IS×DMC~赤と青の双子の物語~ 作:storyblade
「Mが…千冬姉と同じ顔をしている!?」
戦いの後で一夏は千冬に真相を問うが千冬は答えない。
そんな彼女に火影と海之はスコールから渡されたファイルを見せ、核心に触れるのであった…。
「全ては…アインヘリアル計画そして、織斑計画のせいですね…」
火影と海之が千冬に事のあらましを話した日から更に三日ほどが経ったある日の放課後…。一夏や箒達は揃ってある場所にいた。
シャル
「…何だろうね?織斑先生から呼び出しなんて」
鈴
「さぁ…。でも電話の内容から重要な話である事は想像できるわね」
三日前の放課後、一夏達の携帯に千冬から一斉にメールが届いた。その内容は一文だけだった。
(大事な話がある。全員が集まれる日にある部屋に来い。真耶には伝えておく)
ここは火影達や千冬達が以前から使っていた秘密の会議室。千冬から連絡を受けた一夏達は全員が集まれる日を伝え、真耶の案内でここに訪れ待っているのだった。
箒
「先日の部屋のみでなくこんな部屋まであったんですね」
真耶
「ここは機密もしくは極めて重要な話し合い等を行うための部屋です。隔離モードという機能で部屋全体を周囲から完全に隔離する事ができます」
クロエ
「私や束様も交えて以前より使っていました」
一夏
「そうなのか。通りでイベントの前とか火影達の姿が見えなくなる時があったと思ったらここで話し合いをしてたって事か」
ラウラ
「それにしても教官の大事な話とはなんだろうか…。山田先生は何かご存じありませんか?」
真耶
「…いえ、今回は私も知らないんです。先輩に聞いても話してくれなかったので…。ただ皆さんを連れてきてほしいとしか…」
セシリア
「山田先生もご存じないなんて…」
簪
「海之くんや火影くん達もいないって事は…もしかしてまたふたりについての話かな?」
クロエ
「…いえ、トリッシュさん達の様子からしてそれはないと思いますが…」
本音
「ひかりんも何も言ってなかったよ~?」
刀奈
「まぁいずれにしても大事な話なのは間違いなさそうね…」
一夏達は互いに予想しながら千冬達の到着を待っていた。
…………
……すると暫くして扉が開き、入ってきたのは火影と海之、そして千冬だった。
シャル
「あ、来た来た」
火影
「すまねぇな遅れて」
千冬
「……」
火影と海之に比べ千冬はやや暗い表情をしている。
真耶
「…先輩?」
ラウラ
「教官…?」
一夏
「千冬姉。俺達に話ってなんだよ?」
すると千冬の代わりに火影が話し出す。
海之
「俺達から話す。先生は今回つきそいだ」
簪
「つきそい?」
海之
「そうだ。先生には足りない部分を補足してもらう」
火影
「今回皆を呼んだのは他でもねぇ。先生から聞いてるだろうが…大事な話がある。極めて重要な話がな」
箒
「…極めて重要な話?」
海之
「ああ…。だが決していい話ではない。…聞けば後悔するかもしれん。しかしこれからもファントム・タスクと戦うというのであれば…知っておかなければならないだろう…」
鈴
「き、聞けば後悔って…そんな不気味な話なの?」
ラウラ
「それにファントム・タスクと戦う上で、というのはどういうことだ?」
他の皆も同じ様な反応を見せる。…すると火影はあのUSBを見せる。
クロエ
「USBメモリとは古風ですね」
火影
「これは少し前に…あのスコール・ミューゼルが俺に渡したもんだ」
セシリア
「! それは確かファントム・タスクの…!何故あの方がそんな事を!?」
火影
「さぁな。まぁとにかく渡されたのさ。俺達に見てほしいってな。そんで最初俺と海之だけで開けてみた。奴らの居場所については書かれてなかったが…中々興味深いもんがあったぜ」
刀奈
「興味深いもの?」
海之
「…ええ。興味深くそして、本来ならば世に出してはいけない位のものがな」
真耶
「よ、世に出してはいけない、って…?」
シャル
