IS×DMC~赤と青の双子の物語~   作:storyblade

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クロエ専用機「ベアトリス」の能力紹介も兼ね、クロエは一夏と模擬戦を行う事になった。大鎌「オシリス」、オシリスから変形するBIT兵器「アキュラ」、ガトリング銃「カリギュラ」、無尽翼「セラフィックソアー」と、次々繰り出される魔具に一夏は手こずるが一瞬の隙を付いて零落白夜を繰り出そうとする。
……が、その時不思議な事が起こった。突然一夏は自分の白式の動きが鈍くなった様に感じ、その隙を突かれて逆に攻撃を受けてしまう。一夏含め戸惑っている皆に束とクロエはデビルブレイカ―「ラグタイム」を参考に造ったベアトリスの単一特殊能力「蝸牛」の効果であり、これを受けるとISや機械をスローにする、と話すのだった。驚く一行に対し、束は更に驚くべき事を言った。

「クーちゃん暫くIS学園生徒になるから宜しく~♪」


Mission130 兎の娘と黒兎の少女

IS学園 1-1

 

クロエ

「スメリアから留学生として来ました。シエラ・シュヴァイツァーと申します。宜しくお願い致します」

 

束とクロエの思わぬ訪問から翌日。火影達がいる一組の教壇には偽名のシエラ・シュヴァイツァーとして自己紹介するクロエの姿があった。

 

生徒達

「わ~すっごい美人!」

「なんかお嬢様って感じするわ~。難民だったなんて思えないね~!」

「スメリアって事は火影くんや海之くんと同じって事?夏休みとか一緒に帰れるじゃない!いいなぁ~」

「なんかシエラちゃんって前に臨海学校で会ったクロエちゃんに似てる気がするね~。髪型は違うけど」

「え、そう?ちょっとしか見てないから覚えてないや」

火影

「……まさか、こんな事になるなんてな」

海之

「…全くだ」

一夏

「ああほんとに驚いたぜ…。まさかクロエが転校生として入ってくるなんて想像もしてなかった…」

 

 

…………

 

前日 アリーナにて

 

「…という訳で暫くクーちゃんをこの学園の生徒として入れてほしいんだ♪」

真耶

「で、ですが幾らなんでもそんな急には…」

「大丈夫大丈夫~、必要な書類は全て作成済みだし、ちゃんと変装もしてるし、クーちゃんのこれまでの経歴も造っておいたから♪もちろん全部偽装だけどね。流石に束さんの助手という事は書く訳にはいかないじゃない?おまけにクーちゃんは臨海学校の時に皆に会ってるし」

千冬

「当たり前だ。そんな事したらどんな事になるかわかったものじゃない。……偽名はシエラ・シュヴァイツァー。国籍はスメリアか。まぁあの国は難民の国でもあるから設定するとすれば妥当な所か。…この住所が空白なのは?」

「それも考えてあるよ~♪ひーくんみーくん、ふたりの家の住所使わせて~」

「な、何を言うんですか姉さん!そんな勝手な事!」

海之

「………いや、クロエの事を考えればそれが妥当かもしれん」

火影

「俺達の家には住み込みで働いているメイド達、それにニコの様な元難民の奴もいる。それと同じ扱いにすりゃ或いは…」

「そゆ事~♪それにもしバレたとしてもひーくんみーくんが知らんかったふりしてくれたらふたりやふたりの家には迷惑掛からないだろうしさ~♪」

楯無

「な、なんか簡単そうに言ってるけど凄く駄目な事してる気がするのは気のせいかしら…?」

「間違いじゃないと思う…」

一夏

「ははは…それを簡単な感じにしてしまうのがこの人の凄いところだな」

「それはそうと…クロエ、アンタ本当に良いの?束さんと離れる事になっても」

シャル

「う、うん。そうだね。期限付きっていっても…ほんとに大丈夫?」

 

これまでクロエは束と共に暮らし、行動し、如何なる時も一緒にいた。そんなふたりが離れる事を心配する声も当然と言えば当然かもしれない。

 

