IS×DMC~赤と青の双子の物語~   作:storyblade

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トリッシュ達の試練をクリアした一夏達は遂に火影・海之兄弟の秘密に触れる機会を与えられる。そんな一夏達に見えたのは今まで見たことが無い異質の世界だった。更に一夏達の前に現れるルシア、マティエと名乗る女性達。彼女達の言葉と目の前の映像で一夏達は再び多くを知る。

目の前に広がる世界は「魔界」であり、そこには多くの「悪魔」がいる事。嘗て悪魔は人界に侵攻しようとしていたが伝説の魔剣士「スパーダ」によって阻止された事。そのスパーダは人間の女性「エヴァ」と結ばれ、ふたりの間に双子の男の子が生まれた事。そしてその双子こそ「ダンテ」と「バージル」であり、火影と海之の前世は悪魔と人間のハーフであった事…。

驚きの連続であった一夏達だったがそれでもふたりへの気持ちは変わらないと約束する。しかしそんな彼らにルシアとマティエは更に予想だにしない言葉を言うのであった…。


Mission174 真実への電脳ダイブ⑤ 隔たる兄弟

ルシア

「驚くのはここからよ。今のはふたりの…血塗られた戦いの歴史の始まりにすぎない…」

一夏

「…血塗られた…戦い!?」

マティエ

「ああ…。世界で最も殺し合った兄弟、ダンテとバージルの歴史のね」

「……え?」

「い、今なんて…?バージルさんとダンテさんが…」

「…殺し合った…だって?」

本音

「ダンテとバージルがって…それ、ひかりんとみうみうが…って事だよね?」

千冬・刀奈・クロエ

「「「………」」」

 

想像にもしていなかった言葉に千冬・刀奈・クロエ以外の皆はこれまで以上に激しく動揺し、愕然とする。

 

「ちょ、ちょっと待ってくれ!貴女達さっき言いましたよね?火影と海之は過去の記憶を受け継いでいるって!という事は…!」

ルシア

「…ええ覚えているわ。嘗ての、自分達の殺しあいの事も…」

ラウラ

「そ、そんな…そんな事信じられるか!」

セシリア

「そうですわ!いくら何でもそれだけは信じられませんわ!」

シャル

「そうだよ!喧嘩する事もあるししょっちゅう決着をつけるって言ってるけどふたりが殺し合いなんてする筈ないよ!」

マティエ

「信じるも信じないもないさ…それが真実なんだよ…。ダンテとバージルは幾度も戦いを続けてきたのさ…」

「う、嘘よ!なんでそんな事する必要があるのよ!あんなに平和に暮らしているじゃないの!」

(…!もしかしてそれが…海之くんが前に言ってた…「大罪」なの…!?)

 

当然彼女達は激しく反論する。そんな中一夏は、

 

一夏

「皆落ち着け!!」

箒達

「「「!!」」」

一夏

「…見せてもらおうぜ。さっきこの人達は全てを見せるって言ったじゃねぇか。反論するならそれを見てからでも遅くはねぇ…。この人達がそういうなら…何かしらの根拠があっての事なんだろうしな…」

「一夏…?」

千冬

「一夏…お前」

 

この時の一夏は今までの彼とは違っていた。今までの自分ならきっと箒達と同じく全力で否定するだろう。だが一夏には心当たりがあった。

 

 

(彼らは多くのものを失った。そのせいで時には道を誤った事もあった)

※mission160参照。

 

 

一夏

「俺はあいつらの事を知るって決めたんだ。例えそれがどんな内容でも…」

刀奈

「一夏くん…」

「………いいわ、見せてもらおうじゃないの。…でも納得いくまでは絶対信じないわよ!」

シャル

「あのふたりが…こんな可愛い子達が…殺し合うなんて…何かの間違いだよ…」

 

鈴達もやや冷静さを取り戻した様子だがやはりふたりが殺し合う事については信じられないという感じである。すると、

 

…パチンッ!!

 

ルシアは再び指を鳴らす。すると目の前の平和な家族の姿と家が消え、ある光景が映った。

 

一夏達

「「「!!!」」」

 

その光景に全員愕然とした。次に自分達がいたのは…業火に包まれているらしい家の中だったのだ。

 

一夏

「な、なんだ火事か!?」

本音

「た、大変!速く逃げないと!」

「だからこれは映像よ本音!い、いえそれよりルシアさん!何が起こってるの!?」

クロエ

「…!見てください!」

 

クロエは何かを指差す。そこにいたのは…幼いダンテ、そして彼を何とか助けようと隠れる場所を探しているらしい母エヴァの姿だった。

 