「ふたりがそこまで言う程のものって一体…?」
火影
「今から話そうと思ってんのはこの中身についてだ。…ただし言っておく。海之も言ったが…はっきり言って知らない方がいいかもしれねぇ。それ位キツい話だ。但し奴らと戦うってんなら…知っとかなきゃならねぇ。だからお前らを呼んだんだ。周りに知られない様にすんのと…最終通告のためにな」
鈴
「さ、最終通告…?」
海之
「言葉の通りだ。今ならまだ間に合う。知らない方が良かったと後悔したくないなら出て行く事を薦める…」
その場にいる全員に緊張が走る。火影と海之からできれば知ってほしくないという気が伝わってくるからだ。以前自分達の真実を話した時も少なからず感じた事はあった。しかし今回はその時以上に伝わってくる。今までに見たことが無いふたりの様子に全員が沈黙する中、ここでも沈黙を破ったのは一夏だった。
一夏
「……俺は知りてぇ」
箒
「一夏…」
一夏
「上手くは言えねえけど…俺は逃げる訳にはいかねぇ。知らなきゃならない。そんな気がするんだ。あのMって奴の事も気になるしな…」
千冬
「……」
すると他の皆も、
鈴
「……そうね。ここまで来て逃げるなんて選択肢はないわ」
箒
「…ああそうだな。姉さんを救うためにも逃げる訳にはいかん」
簪
「きっと前の私なら多分怖くて逃げてたかもしれないけど…もう逃げないよ」
クロエ
「何があっても私の気持ちも変わりません。お願いします兄さん」
一夏に続き、肯定の言葉を出した。するとふたりも皆がそう答えるのを予測していたのか、正直に話す事にした
海之
「……」
火影
「……わかった。織斑先生、良いですね?」
千冬
「……」
千冬は黙って頷いた。
一夏
(…千冬姉…?)
海之
「では話してやろう。この中に入っているのは…あるふたつの計画に関するファイルだ」
ラウラ
「…ふたつの計画だと?」
火影
「…発端は結構昔にまで遡る。…今から約16年前、世界中から優秀な科学者、そして大勢の人間が集められた。そしてそこで人知れず、狂気に満ちた悪魔の計画がスタートした」
簪
「…狂気に満ちた」
鈴
「魔の計画…ですって?」
言葉に皆息を飲む。そして火影はその名を言った。
火影
「……「アインへリアル計画」。またの名を…「プロジェクト・ヒュドラ」」
一夏
「…アインヘリアル計画…?」
クロエ
「プロジェクト…ヒュドラ?」
火影
「そしてこの計画の指揮を取っていたのが…あのオーガスだ」
鈴
「! な、なんですって!あの男!?」
海之
「そうだ。奴は元々とある国の優秀な科学者だった。それが19年前に何故か突然前世の記憶を取り戻し、今の様な狂人になってしまった。その奴が立案して通ったのが…」
刀奈
「そのアインヘリアル計画。プロジェクト・ヒュドラ、って訳なのね…。ならば何故余計にあの女が私達に渡したのか気になるところだけど…」
本音
「ねぇヒュドラって何?」
セシリア
「ギリシャ神話に伝わる怪物ですわね…。広く知られているのは蛇の様な姿で、再生し続ける複数の首を持っていると言われています。それ故決して倒すことができない不死の力を持った怪物とされていましたが最後は神によって倒されました」
真耶
「そ、そんな怪物をどうやって倒したんですか?」
セシリア
「首の傷口を焼いて生き返らない様にし、最後の一本を断ち切ったところで絶命したと伝えられています」
シャル
「そうなんだ。やっぱり詳しいねセシリアこういうの」
ラウラ
「まぁその怪物については今はいいだろう。重要なのはその計画の内容だ。オーガスが関わっているとなるとマトモな計画ではない気がするな」
クロエ
「そもそも何故そのような名前を…?」
するとそれに対して火影が答える。そしてその内容に一夏達は驚愕した。
火影
「それはこの計画の内容からだ。…プロジェクト・ヒュドラ。名前の通り怪物、「不死身の兵士」を創り上げようという計画だったそうだ」
一夏
「…は?なんだって!?」
