IS×DMC~赤と青の双子の物語~ 作:storyblade
……筈だったが、それを知ったラウラが自分も過ごしたいと簪に願い出てきた。最初は残念がってた簪もラウラの気持ちもわかると話し、同行を許す。
ロボット展、ブティック、そして海之が過去の経緯から出会った親子の家や料理店等にも立ち寄ったり、三人のデートは後半へと進む。
食事を終えた海之・簪・ラウラの三人は普段皆で良く行くショッピングモールに向かっていた。
簪
「あそこのお店美味しかったね」
ラウラ
「うむ。食材の良さが感じ取れたな。海之の言う通り店主は中々の目利きだと思われる」
海之
「…む?」
やがてショッピングモールが直ぐ近くになった時、海之は少々驚いた。そこは普段、特に今日みたいな休日は多くの人で賑わっているのだが今日は特に人が多い感じがした。しかもその9割以上は女性に見える。
簪
「…なにか今日は随分女の人が多い気がするね」
ラウラ
「……あっ、もしかしてアレではないのか?」
ラウラが指を指すとそこには一枚の大きな看板があった。そこにはこう書かれていた。
「本店大フロアにてジュエリー展開催中! 今話題の宝石職人、世界中より本日来日!」
どうやら今日はモールのイベントスペースにてこの催し物を行っている様である。
簪
「きっとそうだよ。…どおりで女の人が多いと思った」
ラウラ
「……なぁ嫁よ。少し覗いてみて良いか?女が惹かれる物について勉強したいのだ。同じ女性として」
海之
「構わん。簪はどうだ?」
簪
「あ、うん。じゃあ私も行こうかな」
そう言うと海之達はモールに入って行った。
…………
~~~~~~~~~~~~~~~~~~~
モールの中はやはり女性客で大変な盛況となっていた。そしてやはりその多くは先程のジュエリー展の様である。
簪
「な、なんか凄い人だね。さっきのロボット展にも負けない位だよ」
ラウラ
「あちらはいわゆるコアなファンが多いのだろう。レアな物も多かったらしいからな。比べてこちらはジュエリー。しかも世界から職人が来日しているからどちらも客も多いのは当たり前かもしれん」
簪
「そうだね。…でもやっぱり宝石だけあって高いね」
ラウラ
「昔の私ならこんな物、ただの石ころとしか思っていなかったな」
簪とラウラはジュエリーを見ながら話し合っている。海之はそんなふたりに付いていたが、
海之
「…ん?」
簪
「どうしたの海之くん?」
海之
「……あれは…」
ラウラ
「海之?」
海之がある場所に向かって歩き始め、簪とラウラも付いて行く。
…そして海之がたどり着いたのは一件の店。見た所店員は黒髪の男性と茶色い髪の女性。夫婦だろうか。
簪
「このお店?…素敵なデザインの指輪だね」
ラウラ
「ああ。なのに他の店に比べて安い位だ」
ふたりが商品に目を向ける中、海之が夫婦らしいふたりの店員に話しかける。
海之
「…失礼」
男性店員
「はい。なにか御所望………!あ、あなたは!」
女性店員
「? どうしたのあな……あっ!」
ふたりは海之を見て驚いていた。何故ならそのふたりは、
海之
「やはり御ふたりでしたか。御無沙汰しています。ブラックさん、アンジェラさん」
ブラック
「やっぱり海之さん!」
アンジェラ
「ご無沙汰しておりますわ!」
それは以前スメリアに行った時、火影が鈴達と共に立ち寄ったジュエリーショップのブラックとアンジェラ夫妻だった。
ラウラ
「知り合いか海之?」
海之
「ああ。正確には父と母のな。ブラックさんとアンジェラさんだ。」
アンジェラ
「初めまして。アンジェラと申します」
ブラック
「ブラックといいます。こんにちは」
簪
「こ、こんにちは」
海之
「そういえば先日はご挨拶に行けずすみませんでした。それに火影が御世話になったそうで」
ブラック
「とんでもありません。海之さんもお忙しい身でしょうから」
アンジェラ
「くれぐれもお気になさらないでくださいね」
簪
「火影くんも知り合いなんだ」
海之
「ああ。とはいえ俺と火影はまだ御ふたりには数える位しか会ったことが無い。御ふたりも少し訳ありでな」
ラウラ
「どんな経緯で知り合ったんですか?」
ブラック
「……うん。実はね…」
…………
ブラックとアンジェラは以前火影や鈴達に話した事と同じ経緯を話した。
※Mission69をご覧ください。
ブラック
「…と言う訳なんだ」
ラウラ
「…そんな事が…。では御ふたりは海之と火影の両親のお陰で…」
アンジェラ
「はい。結婚に断固反対だった私の父を説得してくださったんです。身分で付き合う相手を選ぶなら自分も奥さんや子供と別れなければいけないなって」
