IS×DMC~赤と青の双子の物語~ 作:storyblade
やがて翌日になり、アリーナへ。一夏や千冬、みんなが真剣な表情で見ている中、火影と海之は互いをかつての名前で呼び合い、久方の兄弟ゲンカを始めるのだった。
ガキィィィィィンッ!!
火影
「行くぜバージル!」
海之
「来いダンテ!」
剣と刀がぶつかる音がゴングとなり、ふたりは前世の名を呼んだ。
ガキンッ!キンッ!ガキン!ガキィン!
以前の時よりも凄まじい剣と刀の応酬。そして
ドゴオォォッ!ドンッ!ドンッ!
今度は互いに瞬間でイフリートとベオウルフに変え、拳の応酬が始まる。
…ドゴォッ!…メキメキ
火影の右腕と海之の左腕がぶつかった。力は全くの互角だ。
火影
「ぐっ!」
海之
「くっ!…円陣!」
その瞬間海之の周囲に幻影剣が展開される。
火影
「!」…シュン!
同時に火影はエアトリックで後方に瞬間移動する。すると海之は幻影剣を火影に向けて撃ってきた。火影は瞬時加速を繰り返して逃げるが幻影剣はしつこく追って来る。
海之
「後ろからだけとは限らんぞ!」
火影
「!」
火影がみると前や横からも新たに出された幻影剣が迫って来ていた。
火影
「ちっ!」ジャキッ!
すると火影はコヨーテを展開する。そして、
バババババババババババババッ!
ドガンッ!ドガ!ドガガガンッ!
火影はコヨーテをヌンチャクのごとく振り回しながら連射し、迫りくる幻影剣を次々に破壊する。……それが暫く続き、コヨーテからの硝煙と砂煙が舞い上がって視界がやや悪くなった。すると、
ドドドドドドドンッ!
舞い上がる煙から無数のミサイルが飛び出してきた。カリーナ・アンによる多弾道ミサイルの様であった。
海之
「……」
キンッ!キンッ!キンッ!
……ドガンッ!ドガガガガンッ!
海之の閻魔刀から発された次元斬の結界がミサイルを次々と撃ち落としていく。…やがて全てを撃ち落とした…その時、
ビュンッ!ドスッ!
海之
「! くっ!?」
何かが飛び出してきて海之の腕に刺さった。よく見るとナイフの様な小型の刃物だ。そして、
ギュンッ!
海之
「何!?」
海之に刺さったままナイフが猛スピードで回収される。その先にはカリーナを持った火影がいた。刺さったナイフはカリーナの銃口に付いていたナイフであった。
火影
「もらったぜ!」
火影はもう片腕にリべリオンを展開していた。それが引き寄せられる海之に襲いかかろうとしていた…その時、
ガキィィィィィンッ!
火影
「!?…それは!」
海之
「……」
リべリオンが海之の左手にある剣によって受け止められた。ただし閻魔刀ではない。
ドゥルルルン!ドゥルルルン!
グリップになっているのか、海之が柄の部分を捻るとオートバイのエンジンの様な爆音と炎が吹き出し、剣自体に凄まじい衝撃が加わる。そして、
海之
「うおぉぉぉ!」
火影
「…ぐぁっ!」
強烈な斬撃が火影に襲いかかった。そのパワーに押されて吹き飛ぶ火影。
海之
「おぉぉぉぉぉぉ!」
火影
「!」
更にそのまま海之は振りかぶって来る。
ドオォォォォォォォン!!…パラパラ
剣の一撃は勢いそのまま地面にぶつかり、約十数メートルにわたって亀裂を生み出していた。
海之
「……」
シュンッ!
