ポケモン技など花拳繍腿   作:ちゅーに菌

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バトルガールとむし/かくとう

 

 

 

 

"イブキ、この街に戻ってくる『ドラキア』という同い年の娘と仲良くしてやってくれ"

 

 ある日。イブキは兄弟子であり、フスベシティのジムリーダーであるワタルからそんなことを言われた。イブキは当然、大量の疑問符が浮かんだため納得するまで質問をした。

 

 それによればドラキアという同い年の少女は、父方の祖父が、このフスベシティの出身であり、イブキやワタルのずっと先輩に当たるドラゴン使いらしい。その上、フスベシティの出身ではないが、母方の祖母もドラゴン使いらしく、祖母が住む地方では名の知れたドラゴン使いとのこと。

 

 また、イブキにとって衝撃的だったのは、本人がフスベシティに来る前に住んでいたアローラという地方で、チャンピオン相当の実力を持ち、"かくとう"と"ドラゴン"タイプのポケモン使いだったということだ。

 

 つまりは異国で最強クラスのドラゴン使い。それも自身と同い年にも関わらず、兄弟子として慕っているワタルよりも強いかも知れないというほどの少女なのである。

 

 また、何故かワタルは少女の来訪を非常に嬉しそうにしており、それがまたイブキの感情を逆撫でした。

 

 12歳であり、精神的に未だ幼くもあるイブキは、認めないと心に強く想い、まだ見ぬドラキアという少女に対して対抗心を抱くのだった。

 

 

(他の地方のドラゴンポケモンのタマゴとか融通して貰えないものかな……)

 

 

 ワタルが考えていたことがイブキに伝わらないのは幸いだっただろう。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

◇◆◇◆◇◆

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 フスベシティのトレーナーズスクールの校庭。

 

 そこのバトル場で、遠い目をしたバトルガールの少女――ドラキアと、ドラゴンの里の長老の孫――イブキが対峙していた。それを囲むように並んで、1学年分の生徒がポケモンバトルが始まるのを今か今と待っていた。

 

「先生……なんで学生同士のただのポケモンバトルを生徒の授業を潰してまで捩じ込むのさ……」

 

『草』

 

 虚ろな様子で呟くドラキアに対して、文字通り頭の中に草を生やすサーナイト。どうやら1匹目はこのサーナイトが戦うようだ。

 

 ドラキアの呟きに対して、トレーナーズスクールとしてはむしろ喜んで授業を急遽変更するだけの価値があると判断したのであろう。何せ、ドラゴンポケモンの里の長老の孫であり、トレーナーズスクールでもトップクラスの実力を持つイブキと、稀な家族構成と生え抜きの実力を持つドラキアのポケモンバトルだ。

 

「形式は?」

 

『使用ポケモンは3匹。勝敗に関わらず、毎回ポケモンを互いに入れ換えての1VS1(シングルバトル)らしいです』

 

「3体手持ちを見せろってか」

 

 ちなみにイブキはポケモンを3体持っており、ドラキアはサーナイトを含めて6体ポケモンを所持している。その中から3体選出することになるだろう。

 

 生徒たちと違い、書類でドラキアのことを知った教師陣としては、教えることがあるのかと言いたくなるような存在のポケモンバトルを生徒に見せ、教師も学びたいということが授業以上の意味を持つのである。故にイブキとドラキアのポケモンバトルを授業枠で行うことになったのだ。

 

「行きなさい"ミニリュウ"!」

 

「リュー!」

 

 イブキが繰り出したのは、フスベシティのドラゴン使いらしいポケモンのミニリュウであった。ほっそりとして、マスコットのような質感をしている可愛らしいドラゴンポケモンである。

 

『ミニリュウってサンドとかイシツブテと同じ合計種族値ですよね。300でしたっけ?』

 

「せめてタツベイやジャラコと並べてやれよ。進化すれば600族だぞ」

 

