リリカルなのは アナザーダークネス 紫天と夜天の交わるとき   作:観測者と語り部

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●三頁 シュテルちゃん、二人を止めてください ナハトより

 日の当たる時間は灼熱地獄と化し、月が照らす時間は極寒地獄と化す、砂漠と荒野が支配した無人世界。そこで一匹の百足龍が地に倒れ伏した。

 

 ただし、その姿は遥かに巨大。どれくらいかと言うと倒れた際に大地震のような、地響きを起こす程の巨体を持つ、と言えば大きさが想像できるだろうか? 都市に存在する高層ビルに軽く巻きつくことが出来そうだった。

 

 それに、地球の一軒家を丸呑みにできそうな口に、無数の丸太のような脚。眼はなく、鞭のようにしなる触覚を持つ。

 その巨体ゆえにアスカは龍のような百足を略して百足龍と呼んでいた。

 この世界に来てから遭遇した数ある巨体生物の一種だ。

 

「すごいぞっ、強いぞっ、カッコいい! そう、やっぱり、ボクさいきょう!!」

 

 そんな百足龍の頭に極光斬を叩き込んで気絶させたレヴィは百足龍の頭の上ではしゃぎ、バルニフィカスを両手で掲げ、勝利のポーズをとっていた。だから、アスカはレヴィを恨めしげに睨みながら、身体を縛り付けていた触手を力任せに振りほどく。

 

 その際、幼い身体に纏わりついた粘液やら、汗やらが飛び散ったが、アスカは気にしない。

 お気に入りのバリアジャケットが所々溶けて、素肌の部分を灼熱の日差しが焼いても、アスカは気にしない。

 

 そんな事が些末に感じるくらいアスカは怒っているから。闇を凝縮したような瞳は細まり、竜種のような縦長の形に変化していた。

 身体中からは魔力がオーラのように溢れ出し、アスカの周囲が陽炎のように揺らめく。

 腰にある鞘から抜き放たれた紅火丸の白銀に輝く刀身は、紅蓮の炎に包まれて凄まじい熱気を放っていた。

 まるで、主の怒りに呼応するかのように、紅火丸は猛々しく炎を纏ったのだ。

 アスカは、背中からも紅く輝く炎を吹き出すと、蝶のような大きな四枚の翼が形成される。

 

「はぁ~、まただよ」

 

 傷ついたアスカに治癒魔法をかけていたナハトは、アスカの隣から離れた。これから起こるであろう惨事に巻き込まれたら、ただでは済まないから。

 後の事後処理を行うためにもナハトは倒れる訳にはいかない。

 

 小さな隔離結界を周囲に張りつつナハトは静かに距離を取る。

 もちろん、アスカは怪我をしているので治癒魔法の行使は止めない。両の手からアスカに向けて蒼紫の魔力光を放出、遠距離からアスカの怪我を回復させる。

 

(耳は塞いでおこう。この獣耳は聞こえすぎちゃうから……)

 

 これから、辺り一帯が喧騒に包まれることを想像したナハトは、髪留めに使っていたカチューシャで獣耳を塞ぐ。

 あとは、様子見に徹するとして、頃合いをみて止めるしかないだろう。

 

 怒り狂ったアスカを止めるのは、それこそ、シュテルでなければ不可能だ。ナハトが止めに入るには実力が足りない。彼女の気が済むまで見ているしか方法がないのだ。

 

 アスカはゆっくりと、はしゃぎ続けるレヴィの近くまで一歩、一歩、歩み寄る。

 そして、大きく息を吸い込むと火山が噴火する如きの怒声をあげた。

 

「このッ、バカッ、レヴィィィィーー!! アタシを殺す気かァァァァッ!」

 

「うひゃああああああっ!」

 

 叫び声と共に放出された魔力は炎熱変換され、爆風となって砂漠の砂を吹き飛ばす。

 ナハトはシールドで防いだが、自分の世界ではしゃいでいたレヴィは爆風に吹き飛ばされ、気絶した百足龍の巨体から転がり落ちてしまう。

 アスカの発した爆風と、レヴィが柔らかい砂山の上に叩きつけられたことで、 砂塵が撒きあがり。思わずナハトは砂が目に入らない様に、目を閉じた。

 

 身体に砂が降りかかり、流れていた汗で濡れた部分に砂がまとわりついて鬱陶しい。

 元はそれなりのお嬢様だったナハトとしては、早く帰って、見つけたオアシスで汗を流したいと思うが、怒り狂うアスカと巻き込まれたレヴィは、そんな事を考える余裕はないだろう。

 

 こんな爆風を受けてビクともせず、気絶したままの百足龍は呑気なのか、目覚めないくらいダメージが大きいのか……

 

