IS×DMC~赤と青の双子の物語~ 作:storyblade
とうとう箒達のSEも限界を迎え、敗北を覚悟した彼女達であったが、それを救ったのは怪我から復活し二次移行をは果たした白式を駆る一夏であった。
一夏が無事だった。その事に涙し、自分も戦いたいという箒の意思に答える様に紅椿も光を取り戻し、白式をサポートする。力を取り戻した一夏はシルバリオ・ゴスペルに零落白夜を起動。見事討伐に成功し、戦いはようやく終焉を迎えるのであった。
時間は日を跨ぐ数時間前といったところ。シルバリオ・ゴスペルとの闘いを終え、一向は花月荘に戻って来ていた。ゴスペルのパイロットは戻って来て直ぐ近くの病院に運ばれて検査を受けた。疲労が激しい様だがそれ以外特に目立った異常は無く、ゆっくり休めば翌朝には治るだろうとの事だった。そして…、
一夏
「………」
一夏は正座をさせられていた。その理由は、
千冬
「今回の作戦の成功、御苦労だった。…だが、お前の作戦参加の許可を許した覚えはないが?クロエや更識も困っていたぞ」
そう。一夏は目覚めた後、千冬や真耶に会う事も出撃の許可を得る事もせず、ただ箒達の元へ行く事だけを考えて無断で飛び出してしまったのだ。そのため作戦成功の功労者である一夏は現在千冬からのお説教の真っ最中であった。
箒
「あ、あの千冬さん…。一夏は私達のために」
千冬
「お前は黙っていろ。それにそれとこれとは別問題だ」
箒
「…はい」
箒も千冬の前ではタジタジである。
真耶
「あ、あの先輩。もうその位で…。織斑くんもですが何より皆さんを休ませないと…。それに織斑くんがそんな状態じゃあ皆さんも落ち着いてゆっくり休めませんよ…」
千冬
「……ふむ、それもそうか。運が良かったな一夏。実はお前達が戦ったゴスペルの操縦者は私の同級でな。同級生が助かったということで私も機嫌が良い。いつもより大分優しく接してやっているんだぞ?」
全員
(…どこが)
パシーーーーーーンッ!
口に出したわけでもないのにその場の全員に千冬の出席簿がヒットした。
箒
「痛い…」
セシリア
「いたたっ…」
鈴
「うぅ…」
シャル
「なにもぶたなくても…」
ラウラ
「流石は教官…」
真耶
「なんで私まで…」
千冬
「さぁ、馬鹿な事言ってないでお前達も早く検査を受けろ。そして休め。それから………良くやったな」
全員
「「「えっ!?」」」
全員が驚いて視線を千冬に向ける。
千冬
「なんだ?もう一発欲しいのか?」
全員
「「「なんでもありません!!」」」
全員が全力で否定した。
一夏
「いたた、ここに来ての長時間正座はきついぜ…。ところで千冬姉、火影と海之は?」
千冬
「あの二人なら戻って来てからずっと訓練しているよ」
シャル
「え!?」
千冬
「ゴスペルとの戦いに参加できなかったからその分身体を動かしたいのだそうだ。それとお前達は先の戦いで疲れているだろうから説教が終わり次第すぐに休ませてやってほしい、とさ」
セシリア
「御二人もあれ程の戦いを終えて間が無いですのに…」
シャル
「しかも僕達を気遣ってくれてるしね」
鈴
「今回はお言葉に甘えましょ。確かにどっと疲れたわ」
ラウラ
「嫁の好意に甘えるか。悪くない響きだ」
箒
「手を貸そう一夏」
一夏
「す、すまねぇ」
