IS×DMC~赤と青の双子の物語~ 作:storyblade
傷つきながらもその攻撃から仲間達を守るために戦う火影と海之。
そしてふたりの無事を願う少女達。
……しかしそんな少女達に届いたのは非情の知らせだった。
「…反応は全て消えた…。黒いISも、火影と海之の反応も…全て」
更に追い打ちをかける様に島内の浜辺に打ち上げられたのは見覚えのある銃と朽ちた刀…。そこには言葉を失う者、気を失う者、叫ぶ者がいるのみであった。
火影(ダンテ)と海之(バージル)はどうなったのか?そしてオーガス(アルゴサクス)の次の手とは?
Mission153 悲しみに暮れる者達①
一夏
「……」
その時一夏は不思議な場所にいた。目を閉じているのでどこかはわからない。開けようにもまるで目に力が入らない。声を出そうにもそれさえも力が入らない。わかっているのは自分が立っているのでも横になっているのでもない。例えるなら浮いている、そんな感じがした。
一夏
「……」
ただ沈黙してその場の空気に晒される一夏。すると…、
?
「……まだだ」
一夏
「……?」
その時近くからか声がした。声色からして男性である。厳格そうだがどこか優しさを含む声。そして、
?
「今はまだ、貴方の心が癒えていない…」
すぐ傍からもうひとつの声。こちらは慈愛に満ちた女性らしい落ち着いた声である。
一夏
(何を…言ってるんだ?アンタ達…誰だ?)
声が出せない一夏は心でそう思うのだが、
男
「今はただ休め…」
女
「貴方と話せる日を願ってる…」
その言葉と同時に気配は急速に離れていく。
一夏
(ま…待ってくれ…!待って…)
…………
一夏
「…………う、……?」
そこは一夏の部屋だった。どうやら今までのは夢だったらしい。外は夜明けに差し掛かっていた。
一夏
「……夢か。………でもあの感覚は…不思議と初めてじゃない様な気がするけど…。あの声の人は…、それに時って、……どういう意味なんだよ…」
一夏の疑問は晴れることは無く……。
…………
火影と海之がいなくなってから二週間あまりが経過した。
この二週間の間は……何も無かった。もちろん国同士の小競り合いなど以前から日常茶飯事の様な事は絶え間なく変わらず続いてはいる。しかしつい先日まであったようなファントム・タスクによる学園の襲撃の様な事は全く起こっていなかった。そういう意味では学園は平和なのかもしれない。……一部の者を除いては。
キーンコーンカーンコーン
IS学園 1-1
千冬
「それでは今日の授業はこれまで!」
生徒
「「「ありがとうございました」」」
この日の授業も特に何事もなく終わった。あの日以来何も起こらない事に安堵の気持ちでいる生徒達。年末という事もあってか来年に向けての予定を組み始めている者や、行けなくなった修学旅行の代わりを探す者。というのもあの数日後に決まったのだが今月の初めに予定されていた修学旅行は京都のIS事件や旅客機墜落未遂事件の事もあって保留となっていた。がっかりした者も多かったが事態が事態なので仕方がない。とにかくそんな感じで世論から見れば学園は平和といえるものだったのだが…、
一夏
(………)
火影と海之の席を見る一夏。席は当然空席。火影と海之がいなくなった本当の理由は一部の者達を除いて知らされていない。千冬が真実を知らせるのはまずいと、ふたりとも大事な用事で急遽スメリアに戻っているという事にしたのだ。…しかしそれを信じる者は一組にはあまりいなかった。皆何かあったんだと思いつつも千冬や楯無の気持ちを汲んでわかっているふりをしているだけかもしれない。
一夏
(……火影、……海之)
…………
(目を覚ませ坊主!そろそろ遊びたいだろ!そんなもんに操られるんじゃない本当のケンカをよ!!)
(自分の大切なものを、命を懸けて守れる様になりたいんじゃないのか?そのために強くなりたいと思ったんじゃないのか!?)
(余計な真似するな!)
(一夏行け!お前じゃ足手まといだ!!)