クロエ

「……正直なところ全く不安が無い、と言ったら嘘になります。…ですが…私が兄さんや皆さんと共に戦う事が…束様を御守りする事にも繋がりますから」

一夏

「…え?」

セシリア

「…わかりましたわ。篠ノ之博士のためにも、戦いを早く終わらせるために私達と共に戦う、という事ですのね?」

クロエ

「…はい。私の最も大切は何より束様です。…ですが只御側にいるだけでは何もできない。戦いを早く終わらせる事で束様の一刻も早い安心に繋がるのなら、…そう思ったのです」

ラウラ

「………」

「クーちゃん…クーちゃんの様な娘を持って束さんは幸せ者だよ~!ワ―ン!」

 

そう言って束はクロエに抱きつく。

 

火影

「はは…、なんかこう見るとほんとの親子みてぇだな」

本音

「そだね~♪」

「ぐすん…。それでね、クーちゃんからその決意を聞いた時にどうせなら学生生活も経験させてあげたいって思ってさ~、今回入学希望を出した訳なんだ♪」

クロエ

「…本当にいきなりで申し訳ありません…。ですが聞き届けて頂けるなら…宜しくお願い致します」

千冬

「………ハァ、……真耶、休日出勤だ」

真耶

「……仕方ありませんよね」

 

 

…………

 

そんな訳でその後千冬と真耶は必死にクロエの転入手続きに追われる事になった(因みにその横で束はふたりの必死さを見てずっと笑っており、その度に千冬の鉄拳を受けていた)。まぁそのお陰でなんとか翌日には間に合い、こうしてクロエは一組の生徒になったのであった。

 

クロエ

「あとそちらにおられる火影さんと海之さんは私の兄さんです」

生徒

「えー!!」

「何それ!?どういう事!?」

 

生徒達は当然この言葉に落ち着きを失うが、

 

千冬

「やかましい!…シュヴァイツァーがふたりの家のメイドとして働いている内にそういう関係になったのだそうだ。大した理由では無い。無駄な騒ぎを起こすな」

クロエ

「そういう事です」

 

その言葉に生徒達は落ち着くがここでひとりの生徒がある事を言う。

 

生徒

「ねぇ、シエラちゃんってクロエちゃんにもだけど…なんかラウラちゃんに似てない?」

「そういえばそうね~」

ラウラ

「……!」

本音

「ほんとだ~」

一夏

「そういえば確かに良く似てるぜ!」

「ああ、眼帯しているから気付かなかった」

シャル

「僕は最初からそう思ってたよ。髪の色といいそっくりだもん。まぁ性格はク…じゃないシエラちゃんの方が女の子らしいけど」

ラウラ

「…どういう意味だシャル?」

セシリア

「でも本当に良く似てらっしゃいますわ。ラウラさんは何か御存じありませんか?」

ラウラ

「…え、えっと…あの…」

クロエ

「…申し訳ありませんが私とそちらのラウラさんという方は何の繋がりもありません。似ているだけの他人です」

ラウラ

「!……」

 

迷い無きクロエの言葉にラウラは黙ってしまう。

 

生徒

「あそう?まぁ確かに良く似た人がひとり位いてもおかしくないか」

「そうね、ごめんねシエラちゃん、ラウラちゃん」

クロエ

「気になさらないで下さい」

ラウラ

「……」

 

生徒達は皆それ以上の追及を止めたようだ。

 

一夏

「まぁ確かに似てる人がひとり位いてもおかしくねぇか」

火影・海之

「「………」」

千冬

「……さぁもう自己紹介も良いだろう。シュヴァイツァーは火影の隣の席に着け。授業を始める!」

 

自己紹介は終わり今日の授業は始まったのであった…。

 

 

…………

 

その日の授業も無事終わり、放課後になった。

心配だったのはクロエのベアトリスだった。授業中その事で案の定生徒達から何故アリギエルやウェルギエルと似ているのか?、と疑問の声が上がったが、

 