海之の横に火影が現れた。どうやら間一髪でエアトリックで逃げたらしい。
火影
「ひゅ~。驚いたな、それはあいつの剣か。そんな隠し玉があったとは。銃と一緒にプレゼントされたのか?」
「レッドクイーン」
海之(バージル)に縁ある者が使っていた大剣。柄の部分がグリップになっており、捻る事で剣内部にある推進機能が起動し、爆音と共に炎が噴き出して剣の破壊力と剣速をアップさせる事ができる。その威力は絶大であるが余程の腕力と剣に精通している者でなければまともに扱う事はできない。
海之
「押しつけられたんだ。正直こんな叩き斬る様な剣は俺には合わん」
火影
「へへっ。にしては嬉しそうだぜ?以前あいつの事、俺の知ったことか、なんてまで言ってた割りによ」
海之
「……下らん事言っている暇があったら勝負を続けるぞ」
火影
「上等!」
そう言ってふたりは再び剣を向けてケンカを再開した。
海之
「でやぁぁぁ!」
火影
「おらぁぁぁ!」
…………
観客席
全員
「「「………」」」
一方一夏達はふたりの試合(ケンカ)を見て暫し言葉を失っていたが次第に落ち着いてきた様で、
箒
「…凄い。…ふたり共、先日よりも更に強くなっている…」
セシリア
「火影さん…、あの無数の幻影剣をショットガンひとつで…、信じられない銃捌きですわ…」
鈴
「前に束さんがふたりの動きは機械じゃなく人間の動きって言ってたけど…、ほんとそうね…。あんなのIS纏って動ける動きじゃないわよ…」
ラウラ
「それもあるが海之の奴、また新たな武装を出してきたな。あれも凄まじい威力だ」
簪
「うん。まるで剣の中にエンジンがあるみたい。あんなの私達が持ってたら逆に振り回されちゃうよ」
本音
「でもさ~、ひかりんもみうみうもあんな戦い方したら危ないよ~!」
シャル
「…うん、そうなんだけど。…なんかふたり共楽しそうだね。本音の言う通りあんな危ない戦いしてるのに」
箒
「おそらく互角同士の力で、本気で戦えるのが嬉しいのだろうな…」
鈴
「…なんだか海之が羨ましいわね」
ラウラ
「そう言うなら私も火影の奴が羨ましいぞ」
一夏
「………」
みんなただただ驚愕するばかりであった。
…………
管制塔
それはこちらも同じ様であった。
千冬
「………」
真耶
「…もう…なんて言ったら良いのか…、凄すぎて付いていけません…」
虚
「織斑先生が言った通りかもしれませんね。おふたりの実力は測り知れませんわ…」
楯無
「…あの戦い方。そして武装。全てが従来にも前例にもないやり方だわ。ふたりに追いつこうと思ったら、一夏くんの言う通り、ふたりの戦い方をもっと研究しないといけないかもね」
千冬
(……海之…火影、…お前達は…)
…………
再びアリーナ
みながそれぞれの感想を言っている間もふたりの戦いは続いていた。
ガキンッ!キンッ!キンッ!
リべリオンと閻魔刀がぶつかり合い、
ズダダダダダダダダダダ!
ズドズドズドズドン!
エボニー&アイボリーとブルーローズの弾が飛び交う。
ドシュッ!
火影
「ぐぼぁっ!」
閻魔刀がアリギエルの腹部を貫通すれば、
火影
「ぐっ…、くっ!でりゃあ!」
ドゴオォ!
海之
「ぐああっ!」
イフリートの強烈な衝撃がウェルギエルに襲いかかる。
ふたり共いくつか被弾もし、出血もし、痛みも感じている筈だがお互いそれを気に留める様子は一切無かった。因みにふたりからの忠告でアリーナには事前にシールドが張られていたため、みんながいる観客席や管制塔に被害は無かったが、戦いによってグラウンドはボロボロになっていた。
ガキィィンッ!
火影
「そろそろ決着の時だな!」
海之
「昔を思い出すな!」
シャルロットの言う通り、ふたりは殺し合いさながらの戦いをしているのに実に楽しそうだった。今のふたりは火影と海之としてではなく、ダンテとバージルとして戦っている様であった。しかしあの頃と違い、その心にあるのは憎しみや怒りではない。兄弟として、戦士としてどちらが強いかそれだけであった。
海之
「はっ!」
ガキンッ!
海之は火影のリべリオンを火影の手から弾き飛ばした。
火影
「くっ!」ドゴッ!「ぐほぁ!!」
一瞬の隙を付き、海之は左手に持つ鞘を火影の腹部に付き当てた。衝撃で吹き飛ぶ火影。…その瞬間、
ガシッ!
