からておう? 誰それ? 俺ちゅーに病魔!(特性:ばけのかわ)
『ブリムオン……ブリムオン……私と同じ可愛い女性路線のフェアリー……ガラル地方には虎の子のメガシンカはない……ブリムオンには固有グラのキョダイマックスがある……』
朝起きると何故かサナエさんがリビングでゾンビのようにふらふらしていた。
『素早さと、申し訳程度の体力と総合値以外は私の種族値を全て超えている……』
まあ、まれによくあることなのでサナエさんを放置して、コーヒーメーカーの前まで行き、朝の一杯を淹れることにする。
『鈍足型で防御種族値も95はあるので、物理を受けれなくもないトリパ要員……その上、夢特性で"マジックミラー"ですって……? インチキ効果もいい加減にしてください……!』
ちなみになぜサナエさんがこうなっているかと言うと、サナエさんの"みらいよち"はかなり先の未来や平行世界まで見通せるとかなんとかで、たまに見通しているのだが、見る必要のないところまで見てしまってこうなることもあるのである。
そもそも俺のポケモンになった理由も"みらいよち"で見て、一番面白そうだったからとかなんとか。まあ、攻略本を見ながら人生を生きるような感覚になるらしく、更にとんでもない未来を見通してしまう可能性もあるので、滅多に使わないようにしているそうだが、今回はその滅多でファンブルを引いたらしい。
むぅ……この体のせいか、やっぱりコーヒーがスゴくにがい……。砂糖とミルクを入れなきゃ飲めたものじゃないな。
『いえ、それらを加味しなくとも攻撃種族値が90もあるじゃないですか……! か、仮に完全版で最早、私の唯一の利点である先制技の"かげうち"とか覚えられるようになったら……また、私のほぼ完全上位交換じゃないですか……!? というか、耐久しやすい分、旅パでは"めいそう"積んで、"ドレインキッス"で六タテするのはあちらの方が、夢特性持ちでなくとも遥かに事故らない!? 折角、テテフの居ない地方なのに!?』
一応、サナエさんの分のコーヒーも淹れていると、覚えられないのにサナエさんがじだんだを踏み始める。いや、これはただの地団駄だな。
そして、凄まじい勢いと剣幕で俺に迫ると、真剣に濁った瞳で言い放った。
『おのれゲーフリ……! おのれ任天堂……!? マスター! 今すぐに新天地へ行きましょう! 全ての"ミブリム"をガラル地方から殲滅するのです……!! さあ! さあ!?』
「ふんっ……!」
『ふぐぅ!?』
とりあえず、サナエさんが正気に戻るように首筋へ全力の回し蹴りを叩き込んでおいた。かくとう技はエスパー/フェアリーのサナエさんにダメージ4分の1なのでこれぐらいで丁度いい。
地面に転がされながらもサナエさんは最後の力を振り絞って頭を上げた。
『あ、アイドルポケモンの柔肌になんてことするんですか
ルビと文字が逆だが、そもそも頭に直接響くんだから、両方ともこっちはわかってるんだよなぁ……。
『あっ、もうひとつ見えました。ムゲンダイナってバトルタワーでも使えるんですね……! レイドにもタワーにも引っ張り凧のムゲンダイナはパケ伝よりもよっぽどプレイヤーにとって英雄じゃないですか……! ガクッ……』
最後にそれだけ告げて、サナエさんは動かなくなった。
本当になんなんだコイツ……一体何の世界が見えているんだ?
