IS×DMC~赤と青の双子の物語~ 作:storyblade
一夏の家にいつものメンバーが合流してから数刻後。時間帯は夕刻に差し掛かっていた。現在女子陣(+一夏はセシリアの監視)は先の約束通り夕食の調理中である。火影と海之も手伝おうとしたが断固拒否されたのでただその場にいて邪魔をするのも悪く、外に散歩に出ていた。
火影
「あいつら大丈夫かな。…特に一夏が」
海之
「ああ。思えばセシリアの料理に関しては今まで一夏や箒が妙な反応をしていたが…、先程ので理解できた」
二人は一夏の身を案じていた。というのもセシリアの調理方を見ての事である。何しろトマトソースを作ろうとすれば赤い色をもっと濃くしようとチリペッパーや一味を大量に放り込もうとするわ、ニンジンを切ればとても火が通りそうにない位でかいサイコロみたいな物になったりと、その一つ一つに適宜指示を入れて既にくたくたな様子だったのだ。
火影
「まぁ食う時の事を考えれば今食いとめた方がいいだろし任せておこうぜ。…しっかし久々の家か…。ギャリソン達元気にしてっかな」
海之
「ああ元気そうだった。先日一夏達を連れて帰郷する連絡をした時とても喜んでいたよ」
火影
「そっか。…しかしほんの数ヶ月だってのになんか随分久々な気がするな」
海之
「それだけ多くの事があったという事だ。良い意味でも…悪い意味でもな」
火影
「…確かにな」
二人が言っているのは当然あの黒いIS。そしてタッグマッチの時に襲撃してきた機械蜘蛛である。さらに夢の中で出会ったかつての仲間達からの警告。
海之
「…それにゴスペルの操縦者が言っていた言葉も気になる…」
先日シルバリオ・ゴスペルの操縦者であるナターシャは黒いIS達に囚われていた時「男の声が聞こえた」と話した。もし聞き間違いでないとするとその男があのISや機械蜘蛛に関わっている可能性が高い。そしてもしかしたら自分達にも何らかの形で関わっている可能性が高い。それもかつての自分達、ダンテとバージルに。
火影
「男の声か…。だがまだ手がかりが少なすぎるな。それに俺達の考え通りならあいつらの言う通りこれで終わりとは思えねぇ。必ずまた何か起こる筈だ。今は待つしかねぇだろ」
海之
「…そうだな」
火影
「しっかし、俺もお前も前世であんなに戦ったってのに生まれ変わってもやっぱり戦ってるんだな。あの少女は「ちょっと刺激がある」程度みたいに言ってたのに」
海之
「あの少女がこの事を知っていたのかはわからんがな。だが俺達はまだその必要があるという事だろう。戦いが終わりさえすれば違う生き方を模索すれば良い」
火影
「はは、確かに。…もう戻ろうぜ。もうそろそろできあがる頃だしな」
段々空が薄暗くなっていく中、二人は仲間たちが待つ家に戻った…。
…………
簪
「あっ、二人共お帰りなさい。丁度できたところだよ」
二人が帰るとリビングのテーブルの上に料理が湯気を立てて並べられていた。
火影
「へー、こりゃすげぇ。一人一品ずつ作ったのか?」
シャル
「うん。僕はシーザーサラダ作ったの。ドレッシングもお手製だよ」
一夏
「お、おう二人共お帰り~…」
海之
「…疲れている様だな一夏」
一夏
「あはは…」
そんな事を言っているとやがて全員が集まった。
全員
「「「いただきます(まーす!)」」」
鈴
「ねぇ火影。私の酢豚食べてみて!」
一夏
「鈴の酢豚は最高だぜ。……ん~、何度食ってもやっぱりうめぇな!」
火影
「へー、それじゃひとつ…」
火影は酢豚を口に運んだ。
鈴
「ど、どうかな?」
自信があると言った鈴だが火影に食べてもらうと思うとやはり緊張する様だ。
火影
「…うん、本当に旨いな」
その表情から本当に旨いのだなと鈴は感じていた。
鈴
「と、当然よ。私の一番の得意料理なんだから」
(…良かった。やっぱり緊張するわね)
火影
「前食べた春巻きも旨かったし鈴は料理が上手いな。良い奥さんになれるぜきっと」
鈴
「……えっ!」
(な、ななななな何言ってんの!?というかなんでそんな台詞簡単に言えちゃうのよ!?)
