ルート2027 恋愛ルート   作:アズマケイ

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太一編4

「・・・・・・だーもう、どうすりゃいいんだよ!」

 

 

太一は悩んでいた。それはもう悩んでいた。下手をしたらテスト勉強以上に頭を悩ませていた。ジュンから宿題を出されて、もうすぐ三週間だ。ジュンからの反応はどうとらえたらいいのか、太一は正直わからないでいる。

 

はぐらかされているのか、遠回しに脈なしだといわれているのか、ぐちゃぐちゃ考えるのは正直得意じゃない。ジュンが素直になれないなら手紙でも書けといったのだ、たしかに口に出すには気恥ずかしいけど、いざ文字に起こすのもまた結構な羞恥を伴う作業だと太一は初めて気づいた。

 

パソコンを前にして、あーとかうーとか言いながらうなっている太一の横から伸びてくる手がある。

 

「何書いてるの?メール?」

 

「うわあっ!?な、なんだよ、光って見るなよ!」

 

あわてて×ボタンを連打する。

 

「なんで隠すの?」

 

「なんでもねーよ!」

 

「?変なお兄ちゃん」

 

ピンクのワンピースを着ている光はどこかに遊びに行くようだ。

 

「どっか行くのか?」

 

「うん、今日みっちゃんの誕生日だから。これプレゼント」

 

「あー、あんとき買ってたやつ?」

 

「うん。お兄ちゃんはまだなの?」

 

「なにが?」

 

「ジュンさんの誕生日プレゼント。まだいーだろって買わなかったけど、もう買った?」

 

「うっせえ、こっちだっていろいろ考えてんだよ」

 

「ほんと?ホワイトデーの時みたいにマシュマロ買おうとしてない?」

 

「だーから、あげるお菓子に意味があるとか、そんなの知るかよ!そこんとこは感謝してるけどさ!」

 

「ジュンさんなんて?」

 

「おいしかったってさ」

 

「え、それだけ?」

 

「そーだよ、わりーかよ」

 

「お兄ちゃん、なんて渡したの?」

 

「・・・・・・いーだろ、そんなの」

 

拗ねたようにふて腐れる太一を見て、光は笑う。これはいいことを聞いた。誕生日会でみっちゃんたちと王様ゲームするとき、きっと回ってくる内緒の話とかそういったのに使える。そう思った。よからぬことを考えている光に気づいたらしく、何笑ってんだよと太一はじと目だ。なんでもないと光は首を振った。ほんとかあ?と太一は訝しげだ。

 

大好きなお兄ちゃんがとられるのは正直、光は嫌だなと思うこともある。お兄ちゃんの一番じゃなくなるのは嫌だなって。でも、ずっと頼れるお兄ちゃんだった、光にとってはいつだって守ってくれるお兄ちゃんがどうしようもないとき、頼る人がいるという当たり前を光は去年学んだ。

 

お母さんと久しぶりに会えた時泣きじゃくっていた太一を見たときが最初で。次がデジタルワールドで熾烈を極めたダークマスターズとの戦いで。あとはもう、数え切れないくらいあった。その積み重ねが今の太一の初恋なのだとしたら、そっかあ、ってなるのだ。光の気持ちは別問題として、そういうこともあるんだなって。

 

 

小学校3年生になった光はちょっとだけ大人になった。ミミがそういったドラマとか、漫画とか大好きで、ジュンも友達の影響か結構詳しくて、そういうのを貸してもらえるようになったのもある。お兄ちゃん子だった光はその漫画を読んだりアニメをみたりすることはあっても、女の子向けのジャンルを見る機会は以外と無かった。

 

空はあんまりそういうの好きじゃないし。ミミの布教活動はそりゃもう熱心だった。女の子なんだからもっとかわいいを楽しまなきゃ、とシンプルな動きやすい服ばかりな光を買い物に連れ出した。インドア派なジュンは百恵が増えたって嘆いていたけれど、光の周りにはいろんなタイプのお姉さんが一気に増えてしまったのだ。