 緊張感のまるでない様子のドラキアとサーナイト。少なくとも生徒と教員に囲まれて試合を見られること自体に緊張はしておらず、特に何も思うところはないようだ。

 

 そして、審判を勤める教員によりポケモンバトルは始まる――。

 

 

 

「ポケモンバトル……はじ――」

 

『"かげうち"!』

 

「――――!?」

 

 

 

 それは波乱の幕開けだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

◆◇◆◇◆◇

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「ポケモンバトル……はじ――」

 

『"かげうち"!』

 

「――――!?」

 

 ギリギリ審判に怒られないレベルで、開始した瞬間にサナエさんから影が伸び、ミニリュウの背後からサナエさんの影が襲った。

 

 ミニリュウはかげうちによってバイクに撥ね飛ばされたような衝撃を受け、サナエさんの方へと飛ばされる。この時点でミニリュウは白目を向いており、瀕死の2歩手前である。

 

『おら! 顔がお留守ですよ!』

 

 体勢を立て直すことが出来ないミニリュウに対して、サナエさんは片手に冷気を纏わせ、拳を引き絞りながら綺麗な攻撃フォームを取った。

 

『"れいとうパンチ"!』

 

 ミニリュウの顔にサナエさんのれいとうパンチが突き刺さった。絵面は漫画のようだが、かげうちの時点で意識が飛び掛けていたミニリュウは地面をかなりの勢いで数回バウンドし、イブキの足元に転がった。

 

 唖然とするイブキの前にサナエさんがテレパシーを発する。

 

『ウェイウェイウェーイ! そんなもので私とマスターに挑むとは鍛練が足りませんねぇ! あ゛あ゛ん!?』

 

 そんなことを言いながら、やたら良い音の鳴るシャドーボクシングをし始めるサナエさん。足の運びにも異様に切れがあり、エビワラーか何かとしか思えない。

 

 特殊技使えよサナエさん……トレーナーズスクールの者全員にサーナイトは物理アタッカーだと思われるだろ。ついでに言えば、俺は全く指示を出していない。

 

 このように俺の手持ちポケモンは、鍛練をし過ぎたせいか、基本的に近接戦闘を好んでいる上、反復練習をし過ぎたためか、指示が無くとも勝手に動く。そのため、アローラでは戦った相手にやたら印象に残ったのかもしれない。サナエさんこんな奴だし。

 

 ちなみにサナエさんが近接戦闘をしている理由は、殴ったり蹴ったりする感覚を直に感じられるからだそうだ。銃よりナイフを選ぶ殺人鬼と同じ理由である。

 

 当然というべきか、ミニリュウの戦闘不能を確認しつつも審判の先生は公正なジャッジを下した。

 

 

「しょ、勝者! イブキ!」

 

「えっ……!?」

 

『ウッソォォ!?』

 

「当たり前だバカ。これは模擬戦でも形式上は公式戦だぞ。フライングに決まってる」

 

 

 初戦は俺の反則負けになった。理由が当然過ぎて涙が出る。トレーナー戦なんて基本的にルールはあってないようなものなので、サナエさんはいつもあんな感じなのである。

 

 イブキは何か言いたかったようだが、何故か勝ったことや、次の対戦が控えているためか、振り上げた拳の下げどころを失ったかのような絶妙な表情をしていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

◇◆◇◆◇◆

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「い、行きなさい"シードラ"!」

 

 気を取り直して互いに2体目のポケモンを出す。イブキの方はタッツーから可愛さを抜き取ったような外見が特徴のシードラである。何故かシードラの時だけ"どくのトゲ"を特徴で持っており、タッツーとキングドラは"すいすい"を持っているという少し不思議なポケモンでもある。反抗期なのだろうか。まあ、図鑑によれば珊瑚礁でダイバーが刺される事故が後を断たないらしいので、オニダルマオコゼ並みに危ないポケモンでもある。

 

 このシードラがいつか、こおりタイプ技でドラゴンを全館出来ると思ってた挑戦者の頭にハテナを浮かべさせ、はかいこうせんで挑戦者を沈めてくるキングドラになるのかと思うと感慨深い気分になる。