「火影くん達の妹なら似てるのも当然か~」

「ISまで兄妹なんて羨ましい~」

 

と、生徒達が勝手に勘違いしてくれたために幸い大袈裟にはならずに済んだ。最も「蝸牛」だけは秘密にしていたのだが。

 

「無事に入れて良かったねク、あ、御免、シエラちゃんだったね」

「でも折角なら私のクラスに来てほしかったなぁ。私と簪以外全員一組なんだもん。話し相手がほしいわ~」

クロエ

「それは申し訳ありません。ですが…私としては兄さん達と一緒のクラスで良かったです」

「兄さんか…。そういえば火影と海之は私達よりひとつ年上だからそういう意味でも合っているな」

火影

「ん?ああそういや皆は知らなかったな。シエラは俺や海之と同いだぜ?」

セシリア

「私達より年上でしたの?」

シャル

「知らなかった!御免ね、シエラちゃんなんて呼んじゃって」

クロエ

「気になさらないでください。私の呼び方もシエラで良いですよ」

一夏

「そう言ってくれて助かるぜ」

本音

「改めて宜しくねシーちゃん~」

「本音の場合は年上とか関係ないわね。…それにしても今後は名前を呼ぶときは気を付けたほうが良さそうね」

一夏

「はは。…あれ、そういやラウラは?」

「…そう言えば先程から姿が見えんな」

「あの……なんか気のせいかな?ラウラ…昨日から少し様子おかしくない?」

シャル

「あ、それは僕も思ってた。部屋でも何時より静かだったんだよね」

セシリア

「何かあったんでしょうか…?」

火影・海之・クロエ

「「「………」」」

 

とその時、外からラウラが戻ってきた。

 

「おおラウラ」

本音

「どこに行ってたの~?」

ラウラ

「あ、ああ。ちょっと…外の空気を吸いに行っていた。落ち着きたかったから。……あのク、…じゃないシエラさん。…少し良いでしょうか…?」

クロエ

「………はい。構いませんよ」

 

クロエは少し考える様なそぶりを見せたが了承した。

 

海之

「……ラウラ、俺達も行った方が良いか?」

ラウラ

「…いや、大丈夫だ海之。…皆も来ないでくれ」

クロエ

「では皆さん、また…」

 

………そう言ってラウラはクロエを連れて出て行った。

 

本音

「ラウランやっぱりなんかへ~ん」

一夏

「追いかけてみっか?」

「う、ううん止めとこうよ。良くわかんないけど…なんか邪魔しちゃいけない様な感じだったし…」

セシリア

「…ええ、そうですわね」

「ねぇ火影、あのふたりって…ホントにお互い知らないのかな?」

火影

「……さぁな」

海之

「……」

 

火影と海之はラウラとクロエが出て行った入口を見つめていた…。

 

 

…………

 

IS学園 屋上

 

ラウラとクロエは屋上に来ていた。他に生徒は誰もおらず、ふたり並んで座り場に腰を預けている。

 

クロエ

「…ここなら名前でも良いでしょう。……それで、私に何か御用ですか?ラウラさん」

ラウラ

「……」

 

クロエはラウラに質問するがラウラは返さない。

 

クロエ

「…どうしました?何か言ってくれなければわかりません」

ラウラ

「……え、…えっと…」

 

クロエは再度聞くがやはりラウラは返さない。と言うよりなんと言ったら良いのか迷っている様にも見える。

 

クロエ

「…何も御用が無いなら失礼します」

 

そう言ってクロエは立ち上がろうとする。すると、

 

ラウラ

「ま、待って!待って下さい!ちゃんと…話します」

クロエ

「……」

 

ラウラは慌てて呼び止め、クロエは再び座り直す。そして漸くラウラが話し始める。

 

ラウラ

「あ…あの…クロエさん…。お聞きしたい事があるのです」

クロエ

「…なんでしょうか?」

ラウラ

「…あの…変な事をお聞きする様ですが、貴女は…貴女はもしかして……あの…」

クロエ

「……私がなんですか?」

ラウラ

「……」

 

