IS×DMC~赤と青の双子の物語~ 作:storyblade
鈴はあの時の自分の行いを謝罪するつもりだったのだが上手くいかず、またケンカ別れに終わってしまう。
そんな鈴の事情を唯一知っていた火影は鈴を追いかけ、再び部屋に招き入れる。
火影の優しさに救われた感じがした鈴は改めて感謝の気持ちを伝え、対抗戦を頑張る事を約束するのであった。
IS学園内 整備室に続く廊下
海之は整備室に向かっていた。
あの騒動の後、一夏が少し気落ちしていた事もあったので訓練は控えめにして解散となった。
海之
(あの火影の様子からすると…、一夏と鈴の間に何があったのか知っているのだろうな。…まぁその件についてはあいつに任せておくとしよう。とりあえず俺は当初の予定通り、一夏の訓練とあれの完成を急ぐとするか…)
そして俺は整備室の扉を開けた。そこには…
簪
「……」
海之
「……簪?」
簪がデスクのひとつに座っていた。ただ…
簪
「すー、すー」
海之
(寝ているのか。作業中で寝てしまうとは……ん?これは…ISか?)
簪がいたデスクの画面には設計段階と思われる一体のISがあった。
海之
(簪がよく部屋や整備室で見ていたのはこれだったのか。まさかこれは簪が造っている物なのか…?。まぁ後で聞けば良いな)
そう言うと海之は簪の隣のデスクに座り、自分の作業を開始した。一夏のアラストルの製作作業を終えた海之が今造っているのは2つの籠手のような物だ。これも嘗て自分と火影が使っていた物を模したものである。
簪
「…う、う~ん…」
やがて隣の簪が目覚めた。
海之
「起きたか」
簪
「ふぇっ!?み、海之くん!?ご、御免なさい。私寝ちゃって…」
海之
「気にするな」
そう言いながら海之は作業を進める。
簪
「それって…籠手?海之くんって前は剣作ってたよね?」
海之
「ああ、完成したから知り合いにやった」
簪
「そうなんだ…。凄いね海之くんって。ISの武器を造れるなんて」
海之
「大した事じゃない。…どちらかと言えばお前の方が大したものだと思うぞ。その画面に映っているIS」
簪
「え?」
海之
「先ほど見てしまったのだ、許してくれ。俺はISの武装は造れるが、IS本体を造るのはさすがに無理だ。武装さえも下手すれば何年もかかる。だがお前はIS本体をそこまで組み上げた。十分凄いと思う」
簪
「あっ…ありがとう。…嬉しい」
海之
「ところでお前はそれを一人で組み上げているのか?折角整備室に来ているのだから、お願いして手伝ってもらう事もできるだろう?」
簪
「う、うん、そうなんだけどね…。でも私はなんとしても…これを1人で完成させたいの…。絶対、誰の助けも借りずに、自分だけで」
その言葉を聞いた海之は作業中の手を止めて訪ねた。
海之
「…何故だ?」
簪
「う、うん。実は……私にはお姉ちゃんがいるんだけど、ものすごく強くて頭も良い人なの。お姉ちゃんは自分のISを一人で完成させちゃったわ。だから…」
海之
「だからその姉に負けたくなくて全て一人でやりたいとそういうわけか?」
簪
「う、うん…」
海之
「……」
考えていた海之は再び考えて簪に問う。
海之
「簪。お前は先ほど姉が自分のISを全て一人で造り上げたというが、本当にそうか?」
簪
「…え?」
海之
「ISの装甲に使われる材質。無数の精密部品。エンジン。通信装置。武器。そしてISコア。これら全てお前の姉が一人で用意したのか?精密部品は金型の段階から作る必要がある。材質も無論だ。極めつけはコアだ。あれは篠ノ之束が造ったものでお前の姉が造ったものではないだろう」
簪
「!!」
海之
「お前の姉がどれだけ優れているのかは知らんが、お前の姉は決して一から一人で造ったわけではない。多くの人の協力があって初めて造られたものだ。少なくともお前が一人で全て造る理由は無いと思うが?」
簪
「……で、でも…」