…………
一夏
(…俺の…せいだよな…)
あの時以来一夏は自分を責め続けていた。自分がした事が火影と海之があんな事になった原因だと…。DNSを起動した一夏の白式もあれ以来ずっと封印され、一夏の手元には無かった。これまで白式のサポートを行ってきた企業は白式の変化と開発の経緯を恐れ、これ以上関わり合いになりたくないと大金を積んでまで所有権を放棄した。そのため白式は一夏個人のものとなっている。
箒
「一夏」
一夏
「…箒か。…なんか用か?」
箒
「今日は放課後に訓練の予定だったろう?」
一夏
「ああ…、行くか…」
力なく立ち上がる一夏は箒と共にアリーナに向かった。
…………
IS学園 アリーナ
セシリア
「はぁぁぁぁ!」
ガキィィィンッ!
一夏
「くっ!」
セシリアのローハイドの剣が一夏の打鉄の刀を弾き飛ばした。それが勝負の終わりの合図となった
箒
「それまで!」
一夏
「…はぁ…、強くなったなセシリア。ISの違いもあるんだろうけど…俺なんかよりよっぽど強ぇや。流石イギリスの代表候補生だな」
セシリア
「…一夏さん…」
セシリアは悲しそうに一夏を見る。するとそこに箒が割って入る。
箒
「……違うぞ一夏。セシリアが強くなったのももちろんあるが…何よりも、お前が弱くなったのだ」
一夏
「……」
白式が封印されて以来一夏はずっと訓練機を使っているのだが、以前ほど訓練に気が入らないでいた。故に訓練を兼ねた試合でも連敗が続いていたのだ。
セシリア
「一夏さん、私も箒さんと同じ意見です。一夏さんはこの数ヶ月でずっと強くなられましたわ。だから…こんな結果になるなんてあり得ませんわ。私はそう信じます」
一夏
「……」
箒
「一夏…自分を許せとは言わん。だが…何時までそうしているつもりだ?」
一夏
「……」
箒
「まだファントム・タスクは滅んでいない!あの黒いISは火影と海之が倒したがまだ全部解決したわけじゃない!Mやスコールにオータムという奴!ダリル・ケイシーにフォルテ・サファイア!それに…あのオーガスという奴もいるんだ!」
一夏
「……」
箒
「それに姉さんが人質に取られている!私は…あの人を取り戻したい!そのためには私達全員の力を合わせる必要があるんだ!もちろんお前もな!」
一夏
「……」
一夏は相変わらず黙ったまま。
箒
「先日までのお前はどこへ行ったんだ!あのがむしゃらに、火影達に追い付きたいと必死になっていたお前は!?あの時のお前は何があっても諦めたりしなかった!あのキャノンボール・ファーストの時の」
一夏
「うっせぇよ!!」
箒
「…!」
一夏の叫びに箒が怯む。
一夏
「お前に…お前に何がわかる!!あいつらは…火影と海之は俺のせいで死んだんだ!俺を、白騎士に操られた俺を助けるためにな!」
箒
「い、一夏…」
一夏
「あんなボロボロになってまで…散々俺に傷つけられても…それでも見捨てないでくれた!…だけど…だけどそのせいであいつらは…。そのダメージさえなきゃあいつらがあんな奴らに負けるなんて事なんて無かったかもしれねぇんだ!…じゃなきゃ…きっとあいつらはまだ…」
一夏は悔しかった。操られた事もそうだが何よりも自分の不甲斐なさが悔しかった。DNSの誘惑に負けたのは自分が、自分の心が弱かったためと。
セシリア
「一夏さん…」
一夏
「それにそれだけじゃねぇ!俺はシャルと簪を殺そうとまでした!あいつらが阻止してくれなけりゃ…ふたりを殺すところだったんだ!その苦しみが、悔しさがお前にわかるか!」
箒
「!し、しかしあれはお前の意思ではない!シャルも簪もそれをわかってくれている!あれはDNSのせいだと!」
一夏