ブラック
「義父さんは僕が宝石職人として少しは認められれば結婚を許すと言ってくれました。寝る間も惜しんで本気で頑張って、その結果義父さんにもようやく認めてもらって、さぁこれでアルティスさん達と御約束した指輪作製に専念できる。…そう思っていた矢先に…」
簪
「…あの飛行機の事件…」
海之
「……」
ブラック
「はい。本当に残念でした…。だからせめて御ふたりに約束したんです。アンジェラと一緒に人々の幸せのために指輪を作り続ける。そして何時か最高の指輪を作り上げてみせますって」
ラウラ
「そうだったんですか。…すまんかった海之。お前にも辛い事を思い出させてしまった」
海之
「気にするなラウラ。…ところで御ふたり共、随分遅れましたが今日は何故ここに?」
ブラック
「ああそうでしたね。実はESCのレオナ社長が私達の指輪を気に入ってくださいまして。こちらのイベントを紹介してくださったんです。恐れ多いと申したのですが…、これも世界一の指輪職人になるための勉強だ!って仰いまして」
簪
「レオナさん、相変らず凄い…」
因みにESC本社でレオナに会えなかった簪はその後、火影達の家に来た時に出会っていた。案の定色々突っ込まれたが。
アンジェラ
「とても身に余るお話でしたがお引き受けしたんです。…でもそのおかげでこうして海之さんにもお会いできましたし。来て良かったです」
海之
「こちらこそ。……さて、折角だから頂こうか、ふたり共好きなの選べ」
簪・ラウラ
「「……えっ!!」」
急にふられたのでふたりは驚いた。
簪
「み、海之くん!そんな、そんなの悪いよ!」
ラウラ
「そうだぞ海之!き、気持ちは嬉しいが!」
海之
「気にするな。火影の奴も鈴やシャル達に買ってやっている。もちろんお前達さえ迷惑でなければだが」
簪
「め、迷惑な訳無いよ!もちろん嬉しいけど…」
海之
「なら買わせてくれ。ブラックさん達を応援する意味でもある」
ラウラ
「そ、そんな風に言われたら断れんではないか…」
簪
「う、うん…」
海之が引かないのでふたりは買ってもらう事にした。そして簪は水色の、ラウラは紫の宝石の指輪を選び、
簪
「…あ、あの…海之くん。…良かったらこの指輪…付けてもらって良い?」
ラウラ
「み、海之。私も頼めるか?」
海之
「構わん」
そう言って海之は彼女達の手を取り、それぞれの指輪をはめる。格好こそ違うがそれはまるで、
アンジェラ
「ふふっ、まるでプロポーズみたいですね。画になりますわ♪」
簪・ラウラ
「「……」」
恥ずかしさからか俯いてしまうふたり。余談だがこの時の様子を周りの女性達も目撃し、結果ブラックの店の指輪が相当数売れる事になったのである。
…………
そんな感じで進んでいた三人のデートも気付けばそろそろ夕方。空はうっすらオレンジ色になりかかっている。
簪
「あ、あの…海之くん。最後にもうひとつ行きたい所があるんだけど…良い?」
海之
「構わんがあまり遅くなるといかんぞ?」
ラウラ
「だ、大丈夫だ。学園のすぐ近くだから…」
ラウラはどこに行くのか知っている様だ。海之は了承してふたりに付き添う事にした。
…………
三人が来たのは学園からほんの少し離れた海も見える小さめの公園。隠れている様な場所にあるのであまり利用者はいないのか他に人はいなかった。海之達はそこのベンチに座る。
海之
「…学園の傍にこんな場所があったのか」
簪
「うん。前にみんなで外に出ていた時に見つけたの。…海之くん、今日はありがとう。…とても楽しかった」
ラウラ
「私も同じだ。…今迄の外出で…一番楽しかった」
海之
「そうか。望んだとおりのものになったのかわからないが」
簪
「ううんそんな事無い。本当に楽しかったから。…それに指輪まで買ってもらえるなんて…」
ラウラ
「ああ。予定より早い婚約指輪だが…感謝しているぞ」
海之
「気にするな。…あとラウラ、話が飛び過ぎている」
簪
「ふふっ。……ねぇ海之くん、ひとつお話して良い?」
海之
「? ああ」
すると簪は少し真面目な表情をして、
簪
「前にね、鈴達が話していたんだけど…火影くん、私達に話せない話があるって言ってたらしいの。それを話したら…私達と一緒にいられなくなるかもって。それって…海之くんが前に私に言った話と同じなんでしょ?」
海之
「…!」
ラウラ
「やはりそうか…。だが言っておくぞ海之。お前達の話がなんであれ、私達は受け入れる。だからお前達が話したくなった時に話してくれて良いからな」