セシリア

「エヴァさんに…あれはダンテさん!?」

「で、ではここは彼らの家なのか!なんでこんな事に!」

ルシア

「……悪魔よ。嘗て魔剣士スパーダに敗れた魔帝が彼らの家に悪魔達を差し向けてきたの。スパーダの血を継ぐ者を皆殺しにするために」

ラウラ

「魔帝が!?」

シャル

「そんな!そいつはスパーダさんが倒した筈じゃないんですか!?」

マティエ

「…ああ、確かに倒した。だが倒しきるには至っていなかった。精々封印するのがやっと、封印が解け、力を取り戻した魔帝が再び動き始めたのさ…」

「そんな…」

一夏

「そのスパーダはどうしたんだ!どっかで戦ってんのか!?」

 

その場にスパーダがいないことを一夏達は不思議がる。

 

刀奈

「……スパーダはいないわ」

セシリア

「…いない…?」

クロエ

「ダンテさんとバージルさんに自らの剣と技を教えると…ある日突然姿を消してしまったらしいんです。それからどうなったのかは…兄さん達も知らないと…」

「なんだって…!どうして…!」

 

すると簪が気付く。

 

「…!ねぇ、バージルさんは!?」

ラウラ

「そうだ!バージルはどうしたんだ!ま、まさか殺されて!」

マティエ

「落ち着きなお嬢ちゃん。今は目の前に集中するんだね」

 

やがてエヴァはダンテをクローゼットに隠した。

 

エヴァ

(良いダンテ?何があっても出てきては駄目。バージルと一緒に必ず戻るから。……そんな顔しないで。貴方なら大丈夫よ。頑張れるわよね?)

 

エヴァはダンテに安心するように話しかけるが状況が絶望的なのは誰の目にも明らかだった。

 

エヴァ

(…………もし、私達が戻らなかったら…ひとりで逃げて。名前も身分も変えて…私達の事も忘れて、別人として生きていきなさい…)

本音

「そんな悲しい事言っちゃ駄目だよ!」

一夏

「くっそ!俺らは見てるしかできねぇのかよ!?」

千冬

「これは過ぎ去った過去の話だ、私達にはどうする事も出来ない…」

エヴァ

(そして新しい人生を…始めてね…)

 

微笑みながらエヴァはそういうとバージルを探しに走った。しかし次に一夏達が聞いたのは……彼女の悲鳴だった。

 

一夏

「!!」

「ああ!」

シャル

「エ、エヴァさん!」

ルシア

「エヴァは死ぬまでバージルを探していたけど…最後は悪魔に…」

セシリア

「そんな…」

ラウラ

「くっ…」

クロエ

「こんな…、こんな事…」

マティエ

「……そしてエヴァと家を失ったダンテは命かながらそこから逃げた。……バージルもな」

「!!」

ラウラ

「バージルは無事なんだな!?」

 

その事実に特に簪とラウラが反応する。

 

ルシア

「…ええ。エヴァは見つけられなかったけど彼は何とか自力で逃げ出せたの。瀕死の傷を負いながらも。そして彼は姿を消した…」

「…え?ダンテと会っていないのか?」

「そ、そうよ、何で会ってないのよ?お互い無事だったのに…」

 

兄弟互いに無事だったのに会わなかったという事に皆は疑問を持つ。

 

ルシア

「……その理由は後で話してあげるわ」

 

そしてルシアが再び指を鳴らすと次はどこか別の建物の中にいた。そこには少しばかり成長したダンテらしい人物。その横に刀とショットガンを持つ顔に包帯を巻いた男。更に作業台らしいカウンターに座る年配の女性がいた。

 

シャル

「ダンテ…!」

千冬

「…今の火影と同じ位だな。そっくりだ」

一夏

「…?なんだ横にいる包帯グルグル巻きのあいつ、気味悪いな」

ルシア

「悪魔の襲撃から生き延びたダンテは母の言葉通り、トニー・レッドグレイヴと名前を変え、便利屋として生きていたわ」

ラウラ

「…レッドグレイヴ?」

刀奈

「彼らが住んでいた村の名前よ。例え名前を変えても何か繋がりを持っていたかったんでしょうね…」

本音

「火影…」

ルシア

「…でもやがて魔帝はダンテが生きている事に気付いた。その都度彼の元には刺客が送り込まれ、彼は必然的に悪魔との戦いに身を投じていったわ、スパーダの様に。その様子を見た人々は彼に対して冷たかった。トニーの近くにいると死ぬ、不幸になる、とね」

セシリア

「そんな…、ダンテさんは何も悪くないのに…」

マティエ

「何も知らないのだから仕方ないさ。ダンテも周りに何も話さなかったからね…。でもなんだかんだ悪態付きながらも付き合ってくれる奴はいたんだよ。ホレ、例えばあの女なんかはダンテの二丁銃を設計した奴だよ。早くに親を失ったダンテにとって親代わりともいえる奴さね」