 

好きなものも、ジャンルも、なにもかも違うのに、デジモンという共通点で結ばれている、そんな不思議なお友達がたくさんできた。しかも空がサッカーをやめて、お母さんの手ほどきを受けて華道を習い始めた。講座発表会にお邪魔したら、綺麗な着物を着てお茶を点てていた。正直どきどきした。

 

みんな、変わっていく。なら、私もちょっと変わりたい。そう思った。だからピンク色のワンピースを着ているのだ。今までの光だったら、あんまりこういうのに興味は示さなかったから、お母さんはちょっとうれしそうだったりする。

 

うーんうーんうなっている太一の横を隙ありとばかりにのぞき込む。買ったばかりのお気に入りを翻し、光はパソコンの横に立つ。うわっと大げさに驚いている太一の横で、マウスを操作する。

 

「はい、送信」

 

「うわあっ!?ちょ、何してんだよ、光!」

 

「お兄ちゃん送るんでしょ?」

 

「そーだけどさー」

 

送信完了の文字に太一はどうしようとぐるぐるし始める。らしくないがたくさん見れて、これはこれで楽しかったりするのだ。光は。あのメールだって、みんなでお祝いすることになっているから、それとはまた別にどっか行こうと誘うメールだったのだ。

 

想いを伝える言葉はひとつもないのに、ここまで太一は悩んでいる。あの太一がだ。帰ってくる頃にはなんかあったらいいなと思う。光のちょっと違う普通じゃない体質について告白されたとき、大輔みたいねといいながらあっさり受け入れてくれたジュンである。

 

怖いと泣きじゃくるたびに何一つ否定されず、抱きしめてくれたお姉ちゃんがいる。同級生の男の子がとてもうらやましくなってしまうくらいには、光はジュンに好感を抱いている。

 

「いってきまーす」

 

お兄ちゃんを置き去りにして、ちゃっかりとした妹は出かけてしまったのだった。

 

 

 

 

 

 

買い物を楽しんでいた空とジュンは、近くのフードコートで休憩していた。値札は適正な価格なのに、レジで表示された値段が百万単位という訳の分からない事故に巻き込まれた。どこをどう見ても故障ということで、手動でレジの人は対処してくれた。なにがあったのかな、と二人で話していたフードコートで、着信が鳴り響く。

 

電子音声のあと、太一の声が聞こえてくる。思わず立ち上がったジュンは音が漏れないように抱えたまま、空に手招きする。きょとんとしたまま近くに寄ってきた空に、ジュンは真剣なまなざしを向けた。

 

「光子郎君から電話だわ。こっちのネットに新種のデジモンが現れたんですって!」

 

「えっ!?それほんとですか?」

 

「ええ、連絡いれろって言ってる。ね、空ちゃん、デジヴァイス・・・・・・」

 

「もちろん、ありますよ!」

 

空はうなずいた。2月28日という、たった5日前にデジモンが原因の電子機器の故障ではないか、と疑われる事象があったばかりなのだ。みんな念のためデジヴァイスを持ち歩き、ゲンナイさんからお墨付きをもらったあとも念のためと持ち歩いていたらしい。

 

さすがね、と笑ったジュンは周囲を見渡す。ここは人が多すぎる。せめて人目のつかないところ、とざっと周囲を確認し、近くに公園があったので、二人はそっちに向かった。

 

ウォーキングなどにいそしむ近隣住民しかいないところである。お昼休みだからか、コンビニの袋を下げた社会人がご飯を食べている。なるべく木々が多いところを探し、ジュンはパソコンを広げた。無線ルータに接続し、ゲンナイさんの隠れ家にアクセスを試みる。

 

「空ちゃん、太一君の家に電話掛けてくれる?最初に171つけて」

 

「171ですか?」

 

「ええ、171。今新種のデジモンのせいでISDNがつながりにくくなってるみたい。お台場霧事件とか先の震災とか、あの地下の事件とか、電話がつながりにくくなったときに大活躍したシステムなのよ。留守電をお互いに登録しあえるの。私と一緒にいるって伝えて」