「…ああそうだよ。あれは俺の意思じゃねぇかもしれねぇ。…でも俺の責任だ!白騎士に振り回された俺の未熟さと力の無さのな!……俺が、…俺が弱かったから……」
一夏の腕は悔しさで震えていた。
セシリア
「……」
箒
「一夏…」
一夏
「俺のせいだ…俺のせいなんだ!…もうほっといてくれ!!」
一夏はISを解除し、走り去って行ってしまった。
箒
「……一夏…」
セシリア
「…箒さん、大丈夫ですか?」
箒
「…ありがとうセシリア、私は大丈夫だ。ただ…一夏は…」
セシリア
「無理もありませんわ。一夏さんは責任感の強い方。そのショックは私達よりもずっと大きい筈ですもの……。そう簡単に癒える訳ありませんわ。私もまだ完全に立ち直れていませんもの…。箒さんもでしょう?」
箒
「……ああ。……でも先にも言った様に私にはやる事がある。それに私達よりもあいつらの方が…」
セシリア
「わかっています…」
箒
「………なぁ、セシリア。火影と海之は……本当に、本当に死んだのだろうか…?」
セシリア
「……わかりません。あれから全く手がかりも掴めていませんし連絡もないですから…。すみません…」
箒
「…いや、いい。………そうだよな。私もすまん」
ふたりは互いに黙ってしまうが、
セシリア
「………ただ、…私達はおふたりが死んだその時を見ておりませんもの。生きておられると信じるのは……決して悪い事ではありませんわ。私はそう思います」
箒
「!……そうだな」
(火影、海之。私にはお前達に多くの恩がある。どうか…それを返させてくれ。皆がお前達を待っている!勿論私も!)
セシリア
(…私は願っております。おふたりのご帰還を…。ですからどうか…早く帰ってきてください!皆さんには…おふたりが必要なのです!)
箒とセシリアは一夏が出て行った出口を見ながらそう願った……。
…………
寮の廊下
上級生達
「ねぇ聞いた?1-4の簪さんだけど…」
「うん。最近妙に元気なんだよね~」
「やっぱりあのことが関係してるんじゃないの?1-1の海之くん」
「私もそう思うな~。なんか彼と弟くんが帰ってから妙に元気になっちゃんたんだよね~。まるで清々したみたいに。てっきり落ち込んじゃうんじゃないかなと思ったけど」
「結構お似合いだったような気がしたんだけどな~。だから私彼にアプローチしなかったのに。私達の勘違いだったかな~」
「まぁ去る者は追わぬってことじゃないの?」
そんな事を話しながら彼女達は廊下を歩いていた。
刀奈
「………」
そしてそんな声を偶然刀奈は聞いていたのだった。話の内容に刀奈の心は激しい怒りに支配されたが問い詰める事はしなかった。自分は更識家17代目、あんな戯言に構う必要など無い。
刀奈
「………」
やがて刀奈の脚は簪と海之の部屋に向いていた。
刀奈
(…簪ちゃん…)
二週間前のあの日。火影と海之の消息不明を知った簪はその場で気絶し、2日後に目が覚めたのだが目が覚めた時の簪の混乱ぶりは激しいものだった。ふたりはどこにいるのか?無事でいるのか?何故この場にいないのか?そんな質問を繰り返した。返事をしなければなんで返事しないのか?としつこく聞くし、正直に言っても嘘言わないで!という始末。刀奈や本音が必死に事を収めた。……だがそれだけでは終わらなかった。最初の数日はやはり落ち込んでいた簪だったが、やがて彼女はあの乱れっぷりがまるで嘘かの様に落ち着いていた。それどころか以前よりもハイに、元気になった様にも見えた。ふたりの、海之の事も明るく対応し、決して悲しむ様子を見せなかった。そんな彼女を見て戸惑う者もいたが一安心する者もいた……。だが彼女の心を知る者は悲しかった。簪のそんな姿を見るのを。
刀奈
(……)
そして刀奈は簪と海之の部屋の前に来ていた。刀奈は部屋の扉をノックする。
コンコン
刀奈