シャル

「あの人がダンテの、火影の銃を作った人なんだ…」

本音

「あの横にいる人は~?」

マティエ

「…ダンテの仕事仲間みたいなもんさ。名前は…ギルバ…」

千冬

「!奴が…ギルバ…」

「……」

 

千冬はつぶやき、簪は無言で見つめる。

 

ルシア

「そして…あの彼女を殺した張本人でもあるわ」

「…え!?」

「あ、あいつがあの女の人を!?」

マティエ

「ああ、これから間もなくだ。奴もまたダンテを殺すために魔帝が差し向けた悪魔だったのさ。ダンテは再び目の前で大事な人の死を見た訳だ…」

セシリア

「そんな…、なんて悲しい事なんですの…」

一夏

「…どこまで、あいつらの大事な人を殺せば気がすむんだ!」

ルシア

「親代わりでもある人を失った事でダンテはますます人から離れる様になったわ…。そして彼は母と仲間達の仇を討つためにトニーの偽名を捨て、名前もダンテに戻した。まるで魔帝に自分は生きているって教える様に、そして自分だけを狙わせる様にね」

「ダンテ…火影…」

シャル

「火影に…こんな悲しい記憶があったなんて…」

ラウラ

「バージル…どこにいるのだ。こんな時こそ兄弟力を合わせるべきではないか…!」

千冬・刀奈・クロエ

「「「……」」」

ルシア

「…そしてそれから更に時は過ぎて…遂に運命の日ともいえる、あの時が訪れる」

 

パチンッ!!

 

 

…………

 

その直後、一夏達は外にいた。かなり荒廃している街の中。

 

一夏

「…なんだ?えらく荒れた街…!!」

 

ゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴッ!!!

 

その時突如地面が激しく揺れ始めた。

 

刀奈

「な、何!?」

「…!! 何かが地面から出てくる!?」

 

 

…ズドォォォォォォォォォォン!!!

 

 

箒の言う通り、砂埃を巻き上げながら地面を破って出てきた。それは周りの建物を遥かに超える高さを持つ…巨大な建造物だった。

 

本音

「ほわ~……」

一夏

「……でけぇ」

「地下にこんなものが埋まっていたというのか…?」

セシリア

「……あの風貌、まるで伝説にあるバベルの塔みたいですわ」

 

多くの者が目の前に突如出現したその塔にただただ驚く。

 

「マティエさん…あれは…一体?」

マティエ

「…古の魔塔、テメンニグルさ。嘗て悪魔の力を求めた異端の者達が造り上げたものであり、人界と魔界を繋ぐ架け橋」

シャル

「! あの塔が人界と魔界を!?」

セシリア

「で、ではあれは人が造ったものですの!?」

ルシア

「…ええ。スパーダと悪魔達の戦いの時代にね。そして戦いが終わった後、スパーダはあの塔を封印した。そして永き時を経て復活した」

ラウラ

「復活って…どうし」

 

ドドドドドンッ!!

 

その時、一夏達のいる場所に複数の悪魔達が出現した。

 

クロエ

「悪魔!」

「この街の荒れ様はこいつらの仕業か!」

 

 

ドーンッ!!

 

 

すると更にある建物の扉が勢いよく開かれた。

 

刀奈

「こ、今度は何!?」

「…!」

シャル

「あれは!」

 

ダンテ

(………ヒデェな、街だけでなく店が目茶目茶だ)

 

中から出てきたのは赤のコートを纏い、見覚えのある剣、リベリオンを手にした…更に成長したダンテだった。

 

ダンテ

(まだ名前も決めてなかったのに……弁償してもらおうか!)

一夏

「火影!…ああ違うダンテか!」

「今の火影より少し年上みたいね」

ラウラ

「中々ワイルドになったな」

 

それからものの見事にその場にいる悪魔達を倒していくダンテ。

 

「…凄い」

セシリア

「ええ…ISも無くあの様な者達をいともたやすく…」

ルシア

「スパーダから受け継いだ技、そして彼の天性の素質ともいえる銃さばきは既に開花していたわ。並みの悪魔では彼の相手にもならない」

刀奈

「この時から彼の力は圧倒的だったわけね」

 

やがてその場の悪魔を全滅させたダンテは塔を見つめ、叫んだ。

 

ダンテ

(…わざわざ招待状なんか寄越しやがって。…いいぜ、当然もてなしてくれんだろ?……なぁ、バージル!!)

