リリカルなのは アナザーダークネス 紫天と夜天の交わるとき   作:観測者と語り部

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〇六人目の仲間と潜む“闇”

 夢の海鳴市。校舎の半壊した屋上で四人の少女は正座させられ、腕を組んで仁王立ちする王に大人しく説教された。

 勘違いから始まった決闘とはいえ、殺し合いに近い戦いを繰り広げたのは事実であり、ディアーチェは戦ったことよりも死闘を繰り広げたことに怒り狂っているようだ。四人は怒りの内容を聞いていて、そう思った。

 

――こやつの存在を明かさなかった我にも落ち度はある。仲間を想って戦ううぬらの気持ちも痛いほどわかる。それでも、それでも万が一にも、うぬらを失ったら我はどうすればいい? 我は……我は、うぬらを、失いたく、ないんよ……?

 

 極めつけにマテリアルの一人でも失う可能性があったことで、親しい人に死なれる可能性に怯えていたのだろう。

 怒りが悲しみに転じて涙を流したディアーチェの姿にシュテルはショックを受けて俯き、レヴィとナハトまで泣き出す始末。

 おかげで一人だけ励ます役割になったアスカは苦労した。

 

 そんなこともあったが、誤解から発生した事態は収拾したのだ。

 今はディアーチェ以外に存在を知らなかったユーリの紹介。

 そして、奇しくもマテリアルズの全員がそろうという出来事が起きたために。アスカの発案した、一度みんなの抱える想いや願いを伝え合って目的を見つめ直すというコミュニケーションを行おうとしているところであった。

 

◇ ◇ ◇

 

 聖祥小学校の教室。

 その一室においてマテリアルズは集い、思い思いの場所に陣取っていた。

 アスカ、ナハト、シュテルはかつての自分の席に座り、レヴィは空と黒板が良く見える窓側の一番後ろの席。

 ディアーチェは場を仕切りたいのか黒板を背にして、教卓の前に陣取っていた。

 

 肝心のユーリはというとクラスの転校生が自己紹介するように、教室の前に立たされて恥ずかしそうに俯いている。

 

 余談だが、この教室は『なのは』たちが通っていた自分のクラス。

 そして、話し合う場所に八神家やバニングス邸、月村の屋敷が選ばれず学校の教室が選ばれた理由は小学校に通えなかったディアーチェの希望だからだ。

 理由は一度だけ学校に通った気分を味わってみたかったらしい。

 もう叶わない願いに一同が沈んでしまい、ディアーチェがフォローするのに苦心したのも記憶に新しい。

 

 話が逸れた。

 

 とにかく恥ずかしげに立つユーリは、身体を子犬のように震わせながら深く頭を下げてお辞儀する。

 

「始めましれッ!? 痛ゥ……ゆ、ユーリ・エーベルヴァインです。よろしくお願いひます」

 

 と同時に名を名乗るユーリだが舌を噛んら。失礼。舌を噛んだようだ。

 ものすごい勢いで顔を真っ赤にしてうつむくユーリに、その場にいる皆は微笑みと優しい眼差しを向ける。

 あれほど敵愾心を抱いていたシュテルとナハトもユーリの雰囲気に呑まれたのか、はたまた王が信用している人物だからか定かではないが心を許しているようだ。

 二人の、特にナハトがユーリを見る目は母性に溢れている。三人娘の中でフォロー役に徹していたおかげか、どうも助けてあげたくなるらしい。

 

 もっとも、その役目はディアーチェがするので彼女は口を出さないが。

 

「これこれ、そう緊張するでない。先のことで色々と思う事もあるかもしれぬが、こやつらはうぬを取って食おうなどと考えてはおらぬ。安心せい」

 

「は、はいぃっ、頑張りますディアーチェ」

 

 それでも、一度緊張すると中々ほぐれないものである。

 ガチガチに固まっているユーリの身体。それを揉み解しても彼女はリラックスしきれず、ううぅと唸っている有様だった。

 これでは話が進まないので、仕方なくディアーチェが代わりに紹介することにした。

 

