感想、評価、お気に入り諸々ありがとうございます。とても励みになりますので頑張らせていただきます。
前半は前回の続きです。ではどうぞ。
昼食を食べ終えて今は午後の授業。このトレーナーズスクールでは、午前は座学、午後は屋外でポケモンバトルの実戦と実にわかりやすいカリキュラムが組まれている。机の上で学んでもポケモンは強くはならないというわけだ。
しかし、ひとつだけもの申したいことがある。
この午後の授業は基本的に二人一組で行われるのである――二人一組で行われるのである。
ハッキリ言って初日にイブキをフルボッコにしたも同然な俺はクラス内で若干……いやかなり一目を置かれ過ぎているため、向こう側から組もうと声を掛けられるわけがないのである。
『はい、二人組作ってー!』
ヤメロォ! サナエさん! ヤメロォ!
『……だったら自分から声を掛ければいいじゃないですか?』
それが出来たらフスベシティまで来ているわけがない。友達が沢山いるからアローラ地方を離れたくないとか普通思えるハズでしょうが!?
『……マスターってなんで変なところで奥手なんですか。実際、友達全然いませんし――』
「…………お前はデコピンで"いわくだき"ができ、片手で"かいりき"が使える同年代の女子と好きで友達になりたいと思うか?」
ちなみにアローラで言えば、"いわくだき"はケンタロスに当たり、"かいりき"はカイリキーに当たるため、アローラ地方と秘伝マシンで比べた場合、どちらがより深刻かは言うまでもない。
『………………私のスカートみたいなヒラヒラで涙拭きます?』
ありがたいがいらない。サナエさんのスカートみたいなヒラヒラ無茶苦茶水弾くもん……。
そんなわけで――。
「ドラキア! ポケモンバトルよ!」
「いい加減飽きないの……?」
基本的にドラゴンの里の長老の孫補正で、俺と同じくペアのいないイブキと必然的にペアになるのである。
そして、毎回の如く俺に嬉々としてポケモンバトルを挑んでくる。負け続けて、俺を見るだけで死んだ目をし始めているミニリュウ・ハクリュー・シードラの手持ちのことはお構い無しだ。
そんなんだからあの簡単な二択を全問正解すれば、"しんそく"持ちミニリュウが手に入る試練を何時まで経ってもクリア出来ないんだと内心思わなくもないが、事実上フスベシティで俺に友達と呼べる存在は、イブキしかいないので口が裂けても言えない。
『貴女たちはどうして、そう全く違う致命的な欠点を互いに補完し合うような謎の関係なんですか……』
「ズッ友だもん」
「とっ、友達……うん、そうよね! 当たり前じゃない!」
いかん……あまりに人を疑わないイブキに下らないことを言ったことをちょっぴり後悔した。
しかし、
「はぁ……行け"ドラミドロ"」
「□□□□――!」
俺がモンスターボールを投げると、声にならない叫びを上げて、中からドラミドロが現れた。しかし、通常の個体よりも一回りと少し大きい。コレがばあちゃんから貰ったタマゴから孵った俺のドラミドロだ。
まあ、本当は、ばあちゃんの
すると素早さを除く5Vで、夢特性のてきおうりょく持ち。更に図鑑では、高さ/おもさが1.8m / 81.5kgのところが、3.3m / 201.5kgまで育ったのである。ばあちゃんすげぇ。
『いや、後者は"オニシズクモがぬしポケモンになれるなら、ドラミドロだってぬしポケモンになれるだろ"って言って、ポニ島のポニの荒潮に生まれたてのクズモーを放流して育てたせいじゃ――』
「しゃらっぷ」
「□□□……」
サナエさんは一言も二言も多いのである。ん? なんだドラミドロ? そのあの頃は本当に大変だったとでも言いたげな遠い目は? 強くなったんだからいいじゃないか。
ちなみにてきおうりょくはタイプ一致技が、1.5倍から2.0倍になる中々の強特性だ。そして、どく/ドラゴンタイプであるドラミドロが誇る最強のドラゴンわざは――。
「ドラミドロ。"りゅうせいぐん"」
「□□□□□――!」
「ミ、ミニリュー!?」
「リュー……」
全てを受け入れたかのように晴れやかな表情で満天の"
ちなみに、日頃からこういう容赦が無さ過ぎることをイブキにしていたので、クラスメイトらが俺とペアを組もうとしなかったということを知ったのは、数年後の同窓会での話である。
◆◇◆◇◆◇
「…………りん」
フェローチェの朝は早い。寝ぼけ眼を擦りながら目を醒まし、窓の外を見ればまだ日が登ったばかりであった。
そして、すぐに3枚引いてあるうち、自分が寝ていた左側の布団を片付けつつ横目で隣の2枚の布団を眺める。
「うーん……」
『Zzz――』
そこでは中央の布団で眠るドラキアを、サーナイトが抱きしめて眠っていた。しかし、抱きしめた状態なのだが、サーナイトの胸に生える赤い角のような物体がドラキアの顔に当たっており、ドラキアは悪夢に
『んげっ!?』
とりあえずフェローチェは、サーナイトが起きない程度に足で頭を小突いてからリビングへと向かった。
◇◇◇
「…………(すっ)」
まず、フェローチェの朝は、玄関とリビングに備え付けられた自動手指消毒器にアルコール消毒液を補充する事から始まる。
《外から帰ったら必ず消毒!》
と、自動手指消毒器の上にある張り紙に、マジックでやたら可愛らしい丸文字で書かれており、これを書いた者の衛生管理の徹底ぶりがわかるだろう。