…………
花月荘から少し離れた場所。
数刻前から訓練を行っていた火影と海之は訓練を終え、火影は帰路についていた。海之は少し泳いでから帰るらしい。
火影
「あ~腹減った。そういや帰ってから何も食ってなかったな。厨房借りて何か作るか」
とそこへ、
本音
「ひかりん~」
火影
「ん?」
現れたのは本音だった。事件が終わったので待機命令も解除され、出てきた様である。
火影
「どうした本音、こんなところで」
本音
「うん、ちょっとね…。ねぇひかりん、さっき何かあったの?すごく慌ただしかったけど?」
火影
「ああ…、ちょっとな。まぁ気にすんな。無事に終わったから」
流石に本音にゴスペルの件や黒いIS群の事を話す訳にはいかず、火影は誤魔化した。
本音
「……」
火影
「早く帰ろうぜ本音。少し腹減っちまってさ」
そして火影が歩き出そうとした時、
バッ
火影
「!」
本音
「…」
本音が火影に抱きついていた。
火影
「…本音?」
本音
「…んね」
火影
「えっ?」
本音
「ごめんね、…火影」
火影
「? 何謝ってんだよ?それにお前」
自分の事を何時ものあだ名で無く、名前で呼ぶ本音を火影は不思議がった。
本音
「勝手な想像だから気にしないでね。…火影、多分私達のために…戦ってくれてたんでしょ?おそらくかなり危険な。日程が全部中止になって…、自室で全員待機命令なんて…、余程の事だもん。おまけに火影達専用機持ちのみんなだけ集められてさ…。絶対何かあったんだって思うよ。クロエさんだっけ?あの子も何も教えてくれなかったから…」
火影
「……」
本音
「私、悔しい…。私は火影達と同じ様に戦えないから…。一緒に戦えないから…。私達だけ守られているのが…、火影の、みんなの足手纏いみたいなのが…、悔しい……」
火影
「…」
泣いている様な声で話す本音のそんな気持ちを知った火影は、
火影
「ハァ…、何言ってんだよ本音」
本音
「…えっ?」
火影
「僕もあいつらも、お前やみんなに戦ってほしいなんてこれっぽっちも思ってねぇよ。ましてや足手纏いなんて露程にも思っちゃいねぇ。お前達がいてくれるから僕達は戦えんだ。…それにお前はもう立派に戦ってる。生きるという戦いをな…」
本音
「火影…」
火影
「お前はそのままでいいんだ。いやそのままでいろ。僕だけじゃない。みんなそう思ってる。だからこれからも何時もみたいに迎えてくれ。それがお前の役割だ」
本音
「!…うん」
本音はやっと笑った様だ。
火影
「…さて、早く帰ろうぜ。寝る前に少し腹に物を入れたいし」
本音
「は~い」
二人は一緒に歩きだした。すると、
鈴
「あっ、やっと見つけたわよ火影」
シャル
「あれ、本音もいたの?」
火影
「鈴、シャル」
本音
「なんか目が覚めちゃったから、ひかりんに何か作ってもらお~って思って」
鈴
「…ふ~ん、じゃあ行きましょ。…あっ、そうだ火影!とっときのデザート作ってもらう約束、守ってもらうわよ!」
火影
「一方的な約束だった気がするが…、まぁいいか」
そして四人は歩き出した。…火影の前を歩く三人は、
鈴
(…ねぇ本音。あんた何もなかったでしょうね?)
本音
(さぁね~♪)
シャル
(! 抜け駆けはダメだよ本音!)
本音
(ん~なんの事かな~?)