◇◆◇◆◇◆
ここ数日。ワタルはジムリーダーとしての仕事を全うしつつイブキからドラキアの話を聞いていた。というよりもイブキからやたら楽しげにトレーナーズスクールでの話を聞かされる中に必然的にドラキアの話が出るだけとも言える。
それによるとドラキアは、6体の手持ちポケモンを持っているらしいが、その中でトレーナーズスクールに連れてくるのは5体のみ。
まずはサーナイト。テレパシーで会話が出来るポケモンであり、バトルではテレポートから繰り出される多彩な体術と3色パンチを主体に戦うエスパーポケモンとのこと。どうもあの綺麗で華奢な容姿からあのような近接戦闘主体の戦い方は想像しにくいので、本当は特殊技が主体なのではないかとイブキは考えている。
2番目にフェローチェ。むし/かくとうタイプのポケモンであり、異様な脚力と素早さ・攻撃・特攻が極めて高く、ジョウト地方のポケモンをかなり逸脱したバトルスタイルが特徴とのこと。フェローチェに関しては最早、トレーナーが目で追えないレベルであるが、ドラキアはどうみてもフェローチェを目で追えているそうだ。
3番目にジャラランガ。鱗に覆われ、格闘家といった出で立ちの二足歩行のトカゲのようなポケモンであり、かくとう/ドラゴンの複合タイプという話だけで想像の膨らむポケモンであった。純粋な格闘能力においては、ドラキアの手持ちポケモンで、頭ひとつ以上抜けており、拳の一撃は衝撃波のみで周囲を破壊し、特にアッパーカットは衝撃波で地形を変えてしまう程の出鱈目な威力があるという。
4番目にドラミドロ。どく/ドラゴンタイプのポケモンであり、リーフィーシードラゴンをそのままドラゴンポケモンにしたような
5番目はコモルー。鋼の殻を纏った四本足のタマゴのような不格好な外見であり、実力も他のポケモン達に比べれば華がなく、一番イブキのポケモンとマトモな戦いになるらしい。見た目の通り、素早さはあまりないが、やたら硬く、気がつくと"りゅうのまい"を積まれ、"ドラゴンクロー"で
そして、ドラキアの最大の特徴としてはあまり自身のポケモンに技の指示などの正確な命令を出さないことだ。ポケモン自体に覚えさせているのか、経験故か、ポケモンが自分自身で行動する場面がとても多いのである。特にサーナイトとフェローチェに関しては技の指示を下したことを見たことがないとのこと。
また、指示を無視するポケモンは星の数ほどいるが、戦況を理解した上で、あえてトレーナーからの指示を仰がないという、利口かつ戦闘経験を積み過ぎた百戦錬磨のポケモンたちとはイブキの評価である。
イブキは日頃からドラキアにポケモンバトルを挑んでは、車に撥ね飛ばされる事故に遭うように負けてはいるが、未来のフスベシティのジムリーダーになれるだけの素質は十分にあるということもあり、観察眼は確かなものなのだ。ポケモンと自他含めて人の心に疎いことだけが致命的な問題点と言えよう。
トレーナーが戦ってもいないトレーナーの手持ちポケモンとトレーナーの情報を知るのはどうかと考えようによっては思うかも知れないが、イブキが勝手に言っているだけな上、ジムリーダーの手持ちポケモンなど常に公開されているため、条件はあまり変わらない。それにその程度で実力が左右されるほど、ドラキアとそのポケモンたちが弱いわけもない。
そして、そんな話を聞かされ続けていたワタルは自然にこう思うだろう。
「戦いたい……」
「リュ、リュー……!」
フスベシティの隅にあり、人気の少ない公園のベンチで呟く彼はトレーナーとして限界であった。海千山千であり、戦闘になれば阿修羅の如くにも関わらず、今は隣でオロオロしているワタルのカイリューが妙に印象的である。
しかし、ワタルはイブキよりもあらゆる意味で遥かに大人であった。
アローラ地方で名うてのトレーナーが、わざわざ祖父の故郷を頼ってまで引っ込んできたということは、何かそれなりの事情があったのだろうというのが、ワタルの憶測である。