「簪ちゃん…私よ。いる?」
……
だが返事は無い。刀奈はもう一度ノックして尋ねてみる。すると、
刀奈
「簪ちゃん?」
簪
「あ、お姉ちゃん?ちょっと待ってね~。今良いとこなんだ~♪」
中から簪の明るい声が聞こえてきた。それを聞いた刀奈は簪からの許可を得る前に刀奈は入った。
簪
「あれ~、お姉ちゃん。ちょっと待ってって言ったのに~、もうせっかちだなぁ~♪」
そこにいたのは笑顔の簪。単なる笑顔ではない、何も知らない者からすれば寧ろ満面の笑みともいえるかもしれない。
刀奈
「……」
簪
「…あ~、もうお姉ちゃん!せっかくの良い所が飛んでしまったじゃないのー!これから主人公が決め技を使って敵キャラをやっつけるところだったのに~!あれ私好きなシーンなんだよ~。まぁ録画してるから何時でも見ようと思えば見れるんだけどね、ふふ♪」
刀奈
「…簪ちゃん」
簪
「ところでお姉ちゃん、修学旅行はやっぱり中止なのかな?せっかくこんなに良い天気で毎日平和なんだからどこかに行きたいな~」
今の簪は彼女の事を全く知らない者が見ればなんとも友好的で良い子のように見えるだろう。……知らない者には。
刀奈
「簪ちゃん。……海之くんの事」
簪
「海之くん?…ああもう私気にしてないよ。かわいそうだなとは思うけど…あれが海之くんの運命だったのかもしれないし。そう思ったらなんか随分気が楽になっちゃって。ごめんね、あの時気を失ったりして。お姉ちゃんや皆に迷惑かけて。でも私は大丈夫だよ!もう全然気にしてないから♪」
刀奈
「……」
簪
「それにね。最近はこう思ってるんだ♪もしかしたら海之くんにとって私はなんでもなかったんじゃないかって。だって何も言わずに行っちゃうんだもん。大切に思ってくれてたんだったらちゃんと話してくれてただろうから。何も言ってくれなかったのは私に話しても仕方ないと思っての事だろうし、もしかしたら信用されていなかったのかもしれない。そう思ったら失礼しちゃうよね~♪」
そこらにいる女子高生。単なる失恋話。知らない者が見ればそんな印象を抱くだろう…。
簪
「だから海之くんはもう私にとって昔の話だよお姉ちゃん♪この世界にはもっと素敵な人なんて山ほどいるだろうし、それに海之くんってああ見えて気難しそうだし、むしろ離れ離れになって良かったのかも♪…ああごめんねお姉ちゃん、私ばかり話して。そういえばもうすぐ夕食の時間だよね。今日は何が良いかな~♪昨日は魚だったし今日は……!」
刀奈
「……」
気が付くと簪は刀奈によって抱きしめられていた。
刀奈
「……」
簪
「…ど、どうしたのお姉ちゃん。吃驚したじゃない。何?もしかして慰めてくれてるの?嫌だな~♪私は本当に何も」
刀奈
「……だったら、……なんでそんなに泣いてるの?」
気が付いていないのか、簪は笑って話している間涙を流していたらしい。
簪
「……あれ…?あれ?おかしいな…。なんで泣いてるんだろ…?早めの花粉症かな…?嫌だな~私もなっちゃったかな~♪はははは…」
刀奈
「…まだそんな季節じゃないでしょ。それに…花粉症でそんなに震えたりしないでしょ?」
簪は刀奈の腕の中でわずかに震えている。
簪
「…あれ~、おかしいな~。…新しい冬服買おう…かな~。もう12月だもんね~…あはは」
刀奈
「…簪ちゃんお願い。そんな死んだような目で笑わないで…。そんな簪ちゃん見たくない…」
簪
「……なに言ってるのお姉ちゃん…。私…本当に…もう海之くんの事なんて」
刀奈
「笑わないでっ言ったのよ?海之くんの事なんて言ってないわ」
簪
「…あ…そうか。御免…ね。でも…もう私は」
刀奈
「だったらなんで海之くんの刀をそんなに大切にしているの?」