箒
「不死身の兵士だと!?」
セシリア
「そ、そんな…そんな事出来るわけありませんわ!」
鈴
「不死身なんて悪魔以上に絵空事だわ!子供でも分かる事じゃないの!」
海之
「…ああそうだ。不死など出来る訳がない。だが…それに近いものならば創る事はできると奴らは考えた」
簪
「近いもの…って?」
火影
「痛みを感じず、飢餓もものともしない。どんな絶望的状況でもひとりで戦況をひっくり返せるほどの力を持った、そんな兵士さ。極めて死ぬ可能性が低いから不死身に近いって訳だ」
鈴
「無茶苦茶よ!そんなのまるで機械じゃないの!」
シャル
「ちょ、ちょっと待って!さっき確か世界中の科学者が集まったって言ってたけど…じゃあ多くの国がそんな計画に協力してたって事!?」
火影
「そうだ。勿論全ての国じゃねぇけどな。大国や軍国、もしくはこの計画に賛同する企業や権力者がこの計画に金や資材、そして人間を派遣した。オーガスの言う不死の兵士、若しくはその実験データ欲しさにな」
本音
「そんな…」
ラウラ
「クロエさん…軍国という事は…」
クロエ
「ええ…間違いなくドイツも関わっているでしょうね」
鈴
「それだけじゃないわよ。大国って言ったら…」
セシリア
「ええ…私達が知る国は殆どでしょうね…」
全員が衝撃の事実に言葉を失っている。
火影
「USBの中には名簿もあった…。俺としてはスメリアのもんが入っていなかったのは正直少しほっとしたぜ」
海之
「計画に関わっていた科学者及び人間は計画が外に漏れだすことを防ぐために全て情報統制を敷かれていた。奴らとしてもこの様な事が公になれば一大事だからな」
箒
「…確かにその様な事が世に出ればどうなるかわからんな…」
クロエ
「しかしどうやってそのような兵士を創ると…?」
すると海之はセシリアにある質問をした。
海之
「…セシリア、お前は「アインヘリアル」という言葉を知っているか?」
セシリア
「え、ええ聞いたことは。確か…北欧に伝わる「死んだ勇者達」の総称ですわ」
簪
「…死んだ勇者?」
セシリア
「ええ。戦いの中で命を落とした勇者や英雄の魂が死後、神の使いであるヴァルキリーによって神々が住まいし宮殿に集められるのです。集められた戦士達はそこで連日互いの腕を磨くために戦い、殺し合います。来るべき神々の最終戦争に向けて」
本音
「こ、殺し合うって…死んじゃったら元も子もないんじゃないの…?」
一夏
「いやもう死んでるけどな」
セシリア
「いえ。例え命を落としても戦士達はその日の内に再び生き返ります。そして翌日になると再び戦います。来る日も来る日も。全ては強くなるために」
箒
「戦う事しかしない死後か。…全く選ばれたくないな」
セシリア
「ですが大航海時代の海賊や水軍の兵士達にとってアインヘリアルに選ばれる事は一番の名誉とされていましたわ。神々の国で最上級のもてなしを受けていると言われていましたから。その為に死を恐れない勇猛果敢な者も多かったそうです」
鈴
「でもそんなもん所詮伝説でしょうが。実際死んだ後なんてどうなるかわかんないんだし。そんなもんに命懸けるなんて全く理解できないわね」
他の皆もそれに頷く。
真耶
「で、でもそれとその…アインヘリアル計画?それとどういう関係が…?」
するとふたりはそれに答えた。驚くべき答えを。
海之
「…「不死身に限りなく近い兵士」、それを創り出すために奴らがとった方法。それは…ただ只管戦わせる事。複数の人間をな」
一夏達
「「「!!!」」」
火影
「実戦は最大の糧っつうだろ?アインヘリアルの勇者の如く、只管に戦わせるのさ。試合とか訓練なんてもんじゃねぇ、本気の戦い殺し合いをな。何時終わるかしれない戦いの中で最後に生き残った者こそ勝ち上がった勇者、本当に強い兵士って訳さ」
箒
「な、何だと!?」
セシリア
「そ、そんな…なんて事を!」
簪
「そんな計画が…ほんの16年前にあったの!?」
鈴