そのため、猪突猛進なイブキにわざわざ教え、けしかけるような真似をしたのは、歳が近く同性のイブキが気に掛ければ、幾らか彼女の助けになってやれるのではないかという大人過ぎる対応であった。
しかし、学校での毎日が非常に楽しそうな様子のイブキから聞けば聞くほど、ドラキアの異次元のドラゴン使いっぷりが露呈するのである。かくとうタイプ? 刺身のタンポポなようなものであろう。どう聞いてもドラキアの主軸はドラゴンタイプである。
そうしてポケモントレーナーとしての矜持と闘争心を持て余し、悶々としつつワタルは大きな溜め息を吐いた。
丁度、その時である――。
『YOUやっちゃいなYO!』
「かぶりん……」
ワタルの頭に直接、奇っ怪なテレパシーが響き渡り、それを嗜めるようで諦めたような声色のポケモンの呟きも聞こえた。
「君たちは……!」
そこにいたのは、緑と白の配色の女性的なポケモン――サーナイトと、純白の女性的なポケモン――フェローチェの2体であった。
フェローチェは非常に社交的でフスベシティでちょっとした有名ポケモンなため、ワタルとも面識があったのである。ワタルとしては筆談ができ、礼儀正しく、明らかに通常のポケモンとは一線を画す強者のオーラとでも言うべき何かを感じさせるポケモンという印象がある。
そして、サーナイトはテレパシーで人間と直接会話が出来るポケモンであり、話し掛けてくるため、普通の人間とほとんど変わりない認識をされているポケモンだ。
そんな2体のポケモン――主にサーナイトがワタルの前に身を乗り出さんばかりにやってくるとテレパシーを飛ばす。
『やりたいようにやっちまえばいいんですよ……! 大丈夫です! マスターはアローラ地方では好き勝手に暴れるだけ暴れたクセに、素の陰キャな人格が有名税に堪えられず、片親の田舎に引っ込んだだけのチキン雌野郎なんですから!』
「かぶりん……」
あまりにも口汚く自身の主人のことを語るサーナイトのテレパシーにワタルは目を丸くした。しかし、フェローチェの方も目は決して合わせ無いが、相槌を打つようにしているため、サーナイトの言い分に自分も少しは言いたいことがあるようである。
『それにマスターはまだ存在しませんので断定はしませんが、島巡りを最速で終えたということは、アローラ地方での四天王からチャンピオンにあたる実力があるのは明白! これを戦わずして何がポケモントレーナーですか!』
「……かぶりん」
遂にサーナイトは遂に自分が最も言いたいことをテレパシーにする。
『……いつまでもイブキさんばっかりにポケモンバトルをし続けていたら、てもちポケモンのこっちの身が鈍ってしまいそうなのです……戦ってください!』
「かぶりん」
そして、それは割りと切実な願いであった。
◇◆◇◆◇◆
「ドラキアちゃん。ポケモンバトルをしようじゃないか!」
現在、自宅の庭先でなぜかドラゴン使いのワタルさんが笑顔でそんなことを言っていた。その隣にはサナエさんとフェローチェがおり、笑顔のサナエさんはいつも通りとして、フェローチェは全く目を合わせようとしない。
とりあえず、サナエさんに近づくと片腕を取って捻り上げた。
『ああ!? 折れる!? 折れてしまう!? 伝統のアイドルポケモンの腕が折れてしまいます!?』
うるさい。そのためにポケモンセンターがあるんだ。
しかし、サナエさんも体格差を利用して、それなりに抵抗してくるため、サナエさんを押しつつもそれなりに拮抗する。
『う、うぉぉぉ!? マスター。最近したポケモンバトルを思い出してください!』
「えーと、とりあえず、イブキだな。それから……イブキだ。えーと……イブキだ……」
『ええ、イブキさんオンリーです。そんでもって私たちにとっちゃ、サンドバッグ同然です!』
流石に何が言いたいのか、俺でも理解出来たため、サナエさんから手を離した。というか、俺の手持ちが意外にも好戦的だったことに驚く。
