IS×DMC~赤と青の双子の物語~   作:storyblade

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織斑秋斗 そして 織斑春恵

アインヘリアル計画の名簿に記されていたふたりの織斑。それは一夏と千冬の父親と母親だった。今まで知らなかった両親の名前、更にその両親が悪魔の如き計画に参加していたという真実に一夏はじめ、箒達も動揺が止まらず言葉を失っていた。そんな彼らに千冬、そして火影達から驚きの話が出る。

「10年前、火影と海之の両親が巻き込まれた飛行機自爆テロで狙われたのは…父、織斑秋斗」
「更に母である織斑春恵も織斑計画の末に狂い、自ら命を絶った…」

誰もが予想していなかった真実に一夏は完全に冷静さを失い、部屋を飛び出していった…。


Mission185 姉弟の覚悟

父と母の死の真相を聞いた一夏はショックのあまり部屋から飛び出して行ってしまった。

 

箒・セシリア

「「一夏(さん)!」」

火影

「よせふたり共!」

「し、しかし!」

火影

「放っておくんだ!今は誰が行ってもあいつにとって逆効果だ。織斑先生でもな」

セシリア

「で、でも一夏さんをひとりには…!」

火影

「一夏は自身の身体の真実を受け入れようとしていた。それは被害を受けたのは他の誰でもなく自分だったからだ。だから痛みを抑える事も出来た。…しかし今の今まで知らなかった親の姿をこんな形で知ることになっちまったんだ。自ら教えてくれと頼んだとはいえな」

海之

「顔も知らない親とはいえ、実の親がこの様な計画に自ら進んで参加し、多くの人を傷つけたばかりでなく、その報いを受けるような死を遂げた等といきなり聞かされればショックは大きいだろう…」

火影

「今のあいつにはひとりの時間が、落ち着く時間が必要だ」

刀奈

「……その通りね。今はそっとしといてあげましょう」

箒・セシリア

「「……」」

千冬

「……」

 

すると暫くして千冬もまた立ち上がり、ひとり出て行った。

 

「千冬さん…?」

火影

「一夏の後を追った、って感じじゃねぇな。…先生も暫くひとりにしといてやれ」

クロエ

「千冬さんは今の今まで真実を全て自分ひとりで背負ってこられました。それが今回の事で全て公になってしまった。千冬さんの心の痛みも大きい筈です…」

真耶

「先輩…」

海之

「……」

 

 

…………

 

その後、少しだけ間をおいて話を整理する事にした。

 

クロエ

「それにしてもあのMという方がまさか千冬さんのクローンだったなんて…」

「今まではムカつく奴っていう感じだけだったけど…あんな過去があいつにもあったって知ったら…ちょっと複雑だわ」

「勝手に生み出されただけでなく姉妹で殺し合いを強要されたなんて…酷すぎるよ…」

シャル

「あの子、まだこれからも狙ってくるんだよね?…一夏、戦えるのかな…?」

ラウラ

「…どうだろうな。少なくともこれまでと同じ気持ちという訳にはいかないだろうな…」

本音

「おりむーとも兄妹みたいなものだもんね…」

刀奈

「そしてその一夏くんも…計画に利用されていたのね…。ふたりの両親はそれを知っていたのかしら?」

真耶

「おふたりの御両親が亡くなられたのは織斑計画プランBの前ですから…一夏くんの件については存じないと信じたいですけどね…」

シャル

「その織斑計画も…結果的に失敗しちゃったんだよね?」

「ああ…。火影達の話だとアインヘリアル計画にも織斑計画にも…勝者はいない。全員が被害者だ。一夏もマドカも織斑先生も、そしてあのスコールやオータムっていう奴らも。…世界のな」

「私達の母国が…こんな馬鹿な事やってたなんてね…」

「私、もう何が正しいのか間違っているのか…わからないよ…」

本音

「かんちゃん…」

セシリア

「私も…。まさか私の母がご存じの方が…この様な事に協力していたなんて…想像もしていませんでしたわ…」

ラウラ

「…私も同じだ。今まで私は苦々しく思う事があっても母国のために戦ってきた…。でもここまで来るとな…何を信じたら良いのか…」

クロエ

「セシリアさん…。ラウラ…」

 

その場の雰囲気が息苦しくなる。……すると、

 