 

『こっちは誰を出すんですか?』

 

「申し訳程度のバトルガール要素」

 

『かくとうタイプですね』

 

 ちなみにサナエさんはバトルフィールドから離れ、今は俺の隣に立っている。サナエさんはサトシのピカチュウ並みにボールに入らない上、入れてもすぐに脱走する。サナエさんがボールに入っているのは瀕死のときぐらいのものである。

 

 俺は腰に付けたポーチからボールを取り出す。それはプレミアボールである。この中に入っているポケモンが、プレミアボールの外観をとても気に入り、是が非でもプレミアボールにしか入ろうとしなかった。まさか、ポケモン側からオシャボを要求されるとは夢にも思わなかったな。

 

 その上、入りたいと思っているクセに捕獲確率が異様に低かったため、とんでもない数のモンスターボールを10個ごとに買うハメになった。そして、増え過ぎたモンスターボールをアローラ中のちびっこに配り歩いたことを思い出す。

 

『そういうこともしてたからアローラで知名度上がったんでしょうねぇ。小さい子からボールのお姉ちゃんって呼ばれて、大人気でしたし』

 

「うるさい」

 

 心を読むサナエさんを無視して、俺はボールを投げ、ポケモンが飛び出した。 

 

 

 

 

「かぶりん」

 

 

 

 

 それは華奢な人間の女性と、脱皮直後で白く透き通った誰しも自宅で1度は見掛けたであろう虫をかけ合わせたような、半人半虫の容姿を持つポケモン――"UB02 BEAUTY(ビューティー) ことフェローチェ"だった。

 

 サナエさんやじいちゃんとばあちゃんから貰ったポケモンと修行している最中に、突然空から降ってきたウルトラビーストである。

 

「な、なにそのポケモン……」

 

 腰に片手を当ててシードラを見下ろしているフェローチェに対してそう呟くイブキ。ウルトラビーストは威圧感がスゴいからな。伝説のポケモンと言われても納得するだろう。

 

 まあ、ウルトラデザートに棲息しているポピュラーのポケモンのようなのでウルトラビースト達が伝説のポケモンと呼べるかどうかは微妙だろう。どちらかというと、前世の外来種の害獣といったポジションが妥当かもしれない。

 

 何せフェローチェはゲーム的には特にそういった特性は持っていないが、フェローチェは見た相手を魅力する能力を持つ。謎パワーなのか、フェロモンか何か出ているのかはわからないが、オンオフの切り替えは出来るらしく、今は魅了はしていない。

 

「優しくしてやれよ?」

 

 フェローチェの背中に向けてそう言うと、フェローチェはこちらを見ずに腰に当てていない方の手を1度だけ上げて返事をした。その姿はスーパーモデルのような美しさによってとても様になっている。

 

 フェローチェがそう言ったのには理由がある。というのもこの世界では、数値上のレベルの概念はないが、確かにレベルのような実力の上昇と明らかな個体差が見られるのだ。そして、鍛えているうちになんとなく、見ただけでポケモンのそういったレベルを漠然とだが、把握出来るようになったのである。

 

 そして、よくワタルのカイリューが改造などと言われ、俺も前世ではそう思っていたが、現実でポケモン育成してみると意見は変わった。

 

 あの進化レベルの値は、主人公ならそのポケモンを進化させられる値なのではないかというのが今の俺の意見だ。すなわち、ワタルには40や47レベルのハクリューをカイリューに進化させられるだけの能力があるということだ。なのでそれもまたポケモンに対する才能だと俺は考えている。

 

 そのため、このドラゴンの里ではドラゴン使いを制限しているのだろう。才能によって進化レベルが上下するのなら、元々進化レベルの高いポケモンは、トレーナーの才能がなければいつまでも進化させられないなんてこともあり得る。それはポケモン側が可哀想だというものだ。まあ、ポケモン側が進化を望んでない場合はその限りじゃないがな。俺も1体そういう奴手持ちにいるし。