『いったい誰のせいですか、だ・れ・の! 兎に角、イブキさんばっかり相手にしてても雀の涙ほどの経験値にもなりはしませんし、それ以上にここが現実である以上、ポケモンバトルの腕が鈍るんですよ!』
むう……それは確かにとても悪いことをしたかも知れない……主にさっきからサナエさんを使った負い目からか、俺と全く目を合わせてくれないフェローチェと、他のてもちポケモンに対して。
『そーだそーだ! ……って私は!?』
そんなこんなでワタルさんとポケモンバトルをすることになった。
しかし、正直に言うと俺のポケモンバトルは、この世界で行われているようなポケモンとトレーナー同士の読み合や渡り合いからは程遠く、鍛練とポケモンの才能による暴力の側面が強いので、俺の純粋なトレーナーとしての素質はそこまで高くないと思う。
『そんな奴なら今のところ最速で島巡りチャンピオンになれる訳がないんだよなぁ……』
そして、サナエさんの呟きテレパシーは無視しつつ、3 VS 3の勝ち抜き戦というポピュラーな方式で決めることになった。
『ほう……なんだ。水色頭の童ばかりと遊んでいたゆえ、フスベシティには大したトレーナーはおらんと思っていたが……中々どうして悪くない面構えのトレーナーもいるではないか』
『……げっ』
すると、サナエさんと同じように"テレパシー"を飛ばされる。 そして、リビングの扉を開け放たれると、そこから這い出るようにゆっくりとした動きで、俺の6体目のてもちポケモンが姿を現した。
立つと4mを超える高さと、"ドラゴン"タイプ特有の恐ろしくも美しい外観を目にしたためか、ワタルさんは酷く驚きつつも、その瞳には確かな熱と高揚が見られる。
『ちょ……!? あなたが出てきたら後ろに回ってこないじゃないですか!?』
「かぶりん!」
『黙れ……回復してもう一度すればいいであろう?』
それだけテレパシーで言って、ソイツはサナエさんとフェローチェを黙らせると、ワタルさんの方へと目を向ける。
『では始めようか……?』
ワタルさんは、先鋒のギャラドスを1体出し、冷や汗を額に浮かべつつも6体目のポケモンへと対峙した。
ギャラドスも怖い顔で勇ましく対峙しているが、その中に戦々恐々といった様子も見え隠れしているように見える。
そして、ポケモンバトルの火蓋が切って落とされる――。
「ギャラドス! "ハイドロポンプ"だ!」
先に動いたのはワタルさんであった。
ギャラドスから光線のような凄まじい水流が放たれる。それは並のみずポケモンならば、一撃で簡単に削り切れてしまうほど鍛え抜かれた威力を秘めていた。
そして、ハイドロポンプはソイツに確かに着弾し――。
「なんだと……!?」
『うーん……? その程度の威力では避けるまでも無いなぁ?』
『しかも4分の1ですからね』
「かぶりん」
観戦し始めているサナエさんとフェローチェはそう言うが、初見でタイプを見抜くことが特に難しいポケモンの一体だと俺は思うぞ……。
「――!?」
ハイドロポンプを真っ正面から体で受け止めながら、異様な速度でギャラドスの目の前まで接近したソイツは、ギャラドスの首を鉤爪のような指をした手で掴むと、片腕に引き寄せてチョークスリーパーを掛ける。
こうげきの種族値が5だけギャラドスの方が上とはいえ、流石に腕が存在しないギャラドスにこれは最早、避けようがない。その上、ギャラドスの長い体を自身の全身で踏みつけるように押さえ込み、無理やり海老ぞりにしているため、チョークスリーパーのままでも後、数十秒も掛からずにギャラドスは落とされるであろう。
しかし、その体勢のまま、ソイツは更に技を繰り出した。
『この距離なら外しようもないなぁ……? 避けたければ避けてみよ? "かみなり"』
「――――――」
「ギャラドスぅ!?」
ソイツの全身から極大の雷撃が放たれ、絞め落とされ掛けているため、ゼロ距離のギャラドスへと瞬時に直撃した。当然、タイプ不一致とはいえ、とくこうの種族値150という怪物から繰り出される4倍弱点の"かみなり"に、ワタルさんのてもちとはいえギャラドスが耐えれる訳もない。