「……!」
するとフェローチェは自動手指消毒器内のアルコール消毒液の減り具合から見て、ちゃんと消毒していない者がいることに気付く。
ドラキアは、ポケモンを除けば一人暮らしであり、その上1名を除いてちゃんと消毒をしてくれていることをフェローチェは思い出す。
すぐにフェローチェはリビングからマジックを持って来ると、キャップを開けてマジックの頭を張り紙につけた。
「…………(きゅっきゅっきゅっ)」
すぐに可愛らしい丸文字で張り紙に文章が書き加わり、書き出したフェローチェは"どうだ!"と言わんばかりの顔をした。
《外から帰ったら必ず消毒! 緑は後で蹴る!》
無論、ドラキアの手持ちに緑を基調とした配色を持つポケモンは1匹のみである。日頃の行いは大事だと言えよう。
◇◇◇
「~♪」
アルコール消毒液の補充後、ドラキアとサーナイトが起きるまでの間。フェローチェはエプロン姿で平屋の一戸建であるこの家の掃除をしていた。手には布はたきとクイックワイパーが握られており、フローリングの床と棚の上を丁寧に掃除する。また、ソファーや布製品はコロコロで掃除していた。
その徹底ぶりは目を見張るものがあるが、外から帰った時の手指消毒以外は趣味の範疇であるため、特に他者に強要はしていない。フェローチェの趣味が掃除と消毒なのである。
一通り掃除を終えてからキッチンに向かって軽めの朝食を作り、フェローチェは自身のトレーナーが起床するのを待った。
「おはようフェローチェ」
「かぶりん」
フェローチェは先に来たドラキアに笑顔で挨拶をする。その様子にはかつて、この世界の全てを不浄と捨てきった面影はどこにもなく、ウルトラビーストとは思えない明らかな友好を示していた。
『おはようございマッ!!!?』
「――――!」
そして、次に来た
◇◇◇
『け、ケツが……ケツが割れる……』
「じゃあ、学校行ってくるぞフェローチェ」
「かぶりん」
ドラキアはそう言いつつ、急所に当たって戦闘不能になった無駄にモデル体型のサーナイト(高さ/重さ:170cm/54.9kg)を軽々片方の肩に担ぎながらトレーナーズスクールより先にポケセンセンターの方に足を進めた。そんなドラキアをフェローチェは、腰に片手を当てつつ、反対の手を小さく振って見送る。
今日、フェローチェは食材の買い物に行くため、学校にはついて行かずにお留守番なのである。
「…………」
時間を確認してから、ホワイトボードとホワイトボード用マジックを入れたエコバッグ片手に家を出るフェローチェ。エプロンは着けたままであり、遠目から見ればかなり背の高い人に見えなくもない。
そして、辿り着いたのはフスベシティの商店街――。
「おっ、フェローチェさん今日も綺麗だね!」
「かぶりん」
「フェローチェさん今日はいいのが入ってるよ!」
「かぶりん」
「あっ、フェローチェ姉ちゃんだぁ! 遊んで!遊んで!」
「………………(きゅぽっ、きゅっきゅっきゅっ)」
《買い物のあとでね》
「えー……約束だよ!」
《はいはい》
意外にもフェローチェはフスベシティの商店街で名物になっていた。まあ、見てくれよし、素行よし、筆談まで出来るポケモンのため、当然とも言えるだろう。
ちなみにだが、アローラの頃から同じようなことになっており、住民にとってはドラキアよりもフェローチェが居なくなることを惜しまれていたりする。
「ど、泥棒だ!?」
「かぶりん……?」
すると何やら胸に大きな赤いRのマークがある黒いユニフォームのようなものを着た男が、フレンドリィショップから走り去って行く姿がフェローチェの目に入る。
「………………」
それを見たフェローチェの目は、こちらの世界に来たばかりの当時のように冷たく嘲笑う色を取り戻していた。
◆◇◆◇◆◇
フスベシティの近くにあり、岩に囲まれた中にある小さな廃屋。そこで胸に赤いRのマークがついた黒服を着た十数人の男女がいた。
"ロケット団"を少しでも知るものならば、彼らがどんな組織に所属しているのか一目瞭然だろう。
彼らの目的は、フスベシティの"りゅうのあな"にいるミニリュウの密猟である。レアなポケモンであるミニリュウをロケットゲームコーナーの景品として密猟して仕入れ、資金源をより確固足るものにしようという算段である。
「ん? アイツはどうした?」
「景気づけにフレンドリィショップでなんかかっぱらうってさ」
「おいおい、仕事の前に足がつくようなことするなよ」
そうは言うが、彼らは笑っていた。それほどまでに彼らにとっては軽い行動なのだろう。
「おーい、お前ら!」
「おう、遅かったじゃ――」
ロケット団員たちは廃屋の出入り口から聞こえる見知った声に釣られ、次々にそちらへ向くと、次の瞬間には言葉を失ってただソレを見つめていた。
「かぶりん」
熱に犯されたように息を荒くしているロケット団員の男の隣に立つソレは、虫と女性を合わせたような純白のポケモンであった。
ポケモンは己の全てを見せつけるようにそれを"振り撒き"ながらただ歩く。たったそれだけでロケット団員は次々と無力化されて行き、遂に手持ちのポケモンを1匹足りとも出すこともなく、皆一様にうわごとを呟きながら、フェローチェを熱を持った瞳で眺めるばかりだった。
彼女はUB02