ポケモン技など花拳繍腿   作:ちゅーに菌

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バトルガールとかくとう/ドラゴン

 

 

 

 数年前。アローラ地方、ウラウラ島のハイナ砂漠。

 

 岩と砂、照り付けるアローラの太陽により、島民でもあまり近付かないこの場所で2体のポケモンがいた。

 

『マスターちょっと……こんなのぜったいおかしいです……』

 

 1体は砂の上に伸びているキルリア。"こごえるかぜ"を使って自身を冷やしており、完全にバテていた。

 

『いや……こんなの再生技持ってなきゃ身が持た――』

 

 それだけテレパシーで伝え、キルリアは倒れた。心なしか口から魂のようなものが出ている気がしないでもない。それだけではなく、キルリアの全身には打ち身打撲などの痕が見られ、ポケモン虐待の疑いを掛けられても仕方ないような状態であった。

 

「ジャ、ジャラ……」

 

 そして、キルリアの近くで少女と対峙してい鱗を纏う二足歩行のトカゲのようなポケモン――ジャランゴもキルリアのように全身にアザが見られた。

 

「ジャラ!?」

 

 ジャランゴは額に汗を浮かべながら防御を固めるポクサーのように腕を構えている。そのまま動かずに辺りを見回していると、ジャランゴは背中に激しい衝撃を受けてボールのように吹き飛ばされる。

 

 地面を転がったジャランゴが体勢を立て直しながら衝撃を受けた方向を見ると、スポーツウェアを着てスニーカーを履いた少女――ドラキアがポニーテールを揺らしながらとてもよい笑顔をしていた。

 

 足を振り抜いた体勢で止まっており、ジャランゴを攻撃した者が誰かということは一目瞭然であろう。

 

 そして、本当に楽しそうに人当たりのいい笑みを浮かべながらドラキアは呟いた。

 

 

「キルリア! ジャランゴ! 身体を動かすって本当に楽しいな!」

 

 

 次の瞬間、ドラキアの姿がぶれてジャランゴの目の前に出現する。そして、引き絞られていた拳を放ち、ジャランゴの腕に当たる。

 

 到底、人体から出ているとは思えない鈍い轟音とが響き渡り、衝撃だけで激しく砂塵が舞う。殴られたジャランゴはガードしていたにも関わらず、数m後退しており、その異様な威力がわかることだろう。

 

「あっははははは! まだまだ行くぞ!」

 

「ジャ、ジャラ……!?」

 

 終始笑顔で高笑いをしながらジャランゴへと殴り掛かるドラキア。その様子は場面だけ切り出せば子供特有の無邪気さに見えなくも無かったが、ジャランゴがドラキアを見る化け物を見るような瞳が全てを物語っていると言える。

 

『………………なにあれ人間じゃないです』

 

 いつの間にか気絶から目覚めていたキルリアは、テレパシーでポツリと呟き、顔を引きつらせていた。

 

 

 

 これはドラキアが一桁の年齢――まだアローラで弾けていた頃のお話である。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

◆◇◆◇◆◇

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 イブキは打ち拉がれていた。

 

 対峙しているドラキアとポケモンバトルをしているにも関わらず、全く歯が立たないどころかバトルにさえなっていないのだ。それほどまでに実力に差があった。

 

 何せ、ドラキアは今のところ1度も自身のポケモンに対して指示を出していない。にも拘らず、勝利をもぎ取ることが出来るトレーナーなど彼女は一人たりとも知らなかった。

 

 また、初戦も向こうの反則負けであったが、後1秒サーナイトが遅く行動していてもきっと同じように負けていたことにイブキは気づいていた。

 

 挑んだことに後悔し始めていた。しかし、まだドラゴンポケモンの1体すら出させていないことに気付き彼女は声を張り上げる。

 

「ここからよ! これまでは手加減してたんだからね!」

 

『知ってますよマスター。アレがツンデツンデですね』

 

「ツンデレな。後、デレてない」

 

「かぶりん」

 

 何故かボールに戻らず、フェローチェはサーナイトとは反対の位置に居て、ドラキアは両サイドから挟まれている。ドラキアはイブキを敵とも思っていない様子であり、涼しい顔をしていた。

 

「行きなさい"ハクリュー"!」

 

「リュー!」

 

 イブキはボールを投げ、ハクリューを呼び出す。細くしなやかな身体は幻想的ですらあり、ドラゴンポケモンらしい佇まいと言える。

 