焦げ焦げになったギャラドスは目を白目を剥いて倒れ、ピクピクと痙攣するばかりで動かなくなった。
「すまないギャラドス……」
そう言いながらモンスターボールにギャラドスを回収するワタルさんを見つつ、次のポケモンの想いを馳せた様子のソイツは、ワタルさんを見下ろしながらテレパシーを投げ掛ける。
『全く足りんなぁ……? 残りの2体……同時に掛かって来てもよいぞ?』
そう言われ、ワタルさんはこれまでのポケモンとは、あまりにも一線を画す存在に対して、妥協も遠慮も無用と悟ったのか、プテラとカイリューを同時に場に出した。
『うむ、それでよい。汝は相手の実力をよく見極めておるわ…………では行くぞ?』
「ああ、行くぞ! プテラ! カイリュー!」
そして、ソイツに対して、ワタルさんが操るプテラとカイリューが襲い掛かった。
『これが種族値の暴力ですか』
「かぶりん」
多分、また違う別のものではないかと思いつつ、ポケモンセンターに向かう準備をし始めようかと考えるのであった。
◆◇◆◇◆◇
突然だが、ポケモンの世界で
無論、ゲームの主人公ならば、Lv6のままポケモンセンターのパソコンに投げ込むか交換に出して、別のカセットからポケモンを引きずり出すことも可能というか、ゲーム機2個持ちで数周目だとほとんどそのようになると思われる。しかし、そもそもポケモンがいない状態では、ポケモンセンターまで行くことさえ不可能なので、1匹目は御三家のどれかになることだろう。
他にもゲーム内のキャラを例に出すと、ポケモン廃人化するミツルくんは、主人公の下でなきごえしか覚えていないラルトスを捕獲して、中盤まで
そんな風に何かの理由や因果があって1匹目のポケモンが決まることだろう。まあ、この1匹目のポケモンが何だったという話題は、トレーナーとトレーナーが話すときに、見合いで趣味を聞くぐらいは定石な問いのため、意外と話題になることも多いのである。
ちなみに色々なトレーナーから聞いた1匹目のポケモンを集計してみた結果、自宅の近くの草むらに居たとか、親のポケモンを貰ったというのがダントツに多かった。博士から御三家はあまり聞いた
そんなわけで俺の1匹目のポケモンはと言えば、これは少々会話のネタにし難いものである。そのため、基本的にはサナエさんが草むらから飛び着いて来たと周りには伝えている。しかし、これは実際とは異なる。正しくはサナエさんは2匹目のポケモンなのだ。
なので目の前にいる1匹目のポケモンとの遭遇についての話をしよう。
◇◇◇
「~♪」
忘れもしないアローラの夏。俺は自室でゼルダの伝説 ブレス オブ ザ ワイルドで遊んでいた。明確に任天堂製のゲーム機がある世界なので、当然ゼルダの伝説もあるのである。ポケモンでゼルダとか、スマブラのようだが、名作は色褪せない。
また、まだ体をポケモンと共に鍛えるという発想がなかった頃だった上、流石に年齢が低過ぎたため、前世と同じように家に籠り、ゲームで遊ぶことが染み付いた俺はそうやって過ごすことが多かった。
そして、2時間ほど続けてプレイして、少し疲れてきたと思ったところにそれはやって来た。
突如として部屋の中心の空間に巨大な亀裂が走ったのだ。そして、さながら空を割って登場するウルトラマン
アローラの家は平屋の一戸建てで、天井が高かったことも幸いだっただろう。何せそれは4.2mの体躯である。また、300kg以上の体重によって床が軋んだが、こちらは大した問題ではない。
俺は反射的にゲームをポーズしつつ、そのポケモンを眺めて目を丸くした。ポケモンの方は喜怒哀楽のわからない赤い瞳でこちらを眺めている。
そして、口を開いたのはポケモンの方であった。
『童よ。妙な空間に繋がったため出て来たのだが、ここはどこの地方だ?』
「あっ、はい、アローラ地方です……」
『アローラ……? ああ、そういうことか。位相そのものが違うと思えば、あれはウルトラホールか』