簪は迷っていた。今まで自分のISを造るのを手伝いたいと名乗り出てくれた人は実はいなかった訳ではなかった。実際そうすればもっと早く完成していただろう。でも自分はそれを全て断ってきた。姉に負けたくないという自分のプライドが邪魔して。その度に相手を傷つけてしまっただろうに今さらどう頼めばよいのか…。
そんな簪に海之が言った。
海之
「…簪。少し長くなるが…俺の話を聞いてもらえるか?」
簪
「えっ?…う、うん」
海之
「…俺の古い知り合い、ある男の話だ。男はある小さな街で両親と弟と一緒に暮らしていた。だがある日、両親をあっけなく失ってしまった。自分の無力さに絶望した男は願った。
「力が欲しい。誰にも負けない強い力が欲しい」と。
男はそのために枷になると思うものは全て捨て去り、人として生きる事を止めた。友も、唯一の肉親である弟も、過去も未来も、そして自らの子さえ……。やがて男は悪魔となった」
簪
「えっ、あ、悪魔?」
簪は驚いている様だ。
海之
「…ああ、悪魔だ。力を求める余り、心も身体も闇に支配されてしまったんだ。
…話を続けよう。だが全て捨ててまで力を求めた男にはいつも敵わない奴がいた。男は憎んだ。いや本当は羨ましかったのかもしれない。自分の様に力にすがる訳でもないのに強いそいつが。そいつは言ったよ。大事なのは力ではなく心だと、そして魂だと」
簪
「…心……」
海之
「だがその時の男にはまだわからなかった。やがて男は最後に僅かに残っていた純粋な心さえも捨て去った……、と思っていた。
だがそうではなかった。捨てた筈の心が男を探し求め、戻ってきたんだ。そのせいで男は力の大半を失った。だが不思議な事に男は落ち着いていた。おそらくだが、自らの身体を探し求める内に出会ったものたちが、男の心に何らかの影響を与えたのだろう。
……そして男は変わった。ただ単に力を求める事から、かつて自分を負かした者達に純粋に戦士として勝ちたいという目的にな。やがて男は旅に出た。自らが犯した罪を償うための終わりなき贖罪と戦いの旅へ」
簪
「……その人、……どうなったの?」
海之
「…さあな。もう死んだかもしれんし、或いはどこかで生きているかもな…」
海之は何かを思い返す様な表情でそう言った。
簪
「……」
海之
「簪。お前が誰にも頼りたくないならそれで良い。自分だけで成し遂げたいというのもお前の勝手だ。だがそれに縛られ続ければやがて自分を苦しめる事になる。大切なものを失うぞ。お前は決して男の様になるな。頼りたければ頼れば良い。今さらと思うなら謝れば良い。そして辛い時は泣けば良い。頼るのも自分の否を認めるのも、弱さであり強さだ」
簪
「……うん、……わかった」
簪は静かに頷いた。そして、
簪
「…ねぇ、海之くん?」
海之
「…なんだ?」
簪
「その…もし、…海之くんに頼りたくなったら、助けてくれる?」
海之
「俺で役立つならな」
簪
「!……ありがとう」
簪は微笑して答えた。
海之
「…」
簪
「…?どうしたの?海之くん」
海之
「…簪が笑うの初めて見た気がしてな」
簪
「えっ…」
海之
「…少し話疲れた。紅茶でも飲みに行くとしよう。簪はどうする?」
簪
「あ、うん。じゃあ私も。先に行ってて、少し片付けるから」
海之
「わかった」
そう言って海之は作業中のそれをしまい、整備室を出ていった。
簪
「ありがとう、海之くん……あれ?何時から私を簪さんじゃなく簪って…?」
誰も居なくなった整備室で簪が呟いた。
※バージル(海之)は両親を助けられなかった事による絶望と無力感で一時は力に取り付かれました。
そんな彼を変えたのは弟であるダンテと息子、彼の心が擬人化した某キャラクターが関係していると思います。力への衆望の中にあった僅かな良心が、ダンテや息子との交流で成長したという感じでしょうか。
何れ息子との関連も書きたいです。