聞きにくい事なのかラウラは言葉が続かない。するとクロエが口を開いた。

 

 

クロエ

「…私が貴女と同じかどうか、という事でしょうか?」

 

 

ラウラ

「!!」

 

クロエのその言葉にラウラは激しく動揺する。

 

クロエ

「…その慌てぶり、やはりその事みたいですね」

ラウラ

「……やっぱり…気付いていたのですね」

クロエ

「ええ…。臨海学校とやらの時に貴女を見た時からわかっていましたよ。…ラウラ・ボーデヴィッヒ。ドイツ政府によって兵士として生みだされた人造生命体。そして私が…貴女の失敗作だと」

ラウラ

「な!?し、失敗作ってそんな!!」

クロエ

「違うのですか?」

ラウラ

「わ、私はそんな事全く!!」

クロエ

「貴女はそう思っていないかもしれません。ですが少なくとも…ドイツ政府の人間は私をそうとしか見ていないでしょう。私が貴女の、「ラウラ・ボーデヴィッヒの出来損ない」「ラウラ・ボーデヴィッヒの失敗作」としかね」

ラウラ

「………」

 

話の内容にラウラは言葉が出ない。

 

クロエ

「…ところで、貴女のその左目の眼帯…下は越界の瞳(ヴォーダン・オージェ)ですか?」

ラウラ

「!な、何故それを!?」

クロエ

「…私にも同じ物があったからですよ。最も私は貴女の様に左目だけでなく、両の目でしたが」

ラウラ

「両目!?し、しかし今の貴女の目には何も…!?」

クロエ

「ええ。束様に助けて頂き、共に暮らす様になってから束様に取り除いて頂いたんです。あれは私にとって忌々しい、そして無力の象徴ですから」

ラウラ

「…忌々しい」

クロエ

「成りきれなかった私には不要の長物ですから」

ラウラ

「……」

 

クロエの言葉にラウラは再び黙っていたが気を取り戻して訪ねる。

 

ラウラ

「…あの…ひとつ聞いて良いですか?」

クロエ

「何でしょうか。答えられる事だと良いのですが」

ラウラ

「…貴女は…臨海学校の時から私の事に気づいていた、と言いましたが…、それでしたら、どうして今まで」

 

ラウラはどうして今まで自分に訪ねてくれなかったのか?と聞こうと思った。

 

クロエ

「……随分酷い事を聞かれるんですね」

ラウラ

「……え?」

 

クロエは笑みを浮かべて答えるがその声は酷く冷めていた。

 

クロエ

「聞けると思いますか?失敗作として廃棄され見捨てられた私が、完成品である貴女に」

ラウラ

「…私が…完成品…」

クロエ

「ええ。貴女は私や…私の姉妹達がなろうと思ってなれなかった。…いえ違いますね。正確には、させられようとしてなれなかった、の方が正しいでしょうか。だからなれた貴女は完成品という訳です。…多くの姉妹の犠牲によって生まれた、ね」

ラウラ

「!!犠牲……」

クロエ

「ああでも安心してください。だからといって私は貴女を恨んではいませんよ。知らない貴女には何の罪もありませんし、貴女も私も、そして姉妹たちも望んでそうなりたかった訳でもありませんでしょうから。たまたまこの世に生を受けた時からそうなる様運命づけられていただけの事です。心無い者たちの手によって。生まれ方も人本来のものではありませんでしたが」

ラウラ

「……」

 

ラウラは何も話さなかった。いや話せなかった。自分を生みだす迄にクロエだけでは無い多くの姉妹たちの犠牲があったという事実を再認識した事で。ラウラ自身には罪は無い。クロエも自分を恨んでいないと言った。しかしラウラからすればそんな簡単に済む様な話ではない。

 