「ふ、複数の人間て、そんな事進んでやりたがる人間なんてそんな要る訳ないでしょう!どうやって用意するのよ!?」
海之
「…人を集めるのは簡単だ。生まれた時から戦場で生きた少年兵や戦災孤児、死ぬ運命しかない死刑囚、戦いを求める傭兵や一戦を退いた老兵、理由なく戦う事が好きな奴。色々ある…」
火影
「興味を持ちそうな奴にはでまかせを言って参加を促した事もあったらしいぜ。金と引き換えにな」
シャル
「そんな…!」
海之
「貧しい者を抱えた様な者からすればやむを得ないと思う者もいただろう。戦争でも凄惨な毎日よりは良い、とある者も言っている」
ラウラ
「た、確かにそうかもしれないが…し、しかし!」
火影
「わかってるよ言いたい事は。でもそれしか選択の余地が無かった奴もいたって事だろ…」
一夏達
「「「………」」」
一夏達は言葉を失っている。
火影
「更にこの計画と同時進行で様々な事が行われていた」
箒
「…様々な事?」
火影
「ああ。さてここでひとつ質問だが、「大した威力は無いがまるでオーダーメードの様に使いやすい武器」か、「一発大逆転できる威力だが滅茶苦茶使いづらい武器」か、お前らならどっちを選ぶ?」
一夏
「弱いけど使いやすい武器と…強いけど使いづらい武器?」
刀奈
「決まっているわ。使いやすい武器よ。例え強くても使いこなせなければ宝の持ち腐れにしかならない」
ラウラ
「…そうだな。私もそちらだ。以前の私ならば強い方を選んでいたと思うが」
海之
「…その通りだ。例え強くても使いこなせなければ意味はない。例え弱くても己の手になじむ武器ならば場合によっては一騎当千の如き力を発揮するときもある。強大な力というものは急に手に入るものではない。修練を積み重ねて初めて得られるものだ」
火影
「だが計画に携わったお偉いさん達はそれに納得せず、即席でどんな奴にでも使える最強の兵器。それを研究し続けた。そして出来た試作品を持たせて試し撃ちもさせた。実際の、動く人間を的にしてな」
簪
「なっ!!」
鈴
「まるでゲーム扱いね…。ゾッとするわ…」
火影
「他には人体実験もな」
本音
「じ、人体実験!?」
火影
「薬物投与や強化手術による人体強化実験さ。どういう薬ならより能力を高めたり傷を早く治せるか、どういう強化手術ならより強くなれるか。そういうのも毎日の様に行われていたんだとよ」
海之
「更にマインドコントロールやサイコセラピーによる心理操作も行われた」
シャル
「マインドコントロール…!」
一夏
「サイコセラピーってなんだ?」
真耶
「心理療法のことですね。決して特別なものでなく、例えば鬱やPTSD(心的外傷後ストレス障害)を克服するための治療として用いられていますが…」
海之
「その通りです。…だが奴らのそれは少し違う」
ラウラ
「…違う?」
火影
「邪魔なもんを除去する事ができんのなら…反対に植え付ける事もできる。例えば…「目の前の敵を全て滅ぼせば自分の大切な家族を守れる」とかな。戦いや人殺しからくる痛みや恐怖。それを除去するために虚構の真実を心に植え付けた」
一夏
「!!」
箒
「なっ!」
海之
「マインドコントロールとの相乗効果によって別の人格を植え付けられた人間もいたそうだ。殺し合いをしても何も感じない人格にな」
シャル
「…ひどい、…酷すぎるよそんなの…」
セシリア
「人の、人の心を…何だと思っていますの!」
簪
「どうして…どうしてそんな卑劣な事ができるの!?同じ人間じゃない!」
クロエ
「本当に…愚かしい行為です」
一夏
「…真面な人間のやる事じゃねぇ…。腐ってるぜ全く…!」
皆、特に一夏は怒りを露わにする。
千冬
「……」
海之
「オーガス、いやアルゴサクスにとって人間がどうなろうと関係ない。そうやって憎しみに駆り立てられた人間を見て、さぞほくそ笑んでいた事だろうな…」
刀奈