 

「!!」

ラウラ

「え…今、バージルと言ったか?」

 

するとルシアは再び指を鳴らす。次に一夏達がいたのは…空の上だった

 

一夏

「また場所が変わった…って飛んでるーー!」

千冬

「落ち着け一夏。これが映像ならばそう見えているのも当然だろう」

シャル

「そ、それにしても吃驚した…。ここは…もしかしてさっきの塔の頂上?」

クロエ

「…!皆さん!」

 

クロエは何かに気付く。するとその先にいたのは、

 

バージル

(………)

 

青いコートを纏い、閻魔刀を持ち、地上にいるらしいダンテを見下ろす彼の双子の兄、バージルだった。

 

ラウラ

「…バージル、なのか!?」

「…バージルさん。…海之くんにそっくり…」

刀奈

「大きくなったわね。まぁ当然か」

セシリア

「で、でもどうして彼がこの塔の上に…?」

 

その問いかけにルシアが答えた。

 

ルシア

「それは、彼が…このテメンニグルを復活させた者のひとりだからよ…」

「! バージルさんがこの塔を!?」

ラウラ

「で、では街がこうなったのもバージルのせいだというのか!?そ、そんな馬鹿な!」

千冬

「……」

 

簪とラウラはその言葉に強い衝撃を受けている。

 

バージル

(……やはりお前も持っていたか…。だが、お前は真の使い道を知らない)

 

するとその時一体の悪魔がバージルに襲い掛かってきた。…しかしバージルは背中を見せて無視している。

 

「!」

本音

「危ないよみうみう!」

 

シュンッ!……チンッ!

 

するとバージルは閻魔刀を抜き、背中越しに一振りするとそれを鞘に納めた。すると同時に悪魔は粉々に砕け散った。

 

一夏

「…す、すげぇ」

「一振りで悪魔がばらばらに!」

千冬

「あれがバージルの…嘗ての海之の力、か…」

ルシア

「彼もダンテと同じく…いいえ、それ以上の剣の才能を開花させるのにそう時間はかからなかったわ。…そしてふたりは…再会するの」

 

パチンッ!!

 

ルシアが指を鳴らすと空は急に暗くなり、雨が降りしきる夜になっていた。…すると同時にダンテがバージルが待つテメンニグルの頂上に登ってきた。

 

「ダンテ!」

バージル

(……来たか)

ダンテ

(全く大したパーティだな。飲みもんも食いもんもねぇ。女も出て行っちまって、いるのは悪魔だけ…)

バージル

(…それはすまなかったな。気がせいていたもので準備もままならなかった)

「兄弟の再会、だな」

シャル

「ちょっと怖い再会だけどね…はは」

 

皆は兄弟が再会している事に少なからず喜ぶ。だが次のダンテの言葉でそれは沈黙に変わる。

 

ダンテ

「まぁいいさ、折角の再会だ。まずは挨拶のキスでもしてやろうか?……それとも、こっちのキスの方がいいか?」

 

ジャキッ!!

 

ダンテが突然銃口をバージルに向ける。バージルはそれを見ても表情ひとつ変えない。その背後でけたたましく鳴る雷鳴。しかしそれに負けない程の迫力がふたりから発する凄まじい殺気であった。

 

一夏

「…!!」

「……え、ダンテ?」

「…バージル、さん?」

 

ダンテ

(感動の再会っていうらしいぜ?…こういうの)

バージル

(………らしいな)チンッ!

 

その言葉を合図にふたりの戦いが始まった。ダンテがリベリオンを振るい、エボニー&アイボリーの乱射を仕掛ける。バージルは銃を持っていないが近接も遠距離も全て閻魔刀で対応している。それは訓練や試合という生易しいレベルではなく、本当の戦い、正に殺し合いであった。

 

一夏

「!!」

「お、おい!ふたり共何やっているんだ!」

セシリア

「どうしておふたりが戦うんですの!?」

シャル

「そうだよ!なんでふたりが!折角会えたのに!」

 

当然のことながら一夏達はダンテとバージルの戦いに激しく動揺する。

 

刀奈

「…さっきルシアさん達が言ったでしょう。これがダンテとバージルの戦いの歴史の一部なのよ」

本音

「そんな!」

「なんで、どうして…!」

 

すると簪がルシアとマティエに問いかける。

 

「…ルシアさん、マティエさん、教えてください。彼に…バージルさんに、一体何があったんですか?」

ラウラ

「そ、そうだ!何故バージルがこんな事を!こんなの何かの間違いに決まってる!」

千冬

「ルシア殿、マティエ殿。見ての通りこいつらはバージル、いや正確には海之というが。特にこのふたりはあいつを支えたいと心から思っている。だから…話してやってくれないか?」

 

そう言った千冬に一夏達も反応する。

 

マティエ

「…元々バージルはどちらかといえばもの静かな子でね。本を読むのが好きで無駄に騒ぐのが嫌いな子だった。だからその逆で騒ぐのが好きなダンテとはしょっちゅうケンカしていたよ。でもふたり共両親の誇りと優しさを継承したいい子だったさ…」