火影

「…誰にも共通する絶対的に正しいものなんてこの世に無いさ」

「…え?」

海之

「そして、完全たる正義等もこの世に存在しない。俺達が信じるのは…俺達が見て聞いて感じたもの、大切だと思える事だ」

「…大切だと思える事…」

火影

「それも他の奴らからしたら間違ってるかもしれねぇ。…でも正しいか間違ってるかどうかじゃねぇ。正しいと信じる、それこそが未来を創る」

シャル

「未来…」

海之

「人の戦いの歴史も云わば「正しいと思う事」のぶつかり合いだったものだ。そしてそれが今という時代を作ってきた。生き残ってきた者達が、人の愚かで切ない歴史を伝え続けるのを正しいと信じて作ってきたのだ」

火影

「そして何を信じるなんて自分で決めたらいい。誰かに決めてもらうもんでもない」

「…自分で決める…」

真耶

「……」

 

その場にいる全員が火影と海之の言葉に耳を傾けていた。

 

火影

「そして俺の信じるものは決まっている。俺がこっちに来て大切だと思ったものの全てだ。…スメリア、日本、そしてそこで出会った人達。それが俺の信じるものだ」

本音

「ひかりん…」

海之

「そしてこのような悲劇をもう二度と生み出してはならないという事だ。…二度とな」

「海之くん…」

火影

「そのためにもアルゴの野郎を、オーガスの野郎をぶっ潰す」

クロエ

「…!」

海之

「アインヘリアル計画も織斑計画も全ては奴に繋がっている。奴をこのままにはしておけん」

火影

「例え奴を倒しても世界に蔓延る悪意の氷山の一角を潰すだけかもしれねぇ。…だがそれが今、俺が正しいと思っている事だ。誰にどう言われようともこれは変わらねぇ。変えるつもりもねぇ」