頭に直接響く女性に近い声。そして、ウルトラホールという単語を聞きながらも、俺は"夢特性のテレパシーかぁ"と微妙にズレたことを考えていた気がする。
『まあいい……私はいつでも帰れる。ならば気にするようなことでもないな』
一人言を終えたポケモンは、大きくアクビをしてから黙る。そして、じっと俺のゼル伝プレイを見始めた。
「………………」
『………………』
無言の時間が俺にダイレクトに襲い掛かったが、こんなのまだまだ序の口であった。
~30分後~
「………………(びくぴく)」
『…………ほう』
~60分後~
「………………(ぷるぷる)」
『…………ほほう』
~90分後~
「………………ぐふっ」
『………………ん? どうかしたか童よ?』
帰れよぉ!? 俺は声を大にして言いたかったが、そのポケモンは全く変わらぬ様子で何食わぬ顔で居座っていた。
そう言えば、コイツクラスともなれば数百、数千、数万年――下手すればそれ以上生きている可能性があるため、"いつでも帰れる"というのはすぐ帰るという意味には直結しないことに今更気がつく。
『おい、そいつは弓で倒しやすい敵だろう?』
「アッハイ」
そして、既にゲームの概要を理解したのか、ゲーム内の敵に対してそんな茶々まで入れてくる始末であった。
「…………やりますか?」
そして、気が動転したのか、場の空気に耐えられなかったのか、俺はコントローラーをソイツに渡してみたのである。
『……いいのか?』
するとソイツはそれだけ言って普通にゲームをプレイし始め、最初とは逆の形になった。心なしか、ウキウキした様子でプレイしているようにさえ見える。
それから、ソイツはなんだかんだ。決して帰ろうとはせずに家……もっと言えば俺に居着いてしまう。そして、最初のてもちポケモンに――まあ、てもちというか……すぐ帰れると言ったまま、一向に帰る気配がなく、今の今まで居座り続けているポケモンということが正しい。
ボールには倒れた場合にポケモンセンターに連れていくのに便利という理由をつけて捕獲したとき、一度入った切りで、2度と入った試しがないので、俺にとってサトシのピカチュウに当たるのかもしれない。
「俺はドラキアっていう名前です。あなたは?」
『んー? 心を読む限り、君は知っているだろう? まあ、それでも礼儀として名乗るなら――』
見たままでわかっているということを心を読まれたことに驚いていると、ソレは愉しげに目の端をつり上げながらテレパシーを投げ掛ける。
『――"パルキア"だ。そちは中々面白い中身の童よの……幾久しく頼むぞ?』
俺の1体目のポケモンにして、6体目のてもちはウルトラホールを伝って現れた。どこか、別の次元や平行世界に存在する夢特性の"テレパシー"持ちのパルキアであった。よく考えれば自己紹介のときから居座る気だったのかもしれない。
ちなみに俺のパルキアに自然と格闘技を仕込んだせいで、ただでさえ強かった神様クラスの伝説のポケモンが、誰も手がつけられないレベルまで強くなったのは、島巡りを始める少し前のお話である。
おばあちゃん……あなたが愛して止まない……シンオウ地方の神様とこんな形で奇遇しちゃったよ……。
~ドラキアてもち~
・サーナイト(エスパー/フェアリー)
・ジャラランガ(ドラゴン/かくとう)
・フェローチェ(むし/かくとう)
・ドラミドロ(どく/ドラゴン)
・コモルー(ドラゴン)
・パルキア(みず/ドラゴン)
これをバトルガールと言い張る勇気(てもちを侵食するドラゴン使いの素質)
~QAコーナー~
Q:パルキアがリビングでごろ寝しながらポテチ食ってたのかよ!?
A:プレッシャー(威厳)持ちじゃないからね、仕方ないね。
Q:ワタルさんとドラキアが普通(パルキア抜きで)にポケモンバトルしたらどうなるの?
A:それなりに戦えますが、ワタルさんには流石に負けます。パルキア出したら1体で何も指示を出さずに勝てます(設定通りの禁止伝説級の暴力)