刀奈

「ふたりのケンカ癖は子供の頃からだったのね」

「なのにどうして…?」

ルシア

「……すべての始まりはさっき見せたあの時の、悪魔達の襲撃によって母親を失った時よ。あの襲撃で母を失ったダンテはその後、エヴァの遺言に従い人として生きてきた。その人生の中で数多くの孤独や苦しい目にもたくさんあってきたけど、それでも彼は人間の可能性を信じて変わらずにいたわ。……でも、バージルは違った。あの襲撃の日、たったひとり命からがら逃げだした彼は母親を守れなかった自身の無力さに、そして人間というものの貧弱さに絶望した」

「…バージルさん…」

シャル

「気持ちはわかるけど…でも、仕方ないよ…。幾らバージルでもまだ子供だもの。あんな悪魔に、敵う訳ないよ…。逆に殺されてしまう…」

ルシア

「そうね…。でも彼はそれでも自分を許せなかった。そして思ったの。「優しさ等持っていても、正義等持っていても何も守れない。何にも負けない絶対たる力が無ければ」と…」

一夏

「…絶対たる力…!」

マティエ

「そしてバージルは人として生きる事を止め、悪魔として生きる事を選んだのさ…」

シャル

「人を捨てて…悪魔として生きるだって!?」

ラウラ

「そんな…それじゃまるであの時の私ではないか…。DNSに飲まれた時の私と…」

刀奈

「…いいえ。きっと彼のそれはもっともっと強い気持ちよ。そのために今までの人生を捨て去る位だもの…」

クロエ

「兄さんは余程自分を許せなかったのでしょう。そしてそれはエヴァさんを大切に想っていたことの表れ…」

「……」

ルシア

「それからバージルは世界中を孤独に放浪した…。誰とも関わらずただ只管に力だけを求めて…。その旅の途中で彼にもまた魔帝からの刺客が送り込まれているけど…全て容赦なく返り討ちにしたわ。その姿には以前の彼の面影はない。向かってくるものは全て斬る。修羅そのものだった」

セシリア

「そんな…」

ラウラ

「…違う。あいつは、海之はそんな奴では…」

「……」

一夏

「…でもだからっつってなんであのふたりが戦う必要があるんだ?」

「そ、そうよ!それならエヴァさんの仇である悪魔を倒せばいいじゃない!なんで…」

 

するとこれに千冬が答える。

 

千冬

「……先ほどのギルバというのが…バージルだと思ったからか?」

ラウラ

「…えっ!」

「ぎ、ギルバって確かダンテの親代わりの人を殺したっていう悪魔…!あれが…バージル!?」

セシリア

「そ、そんな…!どうしてバージルさんがそんな事!」

千冬

「落ち着けお前達。…言っただろう?…思ったからか、と」

本音

「…え?」

刀奈

「さっきのギルバっていうのはね、バージルに限りなく似せた偽物よ。姿格好や刀までそっくりにしたね。そしてギルバっていうのは字を並び替えたらバージルのアナグラムになるわ。魔帝がダンテにバージルが犯人と思い込ませるために仕組んだ小細工よ」

「バージルさんが殺したんじゃないんだ…!良かった…」

ラウラ

「魔帝…なんて卑怯な真似を…!」

シャル

「じゃ、じゃあダンテはその犯人がバージルと思ってこんな事を!?」

ルシア

「他にも色々あるけどそれもひとつではあるわ…」

一夏

「じゃあ…バージルがダンテを狙うのはなんでだ?」

 

そんな話をしている間にもダンテとバージルの雨降りしきる中での戦いは進んでいた。

 

バージル

(…何故更なる力を求めない?…親父の、スパーダの力を)

ダンテ

(親父?…関係無いね。アンタが気に入らねぇ、それだけだ!)

 

更に斬りかかるダンテ。…とその時、

 

カッ!!

 

一夏達

「「「!!」」」

 

一夏達は目を疑った。バージルの姿が…見覚えのある姿に変わったのだ。

 

一夏

「お、おいアレは!」

ラウラ

「ウェルギエル!?」

 

ガキィィィンッ!ドシュゥ!!

 

変化したバージルはその凄まじい力でダンテの剣を払い、すぐさまダンテの腹に閻魔刀を突きさした。

 

「!!」

シャル

「ダ、ダンテ!!」

「どういう事だ!何故バージルがISを!?」

セシリア

「い、いえ、顔の部分が違いますわ。海之さんのウェルギエルはバイザーの筈…!」

バージル

(愚かだな…ダンテ。…実に愚かだ。力無くては何も守れはしない…。自分の身さえな)

 

ドスッ!!

 

バージルはダンテから剣を引き抜くとダンテの首から何かを引きちぎった。それはダンテの持つ銀のアミュレットだった。

 

シャル

「あれは…火影のアミュレット!?」

 

ドシュゥゥゥッ!!