「自己紹介した通り、こやつはユーリ・エーベルヴァイン。我らマテリアルの主にして、紫天の書の盟主よ。何か質問があるなら手を挙げて述べるがいい」

 

「はいは~い!!」

 

「よかろうレヴィ。何でも質問せい」

 

 王様の問い掛けに、元気よく、勢いよく、真っ先に手を上げるレヴィ。

 身を乗り出している彼女は、勢い余って机から転がり落ちそうなので見ている他のマテリアルは内心、冷や汗ものである。

 もっとも、王様はレヴィの威勢の良さに腕を組んで頷いていた。その顔はとても嬉しそうで、きっと自分の友達を紹介したくてウキウキしているのだろう。

 

「ズバリ、王様とユーリはどっちがえらいの?」

 

「ふむ、難しい質問だな。そうさな、大まかな方針を決めるのは我なのだが、立場上はユーリが上位存在にあたる」

 

「ん~~???」

 

「レヴィ。簡単に言うとディアーチェが戦隊のリーダーで、ユーリが司令官のような偉い人なのです」

 

「ああっ、なるほど!」

 

 ディアーチェの言っている意味が分からず、うんうん頭を悩ませていたレヴィだが、シュテルの助け舟によって納得したように手を叩く。

 朝にやっている子供番組のヒーローもので例えられたディアーチェの内心は複雑で、分かってくれたことを喜んでいいような、変な例え方をされて悩んでしまうような、そんな気分。もっとも、数秒で気を取り直したが。

 

「さて、他に質問は? うぬらは特別だから何でも答えてやるぞ?」

 

 やっぱり、ユーリの存在はみんな気になっているのだろう。

 ディアーチェが促すと全員が一斉に手を挙げた。

 

 純粋にユーリのことを興味津々なレヴィ。

 できるだけ正体や秘めた力の詳細を知りたいシュテル。

 ユーリの好きなモノや嫌いなものなど、当たり障りのない質問をしようとしているアスカ。

 逆にディアーチェとの関係を深いところまで知りたいナハト。

 

 理由はそれぞれだが、仲間となる新しい存在を受け入れるために知ろうとしているのは確かだ。

 仲良くするためには、まず相手のことを知らなければ話にならない。

 それを積極的に行う友人たちの姿を嬉しく想いながら、ディアーチェは微笑んで質問に答えていくのだった。

 

 

シュテルの質問。

――ユーリは、どうしてそんなに膨大な、無尽蔵とも言える魔力を秘めているのですか?

 

――私は永遠結晶エグザミアを体内に内包した。いわゆる永久機関。無限の魔力を生成するロストロギア。紫天の書の動力炉みたいなものです。

 

――なるほど、古来から黄金は錆びずに輝き続けることから永遠を象徴する色と言われてきましたが、貴女の特徴にぴったりですね。見事に黄金尽くしです。それほどの力は何かしらの代償があるはずですが、そこのところはどうなのでしょうか?

 

――確かに私だけでは暴走してあらゆる存在を破壊する化身となるでしょう。でも、ディアーチェが制御して抑えつけてますから大丈夫です。

 

――ああ、つまり貴方たちは切っても切れぬ番いの鳥。おしどり夫婦というわけですか。仲睦まじきことは良いことです。

 

――だれが夫婦かっ! 誰がッ!!

 

――? 王よ、違うのですか?

 

――ディアーチェは私のことが嫌いなのでしょうか……? 悲しいです…………

 

――うぬら……もう良い、好きにせい。夫婦でも、親友でも、妻でも、夫でも何とでも表現するがいい。

 

――だから、ディアーチェは大好きです! この好きはいつだって、何度でも伝えますよ~~。

 

――ぬわぁぁぁぁ!? これ、抱きつくでない! 恥ずかしいではないか!? うぬらも笑って見てないで助けよ!!

 

――やはり、夫婦ですね。末永くお幸せに。

 

――アタシは同性愛なんて気にしないから、お幸せに。砂糖吐きそう……ブラックコーヒー。

 

――なら、アスカちゃんも私と付き合う? 禁断のか・ん・け・い・で。

 

――ブッ!? げほげほっ!