 なんとか、ふらつきながらも、バルニフィカスで身体を支えて立ち上がるレヴィだが、その表情は困惑している。

 レヴィがアスカを見やると彼女は般若のような顔をしており、思わず身震いした。

 とりあえず、レヴィはアスカの怒っている理由を聞いてみる。

 

「……ねぇ、アスりん。どうして、その、怒ってるの?」

 

「誰がアスりんか! 誰が! アタシは半分が優しさで出来た薬じゃないわよッ! それに、アタシが怒った理由がアンタは分からんのか!」

 

「ヒィッ!、だ、だってホントに分かんないんだもんっ………」

 

 レヴィの答えに、本当に理由が分かっていない様子を察したアスカは燃え上がる熱気を消した。

 魔力の放出を抑えたのだ。

 

 どうやら、レヴィの様子に呆れてしまい、少しだけ怒りの溜飲が下がったらしい。

 しかし、だからと言ってアスカの怒りが完全に収まったわけではない。

 レヴィが理由を理解していないなら、説明すればいい話だ。

 

「アタシが怒っている理由わね!? アンタがアタシを巻き込んで極光斬なんか放つからよ!」

 

「でも、当ててないよ?」

 

「ナハトが触手の拘束から助けてくれたからよ! だいたい、アタシ達の魔法の練習なのに、どうしてアンタはいっつも割り込んで来るのよ!」

 

「だって、つまんないんだもん。ボクだってもっと遊びたい」

 

「遊ぶな! こっちは命かけてんのよ!!」

 

 しかし、一度は収めた熱気をアスカは再び放出し始めた。

 ここ、数日。アスカとレヴィはこんな感じで戦闘後に口喧嘩する。

 どうやら、アスカはレヴィと喋っていると無意識にヒートアップしてしまうらしい。

 

 そんな様子をナハトは静かに眺める。

 アスカ本人は気が付いていないが、彼女の怪我は治癒魔法によって、ある程度は回復している。

 だから今は結界の維持に全力を尽くしていた。

 この様子ならいつものように修羅場と発展するだろう。

 

「だいたい、アンタは………」

 

「ボクだって、悪気は………」

 

「でも、二人とも本当に仲いいなぁ」

 

 呆れながらもナハトは二人が口論する様子を楽しそうに見ていた。

 喧嘩するほど仲が良いとはよく言うし、大事にならないのであれば放っておいても良いだろう。

 

 親友でありながら義理の姉妹でもあった二人は、何かと衝突していたのをナハトはよく知っている。

 主にレヴィが周囲を振り回して、アスカがそれを嗜める関係で、生まれ変わる前はアスカがよくお説教をしていたものだ。

 ナハトとシュテルでそれを眺めていて、頃合いを見てアスカを諌めていたのも良い思い出である。

 

「だから、アスカお姉ちゃ~~~ん!?」

 

「もういいっ! うるさいっ、うるさいっ、うるさいっ!!!」

 

 そんなことを考えているうちにアスカの怒りは頂点に達した様子である。

 

「紅火丸!」

 

『承知!』

 

「げっ、やばい、アスりんがマジ切れした」

 

「今日という今日こそ、アンタを真面目に更生させてやるんだから!!」

 

 アスカが自身の刀型デバイス、紅火丸を振り上げる。

 刀の柄を握る右手は青筋が立ち、彼女の心境を分かりやすく表している。

 レヴィはただ、ただ、怯え、逃げるしかなかった。

 まるで、修羅のような出で立ちの今のアスカに立ち向かって勝てる気がしない。というか妹として勝てたことは一度もない。

 

「そこに直りなさい!! 反省するまでお尻を叩いてやるわっ!」

 

「ばっ、バルニフィカス! スプライトフォームセットアップしてぇぇぇ~~!」

 

 デバイスの刀身や、背中から噴出した炎の翼。そこから紅蓮の炎を撒き散らして近づいてくるアスカに、レヴィは本気で逃げた。スプライトフォームを起動して、ナハトの結界で閉じられた空間を必死に逃げ惑う。

 

 一方、アスカは周囲の被害を気にせずにレヴィを追いかける。あまりのスピード差でも彼女はレヴィがバテて疲れ果てるまで追いかけるつもりのようだ。もっとも、彼女も全力を出しているため同じようにバテるのだが、アスカは微塵も気にしていない。

 

 こういったやり取りも、マテリアルとして生まれ変わる前はよくやっていた。アスカは怒りながらも何だかんだで楽しいのだと思う。昔と同じように稽古を逃げ出したレヴィを、姉であるアスカが追いかける。彼女はそれを思い出しているのかもしれない。

 

 ただし、追いかけられる側のレヴィは涙目だったが。

 

「待ちなさい!レヴィッ!! 今日こそ引っ叩いてやるんだから!」

 