 

「はい、わかりました」

 

うなずいた空はサッカークラブにいたとき、何度だって掛けた電話を掛けるのだ。

 

『ほっほっほ、さっそく来てくれたようじゃのう。待っておったぞ、ジュン』

 

「大変なことになってるみたいですね。もしかして、28日の?」

 

『あのときは発見できなかったんじゃがなあ』

 

「こっちの世界はすごい勢いでネットが普及してますから・・・・・・」

 

『すまんのう』

 

「いえ、気にしないでください。それよりゲンナイさんは大丈夫なんですか?まだ暗黒の球・・・・・・」

 

老人姿のゲンナイにジュンは心配そうな顔をする。ゲンナイが老人の姿なのはダークマスターズに埋め込まれた暗黒の球を除去する作業中だからだ。彼の本来の姿は青年である。ホメオスタシスの手足となるエージェント唯一の生き残りであるゲンナイは、そのデータを複製することで本来の仕事を始めて果たすことができるはずなのに、まだその段階ではないと言われているも同然だ。

 

ゲンナイのデータが正常になるまえに複製することはなんの意味もなさない。きっと新種デジモンの発見の遅れも、そのせいなのだ。ひょうひょうとした笑いを引っ込め、ゲンナイは肩をすくめた。そしてその白いひげをいじる。困らせてしまっただろうか。ま、たしかに本来なら太一達は知り得ない情報だったから仕方ない。

 

『ジュンには敵わないな。すまないが、全くもってその通りなんだ。あのデジモンは、デジタルモンスターの原種にとても近い性質をしていてね』

 

「コンピュータウィルスってことですか」

 

『理解が早くて助かるよ。まさしくそうだ。自己複製機能に加えて、デジゲノムを変化させて環境に適応し、すさまじい速さでデータに感染していく。生まれた意味、あのデジモンの場合は、制作者の意図、それを存在理由にしている』

 

「クラッカーの意図なんて愉快犯しかないじゃないですか」

 

『ああ、困ったことにね。我々はどんなデジモンも許容するさ、世界を崩壊させかねない因子を持たない限りはね。ただ私たちは君たちと共存の道を選ぶために模索中なんだ。あのデジモンは現実世界にとっても、我々の未来にとってもよくない。せめてデジタルワールドに来てもらわなければ困るんだ。頼めるかい?』

 

「はい、わかりました」

 

『今、奴は太一と交戦中だ。相手のデータを取り込んでどんどん強くなってる。完全体相当だ』

 

「えっ、もう完全体ですか!?しかも学習しながらって、そんなの上から殴って速攻で決着つけないとやばいじゃないですか!」

 

『ああ、異常事態だ。頼むよ、ジュン』

 

「わかりました!」

 

ジュンのパソコンに、結界から行動することができないゲンナイの代わりとなるネットワークセキュリティの権限が一時的に譲渡される。デジタルゲートを操作するプログラムが展開する。

 

「ジュンさん、太一と連絡取れました。今、遊園地の管理システムの中にいるって!」

 

「遊園地ぃ!?それほんと!?あーもう、死傷者出たらどうしてくれんのよ!空ちゃん、こっちがサポートするから光子郎君にもネットに行ってって伝えてくれる?デジタルゲート開くから!」

 

 

去年の大晦日の大冒険で一度はとった連携だ。なにをしようとしているのか、空は分かったらしい。ジュンのパソコンの向こうで、空ー!と名前を呼んでくれるパートナーを確認した空はデジヴァイスを手にする。そしてPHSに話し始める。

 

選ばれし子供とパートナーデジモンはその性質上、離れてしまうと戦力が大きく削がれてしまう。しかしネットの中の戦いはナビゲートが必須だ。きっと太一やヤマト、タケルはすでにネットの中だが、光子郎は太一の部屋だろう。

 

「あ、ジュンさん」

 

「なに?」

 