火影
「?」
…………
ほぼ同時刻、海岸
海之
「……ぶはっ!…はぁ、はぁ…」
誰も泳いでいない海には海之の姿があった。火影との訓練を終えた後、海之は一人残って暫く泳いでいた。
そしてゆっくり浜辺に上がる。
海之
「……そろそろ戻るか」
海之も宿に戻ろうとしていた時、
千冬
「海之…」
海之
「?」
そこにいたのは千冬だった。一夏の説教が終わった後、火影と海之が訓練している事を知っていた千冬はここに来ていた様である。
海之
「先生?…どうしたんですか?こんなところで」
千冬
「…少しお前と話がしたくてな。…少しだけ時間良いか?」
海之
「…構いませんよ」
そういうと二人は浜辺に備え付けのベンチに座る。
海之
「…それで話とは?」
海之は以前自分達の正体について千冬から指摘を受けた事があったので、それに関する事かとも思った。
千冬
「…お前に礼を言いたくてな」
海之
「…えっ?」
予想外の言葉に海之は少し驚いてしまった。
千冬
「なんだその顔は?私がこんな事を言うのがおかしいか?」
海之
「そんな事は…」
千冬
「ふっ、冗談だ。…ただあのIS達から生徒達や花月荘の方々を守ってくれたのは本当に感謝している」
海之
「お礼を言われる事はありません。当たり前の事をしたまでです」
千冬
「……当たり前…か」
海之
「…先生?」
千冬
「…海之。如何に強いとは言え、お前も火影も私の生徒だ。子供だ。本来なら教職員である我々がお前達を守らなければならん立場だ。…だが実際はいつもお前達に頼っている。クラス対抗戦にしろタッグマッチ戦にしろ、そして今回にしろ…。その度に私がどれだけ自分の無力さを痛感したかわかるか?」
海之
「!…す、すいません。そんなつもりは」
千冬
「…ふふっ、これも冗談だ。からかって悪かったな」
海之
「…先生?」
海之はいつもの千冬と違う気がした。
千冬
「…なぁ海之。お前と火影は何故そこまでできる?普通なら未知の存在、ましてやあの蜘蛛や100機もの敵を目の前にすれば逃げたいと思うものだ。あの時のオルコットやデュノアの様にな。私だって100機もの敵を一人や二人で相手にするなんてはっきり言って難しい。ましてやお前達の様に無傷でなど…、不可能だろう」
海之
「…」
千冬
「一夏や生徒達を守るために戦うのは何の抵抗もない。…だが私だって人間だ。戦いたくないと思う事や死にたくないと思う事もある。だがお前達を見ていると、死ぬ事に何も感じてない様に思える。撃たれたり身体を貫かれたりされたのに。お前達は誰も、そして自分も死なない様心がけているのはわかっている。だがあんな無茶をすればいつか本当に死ぬかもしれない。お前は戦う事が…、死ぬ事が怖くないのか?」
海之
「…」
海之は普段の千冬らしくない質問にやや戸惑ったがそれに答える。
海之
「…そうですね…。昔ははっきり言って全く怖くはありませんでしたね。もしかしたら今もかもしれません。…ただそれ以上に、俺の大切なものが失われる方が嫌ですね。俺達が戦う事でそれが守れるなら、何度でも戦います。これは俺も火影も変えるつもりはありません。…例えそれで周りから拒絶されても。…それに、俺にできる事は戦う事位ですから」
千冬
「!…そんな事を言うな!」
海之
「…先生?」
海之は再び戸惑った。
千冬
「お前ができるのは戦う事だけだと!?ふざけるな!お前だって人間だ!戦い以外に生きる権利だってある筈だ!」
海之
「…」
千冬
「それにお前は先ほど自分が拒絶されると言ったが、そんな事をあいつらがすると思うか?ましてや更識やボーデヴィッヒがお前を否定する等、ある筈ないだろう!それに先ほど私も言った筈だ!例えどんな事があったとしても私は受け入れると!もし、お前達を否定する様な者がいたら…、それこそ私が許さん!!」
海之
「…先生」
海之は千冬の様子に驚きつつも、その言葉をありがたいと思っていた。以前の自分では、バージルだった頃の自分では決してありえない言葉だと思っていたから…。
千冬
「…あっ、す、すまない…。私らしくなかった」
海之
「…いえ。ありがとうございます、先生」
千冬
「ま、まぁそういう事だ。情けないかな恐らく今後も、お前達を頼る事になるだろう。だがお前達は私の生徒だ。私ができる全てを使って私もお前達を守ってやる。一夏達と同じくな。だから…、安心しろ」
海之
「…はい」
千冬
「……なぁ、海之。……ひとつ聞いて良いか?」
海之
「なんですか?」
千冬
「…さ、さっきお前は言ってたが…、お前の言う大切なもの、というのは…、その…、わ、私も含まれていたり、するのか…?」
海之
「? はい。当然ですが」
千冬
「!!…そ、そうか……」
海之
「…先生?」
千冬
「い、いや良い!忘れてくれ!そ、そろそろ戻ろうか。もう遅いからな」
海之
「? はい」
千冬
「……」
千冬は暫く顔が熱くなるのを止められなかった。
…………
翌日朝。
予定外の事はあったが臨海学校は無事三日間の日程を終え、生徒達は全員岐帰路につくためにバスに乗っていた。
1-1のバス
一夏
「色々あったけどやっぱり楽しかったな」
箒
「うむ。実りある内容だった」
本音
「でも織斑先生の尋問にはびっくりだったよね~」
火影
「尋問?」
シャル
「火影は気にしなくて良いよ!」
海之
「あまり浮かれるなよ。帰ったら期末試験だからな」
一夏
「それ今ここで言う!?」
セシリア
「大丈夫ですわ一夏さん。私がしっかりお教えしてあげますから♪」
ラウラ
「…嫁の隣の席というのは、け、結構緊張するものだな…」
とその時、バスの入口から声がした。
?