海之の刀「閻魔刀」は布で大切そうに包まれた上に箱に入れられ、代わりに同室の簪が管理している。更にできるだけ埃をかぶらない様掃除までされている。そんな心配が必要かはわからないが。
刀奈
「それに簪ちゃん。鞘に納められていないしその上折れてるから危ないって織斑先生が海之くんの刀を回収しに来た時に渡さなかったそうじゃない。先生から聞いたわよ?」
簪
「…私が大好きなヒーローが…刀を使うんだ…。だから、本物を持っていたくて。折れてる…けど、カッコいいじゃない?」
刀奈
「だったら更識の家に置いておけば良いじゃない?少なくともここよりは安全だし。そう思って虚ちゃんに取りに行かせたんだけど……」
…………
ある日の放課後、海之と簪の部屋。
コンコン
虚
「簪様…?失礼します」
虚が入ると部屋には誰もいなかった。
虚
「……」
すると虚は海之のデスクの前に立ち、閻魔刀を手に取ろうとする。すると、
簪
「止めて虚!」
虚
「!」
ちょうど帰ってきた簪が声をかけ、虚の手を止める。簪は虚と閻魔刀の間に割って入る。
虚
「…簪様…」
簪
「海之くんの刀をどうするつもり!?」
虚
「…申し訳ありません。お嬢様のご指示です。ここに置いておくよりは更識のお屋敷に置いておいた方が安全と…」
簪
「これは海之くんのだよ!私達のじゃない!私達が勝手にどうかして良いものじゃない!」
虚
「……」
簪
「帰って!!」
頑として渡さない簪の様子に虚も帰らざるを得なかった…。
…………
刀奈
「…って」
簪
「……覚えてないや。……何時頃だったっけ?二週間前の私なら…多分、まだ悲しかったから…渡せなかっただろうけど…、その頃…かなぁ。虚に謝らなきゃ」
刀奈
「…まだ三日前よ」
簪
「………」
刀奈
「忘れられないんでしょ?どうしても…海之くんの事。だから彼の刀を手元に置いておきたいと手放さない。例え折れてても。それにその指輪、彼がいなくなってからずっと嵌めてるじゃない。海之くんから貰った指輪を。忘れたのなら必要なくない?違う?」
簪
「………」
簪の左手薬指には海之から貰ったあの水色の宝石の指輪があった。
刀奈
「心にも無い反対の事ばかり言って、無理やりにでも彼の事を忘れようとしている」
簪
「…そんな…事…ないって…ば…。はは…は…」
そう言いながらも簪の目からは涙が止まらなかった。
刀奈
「ここには私しかいないから…。心にため込んだものを吐き出しなさい。全部聞いてあげるから。前に私の看病をしてくれた時、簪ちゃんそうしてくれた様に」
簪
「………」
暫くの沈黙の後、刀奈の腕の中で簪は静かに話し始めた。
簪
「……前に」
刀奈
「…うん」
簪
「前に…海之くんとデートした事があったの…。ラウラも一緒だったけど…。その時に私…海之くんに…自分の気持ちを伝えた。…好きって」
刀奈
「そうなんだ」
簪
「…そしたら海之くんがね、言ってくれたの…。私の事守りたいって…、好きだって…。嬉しかった…、本当に嬉しかったんだ…。私は…海之くんに大切に思われてるんだって…」
刀奈
「良かったわね…」
簪
「…それでね、…あのタッグマッチの時に…言ってくれたの…。今の私は以前とは違う。強くなった。もう大丈夫って…」
刀奈
「…うん。私もそう思う。簪ちゃんは強くなったよ」
簪
「…ありがとう…お姉ちゃん。…その時思ったんだ。少しは…海之くんに追いつけたのかなって。支えられる様に…なれたのかな…って。海之くんに必要とされるような、助けになれるような、そうなりたいって…」
刀奈
「…海之くんに妬けちゃうわね」
簪
「………でも、でもやっぱりダメ…。私、全然強くなってなんか…無い。朝起きて…海之くんがいないベッドを見る度に…もうあの人がいないって思い知らされる。寂しさで…胸が押しつぶされそうになる…」