「掲示板のサーバ?っていうのが重くなりすぎて、えーっと、レスポンス?っていうのが下がってるらしいです。任せたって」

 

「はああっ!?そんなの一時的に凍結すればいいじゃない」

 

「あのデジモンの同行、見てる子達から情報入ってるから切るに切れないらしくて」

 

「うっそでしょー、サポートとサーバの管理同時並行とか普通に死ねるわよ!あーもう、ゲンナイさあん!」

 

『このログは残しておいてくれないかい?』

 

「まっじですか!?わかったわよーっ!やってやろうじゃない。今更太一君達が私のパソコンから入るなんて非効率すぎるもんね、この野郎、ただじゃおかないわよ!」

 

デジタルゲートを開きながら、ジュンは空が一番近くのネット回線に入り込むのを確認する。一時的に回線は重くなるが、世界の危機なのだ。我慢して欲しい。ゲンナイの回線から飛び込んできたピヨモンが、どうすればいいか聞いてくる。

 

「ここで一気に進化しちゃって!交戦中のところに成長期で飛び込むのはあぶないわ。一気に転送するから!」

 

『わかりました。いくわよ、ピヨモン!』

 

『うん!』

 

光子郎の放置されているであろうパソコンにハッキングを仕掛け、一時的に権限を譲渡する作業を同時並行で行い、ジュンはその光景を別画面で見守る。大晦日のミレニアモンの奇襲により、ダークマスターズのいた時代に飛ばされ、丈と共に究極体を頂点とする完全体の軍隊相手に完全体2体で応戦を強いられた空とピヨモンは確実に成長している。ジュンの目の前で、ピヨモンはバードラモン、ガルダモンをすっ飛ばし、さらなる姿に成長を遂げる。

 

黄金色に輝く4枚の羽を持った聖なるデジモンが咆哮する。空が騎乗していることを確認し、ジュンは空を転送した。そしてジュンもその画面を見る。

 

ホウオウモンの光来と共に周囲にまばゆい光が四散する。ウィルスの性質を一気に最適化する光により、妨害目的だろうか、周囲に漂っていた新型デジモンのクローン体は一気に消える。

 

『空!』

 

『空さん!』

 

『来てくれたんですね!』

 

『待ってたぞ』

 

『待たせてゴメンね、みんな!』

 

「ここからは私がサポートするわ!みんな、よろしく頼むわよ」

 

返事が聞こえる。どこかほっとした様子の太一だが、さすがにそこに気づけるほどの状況にジュンはない。太一からすればメールがまさかの拒否、ショックだったが大輔に電話を掛けたらジュンは出かけたという。

 

PHSに掛けたら空が出た。残念でした、と茶化されたときは電話機を叩きつけたくなったが堪えたのだ。昨日だって好奇心からいろいろ聞いてきたのだ、空は。ジュンがちゃんと来てくれた。今まで応戦してくれたみんなにねぎらいを投げる。

 

「頼むわよ、太一君。アイツはすさまじい速度で経験値を詰んでるわ。手に負えなくなる前に、お願い」

 

『へへっ、任せとけよ!』

 

ゴーグルを付けなおした太一は、うれしそうにうなずいた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「太一くん、どうしたの?」

 

「どうしたもこうしたもないだろ!今日はジュンさんの誕生日だろ!」

 

「え?ああ、そうだけど?」

 

「これ」

 

「もしかしてくれるの?ありがと」

 

「お、おう」

 

「でもいいのー?結構可愛いラッピングじゃない。他に渡すべき人がいるんじゃないの?」

 

「はあ?何言ってんだよ、ジュンさん」

 

「またまたー、この前からかわれたからって、隠さなくってもいいじゃない。空ちゃんに渡すんでしょ?」

 

「はあっ!?なんで空が出てくるんだよ!別に俺と空はそういうんじゃないし、俺は空のこと、そういうふうには思ってない!だいたい、空に誕生日は夏だっての!なんでまだまだ先の誕生日プレゼントを渡さなくっちゃいけないんだよ!」

 

「え?」

 

「え?」

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