 

痛みで殆ど身動き取れないダンテに更に追撃するバージル。その刃は心臓を貫通した。

 

本音

「いやぁぁぁぁぁ!!」

「いやだ…いやだよ…」

ラウラ

「止めろ!止めてくれバージル!」

「なんで、なんでこんな事すんのよ!アンタの弟でしょう!?」

千冬

「…バージル…」

バージル

(これで…スパーダの封印が解ける…)

 

倒れているダンテを捨て置き、立ち去ろうとするバージル。すると、

 

ブンッ!ガキィィィィンッ!!

 

まるで何かに目覚めたかのように力強く起き上がり、バージルに攻撃を繰り出すダンテ。

 

ダンテ

「グゥゥゥゥゥ……!」

一夏

「ダンテ!」

「馬鹿な…心臓を貫かれたのに…!」

ルシア

「悪魔の血を継いだ彼らの生命力は人を越えたわ。身体をバラバラにでもされない限り死ぬことはない」

バージル

(…お前の中の悪魔も目覚めた様だな)

 

そう言いつつダンテの攻撃を振り払い、バージルはその場から去る。そして、

 

ダンテ

(ハァァァ…ハァァァ…グゥゥゥゥアァァァァァァァ…!!)

 

次の瞬間、雄叫びと共にダンテもまたバージルと同じ様に見覚えのある姿に変化するのだった。

 

「火影もアリギエルを!」

シャル

「で、でもさっきのウェルギエルと同じでバイザーじゃないよ!ちゃんと顔がある!」

千冬

「…そうだ。あれはアリギエル、そしてウェルギエルじゃない。ダンテとバージルの…真の姿だ」

「…真の姿!?」

マティエ

「ああそうさ…。あれはダンテとバージルの、悪魔としての姿なのさ」

一夏

「! ダンテとバージルの…悪魔の姿!?」

ラウラ

「ではアリギエルとウェルギエルは!」

クロエ

「……はい。兄さん達は言ってました。アリギエルとウェルギエルは嘗ての自分達の姿を模したものだと。それを兄さん達を転生させた方がISの姿にしたのです」

「…ふたりのISが…、悪魔だった頃の姿…」

ルシア

「これがダンテが初めて悪魔としての力を覚醒させた時よ。バージルはもっと早くになっていたみたいだけど」

刀奈

「話だけは聞いていたけどこうやって実際見ると凄いものね…」

 

目の前で起こった怒涛の出来事に皆、特に鈴達は言葉を失っている。

 

鈴・シャル・本音・簪・ラウラ

「「「……」」」

「…そう言えばさっきバージルのやつ、確かダンテのアミュレットを奪って行ったが…何故だろう?」

セシリア

「あの時バージルさんは確か…これでスパーダの封印が解けるとか言っていましたが…」

 

これにマティエが答える。

 

マティエ

「ダンテとバージルのあのアミュレットはね、元々はスパーダのものだったんだよ。スパーダはあのアミュレットを用いてテメンニグルの人界と魔界を繋ぐ扉、そして自らの力を封印したんだ…」

一夏

「あいつらのあれにはそんな意味があったのか…」

ルシア

「そしてスパーダはアミュレットをふたつに分け、エヴァに託した。その後エヴァはそれをダンテとバージルに託したのよ。ふたりに誕生日のプレゼントとしてね」

シャル

「そんな…。じゃあ、あれはふたりにとって両親の形見じゃないか…。そんな大切なものを奪ってまで…バージルは力が欲しいの?」

「……」

 

パチンッ!

 

するとルシアは再び指を鳴らし、場面が変わる。

 

ダンテ

(ゼィ…ゼィ…)

黒き物体

(……)

 

そこには謎の巨大な黒く蠢く存在と戦い、劣勢に苦しむダンテがいた。

 

シャル

「ダンテ!」

「な、なに!?あの気持ち悪い奴!」

「なんて奇妙な姿…!あれも悪魔なのか…!?」

ルシア

「…いいえ、あれは悪魔じゃない。愚かにも悪魔の力に魅入られた…哀れな人間」

セシリア

「に、人間!?あれがですの!?」

ルシア

「その人間の目的もまた、この塔に眠るスパーダの力だったわ。でもスパーダの血縁でも強い悪魔でもない自分には封印は解けない。だからバージルにこの塔の秘密を教え、共にテメンニグルを復活させた。スパーダの息子である彼らを利用し、その力を手に入れるためにね…」

ラウラ

「! じゃああいつが、バージルをたぶらかしたのか!!」

クロエ

「……いいえ、海之兄さんは言っていました。あの時の自分もまた、誰よりも強い力を望んでいた。自分も同罪だと」

刀奈

「それで手に入れた結果があれって事?伝説の英雄の力とは思えない位グロいわね」

マティエ

「当然さ。スパーダの力をあんな人間が扱える訳ないからね。所詮あいつも不安定で不完全な奴さ…」

黒き物体

(無駄だ!貴様の力など所詮半人半魔の不完全なものよ!貴様如きがスパーダの力に敵う筈もない!)