海之
「!」
火影
「でりゃぁ!」
火影は海之の左手より鞘を奪い、海之目掛けて全力で放り投げる。
ガキィィンッ!ズザザァァ…!
海之は鞘を刀で受け止めるが後ずさりしてしまう。
海之
「くっ…」
火影
「おぉぉぉぉ!」シュンッ!
海之
「!」ドゴォォッ!「ぐあぁぁ!」
バガンッ!!
海之が鞘に気を取られていた瞬間火影は海之の後ろにエアトリック、イフリートを打ちつけたのだ。背後からの攻撃を受けて大きく吹き飛んだ海之は壁にぶつかり、その衝撃で砂埃が舞い上がる。
火影
「ハァ、ハァ、ゼェ、ゼェ……」
ドンッ!
その時海之が再び高速接近で向かってきた。
火影
「くっ、往生際が悪いんだよ!」
火影は再び構え、向かってくる海之に打ちつける。
ブンッ!
火影
「!?」
…だが違った。飛び出してきたそれは本物では無く海之の残影、分身だったのだ。
火影
「ちっ、しま」ドゴォッ!「ぐあぁ!…がはっ!……ぐぐっ」」
衝撃を真正面から受けて大きく吹き飛び、地面をバウンドしながら倒れ込む火影。本物の海之は分身にピッタリ隠れる様に付いており、火影が分身を倒した所で更に攻撃する二重の手段をとっていたのである。
海之
「ハァ、ハァ…。先程のお前のやり方を使わせてもらった。見えない所からの攻撃は防ぎきれんだろうしな」
火影
「ぐっ……。へへっ、お前もそういうやり方ができる様になったんだな…。しかし、結構疲れてるんじゃねぇのか?さっきより威力落ちてるぞ」
海之
「…それはお前もお互い様だろう。SEが切れかけているぞ?」
火影
「……ふぅ~。始めてからもう二時間ってところか…。俺らのISは持ちは良いがこんだけ撃ったり飛んだりしてたらまぁそうなるか…。次でラストにするか?」
海之
「…そうだな、…来い」
そしてふたりはリべリオンと閻魔刀を向けて再び向かい合い、意識を集中させる。
火影・海之
「「……」」
そして、
火影
「バージル!!」
海之
「ダンテ!!」
ドンッ!ドンッ!
ガキィィィィィィンッ!…ギリギリギリッ!
フルスロットルからのお互い最後の一撃。しかしそれでも全くの互角であり、力の押し合いに発展する。
火影
「…これで終わりだぁぁぁぁぁ!!」
海之
「…負けるものかぁぁぁぁぁ!!」
ふたりとも限界を超えて力を込め、何時終わるかもしれない力比べが続いた…。そして、
ギリギリギリッ!…カッ!…キュイィィィィィン…
火影・海之
「「…?」」
突然アリギエルとウェルギエルが同時に強制解除された。どうやら互いの最後の一撃でSEがお互い0になった様であった。
火影
「……おいおい…。前回時間切れで…、今度はエネルギー切れかよ…。また決着付かずか…」
海之
「……その様だ」
またもあっけない結末となった事に互いに不満そうだが、ふたり共疲れからか息を切らし、その場に座り込む。
火影
「…このままじゃ…マジで決着…つかねぇぜ…?」
海之
「…そうだな。……だが、前も言った通り…、時間なら…幾らでもある。……ふっ」
火影
「…ははっ」
…ドサッドサッ
最後にふたりは笑い、そこで意識が途切れた…。
…………
火影・海之
「「………」」
力無くその場に倒れこんでいるふたり。……そこにみんなが走ってきた。
鈴
「ハァ、ハァ、ハァ…火影!!」
簪
「海之くん!!」
箒
「おい!ふたり共!しっかりしろ!!」
火影
「…ぐ~」
海之
「……」
ラウラ
「……大丈夫だ。ふたり共眠っているだけだ。気力と体力を使い切ったんだろうな」
シャル
「ほ、本当!?……はぁ~、もう!心配ばっかりさせて!目が覚めたらふたり共たっぷりお説教してやるんだからね!」
本音
「しゃ、シャルルン恐いよ~。でも本当に無事で良かったよ~」