「それにこんな事今は言いたくないけど…そうでなくても私達人間は今の今まで凄惨な事を繰り返してきたわ。世に出せない位の。更識家はそういうの詳しいから…なんとなくわかるの…」
本音
「かっちゃん…」
簪
「…ねぇ、思ったんだけどなんでロボットとか使わなかったの?そんな手間をかけるよりずっと良いんじゃ…?」
海之
「確かに生産性や有効性を考えれば機械の方が良いかもしれん。しかし機械は所詮機械。入力された以外の事はできん。だが人間には自分で考え、行動する力がある。そして可能性がある。そこが機械との差だ。奴らはそこに目を付けたのだろう」
一夏
「綺麗事言ったっててめえらの悪事は変わらねぇじゃねぇか…!」
箒
「一夏…」
千冬
「……」
火影
「この計画にかけられた時間は約五年。犠牲者の数は…約一万人以上にも及んだそうだ」
セシリア
「い、一万人!?」
海之
「兵士が不足すればまた新しいそれが補充された。それと重なる時期に小さい失踪や誘拐事件が世界中で起こっていた」
シャル
「…そ、それって、まさか!?」
火影
「……そういう事だ。しかし自分達でそんなことをするわけにはいかねぇ。大方悪党に金払ってやらせてたんだろ。4年前の一夏の事件の様にな」
一夏達
「「「……」」」
自分達の国が非道な計画を行い、更に誘拐に加担していたと聞かされ、再び言葉を失う一夏達。しかしそんな彼らに火影は更に驚く事を言った。
火影
「そして更に、奴らもまたこの計画に参加していた」
ラウラ
「奴ら?」
火影は名前を言った。
火影
「……アレクシア・ミューゼル、後のスコール・ミューゼル。そしてオータムだ」
一夏
「!!」
シャル
「あ、あのふたりもその計画に!?」
海之
「スコールは元々アメリカ空軍パイロット、オータムは出身不明の傭兵だった。そしてふたり共、この計画に参入された。あのふたりは…アインヘリアル計画の生き残りだ」
クロエ
「あの方々が…アインヘリアル計画の生き残り…!」
千冬
「……」
火影
「スコール・ミューゼルは兵士達の中でも特に高い成績だったらしい。作られた戦場の中で奴は剣をとり、銃を構え、生きるために戦った。多くの同じ境遇の兵士達の命を奪いながらな」
セシリア
「…そんな…」
本音
「オータムって人は?」
火影
「あいつについては書かれていなかった。報告する様な成果を上げてなかったのか…。まぁ今も生きてるって事は大方あのスコールって女に味方してたんだろうな」
一夏
「…Mもか?」
火影
「いや、奴はこの計画には関わっていない」
一夏
「そ、そうか…」
千冬
「……」
海之
「そして時は過ぎ、何時しか生き残った兵士はスコールとオータム。そして数えられる位の僅かな人間のみ。幾つもの人間の血と屍を踏み越えてな…」
一夏達
「「「……」」」
火影と海之のそれとは全く違う衝撃の真実。何万もの人間がこの人とは思えない様な計画のために誘拐、拉致、勧誘され、そして無残に死んでいった。しかも悪魔の仕業等では無い。れっきとした人間によるもの。オーガスがいたとはいえ、彼ひとりでできるものではない。世界がしかも自分達の母国がそんな計画を承知していた事にショックを隠しきれない様子だった。
刀奈
「…本当に恐ろしいのは悪魔でも大量破壊兵器でもない。…やっぱり人間ね…」
箒
「…ラウラとクロエは落ち着いているな」
ラウラ
「…私とクロエさんは心当たりがあるからな。それでもやはりショックはあるさ…」
クロエ
「……」
鈴
「それになんか…あいつらがちょっと可哀想に思えてくるわ」
シャル
「…うん、そうだね…。あの人達も被害者なんだ…」
簪
「もしかして…あの人達が戦うのって…世界への復讐?」
セシリア
「或いは仇討ちなのかもしれませんね…。この計画で死んでいった方々の。きっと死にたくないと思う方が殆どでしたでしょうし…」
一夏
「…俺達、自分達が100%正しいって思ってたけど…本当にそうなのかな…」
悩んだ表情をしている一夏達。
刀奈