クロエ

「…それで?」

ラウラ

「……え?」

クロエ

「私の正体についてお聞きしたかった、という事は分かりました。…それで貴女はどうするおつもりですか?」

ラウラ

「…どうって?」

クロエ

「私を抹殺でもするおつもりですか?自分の失敗作である私を」

ラウラ

「!!そ、そんな事考えていません!!」

 

質問の内容にラウラは驚くが自分はそんなつもりは無いと答える。

 

クロエ

「そうですか。……では軍や国からそういう命令が来ればどうしますか?」

ラウラ

「…え?」

クロエ

「ドイツ政府からすれば私は歴史から処分してしまいたい汚点。そんな私が仮にこうして生きている事が分かれば政府の人間は困るでしょう。もしかしたら抹殺命令が来るかもしれません。その時貴女はどうしますか?軍人として国に忠を尽くしますか?それとも反逆しますか?ラウラ・ボーデヴィッヒである貴女が」

ラウラ

「そ……それは……」

 

ラウラは答えられなかった。もし仮に国からそういった命令が来た時、軍人としては従うべきなのだろう。しかしラウラにとってクロエは自分とある意味同じ。年は違うが双子、姉の様な存在である。昔の彼女からすれば任務優先だったかもしれない。今のラウラにとってはそんな簡単に割り切れる問題では決して無かった。海之や火影、多くの者達と出会い、好きになるという感情を知った今となっては…。

 

クロエ

「……失礼しました。下品な質問でしたね。どうか許して下さい」

ラウラ

「あ、謝らないでください!貴女が謝る事なんてありません!…それと、先程の質問ですが…申し訳ありません、まだ…答えは出せません。私は…シュヴァルツェ・ハーゼの隊長として多くの部下をまとめる立場ですから…」

クロエ

「………」

ラウラ

「ですが、ですがこれだけははっきり言えます!私は…貴女を自分の意志で傷つける様な事はしません!それは絶対に絶対です!」

クロエ

「………」

 

ラウラのしっかりとした言葉にクロエは、

 

クロエ

「………わかりました。貴女を信じます」

ラウラ

「あ、ありがとうございます!」

 

久々にラウラの顔に笑顔が出た。

 

クロエ

「そんなに喜ばれなくても良いですよ。…それで、貴女の聞きたい事はこれで終わりですか?」

ラウラ

「え?…あ…はい。…とりあえず、ですが…」

クロエ

「そうですか。……では、今度は私から貴女にひとつ質問良いですか?」

ラウラ

「え?は、はい!なんでしょうか?」

 

ラウラはクロエの言葉に驚くが交流のきっかけができた事を嬉しく思った。

 

クロエ

「全く話は変わってしまいますが…貴女は海之兄さんと火影兄さんを自身の家族と思われている様ですね?海之兄さんが貴女の亭主、火影兄さんが弟と」

ラウラ

「えっ?は、はい。そうです。…海之は嫁ですが」

クロエ

「…その事をおふたりは?」

ラウラ

「は、はい。海之も火影も…許してくれているかと」

クロエ

「そうですか。………」

 

クロエはラウラの返事を聞くと顎に手をあてて少し考慮する様な仕草を見せる。

 

ラウラ

「…あの…何か…?」

クロエ

「…いえ、ちょっと考えていまして。…火影兄さんと海之兄さんは先日私を妹と、家族と認めて下さいました。私にとっての一番は勿論束様ですが、おふたりも私にとってもう大切な方です」

ラウラ

「は、はい」

クロエ

「…さて、ここでややこしいのですが…、貴女にとっても私にとってもおふたりが家族なら…、貴方と私の関係は…どうなるのでしょうね」

ラウラ

「え……あ」

 

ラウラは気付いた。自分にとってクロエは云わば姉。海之は自分の嫁で火影は弟である。しかしクロエにとって海之と火影は兄。そして彼女にとって自分は…。

 

クロエ

「ああでも勘違いしないで下さい。私にとって貴女は家族ではありませんから」

ラウラ

「……え」

 

ラウラはクロエの言葉に一瞬言葉を失った。

 