千冬

「そして本人は気付いていないという訳か。…愚かだな」

一夏

「まるであん時の白騎士に操られた俺みたいだな…」

「一夏…」

 

そう言っている間にもその黒き物体から触手らしいものが弱ったダンテに伸びる。

 

ビュンッ!!

 

ダンテ

(ちっ!)

「ダンテ!」

本音

「危ない!」

 

 

…ザシュゥゥッ!

 

 

その時、ダンテに迫っていた敵の魔手が何かの一閃によって断ち切られた。

 

ダンテ

(!)

「な、なんだ!?」

クロエ

「今の一閃は……まさか!」

黒き物体

(何!?……貴様は!)

 

ダンテと悪魔、そして皆も一閃が飛んできた方角を見る。そこにいたのは、

 

バージル

(返してもらうぞ…。貴様には過ぎた力だ)

 

ダンテのすぐ近くに飛来するバージル。

 

「…バージルさん!」

ダンテ

(…おいおい、今更ノコノコ出てきて主役気取りかよ?)

バージル

(では…、あれがメインイベントに相応しいと?)

ダンテ

(…まぁ言われてみれば確かにそうだ)

 

するとダンテとバージルは並んで立ち、同じ倒すべき相手に向かう。

 

一夏

「ダンテとバージルが並んでる!」

「ふっ…やはり、ふたりはこうでなくては」

本音

「いっけーふたり共!」

黒き物体

(敵うと思っているのか?スパーダの力に!)

バージル

(わかっている筈だ。貴様ではその力は制御しきれない)

ダンテ

(口で言ったって駄目だぜ?…身体で分からせなきゃな!)

 

そしてダンテとバージルは初めて共に戦った。その戦い方はやはり兄弟、双子ともいえるべき見事な連携だった。目的は違ったかもしれない。ただの成り行きかもしれない。しかしふたりの心には父の力を悪用された事に対する怒りが共通してあった。

 

シャル

「凄い…なんて綺麗で見事な連携…」

セシリア

「やはり双子、という感じですわね」

クロエ

「兄さん…!」

千冬

「…ふ」

 

…そして追い詰めた相手に、ダンテとバージルはあの言葉で止めを刺したのだった。

 

バージル

(今回だけお前に付き合ってやる)

ダンテ

(決め台詞覚えてるか?)

バージル

(…ふ)

 

ダンテ・バージル

(((JACKPOT!!))

 

 

ズギュ――ン!!!…ガガガガァァァァァンッ!!!

 

 

黒き物体

「私は…私、は…スパーダの力をぉぉぉぉぉ…!!」

刀奈

「憐れな奴ね…」

 

ふたりの放った力は確実に目の前の存在を破壊した。そしてそれと同時に現れたものがあった。

 

ラウラ

「…あれは…剣?」

「それにふたりのアミュレットも!」

ルシア

「あの剣こそ…テメンニグルに封印されていたスパーダの力よ」

 

だがそれらは奇しくも魔界へと続く穴に落ち込んでしまう。

 

本音

「全部落ちちゃったよ!」

一夏

「ダンテ!バージル!」

 

それを追いかけて兄弟もまた穴に飛び込むのだった…。

 

 

…………

 

人界と魔界の境目に落ちていったそれらを追って共に降りたふたり。しかし…そこでもふたりは相交える事になった。

 

バージル

(お前のそれを渡せ。ふたつ揃わなければ意味がない)

ダンテ

(嫌だね。……なんでそんなに力が欲しい?例え力を手に入れても父さんにはなれないぞ)

バージル

(……お前は黙っていろ!!)

 

…ガシッ!!

 

再び剣を向けるふたり。お互いの剣を素手で受け止める。

 

シャル

「ふたり共まだ戦うつもりなの!?もう止めてよ!」

セシリア

「そうですわ!おふたりが戦う必要なんてありませんわよ!」

 

ダンテ

(俺達がスパーダの息子なら…受け継ぐべきなのは力じゃない…!もっと大切な…誇り高き魂だ!!)

 

ラウラ

「…!」

一夏

「!…あの言葉…前に海之がラウラに言ってた…」

「あの言葉は火影くんが…海之くんに伝えた言葉だったんだ…」

 

ダンテ

(そして…その魂が叫んでる、アンタを止めろってな!(My soul it saying wants to stop you!)

バージル

(フハハハハハ!…悪いが俺の魂はこう言っている。…もっと力を!(I need more Power!)