 

――冗談だよ?

 

――冗談に聞こえないわよ!!

 

――王様~~!! ボクも王様のことが、マテリアルのみんなが大好きだぞ~~。

 

――レヴィまで我にしがみつくでないっ、暑苦しいわ!!

 

 

アスカの質問

――まあ、アタシは簡単な質問でいいか。ユーリの好きなものと嫌いなものは何かしら? あとは趣味と得意なモノと苦手なモノ。

 

――質問が多いぞアスカ。これではいっぺんに答えられぬわ。

 

――これくらいは普通でしょ? ひとつひとつ、ゆっくりとでいいから答えてみなさいよ。アンタ、人見知り激しそうだから、それを治す練習だとでも思ってさ。

 

――はいぃ。えっとですね。好きなモノはディアーチェです。

 

――好きなものというより、好きな人ね。次。

 

――嫌いなモノは紫天の書に巣食う闇。あれはいかなる手段を講じてでも滅さなければなりません。そのために私は存在するのです。今は亡き聖王陛下と交わした約束を果たす為に私は……

 

――ユーリ? どうしたのよ?

 

――なんかユーリってば急に性格が変わったね。なんというか、カリスマってヤツが溢れてる?

 

――ッ! 闇の書の闇がまだ巣食っているのですか!? だとしたら『はやて』の病は……んんん~~!!?

 

――これ! 余計なことを言うでないユーリ!! その件は我から話すのだ。ユーリの嫌いなモノは嫌われること、壊すこと、怖い人だ!!

 

――王様、なんでシュテルんの口を塞いでるの?

 

――なんでもない!! なんでもないぞ!? 本当なのだぞ!?

 

――……なんか、アタシはとんでもないことを聞いてしまった気がするわ。

 

――だね。シュテルちゃんの追及が始まるよ。私とアスカちゃんも。

 

――趣味はみんなとお喋りしたいです。それと得意なモノは、好きではありませんが破壊することです。苦手なモノは……怒ったアスカです…………怖いです。

 

――って、アタシかいッ!!

 

――ひえぇぇぇ~~怖いです~~!!

 

――まあまあ、アスカちゃん落ち着いて、ね?

 

 

レヴィの質問

――………………

 

――レヴィ? 何でも質問してよいのだぞ?

 

――……ユーリはさ。

 

――なんですかレヴィ?

 

――何このプレッシャー!? 空気が重いのはアタシの気のせいかしら?

 

――気のせいではありません。レヴィ。アホな子に似合わず、とんでもない質問をするようです。

 

――今、さりげなく酷いこと言ったよねシュテルちゃん。

 

――……アイスは何味が好き?

 

――……バニラです。

 

――ユーリィ! キミは分かってるぅ! アイスの王道が何たるかを、共に道を究めようじゃないか同志!!

 

――はいぃ! 目指すはアイスマスターです! 151種類の味をコンプリートするのです!!

 

――たかが、アイスの質問で威圧感だすんじゃないわよ!! 緊張して損したじゃない!!

 

――何を~~、アスりんキミはアイスの――あれ? 王様、急にボクに抱きついてどしたの?

 

――しばらく、このままでいさせておくれ…………

 

――ん~~変な王様。

 

――(ヴィータの面影が、こんな所で残っているなんてなぁ……)

 

 

ナハトの質問

――私はディアちゃんに答えてもらいたいんだけど、ユーリの禁則事項って、いくつなの?

 

――な、ナハト!? 何を聞いてるんですか!! ッそんなの秘密に……

 

――ああそれはな。禁則事項に自主規制で閲覧不可能だ。

 

――ディアーチェも答えないでください!!!

 

――へぇ、揉みがいがありそうだね。食べていい?

 

――だろう? しかし、ユーリは我の嫁よ。やらんぞ?

 

――……どうせアタシは貧乳なのよ、つるぺたのままなのよ…………

 

――あれぇ、アスりんどうして泣いて、ひゃんっ!! シュテるんなにすんのさぁっ!!