鈴は心で文句と嬉しさを呟きながら真っ赤になって黙ってしまった。
ラウラ
「海之。味噌汁は私が作ったのだ。食べてくれないか?」
海之
「ふむ…。じゃがいもや玉ねぎ、トマトまで入れているのか。確かドイツにはアイントプフという野菜のスープがあるが、それを味噌汁にアレンジしたのか」
ラウラ
「流石は海之だな。海之は和食が好きと知っていたからな」
海之
「頂こう。…良い味だ。野菜のうまみが良く出ている」
箒
「…うむ。海之の言う通り旨いな」
ラウラ
「そ、そうか!人に作るのは始めてなんだ。そう言ってもらえて…嬉しい」
火影
「いやほんとに旨いぜラウラ。…シャル、サラダ貰っていいか?」
シャルロットが作ったシーザーサラダは様々な野菜を使っているらしく色合い豊かだ。
シャル
「あっ、うん。食べる時はこのドレッシングかけてね」
簪
「ドレッシングは私が作ったの」
火影
「ではまずこドレッシングだけ。…これは…アイオリソースベースか?」
簪
「うんそうだよ。良くわかったね。シャルに教わって作ってみたの。上手くできたか心配だったんだけど」
海之
「そんな事は無い。良い出来だ簪」
簪
「あ、ありがとう!」
火影
「野菜も全部食べやすい大きさに切られててドレッシングと良く絡む。旨いぜシャル、簪」
シャル
「えへへ♪ありがとう火影」
一夏
「箒。このアジの南蛮漬けも旨いよ!」
箒
「あ、ありがとう。最近覚えたのでやや不安だったが…」
鈴
「…おいしい!揚げ具合がしっかりしてるわね」
シャル
「それにお酢の加減も丁度良いよ」
火影
「揚げ物は揚げてすぐに漬けると旨みをよく吸う。僅かな漬け時間でも十分なんだ。歯ごたえも残るからな」
箒
「良く分かっているな火影」
ラウラ
「なるほど」
みんなそれぞれが作った料理を満足している様だ。
火影
「…あれ、そういやセシリアは?」
海之
「そういえば食事開始の号令から姿が見えんな」
一夏
「ああ、セシリアなら」
セシリア
「お待たせ致しました」
そう言うとセシリアは料理を乗せたトレーを持ってやって来た。
海之
「…これはラザニアか?」
セシリア
「さすが海之さんですわ。ミートソースも一夏さんに教わりまして作ってみましたの」
どうやら先ほどのトマトソースとニンジンはミートソースの材料だったようである。
一夏
「味は保証するぜ」
(俺が全段階で味見したからな…)
箒
「…うん。確かに美味しい」
(ほとんど一夏の料理だし…)
火影
「…ほう。旨いな」
(一夏の努力の賜物だな…)
簪
「…うん。アツアツで美味しいです」
セシリア
「よかったですわ!これからもより練習しなくては」
一夏
「!暫く練習つきあうぜセシリア!」
箒
「私もだ!」
~~~~~~~
全員笑っていた。そんな感じで賑やかに一夏宅での夕食は進んでいった…。
…………
ところ変わってここは街のとあるバー。
ここでは今千冬と千冬を呼んだ真耶が酒を酌み交わしていた。
真耶
「良かったんですか先輩。折角の休みで一夏くん達と過ごせるのに」
千冬
「構わん。そうでなくてもいつも教室で顔を合わせているからな。たまには離れていた方が清々する」
真耶
「素直じゃないんだから…」
千冬と長い付き合いである真耶は千冬が一夏の事を誰よりも心配している事。そしてそれを正直にできない様な性格である事も真耶は良く知っている。
真耶
「でも最近一夏くん頑張ってますよね~。白式も二次移行しましたし休み中も訓練しているようですし」
千冬
「当たり前だ。私からすればもっと鍛えてもらわなくては敵わん。それに二次移行した今でもあの二人には足元にも及ばんしな」
真耶
「火影くんと海之くんですか…。やっぱりあの二人凄いですよね。一夏くんだけじゃなく篠ノ之さん達にも良い影響となっているのが分かります。でも…本当に何者なんでしょうね。あの二人」
千冬
「…気付いていたのか」
真耶
「これでも二人の副教師ですから…。といっても何というか…何か違うとしか。二人にしろ二人のISにしろ…、私達とは…何か違う」
千冬
「……」
それについては千冬も分かっていた。しかし、
千冬
「…まぁいいじゃないか、真耶」
真耶
「先輩?」
千冬
「海之も火影も信頼できる人間だ。それだけは私の勘が間違いないと言っている。…それに、あいつらはその内自分達の事を話す時がきっと来る。私達はその時を待っていれば良い。それまでは教師としてあいつらを出来るだけ守ってやろうではないか。私達の生徒なんだからな」