クロエ

「当然でしょう?貴女と私はこれまでお会いこそした事はあれど交流はおろか、殆ど話した事も無いのですよ?そんな私達がいきなり家族同然の様な関係を築く等難しいとは思いませんか?貴女は私の事をどうお思いかわかりませんが、私にとっては貴女はまだ一クラスメートでしかありません」

ラウラ

「……」

クロエ

「友達になるにも、今後家族になる可能性があるとしても、先ずはお互いの理解を深める事です。そうしなければ何も始まりません」

ラウラ

「……そう、ですね」

 

クロエの言葉にラウラはやや落ち込むが、

 

クロエ

「ですが貴女が兄さん達を家族と思い、兄さん達もそれを認めているならば私はそれに対して何も申したりはしません。貴女と兄さん達の意志を尊重します。…ですから貴女も兄さん達と私の関係に口を挟む様な事はしないでくださいね?」

ラウラ

「は、はい。勿論です。ありがとうございます!」

 

ラウラはしっかり約束した。

 

クロエ

「……こちらこそ感謝します。私がお聞きしたかった事はこれで終わりです。お時間取らせてしまい、申し訳ありません」

ラウラ

「い、いえ!とんでもありません」

クロエ

「では今日はこれ位にしましょう。…これから宜しくお願いしますね。…ラウラさん」

ラウラ

「は、はい。…シエラさん」

 

そしてクロエは屋上を去り、ラウラだけが残った…。

 

 

…………

 

クロエが階段を下りていると、

 

火影

「クロエ」

 

その先に火影と海之がいた。どうやら待っていたらしい。

 

クロエ

「…兄さん」

海之

「…話は終わったのか?」

クロエ

「…はい」

火影

「そうか。……海之、行ってやれ」

海之

「……頼む」

 

そう言って海之は屋上に上って行った。残ったのは火影とクロエだけ。

 

クロエ

「……あの…火影兄さん、私とあの子の事は…?」

火影

「…ああ。以前ラウラとちょっとあった時に海之が調べたんだ。俺はあいつに聞いたんだがな」

クロエ

「そうですか…」

 

クロエはなんと言ったら良いのか困っている様だ。すると、

 

…ポン

 

クロエ

「…!」

 

火影は自身の手をクロエの肩に優しく当てた。

 

火影

「急ぐ必要なんてねぇさ、時間はたっぷりあんだ。あれ程憎しみあってた俺とあいつだって今こうして一緒に過ごしてんだぜ?お前らができない道理は無ぇよ」

 

火影は安心させる様に笑って言った。

 

クロエ

「…ありがとうございます。…火影兄さん」

 

クロエは安心したのか微笑んで返事した。

 

 

…………

 

その頃、屋上にひとり残ったラウラは疲れからかため息をついていた。

 

ラウラ

「……はぁ」

 

ガチャッ

 

ラウラ

「!……海之」

海之

「……」

 

扉を開けたのは上ってきた海之だった。海之はラウラの隣に座る。

 

海之

「……」

ラウラ

「……」

海之

「少しは話できたのか?」

ラウラ

「……うん」

海之

「……そうか」

ラウラ

「……」

海之

「……」

ラウラ

「海之。…わ、私は」

 

…ポン

 

ラウラ

「え…」

 

海之もまた、自身の手をラウラの肩に乗せた。

 

海之

「急ぐ必要等無い。これからだ、お前達は」

ラウラ

「……」

 

…ポフ

 

ラウラは自分の頭を海之の肩に預けた。

 

海之

「…どうした?」

ラウラ

「…御免。…少しだけ…少しだけこのままで…いさせてくれ…」

海之

「……」

 

海之は何も言わず支える。それがありがたかったのかラウラは目を閉じ、安心した表情をしていた。




今後台詞文ではクロエは公の場では「シエラ」、火影達しかいない場では「クロエ」と使い分けていきます。

※次回は15日(土)、少し変わった番外編を投稿予定です。今後は毎週土曜に投稿していきます。日曜に続けての投稿はその時その時になる予定です。

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