「失礼。織斑一夏くんはいらっしゃいますか?」
見ると金髪でドレスを着た女性が立っている。
一夏
「え?あっはい、俺ですけど…」
ナターシャと名乗る女性
「まぁそうですか!あなたが…。ああ初めまして。私はナターシャ・ファイルスと申します。シルバリオ・ゴスペルの操縦者ですわ」
シャル
「えっ?」
セシリア
「あなたがあのゴスペルの操縦者…」
ナターシャ
「ええそうですわ。今回の件、本当にありがとうございました。あの子を止めて頂いただけでなく私まで救って頂いて。本当に感謝しております」
一夏
「い、いえそんな」
ナターシャ
「いつか私の国にいらしてくださいね。これはお礼に」
一夏
「えっ…!」
そしてナターシャは一夏の頬にキスをした。
箒・セシリア
「「!!」」
ナターシャ
「それでは…」
火影
「失礼」
その時火影が立ち上がり、ナターシャに話しかけた。
本音
「ひかりん?」
ナターシャ
「あなたは?」
火影
「ああすいません。僕は火影・藤原・エヴァンスといいます。織斑と同じく男子のIS操縦者です」
ナターシャ
「…そうですか。あなたが…。噂は聞いておりますわ。確か双子だとか…。それでなんでしょう?」
火影
「ファイルスさん。あなたがゴスペルに乗っている間、何があったか覚えていませんか?どんな事でも構いません」
公にはなっていないがナターシャはゴスペルと共にあの黒いISに囚われ、連れ去られている。火影は彼女が何か覚えていないかと思った。
ナターシャ
「…ごめんなさい。私も織斑くんに助けて頂くまでずっと気絶していましたから…」
火影
「そうですか…」
ナターシャ
「………あっ」
火影
「えっ?」
ナターシャ
「いえ、気のせいかもしれませんが…、一度だけ声が聞こえた様な気がします。…男の人の声が」
火影
「男の声?」
海之
「……」
ナターシャ
「はい。本当に気のせいかもしれませんが。ごめんなさい」
火影
「あっ、いえ。ありがとうございます。助かりました」
ナターシャ
「ありがとうございます。…それでは皆さん、ごきげんよう」
そう言うとナターシャは去って行った。
箒
「一夏。後で話がある」
セシリア
「私もですわ」
一夏
「は、はい…」
ラウラ
「一夏の奴大変だな」
火影
「…男の声…」
シャル
「どうしたの火影?」
火影
「ん、ああ。なんでもない。心配かけて悪いな」
本音
「なんかあるなら遠慮なく話してね」
火影
「サンキュー本音」
海之
「……」
やがてバスはIS学園に向けて走り出した。だが火影と海之の心にはナターシャが聞いたという男の声というのがずっと引っかかっていた…。
…………
???
(……あの赤と青の機体、……もしやと思うたが…、いや、まだ早計か…)
「…どうなされました?」
(……気にするな。……ただ、もしそうであれば…、宿命、と思ったのだ…)
「…?」
ようやく敵側?サイドが出せました。といっても声だけですが。