 両手で紅火丸を肩に掲げるように振り上げたアスカが、結界の壁に遮られて、あたふたするレヴィに迫り、刀の峰の部分を向けて振り下ろした。

 それを寸での所で身を横に逸らして交わすレヴィ。彼女はアスカの鬼のように形相を見て、昔のことを思い出したのか怯えている。避けた時には無意識に両手で身体を抱き締めていた。

 

 本気で怒られた時のお説教フルコースはレヴィを恐れさせるには充分だったようだ。まずお尻を叩かれてから、何時間も正座させられて、ずっと叱られ続けるのはこりごりらしい。

 

 当時の事を思い出してあまりの恐ろしさに身体を震わせながら、レヴィは大振りの攻撃で硬直しているアスカの隙をついて、結界の反対側まで瞬間移動のように飛翔する。が、アスカはそれを逃がすまいと、鬼気迫る勢いでレヴィを追いかけていく。

 

 義姉として義妹をちゃんと躾けなければならない。そういった責任感が強いアスカは執念深かった。

 

「うわぁぁ! 来ないでアスカぁぁぁ~~! 辺りが火の海にッ! 空と大地が燃えてる~~~!!」

 

「誰が貧乳かぁぁぁーーー!」

 

「そんなこと言ってないよっ! 誤解だってばっ!」

 

「五回攻撃してほしいんなら! 五枚降ろしにしてやるわよッッ!!」

 

「ひぇッ! ひぇぇぇぇ~~~!!」

 

 水色の線が雷光の如く迸り。紅蓮の炎がそれを追いかけるように駆け抜ける。そんな空の光景をナハトはのんびり眺めていた。

 水色と紅蓮の光の線が空に模様を描き、飛び散る炎は花火のように綺麗だ。

 さすがに、飛び散った炎が百足龍に降りかかれば、気絶から目覚めてしまうので、防護魔法で覆って降りかからない様に防いだが。

 

「今日も平和だなぁ」

 

◇ ◇ ◇

 

 ナハトは初めてこの世界に来た時の光景を思い出す。

 あの時は本当に驚いたもので、色々とありすぎて困った1日だった。

 転移を終えたレヴィたちは、まず、余りの暑さに目眩がした。

 

「あつい! ここは地獄なのか、ボクらは間違って地獄に転移したのか!?」

 

「そんなわけあるか!」

 

「ううぅ、バテちゃうよ……」

 

 辺り一面が砂漠の世界で、彼女たちはバリアジャケットの温度調節機能を使い、体感温度を常温に保つ。

 この時程、三人の少女たちはバリアジャケットに感謝したことはなかった。

 

「それじゃあ、私たちの目的を果たそうか」

 

 ナハトの言葉に首を傾げたのはレヴィ。

 端から見れば可愛らしい様子だが、アスカはレヴィの様子に気が付いて呆れるしかなかった。

 

「目的って何だっけ?」

 

「アンタねぇ、アタシ達はこのクソ熱い砂漠で訓練しに来たんでしょうが、ちゃんと人の話を聞いてなさいよ」

 

「そうだ!忘れてた!」

 

「忘れんな!」

 

「この先、大丈夫かなぁ………」

 

 レヴィの天然ボケに突っ込むアスカ。

 自身のパートナーのアホっぷりにナハトは不安になるしかなかった。

 

 この世界に来てから数時間後、レヴィ達は拠点となる場所を荒野の洞窟内に構築する。

 もっとも、拠点といっても洞窟内に結界魔法を展開しただけの寝泊まりする場所でしかないが、何もないよりマシである。

 

 そこで、アスカとナハトはレヴィから魔法の講義を受けていた。

 

「まず、キミたち二人は魔法の体系は知ってる?」

 

「そんなの簡単じゃないベルカ式と………」

 

「ミッドチルダ式だよね」

 

「うん! 正解だよ」

 

 二人の答えに満足そうに頷くレヴィ。

 これは、魔法を知る者なら知っていて当然の知識。知らなかったら恥をかくレベルの常識だ。

 しかし、魔法に触れたばかりの二人は知らない事も多いため、確認の為に簡単な事から始めていく。

 何事も基礎は大事である。

 

「じゃあミッドチルダ式とベルカ式の違いは何でしょう?」

 

 簡単な問題から、少し難しい問題にレベルをあげて質問する。

 今回は少々間違いやすい問題だ。

 

「えっと、ベルカ式が近接戦闘を重視した魔法体系だったかな?」

 

 レヴィの質問に答えたのはアスカ。

 だが、声音には自信がなく、やや疑問系だった。

 アスカがレヴィの顔を見やれば、やっぱり間違えたか~と呟きながら、右手で顔を覆っている。

 その様子からアスカは自分の答えが間違ってたいるのだと気が付いて、顔が羞恥で赤くなった。

 

「アスカの答えは正しくもあるけど、間違ってもいる」

 

「どういう事?」

 