 確かにこれまでのイブキの手持ちポケモンとは一線を画した様子に、少しだけドラキアは面白そうに口を綻ばせていた。

 

「うーん……どれにするか」

 

 ドラキアはボールを3つ取り出して見つめる。少し考え込んだ末、ドラキアは顔を上げるとイブキに声を掛けた。

 

「これ、全部ドラゴンタイプなんだけど……どれがいい?」

 

 まるで何れでも勝てるかのような口振りだ。それがイブキの神経を逆撫でしたが、それだけの実力を持っていることを思い出して頭を冷やすと、イブキは躊躇なく吐き捨てた。

 

「ああ、中身はコモルーとドラミドロと――」

 

「一番強い奴よ!」

 

「お、おう……」

 

『哀れだよ 炎に向かう 蛾のようだ』

 

「ドラゴンタイプとドラゴンタイプなんだよなぁ……」

 

「かぶりん」

 

 2つのボールを戻し、残ったゴージャスボールをドラキアを投げた。

 

「行け。"ジャラランガ"」

 

 ボールから現れたのは、体中が鱗で覆われ、まるで黄金の飾りでも着飾っているような出で立ちをした二足歩行のドラゴンポケモンだった。

 

「か、かっこいい……」

 

 イブキは思わずそう呟く。

 

 特筆すべきはその佇まいであり、まるで長年を山中で過ごした修行僧のように厳かでありながら、武人のように鋭い闘気を宿していた。ジャラランガから放たれる威圧感は、その双眼で見つめられるだけで、並みのポケモンならば逃げ出してしまうと感じさせるほどだ。

 

 実際、明らかにこれまで見てきたどのドラゴンポケモンとも毛色の違う雰囲気に、イブキとハクリューは額から汗を流している。

 

「ジャラ……」

 

 一言ジャラランガは呟き、人間のように頭を深く下げる。思わずイブキとハクリューもそれに釣られた。

 

 そして、審判からの声掛けが入り、ポケモンバトルが始まった。

 

「ハクリュー! "りゅうのいぶき"よ!」

 

 先攻を取ったのはイブキだった。ハクリューは"りゅうのいぶき"を吐き出し、ジャラランガへと攻撃をした。当然、同じドラゴンタイプならば弱点であろう。

 

「"かえんほうしゃ"で迎撃」

 

 ジャラランガは"りゅうのいぶき"に合わせて"かえんほうしゃ"を吐き出す。一瞬だけ"りゅうのいぶき"と"かえんほうしゃ"がぶつかり合ったが、すぐにジャラランガの"かえんほうしゃ"が打ち勝つ。

 

「ッ!? 避けて!」

 

 ハクリューは間一髪で避け、元いた場所を激しく炎が襲い、バトルフィールドの3分の1ほどを火の海に変える。これだけでも異様なほどに鍛えられたドラゴンポケモンであることは明白であろう。

 

「どうした? 手加減してやろうか?」

 

「…………!」

 

 ドラキアの煽るような不敵な笑いと共に、ジャラランガは早く来いとばかりに片方の掌を上に向け――"ちょうはつ"を行った。

 

「いらないわよ……ッ!」

 

「リュッ!!」

 

 イブキとハクリューは同時に"ちょうはつ"を受け、頭に血が昇る。逆に彼女としては、いつもの調子を取り戻したかもしれない。

 

「ハクリュー! "たたきつける"!」

 

 ハクリューはイブキの指示でジャラランガに突撃し、バネのように尻尾を弾き飛ばしてジャラランガに叩き付けた。対するジャラランガはそれを避けることなく片腕で受ける。

 

「ジャラ……」

 

「リュ!?」

 

 ダメージを受けながらジャラランガはほくそ笑む。そして、叩き付けられたハクリューの尻尾を逆に掴み取ると、逆の腕を引き絞りながらハクリューを引き寄せた。

 

「アッパーカット」

 

「――――!」

 

「――!?」

 

「ハクリュー!?」

 

 ハクリューの下顎目に掛けて放たれたポケモンの技ですらないそれは神速の一撃だった。

 

 ジャラランガから放たれたアッパーカットは、衝撃の余波だけで周囲を扇状に抉って地形を変える。それが直撃したハクリューのダメージは想像を絶するものだろう。

 

 アッパーカットを受けたハクリューは数歩分後退し、そのまま崩れ落ちた。完全に気絶しており、戦闘不能だということは明らかである。

 

「ハクリュー戦闘不能! 勝者ドラキア!」

 

 教員の審判から判定が下り、イブキは唖然とした様子で膝をつく。

 