 

 少し話が逸れたので戻すと、俺の見立てではシードラは30台後半から40台には行かない程度のレベルだと考える。それに引き替え、初期レベルですら60のフェローチェの今のレベルは鍛練によって80台は超えていると思われる。

 

 つまり前提条件で既にシードラに勝ち目は非常に薄い。

 

 また、フェローチェの最大の特徴は種族値であり――HP71・攻撃137・防御37・特攻137・特防37・素早さ151・合計570とビビるぐらい特化型の両刀アタッカーである。素早さ、攻撃、特攻に関しては文句なしに禁止伝説級のステータスで、倒す度に一番高い能力が上がるビーストブーストの特性も合わさり、ゲームでは殺られる前に殺れ!を体現したようなポケモンであった。

 

 ちなみにどれぐらいフェローチェが脆いかと言われれば、レベルが同等で考えると、4倍とは言え、ほとんどの場合でモクローの"つつく"に確一で取られる程度には脆い。

 

 しかし、これはゲームだった場合の話。これが現実となるとフェローチェは超高速で移動するパワーアタッカーというとんでもない性能なのだ。

 

 そんなことを考えているといつの間にか、ポケモンバトルが始まっていた。

 

「――!?」

 

「は……? え!?」

 

 その直後、フェローチェは走り出し、シードラの周囲を駆け回る。一瞬で時速190kmにまで加速できるポケモンの速度は既に常人の動体視力で捉えられない領域にまで達している。

 

 こんな奴に攻撃を当てろと言う方が酷だろう。

 

『よけろピカチュウが成立しますからね』

 

「素早さは偉大だよな」

 

 別に俺の動体視力ならフェローチェを目で追えるのだが、平均速度が速過ぎて、指示を出す・指示を聞く・指示を実行するという普通のポケモンに必要なプロセスを踏むよりも、余計な思考を挟ませずに自分で行動させた方が遥かに強いのである。そのため、もっぱらフェローチェの修行は脚力とキック力と状況判断の鍛練と、レベルに一切関係のない修行を中心に行っている。

 

 つまり俺がフェローチェに出せる指示は――。

 

・ガンガンいこうぜ

・いのちをだいじに

・いろいろやろうぜ

・せんりょくをうばえ

・わたしにまかせて

・よけろフェローチェ

 

 こんな感じの漠然としたものになる。任天堂でもゲームが違う。

 

『私はテリワンが一番好きです』

 

「俺はDQ5だな」

 

『えー……嫁はデボラ派なんですか?』

 

「記憶を読むな」

 

 ちなみにだが、この世界には任天堂製のゲーム機が当然のようにあるため、他のゲームも大量に存在する。そして、サナエさんは結構ディープなゲーマーである。

 

「――■!?」

 

「シードラ!?」

 

 そんな話をしているとフェローチェの"トリプルキック"がシードラに炸裂し、シードラは場外まで吹き飛ばされ、目がバッテンになった。

 

 ちなみに技に関しても4つ以上覚えれるため、こうしてゲームならあまり残さないような技も使える。

 

「かぶりん」

 

「お帰り、よくやったな」

 

「………………」

 

「ん……?」

 

 バトルが終わって戻ってきたフェローチェが、何故かこちらに手を差し出してきた。握手でもしたいのかと首を傾げていると、よく見れば手がプルプルと震えていることに気づく。

 

………………………………。

…………………………。

……………………。

………………。

…………。

……はっ!

 

 

「お前毒ったのか!」

 

「かぶ……」

 

 さっさと毒消しを出せと言わんばかりに半眼で見つめてくるフェローチェ。どうやらシードラの特性のどくのトゲが命中したらしい。

 

 こういう微妙に締まらないことが起こるところはゲームのまんまだなと思いつつ、毒消しとおいしいみずをフェローチェに渡すのだった。

 

 

 

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