんとか~?」
そういってイエイヌちゃんのそばに飛び移る。
「おい、起きろ。カフェを見つけたんだ。出発だぞ」
ぺちぺち。
「ゴ、ゴマちゃん…」
「マジで起きねえな…仕方ねえ、あとは頼んだぜ」
「へ?」
ごっとんごっとん。
これ、思った以上に重い…イエイヌちゃんはこれをずっと一人で引っ張っていたんだ…すごいなぁ…きつそうな顔ひとつも見せずにこれを引っ張ってたなんて…後でなんて労おう…
「それそれ引っ張れともえちゃん丸!敵の根城はもうそこじゃー!」
「や、やめてゴマちゃん…」
イーハーなんて叫びながら後ろで騒いでいる。なんだか声を聞いてるだけで疲れてくる…
「う、うう~ん…」
イエイヌちゃんのうめく声が聞こえてきた。目が覚めたのかな。
「はっ!ともえちゃん!?」
「ともえなら荷車引っ張ってるぜ」
「うわあああ!やっちゃった!ともえちゃーん!」
そう叫びながら荷車から飛び降りてあたしのもとへ駆け寄ってくる。
「あわわわわ!ごめんなさい!つい居眠りしちゃって!代わりますから荷台で休んでてください!」
「うん…お願い…」
へとへとになりながら荷台に戻る。あんな重いものはもう引けないよ…しばらくはイエイヌちゃんに任せよう…
「ともえちゃんにひかせてしまった分その遅れを取り戻します!行きますよ!」
ゴトゴトゴト!
「うわわ!速い速い!」
「おー!すげえな!速いぜ!いけいけー!」
……1時間くらい走っただろうか。イエイヌちゃんの持久力には感服するばっかりだ。
やがてゴマちゃんがここだと反応した。
「そうそうこの灰色の何かが上までつながってたんだよな」
「これ…どうやって登るの…?」
「あれ使うんじゃないんですか?」
イエイヌちゃんが指さす先には小さなゴンドラがある。なるほど。これを使って上まで登っていくのかもしれない。
「じゃあ二人はそれで行けよ。私は飛んでいくからよ」
「うん、わかった。じゃあ行こうか、イエイヌちゃん」
「はい!」
ペダルをこいで上を目指す。これ結構大変かもしれない。ペダルは思ったより軽いけど結構遅いし山も高い。あたしの足は持つだろうか。
「ともえちゃん、大丈夫ですか?代わりましょうか?」
心配そうにイエイヌちゃんが尋ねてくる。イエイヌちゃんにはずっと荷車を引っ張ってもらったしその分できるだけあたしがこのゴンドラをこいでいたいけど…
「まだ大丈夫…変わってほしいって思ったときはあたしから言うから…」
「わかりました…無茶はしないでくださいね?」
「うん、ありがとう」
…そしてなんとか山の5合目あたりまで来ることができた。もう全身汗だくで足もパンパンになってしまった。…イエイヌちゃんに代わってもらおう。
サイドブレーキを引いて席を立つ。
「ぜぇ…ぜぇ…ご、ごめんイエイヌちゃん…代わってもらってもいい…?」
「はい!よろこんで!ともえちゃんはゆっくりお休みくださいね!」
ひぃー、とよくわからない声を上げてゴンドラの隅に溶けるように座り込む。
キュルキュルキュルとイエイヌちゃんのペダルをこぐ音が聞こえる。見てみると結構な速さで登って行ってるようだ。この調子だったら頂上まであっという間かもしれない。
「これ結構大変ですね…ともえちゃんもよくここまで登ってこれました…でもご安心ください!わたしが頂上まで登り切ってみせます!」
そういうと倍の速さでペダルをこぎ始めた。ゴンドラはぐんぐんと登っていき、やがて頂上までたどり着くことができた。
…………
「ようやく着きましたね~」
「うん、お疲れ~。ところでゴマちゃんはどこだろう?着いてないってことはないと思うんだけど…」
「あの中ではないですか?」
イエイヌちゃんが指さした先には一軒の小屋が見えた。アレがカフェ…?
「とりあえず入ってみよっか」
「はい」
ドアを開けて中に入る。中にはゴマちゃんと別のフレンズさんがいた。
「あ~、いらっしゃぁ~い。ようこそ~、じゃぱりかふぇへ~!」
「おっ、遅いぞ~お前らー」
ゴマちゃんは中でゆっくりとくつろいでいた。紅茶と茶菓子まで完備してある。実に優雅である。
「さぁ、どうぞどうぞ~。ゆっくりしてってぇ~」
ニコニコ顔のフレンズさんがあたしたちに紅茶を差し出してくれた。紅茶の良い香りが鼻腔をくすぐる。
「あ~…いい香りだね~…疲れが癒されるよ~…」
「そうですね~…」
「さぁさぁ飲んで飲んでぇ~。きっと疲れも吹き飛ぶよぉ~」
「ありがとう。じゃあいただくね」
ズズズッ
「「はぁ~……」」
「どうどう?おいしいかな~?」
「うん…とっても…」
「いいですね~。わたしもこんなおいしい紅茶淹れることができればな~」
「んぅ?あなたもカフェかなにかやってるの?」
「カフェはやってないんですけど、いつかわたしのご主人さまが返ってきたときのために紅茶を淹れるようにしてるんです。まだ誰にも淹れたことはないんですけど…」
「へぇ~、そうなんだぁ~。だったら上達するためにもここで働いてみる~?かばんちゃんが来てからお客さんが来るようになったんだよ~。きっとそのご主人さまのお口に合うお茶も淹れれるようになるよぉ~!」
「お気持ちは嬉しいんですけど今はともえちゃんの旅のお供をしてますから…また今度でお願いします」
「んぅ~残念。じゃあ、気が向いたらお願いするよ~」
「はい。その時はお願いします」
ハキハキと受け答えするイエイヌちゃんを見て大人だな~って思う。そしてこちらを見てニッコリ笑ってこう言った。
「でもやっぱりわたしはともえちゃんに一番飲んでもらいたいですね!」
「っ…!!」
「わぁ~!大胆な告白だねぇ~!」
突然そう言われて真っ赤になる。なんだかキザだよ~イエイヌちゃん…
「あっはは!顔が紅茶みたいになってるぜ!」
「うぅ…」
「あはは、ちょっと気取っちゃいましたかね」
ゴマちゃんが茶々を入れてイエイヌちゃんもいたずらっぽく笑う。も~なんなの…
「そ、そういえば名前聞いてなかったよね!あたしはともえ!この子はイエイヌちゃん!あなたは…」
「あ~そういえばまだしてなかったね~。あたしはアルパカっていうんだ~。見てわかると思うけどここでカフェを営んでるんだよぉ~。あんたたちのことはこのロードランナーちゃんから聞いてるよぉ~」
「あ、そうだったんだ」
「へへへ、わりぃな」
「それでぇ、なんだか飛ぶためにここに来たんだって?ぱらぐらいだー?っていうの使うんだっけ?あたしも見てみたいなぁ~」
「うん、でももうちょっとだけ休ませてくれるかな。紅茶ももう一杯もらえると嬉しいな」
「いいよいいよぉ~。いっぱいあるからどんどん飲んでいってねぇ~!」
軽い足取りでお茶を入れに行くアルパカちゃん。
……いよいよあたしも空を飛ぶ時だ。なんだか少し緊張する。一歩間違えれば地上に向かって真っ逆さまだ。でもあたしは飛びたい。
過去に飛んだ人たちも同じ気持ちだったのだろうか。そんな思いを噛みしめながらあたしはこの席に臨んだ。