 

「…なんでよ。さっきあんなに見事に一緒に戦ったのに…!アンタ達たったふたりの家族じゃないの!」

本音

「そうだよ!なんでケンカばかりするの!?」

「…よせ鈴、本音。…もう誰にも止められん。これはもう、単なるケンカではない。ふたりの信念の戦いだ。決して、誰にも変えられない位の…」

刀奈

「ええ…。何よりも強い力を得る事が正しいと信じるバージルと…それは間違っていると信じるダンテのね…」

「海之くん…火影くん…」

ダンテ

(…双子だってのにな…)

バージル

(…ああ…。そうだな…)

 

そしてふたりは再び剣を交えた。ただその戦いは先ほどの戦いとは少し違うものであった。父の魂にかけてバージルの過ちを正そうとしているダンテ。対して自らの無力さを嘆き、父よりも強い力を得ようとしているバージル。そんなふたりの信念の戦いを一夏達は黙って見ているしかなかった。

……そしてその戦いも幾分か過ぎ、遂にバージルが膝を着く。

 

バージル

(ぐっ…ハァ、ハァ…)

「バージルさん!」

バージル

(俺が…負ける…?)

ダンテ

(どうした?それで終わりか?立てよ、アンタの力はそんなものじゃない!)

バージル

(…ぐぅぅぅ。…ダンテェェェェ!)

ダンテ

(…終わりにしようバージル。…俺はアンタを止める。例え…アンタを殺す事になっても!)

セシリア

「そんな…ダンテさん!」

 

その言葉を最後にふたりは突撃した。

 

ダンテ

「はあぁぁぁぁぁぁぁ!」

バージル

「でやぁぁぁぁぁぁぁ!」

一夏

「!!」

「ダンテ!バージル!」

クロエ

「兄さん!!」

鈴・シャル・本音・簪・ラウラ

「「「やめてぇぇぇぇ!!」」」

 

 

……シュンッ!!!

 

 

ダンテの一閃が静かにバージルを斬った。それと同時にスパーダの剣とバージルのアミュレットが地に落ちたがバージルが取ったのはアミュレットだった。

 

バージル

(これは誰にも渡さない…。これは俺の物だ…。スパーダの…真なる後継者が…持つべき…もの…)

ダンテ

(……!バージ)スッ(!!)

 

ダンテの首に閻魔刀が向けられる。

 

バージル

(…お前は行け。…魔界に飲まれたくはあるまい。…俺はここでいい。…親父の故郷の…この場所が………俺の様な者にはお似合いだ…)フラッ

ダンテ

(!!)

 

バージルはダンテの差し伸べる手を拒否し、ただひとり魔界に飲まれていった…。

 

「…そんな…」

ラウラ

「海之…。いや…バージル」

刀奈

「もしかしたら…あれがバージルのせめてもの情だったのかもしれないわね…。本当に殺すつもりならばダンテを魔界に引き込んでいただろうし。…でもそうしなかった」

クロエ

「…はい。私もそう思います…。バージルさんはきっとまだ…優しい心が…」

「海之くん…」

 

そしてダンテは残されたスパーダの剣を持ち、ただひとり地上へと帰還した所で場面は切り替わる。そこにはダンテを待っていた先客がいた。

 

セシリア

「あの方は…若い頃のレディさん?」

ルシア

「彼女と出会ったのもこの時よ。彼女もまたこの塔に潜入していたの。理由は…聞かないであげて」

 

空を見上げるダンテに若い頃のレディが尋ねる。

 

レディ

(…?泣いているの?)

ダンテ

(……雨だよ。悪魔は泣かないもんさ)

レディ

(…そうね。でも…家族のために涙を流せる悪魔もいるのかも。…そう思わない?)

ダンテ

(………そうかもな)

千冬

「ダンテ…」

鈴・シャル・本音

(((…火影…)))

 

その場にいた全員が同じ事を思っていた。ダンテはこの時きっと泣いていたのだと。ダンテは悪魔は泣かないものと言った。でも家族のために涙を流せる悪魔も確かにここにいるのだ。

 

マティエ

「そして地上に帰還したダンテは…自身の終生の居場所となる便利屋兼、悪魔専門の退治屋を立ち上げた」

一夏

「…悪魔専門の…退治屋…!」

 

ルシア

「名前を聞きたい?…Devilmaycry(デビルメイクライ)…」




※次回は23日(土)の予定です。

当初は一話で終わらせるつもりでしたがDMC3は念入りに書くものにしたかったので予定より文が多くなりました。それでもかなり場面を絞りましたが。もし他に見たかったという場面がありましたらすいませんでした。そしてダンテのあのセリフは今後ある場面で使う予定ですのでここでは無しです。

次回より1・2・4・5編が続きます。今話程長くはならない予定ですが。

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