ラウラ

「…ふたり共…」

 

~~~~

とその時火影の携帯が鳴った。……一夏からだった。

 

火影

「俺だ。…………わかった」ピッ

セシリア

「一夏さんからですの?」

火影

「ああ。俺と海之に話があるから屋上に来てくれってさ。行こうぜ海之」

海之

「…わかった。すまんなお前達」

 

そして火影と海之もまた出て行った。

 

本音

「…おりむーなんだろう?」

真耶

「わかりませんが…今は三人だけにさせてあげましょう」

シャル

「でも…一夏大丈夫かな…?一夏からしたら…」

ラウラ

「…ああ。少なからず火影と海之の両親の死に責任を感じているかもしれんな…」

「一夏…」

クロエ

「…でも兄さん達は一夏さんを責めたりする様な事はしないと思います」

「…うん」

刀奈

「山田先生の言った通り一夏くんはふたりに任せましょう」

セシリア

「はい。……でも改めておふたりって凄いですわね」

「ああ…。流石は人生の大先輩なだけあるな」

「今更だけど私達ってとんでもない奴に惚れちゃったのかもしれないわね~」

「正しいか間違っているなんて関係なく信じるものは自分で決める、か…。当たり前の様に思えて中々できないよね」

刀奈

「そうね。ふたりは前世でずっとその様に生きてきたわ。その結果互いの正義がぶつかって戦う事になったけど…でも今は重なっているわ」

「…自分の信じるもの…大切だと思えるもの…か…」

 

 

…………

 

IS学園 屋上入口

 

 

一夏に呼ばれて屋上の入り口まで来た火影と海之。とその時、

 

火影

「……海之、お前は織斑先生の所へ行ってやれ」

海之

「…何故だ?」

火影

「わざわざふたりで行く必要もねぇだろ。一夏の話は俺が聞いておく。お前は先生の話し相手になってやれ」

海之

「ならば俺よりも一夏や箒達の方が」

火影

「お前が一番いいんだよ。いいから行ってやれ」

海之

「……妙な事を言う奴だ」

 

意味はわからないが海之はそう言われて行く事にした。

 

ガチャッ

 

残った火影が扉を開けると、

 

一夏

「……」

 

そこには手すりに背中からもたれている一夏がいた。表情は伏せていてよくわからないが暗い顔をしているのは違いない。空も今は一夏の心の表れの様に雲掛かっている。

 

火影

「……」

 

火影もまた黙ってその隣に行く。

 

一夏

「……海之はどうした?」

火影

「…織斑先生の話し相手をしてる」

一夏

「……そうか」

火影

「……」

 

火影は何も言わなかった。一夏から切り出すのを待っているという感じだ。

 

火影・一夏

「「……」」

 

互いに沈黙したまま、空気が流れる。………すると漸く一夏が声を出した。

 

一夏

「…千冬姉の事は……恨んでねぇ」

火影

「……」

一夏

「千冬姉も…ずっと苦しかったんだ。たったひとりで…苦しみを抱え込んでいた…。俺をより苦しめない様に」

火影

「…そうだな」

一夏

「正直ショックはあるけど…千冬姉への信頼は揺らいだりなんかしねぇ…。どんな理由があっても…俺にとって家族と言えるのは……後にも先にも千冬姉だけだ」

火影

「後で先生に伝えてやれ」

 

火影はその言葉を聞いて少し安心する。

 

一夏

「………正直、一切気にならなかったって訳じゃねぇんだ…自分の親の事。子供の頃どんな人なんだろうって何度も考えた事もあった。千冬姉に聞いてみた事もあった…」

火影

「自分の親だからな。当然さ」

 

一夏の気持ちも無理もない。以前スメリアで出会ったコメット姉妹も親の事を何も知らないし気にしていないと言っていたが少なからず知りたかったに違いない。もしかするとレオナもその気持ちを感じてふたりを養子に迎えたのかもしれない。歌に感動というのは建前で。

 

一夏

「……でもその話をしたら…千冬姉はいつも…辛そうな顔をしていた。話したくなさそうだった。……だから心の中に閉まっておくと決めた。千冬姉を苦しめたくなかった。幼い頃からずっと俺を守ってくれていた千冬姉を」

火影

「……」

 

千冬が苦しみを抱えていた様に一夏もそれなりの痛みをひとり抱えていたのだ。似た者姉弟だなと火影は思った。そんな事を考えていると一夏は動き、壁を前にして話を続けた。

 

一夏

「………今まで俺は両親を…、俺と千冬姉を捨てて逃げたんだと…勝手に思ってた」

火影

「……」

一夏

「でも……ハハハ、実際は、実際は予想よりもっと酷かった。逃げたどころか、俺達の両親は多くの人を苦しめて、命を、人生を壊す様な計画に参加していた。そんな…とんでもねぇ大馬鹿だった!!」ガンッ!!

火影

「……」

一夏

「父さんはあんな馬鹿な計画で出世して、最後は無残に死んだ!多くの関係無い人や…火影と海之の両親を巻き込んで!!」ガンッ!!!

 

壁を思い切り殴る一夏。

 

一夏

「それだけじゃねぇ…。俺達の母さんは…自分の研究のために千冬姉を利用した!実の娘の千冬姉をだ!ISで有名になったのは千冬姉の努力だったかもしれねぇけど…だからって自分の娘のクローンを造ろうなんて馬鹿な考え普通の親が思いつくか!そのせいでMは生まれた!只管戦わせるっていう悲しすぎる人生をおくらせるキッカケを作った!」ガンッ!!!