刀奈
「…部屋を変えたら良いじゃない?もしくは誰かに入ってもらうとか」
簪
「…でもそれをしてしまったら…二度と取り返しがつかない様な気がする…。前にあるアニメで言ってたの。「無くしてしまったものは不思議とまた見つかるけど、自分で捨ててしまったものは不思議と二度と見つからない」って…。だから…この部屋を変えたら…」
刀奈
「……」
刀奈はその言葉を聞いて思った。無意識で簪は信じているのだ。閻魔刀は離れたが彼の死体を見たわけではない。どんな小さい可能性でも、限りなく0に近くても、僅かながらも海之が生きていると。そしてそれが簪の今の支えになっているのだと。
簪
「海之くんは…私の目標だった…。お姉ちゃんと同じ位」
刀奈
「そうね。海之くんは簪ちゃんのヒーローだもんね」
簪
「…うん。そして初恋だった。こんなに誰かを好きになったのは初めて。……大好きだった」
刀奈
「うん」
簪
「大切な人だった」
刀奈
「うん」
簪
「…ずっと…一緒にいたかった」
刀奈
「うんうん」
簪
「……うわあああああああああああああ……」
気持ちを吐き出したのがきっかけになったのか、簪は泣き叫んだ。そんな彼女の背を優しく撫でる刀奈であった。
…………
簪
「……御免、お姉ちゃん。…迷惑だったよね」
刀奈
「そんな事気にしなくて良いのよ。寧ろ嬉しいわ」
簪は数分の間泣き続けたが少し落ち着いた様だ。そんな彼女に刀奈は話す。
刀奈
「……ねぇ簪ちゃん。今更だけど私ね、海之くんは……生きてる気がするの。もちろん火影くんも」
簪
「……………え?」
簪は信じられないという顔をしている。
刀奈
「だってあのふたりよ?どんな時でも余裕あって、ぶっちぎりに強くて、いつも皆の事ばかり考えているふたりよ?そんなふたりが皆や簪ちゃんを残して死ぬと思う?あのふたりならどんなに絶望的状況でも、最後の最後まで必死に生きようって考えるんじゃないかな?皆のために。ましてや私達はふたりが死ぬとこ見て無いもん!単にレーダーから消えただけ。それなのにこの世にいないと決めつけるのはまだ早くないかな?」
簪
「……でも…」
刀奈
「簪ちゃん何時も言ってるじゃない?「ヒーローは不滅だ」って。海之くんが簪ちゃんにとってヒーローなら、彼も不滅ってことじゃない。それにさっきの無くしてしまったものはみつかるかもしれないって台詞。だったら消えてしまった海之くんもまた会えるかもしれないって意味にならない?」
簪
「………」
簪はまだ黙っている。
刀奈
「…も~!そんなに疑うなら私が先に海之くんの恋人に立候補するよ~?」
簪
「そ、それは駄目!!……あ」
久しぶりに何時もの簪の声を聞いた様な刀奈であった。
刀奈
「ふふっ♪……だからさ、お願いだから簪ちゃん、ふたりを信じてあげて?ふたりが帰ってくる事を。簪ちゃん達が信じてあげなくてどうするの?」
簪
「…お姉ちゃん…」
刀奈の言葉を受けて暫く考えた後、簪は、
簪
「……………うん」
刀奈
「……」
簪
「わかった…。私信じるよ。…ふたりの事、海之くんの事私諦めない」
刀奈
「そうよ!帰ったら滅茶苦茶甘えなさい。そして早く甥っ子か姪っ子の顔を見せてね♪」
簪
「!!ななな、何を言ってるのお姉ちゃん!?」
簪は何とか立ち直った様だった。
刀奈
(…何とか繋いだわよふたり共。次は貴方達の番。だから海之くんも火影くんも早く帰ってきなさい。海之くんに至っては私の簪ちゃんをここまで泣かせた罪、本当なら万死に値するけどそんな事したら私が簪ちゃんに一生どころか来世まで口聞いてもらえなくなるからね。償いは「生きて帰ってくる事」にしてあげるわ。だから…ふたり共早く帰って来なさい!!)