 

――意外とレヴィの胸はおっきいのですね。ふむ、いずれは私も王を喜ばせるような胸を獲得できるのでしょうか?

 

――シュテるん何の話? どうして自分のおっぱいを揉んでるの? アスりんは何で泣いてるの?

 

――レヴィは良い子ですね。でも、知らなくてもいいんですよ。大人の話です。

 

――大人になれば分かるの!?

 

――ええ、大人になれると良いですね。

 

――うん、ボク、がんばるよ!!

 

◇ ◇ ◇

 

 ユーリを中心に真面目な話題、お馬鹿な話、エッチな質問で盛り上がるマテリアル達。

 久しぶりに味わう楽しい時間、心地よい感覚に誰もが一時すべてを忘れて楽しんでいた。

 そう、不意にあらゆる存在を呑み込まんとする無粋な存在が現れるまでは平和な時間を過ごせていたのだ。

 

 気配すらなかった"ソイツ"は楽しい空間にいきなり現れて雰囲気をぶち壊しにする。

 

「えっ? あ、あぁ……なん、で………?」

 

 その存在に初めに気が付いたのはナハト。

 彼女は何かを感じたかと思うと、ソレの正体に気が付いて感情を表す獣耳と尻尾を委縮させてしまう。 

 机にうずくまり、怯えたように震える彼女の顔は蒼白で、呼吸もだんだんと乱れていく。怖くて怖くてたまらない。

 心臓の鼓動が早くなっていって眩暈がして、息をするのも苦しくて吐きそうなくらいだ。

 

「ナハト、どうしたのよ!!」

 

「アスカ! ナハトを抱いて安心させなさい!! 何かが、変です。何かこの教室に潜んでいる?」

 

 そんな様子を見れば誰だって異変に気が付く。

 ナハトに心配そうに駆け寄るアスカは、シュテルの指示を聞いて怯える少女を背中から抱きしめる。強く、強く、存在を感じさせるように。

 

 シュテルは、その利き手に相棒を模した魔杖。ルシフェリオンハートを生成すると周囲を警戒するように身構えた。

 何が潜んでいるのか、そいつの正体と居場所を特定しようと教室の周囲を鋭い視線で見回す。射殺すような視線。それに違わずシュテルは見つけ次第、仲間を害する存在を焼滅させるつもりだ。

 相手を理解することも、弁明の余地すら与えない。仲間を、家族を害する存在は全て敵である。

 

 ディアーチェとユーリは目を閉じて、何かを感じるように集中し、表情を険しくさせていた。恐らく二人は潜んでいるモノの正体を知っている。

 説明しないのは余計な混乱を与えない為か、それともする余裕がないのか。

 

「なになに~~? みんなどうしたの。怖い顔しちゃってさ」

 

 レヴィは何もわかっていないような顔をして、周囲をニコニコと見回していた。

 しかし、顔は天使のように可愛らしい笑顔を浮かべていても、その瞳は一切も笑っていない。恐ろしく冷たい目つきだ。

 現にバルニフィカスをさりげなく握っているのがその証拠。恐らく、敵を見つけたら即座に切り捨てるのは彼女だろう。

 アホみたいに笑っているのは彼女なりに場を和ませるための手段なのだ。

 

 それぞれが独自の判断で教室のあたりを警戒する。

 バラバラに動いて連携すらあったものではないが、ナハトを中心にして自然と防御陣を展開しているあたり、抜け目はない。

 誰が襲われても即座に庇えるようにしている。それほど絆は深く強い。

 

「そこだぁ!!」

 

 そして、即座に切り捨てたのは、やはりレヴィだった。

 いや、潜んでいたモノを発見したといったほうが正しいか。

 バルニフィカスを振るって飛ばした光翼斬。水色の光の鎌、その刃の部分を飛ばす魔法が教室の後ろに設置されたロッカーの扉を粉砕する。

 だが、そこから出て来たモノの正体を視たレヴィは、委縮して尻餅をついてしまう。

 