火影

「……」

 

一夏は只管に壁を殴り続ける。自分を責める様に。

 

一夏

「馬鹿野郎だ…俺の父さんと母さんは…正真正銘の大馬鹿野郎だ!!」

 

一夏のその声は激しい怒りを含んでいた。それを聞いた火影が言った。

 

火影

「…昔」

一夏

「…え?」

火影

「昔の俺の知り合いに…お前の様な奴がふたりいた。そいつの親父は自らの目的のために多くの罪を犯し、そのために自分の妻と娘を捨てた、…いや利用したんだ。その結果自らの目的を叶えるギリギリまで行ったが…結局最後は殺されちまった。…実の娘によって」

一夏

「!」

火影

「母と自分を捨てた事への復讐ってやつだ。仇も討ち、名前を捨てて清々するとそいつは思っていた。……が、それは間違いだった。一生の枷を背負う事になっちまった。どんなに恨むよりもそれは重い枷だった。そいつはそう言っていた…」

一夏

「……」

火影

「またある奴はさっきの奴と同じ様に実の父親に捨てられた。そいつの父親は研究第一で非人道的な研究も数多く行ってきた。死ぬ間際まで研究の事だった。思い出も殆ど無いに等しかったから死んだと聞いてもなんにも悲しくなかったそうだ。……だがある日そいつは言ったらしい。「自分も親の死に涙ゼロだった。だがどんな奴でも親は親。いなければ自分はここにいない」ってな」

一夏

「……」

火影

「一夏。お前の親父さんやお袋さんがした事は間違っていた。それについては俺も同意するさ。…だがだとしてもだ。お前にとってはこの世で唯一の親なんだ。あんま悪く言いすぎるもんじゃねぇ。……それに」

一夏

「…それに?」

火影

「本当にお前や織斑先生の事何にも考えてねぇんなら…お前らの事を政府に任せたりしねぇだろ?そしてお前らに「夏」と「冬」という字を与えたりもしねぇだろ?自分達の名前と結びつく様な名前をよ」

一夏

「…!!」

 

「春」恵 一「夏」 「秋」斗 千「冬」

 

火影

「お前が親をどう思うのもお前の自由だ。…しかしお前の親のおかげで、俺達はお前や織斑先生と会えたんだしよ」

一夏

「…!!」

 

……ガシッ

 

一夏は俯いたまま火影の服に縋りついた。

 

一夏

「……なんでだよ。……なんでお前らは……、そんな事言えるんだよ……」

火影

「……」

一夏

「俺の父さんのせいで…お前らの両親が死んだってのに…なんでお前らは…そんなに優しい顔

できるんだよ……」

火影

「…言ったろ?お前のせいじゃねぇさ…。…父さんも母さんもお前を恨んでなんかいねぇよ」

一夏

「……うわぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!!」

 

縋りついたまま一夏は泣いた。ただただ泣いていた…。

 

 

…………

 

…それから少しして一夏は落ち着いた様だ。

 

一夏

「…悪い火影」

火影

「気にすんな」

(箒やセシリアが見たら羨みそうだな…)

 

そんな事を考えていると一夏は火影に問いかけた。

 

一夏

「……火影。……俺は…これからどうすればいいと思う…?」

火影

「……」

一夏

「どうすれば父さんや母さんの罪を償える?人々やお前らに。そして俺はもうあいつを、M、いやマドカを敵として見る事は出来ない…。どうすればいい?」

 

一夏は火影に尋ねる。しかし火影はあえてこう言った。

 

火影

「若けぇんだからたっぷり考えろ。そんなもん全てが終わった後で考えたら良い。てか…お前が償う必要はねぇと俺は思うがな。大事なのは…忘れねぇことだ。あの計画で死んだ人達の事をよ」

一夏

「……」

火影

「時間も暮れてきたしそろそろ食堂で飯にしようぜ。あと明日も授業なんだから周りに気を使わせるような弱音はもう吐くなよ?織斑先生にもな」

一夏

「あ、ああわかってる…。さっきも言ったけど千冬姉を責めようなんて思ってねぇ」

 

完全ではないが一夏は少し元気を取り戻した様だ。すると火影は続けて、

 

火影

「だが一夏、マドカについてだけひとつ言っとくぜ」

一夏

「…マドカ?」

火影

「ああ。…一夏、もしマドカを救ってやれる奴がいるとしたら…それはお前しかいねぇ」

 

火影は断言した。

 

一夏

「…俺が…マドカを…救える?…どういう意味だ…?」

火影

「言っただろ?自分で考えろ」

一夏

「……俺が…マドカを…」

 

 

…………

 

千冬の部屋

 

 

千冬

「……」

 

事後、千冬は自身の部屋でひとり落ち込んでいた。他の生徒に見られたくなかった。……すると、

 

コンコン

 

海之

「…千冬先生」

千冬

「…!」

 

海之が来た事に千冬は言葉なく慌てながらも冷静を装いながら出る事にした。

 

千冬

「……なんだ?」

海之

「……大丈夫ですか?」

千冬

「……お前が心配する事はない」

海之