笑顔の刀奈だがその心には怒りの念と無事を願う気持ちが入り乱れていた…。
…………
シャルロットとラウラの部屋
一方こちらはシャルとラウラの部屋。授業が終わった後、ラウラは部屋に戻ってくるとどこかに電話をしていた。
ラウラ
「…そうか…。今日も手がかりは無しか…」
相手は自分が隊長を務めるシュヴァルツェア・ハーゼの副官。ラウラは海之と火影の生存を信じ、あれからずっと捜索を続けていた。時には衛星を使ってまで。隊長とはいえ一兵士に過ぎない彼女がこれ程の事を出来るのは理由があった。ある日彼女は軍上層部にこう持ち掛けたのである。
「先日破壊された研究所がVTSの秘密研究所である証拠を握っている者達がいる。更にその者達は何時でもパンチラインと同等のウイルスを国に流せるらしい。その者達を何とかするためにも必要な事です」
(半分は彼女のでまかせ)
その言葉を聞いた上層部は慌ててラウラの依頼を了承。代わりにその者達の討伐又は逮捕、そして証拠の隠滅をラウラに命令した。4年前の一夏の件にドイツ政府が絡んでいる件についてはまだ証拠が無いため、言い出さなかった。
ラウラ
「わかった。すまんが引き続き頼む…」ピッ
そう言って彼女は電話を切り、机の上のパソコンに向かう。すると部屋のドアがノックされた。
コンコン
千冬
「ボーデヴィッヒ、いるか?」
来たのは千冬だった。
ラウラ
「…え、教官!?は、はい!」
千冬
「入るぞ」ガチャッ
そう言いながら入ってくる千冬。
千冬
「…デュノアはまだの様だな」
ラウラ
「は、はい。シャルはまだ戻ってきていません。あいつに御用でしたか?」
千冬
「…いやデュノアではない。…少しな。お前とさしで話がしたくなったんだ」
そう言いながら千冬はラウラのベッドに腰かける。
ラウラ
「わ、私とですか!?」
千冬
「…?何を驚いている?私が話をしたいと思うのがおかしいか?」
ラウラ
「い、いえとんでもありません!そ、それでどういったご用件でしょうか!」
ラウラは酷く緊張している。…しかし、
千冬
「……大丈夫か?」
ラウラ
「…え?」
千冬が静かに言ったその言葉で緊張が一気に冷めた。
千冬
「デュノアから聞いたぞ?お前達、休みも放課後もあれからずっとあいつらを捜索しているとな?しかもお前に至っては自分の立場を利用して軍を半分脅迫して衛星まで使っているらしいな?デュノアの奴も実家の父親に頼み込んで捜索隊を出してもらっているらしいし。…全く子供のくせに大人をこき使いおって」
ラウラ
「! も、申し訳ありません…」
申し訳なさそうに謝罪するラウラ。
千冬
「…まぁ気持ちはわかるがな。…しかしそれのせいで学業や体調にまで影響が出てしまう事があっては元も子も無い。…大丈夫か?」
ラウラ
「は、はい!当然です!何も問題ありません!それに教官から指導を受けておりました頃に比べましたらこれ位どうともありません!」
千冬
「…それは暗に私の指導に対する批判か?」
ラウラ
「い、いえ!そういう意味では決して……!」
ラウラは酷く慌てた表情をしながら言い訳する。すると、
千冬
「……ふ、ふふふ、あははははは!」
突然笑い出した千冬。
ラウラ
「きょ、教官…?」
千冬
「ふふ…。いやすまん。少しからかっただけだ。…しかしお前のそんな顔など久しぶりだな」
ラウラ
「…まさか教官、私を気遣ってこんな事を…?」
千冬
「ここのところのお前の様子が気になっていたからな。何時も険しい顔をしてばかりいただろう。だから少しな」
ラウラ
「…申し訳ありません…」
千冬
「謝ってばかりだな。……もう一度聞くが、大丈夫か?無理をし過ぎていないか?」
ラウラ