 そんな様子のイブキの元にドラキアは、サーナイト・フェローチェ・ジャラランガを引き連れながらやって来た。それはとても様になっており、王者の風格を思わせる。

 

「何よ……笑いに来たの?」

 

 自分から挑んでおいてまるで完封負け。これほど惨めなことはないと、イブキは自身を責めていた。

 

 しかし、ドラキアは首を振るとイブキに手を差し出してにっこりと笑い掛ける。その笑顔は母親のように優しげであり、ずっと笑っていればいいのにとイブキが考えるほど良い表情をしていた。

 

「ポケモンバトルありがとう」

 

「あぅ……」

 

 あまりに真っ直ぐに言われた言葉にイブキは赤面する。ドラキアの様子にトレーナーとしてのけじめを思い出し、イブキはドラキアの手を取って立ち上がった。

 

「つ、次は絶対に負けないからね!」

 

「何度でも来い。ポケモンバトルは大好きだ」

 

 こうして、フスベシティのトレーナーズスクールの課外授業は蓋を開けてみれば円満に幕を閉じたのだった。

 

 

『ツンデツンデ――いったい!? なんで蹴るんですかフェローチェさん!?』

 

「かぶりん」

 

「ジャラ……」

 

 

 円満に終わったと思われる。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

◆◇◆◇◆◇

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「ドラキア! ポケモンバトルよ!」

 

 イブキとポケモンバトルした日の放課後。自宅に帰ると何故か俺の自宅の前で腕を組んで仁王立ちしているイブキがいた。学校指定のブレザーではなく、ジムリーダーの時のようにマントをしていれば、かなり様になっているだろうなと場違いなことを考えて遠い目をした。

 

「……早くない?」

 

「……? アンタが挑んでいいって言ったんじゃない?」

 

 小首を傾げながらそう呟くイブキ。元が美少女ということもあり、大変様になっている。

 

 いや、確かにポケモンバトルは何度でも来いって言ったのは俺なんだが、まさか放課後に自宅で挑まれるとは思っても見なかった。

 

 ん? というかなんでコイツ俺の自宅の場所を知ってるんだ?

 

「ワタルさんが教えてくれたわ」

 

 フスベシティに越して来るに当たって、長老やワタルに話を通していたと家族に言われたことを思い出した。どうやらそれ経由で、イブキは俺がアローラで弾けていたことを知り、実力者ならばとポケモンバトルを挑んだのではないかという仮説を思い付く。

 

 よし、フスベシティのジムとやらに殴り込みに行ってやろうか、個人情報をなんだと思っているんだ――と、思ったが、そもそもポケモンの主人公は他人の民家に普通に入りまくっていたことを思い出す。

 

 外で待っていただけいい娘なのだろうか……?

 

『よかったですねマスター。早速、新しいお友達が出来ましたよ』

 

「かぶりん」

 

 うるさいお前ら。というかジャラランガを見習って早くボールに入れ。

 

『じゃあ、私とフェローチェさんは家事があるのでジャラランガさんたちとやっていてください』

 

「かぶりん」

 

 テレパシーでそう言いながらサナエさんはフェローチェを引き連れつつ、"ねんりき(マスターキー)"で鍵を開けて家に入って行った。

 

 ちなみに家の掃除をしているのは主にフェローチェだ。エプロンを着けて、はたきやコロコロで家中を掃除するのが趣味なのである。

 

 あっ、クソ。アイツらが抜けたから俺の手持ちがジャラランガ・ドラミドロ・コモルー(ドラゴン統一パ)になったじゃないか。バトルガールのアイデンティティーが……。

 

 ちなみにジャラランガはジャラコの頃にポニ島で捕まえたポケモン。ドラミドロはクズモーのタマゴを母方の祖母から貰ったポケモン。コモルーは父方の祖父から孫娘を守ってくれるようにと預けられたポケモンである。

 

「さあ、行くわよ!」

 

 イブキはそう言ってモンスターボールを掲げてきた。その様子はとても楽しげであり、その表情を見ているだけでなんとなく無下にするのは(はばか)られた。

 

「仕方ないな……」

 

 そう言いながら今度はドラミドロとコモルーも出してやろうと考えるのであった。

 

 新しく始まったこの生活を俺はなんだかんだ楽しみ始めているのかも知れない。

 

 

 

 





~ドラキアてもち~

・サーナイト
・ジャラランガ
・フェローチェ
・ドラミドロ
・コモルー
・???

これをバトルガールと言い張る勇気


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