「お認めにならないという事は大丈夫ではない、と思って良いですね?」

千冬

「……」

海之

「失礼ながら…俺でよければ話を伺います」

 

そう言われて千冬は一瞬迷う。本来なら誰にも聞かれたくなかった。そっとしておいてほしかったというのが本音だったが、

 

千冬

「……入れ」

 

 

…………

 

海之・千冬

「「……」」

 

部屋への入室を許された海之はテーブルをはさんで向き合う形になっていた。千冬はやや俯き、海之はそんな彼女をじっと見つめている。そんなふたりもまた火影と一夏の様にずっと黙っている。

 

千冬

「……一夏はどうした?」

海之

「呼び出されて今は火影が話を聞いています」

千冬

「……そうか。……お前は行かなかったのか?」

海之

「自分が聞いておくから俺は先生の元へ行けと火影が」

千冬

「……」

(火影の奴…余計な気を使いおって…)

海之

「……」

 

海之も火影と同じく何も話さず、ただ千冬が話すのを待っている感じだ。

 

千冬

「……すまない」

海之

「…?」

千冬

「お前と火影には…本当にすまないと思っている」

海之

「……」

 

海之はその言葉の意味を理解した。

 

千冬

「海之…。私は以前…お前達の両親の死を知った時……頭を過るものがあった。…もしかしたら…父の巻き添えで亡くなったのではないか、と…。……でも、言えなかった…」

海之

「……」

千冬

「私の父があの飛行機に乗っていたせいで…お前の両親が…何の罪もない多くの人々が…」

海之

「……」

千冬

「なぁ海之…11年前…、私と束が…白騎士事件等起こさなければ…平和だったのかな…?」

海之

「……」

千冬

「あの事件の後…直ぐに自首するべきだった…。そうすれば…モンドグロッソに出る事もなかった。そうすれば…マドカが生まれる事も…一夏をあんな目に合わせる事もなかった…。いやもしかしたら…お前達の両親が死ぬような事も…無かったかもしれない…。もっと言えば……奴もあんな事する事は…」

海之

「……」

千冬

「全ては…私のせいだ…。私が…一夏を、マドカを、お前達を不幸にしてしまった…」

 

泣いているのか千冬の言葉には力が無い。

 

海之

「……」

千冬

「マドカは…私を憎んでいる…。自分や姉妹がこうなった原因は…私だから…。そして一夏も…。私は…一夏を守っているつもり、だったが…何ひとつ、守れていなかった…。それどころか…あいつのためと…言っておきながら…本当は自分の保身のためだったのだ。あいつまで…失いたくなかった…から。でも…それもまた…あいつを傷つけてしまった。……きっと一夏も…私を恨んでいるに…違いない」

海之

「……」

千冬

「私の…せい、だ…。何もかも…私の」

 

とその時、

 

…ギュッ

 

千冬

「…!!」

海之

「……」

 

海之は千冬の頭を抱え、自らの胸に当てていた。それを理解して瞬時に顔が熱くなる千冬。

 

千冬

「み、海之!?お、お前!」

 

慌てる千冬だが海之の方が力が強いので離れられない。

 

海之

「…昔」

千冬

「…え?」

海之

「昔…泣きベソをかいていた俺に母がこうしてくれたのです。悲しい時は…誰かにこうされると落ち着くと」

千冬

「……」

 

千冬は海之の心臓の鼓動を感じていた。

 

海之

「先生。反省するのも後悔するのも、ご自身を許せないという気持ちを持つのも、先生の自由です。ですが自身の過去の過ちをただ否定的に捉えて自分を責めるのは止めてください。それは何も生み出しはしません」

千冬

「……し…しかし」

海之

「確かに先生や束さんが起こした白騎士事件は間違っていたかもしれません。ですがそれが全ての根本というのは絶対に違います。ましてやアインヘリアル計画は白騎士事件よりも前の出来事。織斑秋斗と織斑春恵が関わっていたとはいえ、それは先生の知らない世界で起きていた事。先生が責任を感じる必要はありません。彼等は彼等、先生は先生です」

千冬

「……」

海之

「俺達には千冬先生の心の痛みを完全に理解する事はできません。ですが理解しようとする事、苦しみを分かち合う事、支え合う事はできる筈です。先生が以前俺や火影の秘密を分かち合い、支えて下さっていた様に、今度は俺達が先生を支えます」

千冬

「…海之…」

海之

「それにあいつが、一夏が先生を恨む訳無いではありませんか」

千冬

「…だが、…私はあいつを」

海之

「あいつは千冬先生を誰よりも理解している筈です。先生の抱えていたものも。そして先生が自分を守ってくれていた事も。あいつは誰かを守りたいという気持ちが強い。それは何よりも先生の様な人間になりたかったから。俺はそう信じています」

千冬

「……」

 

千冬は涙しながら黙って海之の言葉を聞いている。

 

海之

「もう先生ひとりで抱え込む必要はありません。一夏の事もマドカの事も」

千冬

「…海之…」

 

千冬は海之の言葉がありがたかった。

 

千冬

「………千冬」

海之

「…え?」

千冬