「…お気遣い感謝致します。ですが私は大丈夫です。一刻も早くふたりを見つけ出さなければなりませんから。そして説教してやらなければ気が済みません。夫を、姉をこんなに待たせているあいつらを」
千冬
「……」
そう言いながらラウラは再度机の上のパソコンに向かい直す。
ラウラ
「全く、あいつらときたら何処をほっつき歩いているのか…。あれから範囲を広げて徹底的に捜索しているのに影のひとつも見つからないのです。実家にも帰ってない様ですし…本当に心配ばかりかける奴等です…。軍人なら懲罰どころではすまない所です」
千冬
「……」
千冬はそう言い続けるラウラの背を見続ける。
ラウラ
「一夏の奴もずっと責任を感じていますし、簪や鈴や本音も見た目明るく振舞っていますがあいつらの悲しみは火を見るよりもわかります。だからこそあいつらの分まで私が頑張って探さなければ…。もし見つけた時は真っ先に殴ってやるつもりです。でなければこの腹立たしい気持ちが収ま……!!」
千冬
「………」
気が付くとラウラは千冬に背中から抱きしめられていた。
千冬
「………」
ラウラ
「きょ、教官…!?」
ラウラはかなり驚いていた。ドイツにいた時もこんな事一度もされた事無かった。
千冬
「お前を指導したのは私だぞ?お前の気持ちがわからないとでも思うか?」
ラウラ
「…わ、私は…本当に」
千冬
「強がるな…。泣きたいなら泣けばいい。気持ちを吐き出したいならそうすればいい」
ラウラ
「………」
少ししてからラウラは千冬の腕の中で静かに話し始めた。
ラウラ
「……私は…」
千冬
「……」
ラウラ
「私は海之と火影が、ふたりが死んだなんて…本当に思ってません。ふたりは…私の嫁と弟はきっと生きてる…。私には…そう信じる事しかできませんから…」
千冬
「……そうか」
……しかしそう言うラウラであったが、
ラウラ
「…………でも、時々…凄く…不安に…なるんです…。毎日毎日、探しても…全く…見つからなくて。手がかりさえも…。毎日シャル達と…必死になって探しても…何、何も…見つから…なくて」
千冬
「……」
ラウラ
「…わかって、るんです。反応が…全部消えた…という事が…どういう…事か。……でも、でも…どうしても…諦めたく、なくて。絶対…諦めたく、なく、て…」
千冬
「……」
気付けばラウラも涙を流していた。そして自らの指に嵌めている紫の輝きの指輪を見ながら更に呟く。
ラウラ
「好きになんかならなければ良かった…。家族なんて持たなければ良かった…。以前の私のままで良かった…。ならこんな悲しみも」
千冬
「それは違うぞラウラ。それは人である証だ。人として当たり前の感情なんだ。お前はマシンではない。16歳のひとりの女の子だ。海之と火影はその事をお前に教えた。お前を人間にしてくれたんだ。私は感謝している」
ラウラ
「…しかし私は」
千冬
「関係ない。例えお前が母親から生まれなかった人間であっても。私達がお前をそんな風に見てると思うか?あのふたりは、お前の家族は…お前をそんな風に見ていたか?」
ラウラ
「……」
海之
(俺は…お前達を守りたい)
火影
(これからもあいつを頼むぜ♪)
ラウラ
「……海之、……火影」
千冬
「大丈夫だ。…大丈夫」
ラウラ
「……うぅ、……わぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!」
堪えられなかったのか、ラウラは千冬の方に向き直り、彼女の腕の中でふたりの名を呼んで泣き叫んだ。千冬はそんな彼女を黙って抱きしめていた。それはまるで母親と娘の様であった…。
※次回は8日(土)、後編です。
半歩しか進んでいませんが全員分の感情を書きたいので前編後編と分けてしまいます、すみません。