簪
「うん」
ふたりは海之を安心させる様に言った。しかし海之は、
海之
「………少し違う」
簪
「…えっ?」
ラウラ
「……?」
海之
「確かに火影が話した事と一部同じかもしれん。だが……俺の場合少し違う」
簪
「……違う…って?」
ラウラ
「なんなのだ海之?」
すると海之の表情がやや曇る。
海之
「…俺は…火影とは違う。俺は……かつて大罪を犯した。とてつもなく大きな、な」
簪
「……え……大罪…?」
海之から大罪という言葉が出て簪は言葉を失い、
ラウラ
「ば、バカを言うな!お前がそんな事する筈ないだろう!!以前お前の経歴を調べたが黒はおろか灰色ひとつ見つからなかったぞ!?模範になりそうな位白そのものだった!」
ラウラは酷く慌てていた。
海之
「…ああ、確かに俺では無い。だが……俺なんだ」
かつてバージルだった頃、彼は力を追い求めるあまり世界を恐怖に陥れた。魔界への扉を開き、挙句の果てには魔王にまで成り下がり、ダンテや息子とも死闘を繰り広げた。海之自身が犯した訳ではない。しかし記憶を継承している限り、彼の心から罪悪感が消える事はなかった。
簪・ラウラ
「「……」」
ふたりは何も言わなかった。自分ではあるが自分では無い。正直何を言っているかわからない。しかし海之の寂しそうな表情は彼が言った事が嘘ではない事を証明していた。
海之
「…お前達には本当にすまないと思っている。真実を話せない事に。だが…俺は本来ここにいる筈が無い。もっと言えばいる資格もない人間なのだ。なのに俺は…居心地が良いと感じる場所で今こうして過ごしている。……全く、火影の事を碌に言えんなこれでは。俺自身が一番臆病者かもしれん」
海之は自嘲気味に笑った。その時、
簪・ラウラ
「「そんな事言わないで(言うな)!!」
海之
「!」
ふたりが突然声を出し、海之の声を止める。
簪
「海之くんが言った大罪とか、自分だけど自分じゃないとか、私には正直わからない。…でもこれだけは分かるよ!海之くんがいる資格が無いとか臆病者とか、そんな事ある訳ない!あんなに私達の事を助けてくれて、支えてくれて。見ず知らずの子供や仔犬を命がけで助けたりしてるじゃない!本当に悪い人ならそんな事できるわけない!海之くんが誰よりも優しい人だって事、私知ってるもの!」
ラウラ
「そうだぞ海之!お前は先程自分がここにいる資格は無いと言ったが、それはお前が決める事では無い!私達が決める事だ!お前は決していらない人間なんかじゃない!私達にはお前が必要だ!もしお前や火影の存在を否定する者がいれば、それこそ私達が全力で否定してやる!」
海之
「……」
ふたりの強い言葉に何も言えなくなる海之。そして簪は、
簪
「…海之くん。こんな時にこんな場所でなんだけど…、本当ならもっと後にしようって思ってたけど…、もう気持ち抑えきれそうにないから…、私もう言っちゃうね?」
そう言うと海之の正面に立ち、
簪
「私は…私は海之くんの事が好き!誰よりも!一緒にいてほしい!海之くんが誰であっても、この気持ちは絶対変わらないから!!」
海之
「………」
何時もの簪とは違う想いが籠った力強い言葉。それは彼女だけでなく、
ラウラ
「私も改めて言っておくぞ!海之、何があってもお前は私の最愛の嫁だ!異議は認めん!離れる事も許さん!」
海之
「………」
ラウラもまた海之への想いをはっきりと伝えた。そんなふたりの気持ちを聞いた海之は、
海之
「………改めて言うが、俺が先程話した事は本当だ。嘘では無い。そして…いつか全て話す。そう遠くない未来」
簪・ラウラ
「「……」」
海之
「…だが、それでもお前達が良いと言ってくれるのであれば…、そして…もしこの言葉が、お前達へのせめてもの償いになるのなら…、言わせてほしい」
その時海之の心には先日の少女の言葉があった、
(特に守りたいと思っている子がいるのは好きな子がいるのと同じだから)
海之
「…簪、ラウラ。俺はお前達を守りたい。………好き、だからな」
簪・ラウラ
「「!!」」
ふたりは言われた瞬間、大きく目を見開いた。
簪
「うん、うん!私も大好き!」
ラウラ
「やっと、やっとその言葉が聞けた!」
海之
「……」
そう言って海之の胸に飛び込んだふたりは今日最高の笑顔だった。嬉し涙を見せながら…。
生まれ変わっても自分の罪は消えないかもしれない。しかし自分には守りたいものがある。こんな自分を好いてくれている者達がいる。そして…この笑顔を守るためなら戦える。海之はそう思った。
※また次回まで時間頂きます。