真耶
「先輩…」
千冬
「いいな?」
真耶
「…はい!そうですね!おかしな事言ってすいません!」
千冬
「構わん」
真耶
「……あの、先輩。ひとついいですか?」
千冬
「? なんだ?」
そう言いながら千冬はワイングラスを口に運ぶ。
真耶
「先輩って、やっぱり海之くんの事好きなんですか?」
千冬
「!!」
予想外の質問に千冬は再びむせた。
千冬
「ななな、何を言いだすんだお前まで!?」
真耶
「す、すいません!…ただ、これもなんとなくなんですけど、先輩が二人の事を話す時、凄く穏やかな表情になるっていうか…。それに先日の臨海学校で二人があのIS達を殲滅した時、先輩すごくほっとした表情していましたし」
千冬
「う…」
千冬は何も言えなくなった。正に的を得ていたからだ。普段はのんびりしている真耶だがそこはやはり教師、しっかりと周りを把握している様である。
真耶
「だからあの二人、特に海之くんには何か思う事があるんじゃないかって…。…あの、先輩?」
千冬
「……」
千冬は暫く黙っていたがやがて口を開く。
千冬
「…わからないんだ」
真耶
「えっ?」
千冬
「私は…今迄恋というものをしたことが無い。…ましてや特定の誰かとその様な関係になったり等。そんな暇など無かった。一夏を守るのに手一杯だったし、ISに関わってからはずっとそちらの方ばかりで。ブリュンヒルデと呼ばれる様になってからは益々な。正直に言えば近づいてくる男連中はいるにはいた。だが何れも私の名誉を狙う碌でもない奴らばかりだった。だから自分にはそんな事、縁がない話だと思っていたんだ」
真耶
「……」
千冬
「だがあの二人は、海之は私をそんな風には見ていない。最初出会った時はそう呼ばれた事もあった。だが私が忘れてくれというと直ぐにそうした。私をブリュンヒルデでは無く、一人の人間として見てくれた。なんというか…嫌な気分ではなかったな…。で、でもあいつは子供だ!まだ16だ!ましてや私の生徒だぞ!そんな、そんな事…」
そういう千冬だが先日海之から自分も守るべき大切なものの一人と言われた時の顔の熱さを思い出していた。
※詳しくはMission63をご覧ください。
真耶
「先輩!!」
ドタンッ!
真耶は勢い良く突然立ち上がった。その声で周りの客も一瞬驚く。
千冬
「な、なんだ!?」
真耶
「あっすいません…。飲みましょう先輩!今日は私が全部奢ります!先輩の初恋祝いに!」
千冬
「は!?は、初恋って」
真耶
「私は先輩を全力で応援します!更識さんやボーデヴィッヒさんや他の方々と同じ様に!それと先輩はさっき歳の事気にしてましたけどそんなの全然気にすることはありません!歳の差なんてほんの数年です!愛があれば歳の差なんて、です!それに海之くんは確かに生徒ですが世界には生徒と教師が結婚した例もあります!」
千冬
「ど、どうしたんだ真耶?…って、ま、待て!!結婚ってどういう」
真耶
「そんな事気にしなくて良いです!さぁ行きますよ!」
そして千冬は異常にテンションが高い真耶に付き合ってこの後何軒かはしごする事になった。
…………
織斑宅。時刻は真夜中の午前一時。あの後真耶に付きわされた千冬はようやく帰って来た。
千冬
「う~ん…飲み過ぎた。真耶のやつ、今度会ったらただじゃおかん…」
そう言って千冬はリビングに行き、電気を付ける。一夏・火影・海之は既に眠っているのか姿は無かった。
千冬
「…あいつらはもう寝たのか。…まぁ疲れたのだろうな。…シャワー浴びたら私も休むか…」
そして千冬がリビングの中央にあるテーブルに腰掛けようとする。すると、
千冬
「ん…手紙?それにこれは薬か?」
そこには手紙と酔い止めがあった。千冬は手紙を開く。
「飲まれていると思うので薬を置いておきます。あとキッチンにスープを作っておきましたのでもし良ければ召し上がってください。胃腸に優しいかと。
飲み過ぎにはお気を付け下さい。
海之」
千冬
「……」
どうやら夕食の後に海之が用意したようだ。
千冬
「…ふっ、子供のくせに生意気な事を言う。……ありがとう」
そう言うと千冬は海之の気持ちに感謝し、スープを温めるためにキッチンに向かった。
次回からスメリアに行きます。数話にかけてやる予定です。