「な、なに…あれ、うぐッ……」

 

 ロッカーの扉を"入口"という媒介にして出てこようとするソレ。

 あまりにもおぞましく、直視できない、視たくもない存在にレヴィは震えが止まらない。

 気持ち悪い。見たくない。目が離せない。怖い、震えが止まらなくて吐きそう。恐ろしい。誰か助けて。

 そんな思いがレヴィの心を占めて、身体が恐怖で動かなくなってしまった。もはや彼女の戦闘力は皆無に等しい。

 

 一瞬で二人の戦意を損失させる存在。

 

 ソイツは人の形をしていなかった。いや、人ですらない。

 黒い闇。霧のような靄が凝縮してできた存在に見える。底知れぬ暗い闇。

 偽りとはいえ、窓から差し込む夕日の光。それを反射すらせずに呑みこむ様は、まさに暗黒天体(ブラックホール)だ。

 

 シュテルは"闇"を見据えて、視線を逸らさない。

 彼女は既に耐性がある。この程度の絶望で屈したりはしない。何があっても自身の存在が滅するまで戦うことをやめないだろう。

 レヴィを庇うように前に立ち、ルシフェリオンを構えていつでも眼前の敵を滅殺できるように準備は怠らない。

 なにより、シュテルは"闇"に借りがあるのだ。ここで何倍にもして返せると思うと、胸の内から闘争心が湧いて身体を奮い立たせる。

 

「久しぶりですね。さっきは貴様のおかげで私もナハトも酷い目に遭いましたよ。おまけに大切な仲間を勘違いして傷つけた。我ながら最悪です。だというのに、また、仲間を怯えさせて苦しめるとは。今度こそ跡形もなく灼き……王様?」

 

「さがっておれ。こやつは我が滅する。なにより攻撃魔法ではコイツは退けられぬ。何度も再生してしつこく襲ってくるぞ」

 

 そんなシュテルを制止したのはディアーチェだった。シュテルの肩を掴んで優しく後ろに下がらせる王。

 彼女は普段しまっている闇色の翼を背中から六翼生やすと、溢れ出てくる闇に向けて右手を向ける。

 

「今は亡きリインフォース。我が身に力を託して消えた祝福の風よ。どうか力を貸してほしい、闇を退ける力を」

 

 謳うように言葉を紡ぐディアーチェ。言葉は旋律となり、音は歌となって教室に響く。

 シュテルを遥かに凌駕する。それこそユーリと同等の魔力がディアーチェの内から湧き上がり、魔法を作り上げていく。

 足元に紫黒のベルカ式魔法陣が広がり、紫黒の光の粒子が周囲を漂うように舞った。

 まるで黒い雪のように見える幻想的な光景。だが、シュテルは謳うディアーチェの声に心を奪われていた。

 

 彼女の謳う声は美しく、どこか悲しい。まるで泣きながら子守唄歌っているようで、誰かを想って泣いているように聞こえて、聞いてるシュテルまで悲しくなる。切なくてたまらなくなる。

 ふと、ディアーチェが謳うのはやめた。どうやら魔法が完成したようだ。

 

「失せろ、紫天の書に巣食う闇め。我が生きているうちは貴様らの思い通りにはさせん。疾く消え失せるがいい。干渉制御プログラム起動。対象を紫天の書のバクとして抹消する」

 

 放たれた魔法が無数の白い光となって這い出る闇に群がると、その姿を跡形もなく消し去ってしまった。

 それを確認するとディアーチェは翼を収めて、魔力を静める。

 だが、シュテルが何か聞きたそうにディアーチェを見ていて、だから、優しく微笑んでシュテルの頭を撫でた。

 

「別に頭をなでて欲しいわけではありませんよディアーチェ」

 

「ふっ、案ずるなシュテルよ。ちゃんと全てを説明してやる。その前に皆を安心させねばならぬであろう?」

 

 そう言って微笑む、どこか決意を秘めたディアーチェ。

 けれど、どこか無理をしているような、何かを騙そうと必死になっているような表情にシュテルは不安になるしかなかった。

 

 


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