「だからと言って彼女達がやっている事は許される事じゃないわ」
海之
「その通りだ。無関係の人間を巻き込んだ時点でただのテロと変わらん」
他の皆もそれに同意する。
一夏
「だけど…計画の最後で生き残ってたのがほんの数人ならあんま意味無いんじゃ?」
海之
「いや、生き残る兵士は最悪ひとりでも良かったのだ。…クローン技術があるからな」
セシリア
「クローン…!」
火影
「生き残った優秀な兵士のクローンの大量生産。クローンだから例え死んでもまた生み出せば良い。上の奴らからしたら格好の材料と考えたんだろうな」
真耶
「そんな…例えクローンでも生きているのに!」
海之
「…因みにこの技術を提供したのはドイツだ」
クロエ
「…そうだと思いました」
ラウラ
「……」
答えがわかっていたのかラウラとクロエは暗い表情をしている。
本音
「…ラウラン、クーちゃん。大丈夫…?」
ラウラ
「…ああ。心配ない」
火影
「無理すんなふたり共」
クロエ
「ご心配して申し訳ありません。でも…私達は大丈夫です。兄さん続けてください」
ふたりは再び顔を上げる。それを話しを再開する。
海之
「…兵士が完成し、あとはそれのクローン兵士を育成すればアインヘリアル計画の当面の目的は全て完了する筈だった」
火影
「…だがここで思いもよらない事が起きちまったのさ」
一夏
「…思いもよらない事って?」
すると火影の口から驚きの言葉が出る。
火影
「…逃げられちまったんだよ。スコールもオータムも、他の生き残った奴らも全員な」
シャル
「に、逃げた?しかも全員!?」
海之
「ああ。経過報告書には兵士達が全員なんの痕跡も残さないまま失踪したと書かれている」
鈴
「全員なんて随分マヌケな管理ね。終了直前で油断したのかしら?」
確かに一概には油断していた様に聞こえる。しかし、
火影
「…いやそうとばかりは言えねぇみてぇだ」
本音
「どういう事~?」
火影
「こうも書かれていたのさ…。眠っている兵士達の身体を突然黒い光が覆った瞬間、まるで煙の様に消えてしまった、てな。監視カメラを覗いている人間の目の前で」
箒
「黒い光に覆われて消えた………!」
その現象に思い当たるものがあった。
一夏
「火影それって!」
火影
「…ああ。俺も海之も同じ意見だ。間違いなく「転移」だろうな」
シャル
「転移って事は…オーガスの仕業?じゃああの男が逃がしたって事!?」
簪
「ど、どうして…?あの人はこの計画の責任者じゃないの?」
海之
「…さぁな。別の目的があったのか…。とにかくこの後にどこかでアレクシア・ミューゼルとオータムはファントム・タスクに入ったとみて間違いないな。今のスコールという名前は組織上のコードネームだろう」
刀奈
「他の人達は転移なんて知る訳無いからオーガスの仕業なんで気付きもしないでしょうね…。しかし計画に携わった者達は困るでしょうねそんな事になると」
海之
「ええ。即刻行方を暗ました奴らの捜索を開始した。もしこの計画が逃げた者達によって万一表沙汰になれば一大事だからな。自分達の立場も危うくなることを恐れた権力者や研究者達は必死だっただろう。……しかし間もなくそんな事を悠長にしていられない事件が再び起きた」
セシリア
「ま、まだ何かあるんですの!?」
すると火影は話した。
火影
「計画発足から5年が経った11年前、其までの兵器の常識を覆すだけでなく既存のそれらを凌駕し、世界のパワーバランスを揺るがしかねない世界的に有名な事件が起こったのさ」
真耶
「11年前………!!」
刀奈
「…あれしかないわね」
他の皆も直ぐに理解した。その事件が何なのかを。
火影
「…そうだ、白騎士事件。束さんが開発した世界で初めてのIS、白騎士のお披露目ショーにして世界にISの有効性を見せ付けた事件。そしてそれを生み出した束さんの登場…」
海之