「今だけで、いい。……千冬、と、ただ名前で…呼んで…くれないか?お願いだから…」

 

消える位小さくか細い声。しかし海之の耳には自分の腕の中で千冬が確かにそう言ったのが聞こえた。彼女の言葉を聞いて海之は、

 

海之

「…何も心配はいらない。…千冬」

千冬

「…~~~」

 

 

…………

 

それから暫しの間、海之の腕の中で泣き続けた千冬は、

 

千冬

「…すまん海之。その、もう、大丈夫だ」

 

そう言いつつ海之から離れる。涙の方はなんとか落ち着いた様だったが、次は今まで海之に頭を抱きしめられていた様な形になっていた事を思い出してそっちの方に今度は恥ずかしくなる。

 

千冬

「その…迷惑をかけてしまったな」

海之

「気にしないでください」

 

海之は普段通りの表情。今の彼の行動は自分だからという特別なものでもない。誰が同じ様にしていてもやる当たり前の彼の行動。その事に千冬は本当にほんの少し残念とも思ったが彼らしいと千冬も理解している。

 

千冬

「……海之、ありがとう。お前のおかげで気分が楽になった」

海之

「礼を言われる事はしていません」

千冬

「……ふっ、それでもだ」

 

海之らしい返事に千冬は笑った。そして、

 

千冬

「………お前のおかげでわかったよ海之」

海之

「……」

千冬

「私が過去に犯した罪は決して消えはしない。……しかしもう、私は過去をただ悔いる事はやめた」

海之

「……」

千冬

「失ってばかりじゃない、私にはまだやる事がある。それを終わらせるまではもう決して泣かない。悔いの涙はもう、今ので出し切った」

 

千冬の言葉を黙って聞く海之。

 

千冬

「改めて誓おう。…私は戦う。あんな悲劇はもう起こさせないために。そして守るために。一夏やお前、火影や箒達、束、そして…マドカも救ってやりたいと思う」

海之

「できますよ、きっと」

千冬

「だが情けないながら私だけでは無理だ。…こんな事私から頼める資格はないのかもしれないが…、それでも海之、お前達の力を…貸してほしい」

海之

「喜んで」

千冬

「!……ありがとう」

 

迷い無い海之の返事に千冬は安心した。………そしてふとこんな考えが浮かぶ。

 

(……私も、更識やボーデヴィッヒの様に…何か欲しいな…)

 

周囲が若い者ばかりだから忘れがちだが彼女もひとりの女だし若いし、ましてや想い人から何か貰いたいと思うのは不思議ではない。それだけでも勇気が出るものだ。しかしねだるのもこれまた中々勇気がいるもの。ましてや簪やラウラの様に指輪等到底できない。見た目の問題もある。思春期溢れる彼女らがしていても周りはあまり気にとめないかもしれないが自分はそうはいかない。そんなものをしてもし変に勘違いされたらそれこそ大問題だ。できるだけ不自然でないものが良い。……とその時千冬の頭に、あるひとつのものが浮かんだ。

 

千冬

「……なぁ海之。……最後にひとつ良いか?」

海之

「なんですか?」

 

そして彼女は思いきって聞いた。

 

千冬

「その……頼みがある」

 

 

…………

 

1-1

 

 

その翌日、一組にて授業前のHR。千冬が教壇に立ったのだが、

 

生徒達

「「「………」」」

 

生徒達の目は千冬に釘付けになっていた。何故かというと、

 

千冬

「おはよう」

 

いつもの様に挨拶をした彼女の首には…雪の様に白いマフラーが巻かれていた。

 

生徒

「先生、マフラー巻かれたんですか?」

千冬

「不思議か?私がマフラーしているのが」

生徒

「そんな事ないです!とってもお似合いです!」

「黒いスーツに白いマフラーが生えてます!」

「先生の名前とピッタリです!」

一夏

「…変だな?千冬姉あんなマフラー持ってたっけ?」

 

カーンッ!

 

一夏

「イッテー!」

千冬

「織斑先生だ!…授業を始める!織斑、号令!」

 

目の前の千冬はいつも通りの彼女だった。

 

「…なんか千冬さん吹っ切った感じだな」

本音

「うん、凄く元気!」

ラウラ

「やはり教官はこうでなくては」

火影

(…あのマフラーってどっかで見たような…)

海之

(……)

 

千冬の首に巻かれていたのは…海之のマフラー。その顔に悲しみはもう見られなかった。

 

 

…………

 

???

 

 

その頃……、

 

オーガス

「……クククク。……漸く完成した」

 

何かを見上げながらそう呟くオーガス。

 

オーガス

「これで全てが整った。……間もなくだぞ、憎きスパーダの血を継ぐ者共よ。…フハハハハ!」

 

オーガスは狂気の笑みを浮かべていた。

 

 

(……そうだ……間もなくだ)




※次回は二週間後の24日(土)になります。
編集が中々進まず申し訳ありません…。

今回で一夏と千冬の過去編は終了です。憂鬱な展開を書くのは苦手ですが何とか終えられました。次回は一夏にいい意味でちょっとした出来事がある予定ですのでお楽しみに。
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