セシリア
「ええ本当に心配しましたわ。おふたり共急に倒れてしまいましたから…」
一夏
「………」
簪
「と、とりあえずふたりを早く医務室に連れて行こうよ!」
鈴
「そ、そうね。行きましょ!」
そしてふたりは医務室に運ばれていった。…だが一夏は何か考えているのかその場に立っていた。
一夏
「……」
箒
「…?どうした一夏?そう言えばお前さっきからずっと何も言わなかったが…何かあったのか?」
その問いに一夏はようやく口を開く。
一夏
「…すげぇ」
箒
「…えっ?」
一夏
「俺さ、ふたりの戦いを一心不乱に見てたんだ。それこそみんなの話が耳に入らない位必死で。自分の意識を目の前の戦いだけに向けてた。全部とは言わなくてもあいつらの戦いから少しでも技術を、戦い方を学ぶためにな…でも」
箒
「…でも?」
一夏
「…何にもわからん!」
箒
「へっ?」
一夏
「凄すぎて全くわからん!なんであんな動きができんのかも、あんな風に武器を扱えんのかも、全てが今の俺とケタ違い過ぎて全くわかんねぇ!はっはっは!すげぇよあいつら!本当にすげぇ!」
一夏はそう言いながら本当に楽しそうに笑っていた。
箒
「い、一夏?」
一夏
「…でもよ。あんな凄い戦い見せられたらやる気出さねぇ訳にはいかねぇだろ!…やるぜ俺は!火影と海之程じゃなくても、せめてあいつらの背中を守れる位になってやるぜ!」
箒
「!…ふっ、そうだな。お前はそういう奴だったな。…そんなお前だから私は…」
一夏
「ん?なんか言ったか箒?」
箒
「な、なんでもない!…それより早くみんなを追いかけるぞ。男手のお前がいなければふたりを運ぶのは大変だろうしな」
一夏
「お、そうだった!悪い」
そして一夏と箒もみんなを追いかけ、みんなと共に火影と海之を医務室へ運んだ。
……その道中、一夏の心にはある疑問があった。
一夏
(…にしてもあれどういう意味だろうな?……「ダンテ」と「バージル」って)
…………
ほぼ同時刻 管制塔
千冬
「……」
真耶
「せ、先輩!直ぐにふたりに救護班を送りましょう!」
虚
「…その必要はなさそうですよ。ほら、もうみなさんが」
真耶
「あっ、本当ですね」
楯無
「…はぁ~、一夏くんといいあのふたりといい、女の子を心配させるのが得意な男の子ばっかりねぇ。なのになんであんなにもてるのかしら?」
虚
「それはあまり関係ないと思いますが…。でも私は何となくわかりますわ。本音やあの子達の気持ち」
楯無
「お~お~、彼氏持ちの意見は違うわね~♪」
虚
「!!な、なにを!?」
楯無
「…まぁそれはさて置き、これからの一夏くんが楽しみね。あんな必死に見てたんだもの。良い傾向になってくれると良いんだけどね。みんなや私にとっても」
真耶
「みなさん…」
千冬
(…あのふたりの戦い方。以前から気になっていたが…間違いない。あれは「試合」等ではなく「戦闘」だ。相手の逆手をとる戦術。形式に当てはまらない武器とその使い方。ルールに縛られない動き。あれは数多くの「命を懸けた戦いを経験した者」しか持てない技術だ。…海之と火影は9年前からあれを動かしていたと言っていた。だが彼等は戦地にいた訳ではないし、もしいたとしても10代ちょっとの子供が覚えられるレベルではない。…束の奴も感じていたあの違和感がこれだとするなら…、海之、火影、まさかお前達は…。いや馬鹿な、そんなお伽話みたいな事が…)
新たな決意と謎の両方を生み出した火影と海之のケンカはこうして幕を閉じたのであった。
一夏がふたりの前世の本名を、そして千冬はふたりの強さの秘密を。まだどちらも確信は何もありませんが、今後いつかわかるであろうふたりの秘密にはじめて気付いた回でした。