「世界は一気に方向を転換した。数百の兵器より一機の高性能なISの開発。数千の兵士よりひとりの優秀なIS操縦士の育成。アインヘリアル計画の失敗を覆したいとも思ったのだろう。それは国の意思決定にも影響を及ぼすまでになっていた」
火影
「オーガスの奴もそれから約3年間はISの研究に没頭していたそうだ。そしてその後、国から姿を消した」
鈴
「いなくなったって事?」
火影
「もう研究は十分だと思ったのかは知らねぇけどな。まぁ兎に角奴は8年前から完全に消息を絶った。スコールやオータムと知り合ったのはこの時だろう」
するとここでセシリアから質問が出る。
セシリア
「…ですが何故あの方々はオーガスに、あの男に協力しているのでしょう?」
シャル
「そうだよね。あの人達からしたらオーガスは仇なのに…」
ラウラ
「奴らはオーガスが計画の責任者である事を知っていたのだろうか?」
海之
「計画時に顔を合わせているかどうかはわからんがこの様なファイルを持っている事から今は知っている筈だ。…もしかすると互いに利用しているのかもしれんな」
簪
「…利用?」
海之
「…いや止めておこう。想像の域を出んからな」
火影
「更に世界に衝撃を与えたのが織斑先生だ」
箒
「! それは…まさか第一回モンドグロッソの事か?」
千冬
「……」
海之
「…そう。まだ十代半ばで圧倒的な勝利を掴んだ千冬先生の登場もまた、世界に大きな衝撃を与えた。女性男性限らずな」
真耶
「そうですね…。当時の事は凄く覚えています。沢山の人が先輩に称賛の声を送っていました。人によっては英雄とかとも」
千冬
「…よせ真耶。私にそんな資格はない…」
一夏
「千冬姉…」
千冬が白騎士を動かしていたという事は今この場にいる者達だけは既に知っていた。そしてそれをまだ公にしない事も決めていた。
海之
「そしてそれを世界の権力者が無視する筈は無かった。奴らは思った。圧倒的な力とカリスマ性、そして人々から高い人気を持っていた千冬先生こそ、人を束ねる英雄、シンボルにして…「最強の兵士」に相応しいと」
その言葉を聞いて全員がぎょっとする。
一夏
「!!」
セシリア
「ま…まさか、またアインヘリアル計画を!?」
火影
「…いいや、時間も金もねぇし、前計画の立案者であるオーガスもいねぇ。おまけに兵士全員に逃げられるという事実上の大失態を演じちまった事もあったんだろう。多くの奴らはこの計画に疑心暗鬼を持ち始めていた。結果第二次アインヘリアル計画は起こらなかった」
本音
「よ、良かった~」
鈴
「当然よそんなの…」
火影の言葉に安心する皆。しかし、
海之
「だが奴らは決して諦めようとはしなかった。先のアインヘリアル計画の失敗で焦っていたのだろう奴らはどうすれば千冬先生というシンボルにして力を手に入れられるか、その考えを必死に巡らせたろう」
ラウラ
「…全く愚かな」
簪
「なんでそんな事にばかり目を向けるんだろ人って…。もっと大事な事沢山あるんじゃないの?もっと決めないといけない事沢山あるんじゃないの?」
ラウラは心底呆れかえり、簪は暗い顔が晴れない。
刀奈
「それが上手くいかないのが人の支配する世の中なのよ…。何時の時代にも人々の心を掴んでおくための象徴が必要なの。国旗なり英雄なりね…」
火影
「そしてその結果奴らが思いついたのがこのUSBに入っているもうひとつの計画だ。織斑先生、或いはそれと同等の力を手に入れるため、第一回モンドグロッソの後に奴らは先生自身にも知らせずにある計画を密かに進めだした」
真耶
「そ、その計画とは…?」
火影は千冬の方を見た。
千冬
「……」コク
千冬は黙って頷いた。それを見て火影は答えた。
火影
「…それが「織斑計画」。プロジェクト・モザイカという当時最強のIS操縦者である、織斑千冬先生のクローンの創造だ」
※次回は20(土)の予定です。
アインヘリアル計画の話でした。ややこしくなりましたことをお許しください。スコールの本名、オータムの設定はオリジナルです。次回は織斑計画の話です。