 レヴィの天の邪鬼のような答えに、アスカの頭は混乱しつつも答えを聞く。

 レヴィは一つ頷くとベルカ式の特徴を、身振り手振り交えながら、二人に教えてくれた。

 

「ベルカ式の魔法を一言で言い表すのなら圧縮魔法なんだ」

 

「圧縮魔法?」

 

「そう、魔力をデバイスに圧縮させて相手に一撃必殺の攻撃を叩き込む。ベルカ式が近接戦闘を得意としているのは魔力の圧縮を持続させやすいから、遠距離戦闘だと、どうしても圧縮した魔力は減衰するからね。ただ、特殊な加工を施した矢に圧縮した魔力を溜めて放つとか、工夫次第で遠距離戦も可能だよ」

 

「なるほど、だからベルカ式魔法は、より魔力を圧縮する為に、カートリッジシステムを生み出したのね」

 

「その通り。ついでにアームドデバイスの強度が高いのは、近接戦闘によるデバイスの消耗対策と、多くの魔力を圧縮しても壊れないようにするため。これがベルカ式の特徴さ」

 

「魔力圧縮……か、難しいの?」

 

「難しいよ? ベルカ式が衰退した最大の原因が魔力圧縮の難しさにあるから、ヘタな人がやると魔力を抑えきれなくて暴発とかするし」

 

「成る程………」

 

 レヴィの講義に納得した様子で頷くアスカ。彼女は両腕を組むと考え事を始めた。

 今、彼女の頭の中では無数の魔法プログラムが構築されているのだろう。

 

 アスカが自分の世界に没入した様子を見て、レヴィは肩をすくめると、ナハトの方を見る。

 彼女は微笑みながら、真剣に話を聞いていたのだろう。

 顔は笑っているが、雰囲気は至って真面目で真剣な様子。

 

 たぶん、ナハトも魔法を自分の物にしようとしている。だから、ひとつでも多くの知識を取り込もうと必死なのだろう。

 レヴィはナハトの様子に気圧されながらも、次の質問をした。

 

「そっ、それじゃあナハトはミッドチルダ式の特徴がわかるかな?」

 

 レヴィは若干、声が震えながらもナハトに問いかけると、彼女は威圧感を和らげながら答えた。

 

「えっと、あらゆる種類の魔法を備えた汎用性の高い魔法体系だよね」

 

「うん、正解だ」

 

 ナハトの答えに満足げに頷くとレヴィは再び、アスカを見た。彼女はまだ自分の世界に没入しており還ってくる様子はない。

 仕方なくレヴィは注意する事にした。

 魔法の構築も大事だが、今から話す事も大事な事だ。

 きちんと、講義の話を聞いておいてほしかった。

 

「アスカ、アスカ!ちゃんと話を聞いてる!?」

 

「えっ!?ああ、ごめんなさい、何の話?」

 

「もう、今からミッドチルダ式魔法の特徴を話すから、ちゃんと聞かないとボク怒るよ?」

 

「ごめん………」

 

(驚いた。あのアスカお姉ちゃんが素直に謝るなんてビックリだよ)

 

 珍しく素直に謝るアスカにレヴィは内心で驚きながら、咳払いひとつすると話を続ける。

 

「じゃあ説明するね、ミッドチルダ式の魔法は一言で言えば放出魔法と言えるね」

 

「放出魔法?」

 

 可愛らしく首を傾げながら訪ねるナハトの疑問に、レヴィは頷くとミッドチルダ式魔法について詳しく解説する。

 

「うん、放出魔法。ミッドチルダ式魔法が射撃主体の理由だよ。ベルカ式の魔力圧縮と違って魔力を放出するなら簡単さ。魔法を使える程のリンカーコアを持つ人なら誰だって出来る。電刃衝!」

 

 叫ぶと同時にレヴィはデバイスなしで魔法を発動させる。

 右手を上げて、掌から水色の魔力スフィアを生成すると、雷撃を纏った射撃魔法はレヴィの隣にある大岩を綺麗に両断した。

 

「とっ、こんな風にデバイスなしでも簡単に射撃魔法が使える………、あれ?みんなどうしたの?」

 

 解説を続けようとしたレヴィは二人を見て戸惑った。

 二人とも呆けた様子で切断された大岩を見ていたからだ。

 

「レヴィちゃん凄い……」

 

「熟練者になると魔法も桁違いなのね………」

 

「おーい?二人とも??ん?、いきなり魔法を発動したから驚いたのかな?」

 

 二人の言葉は自分を褒めていることに気が付かないレヴィ。

 結局、三人とも数分ほど固まったまま時が過ぎた。

 

◇ ◇ ◇

 

 数分後、三人は気を取り直して講義に戻る。

 先ほどの数分が良い休憩時間になったのか、講義を受ける二人は集中力があがっていた。

 

「さて、ミッドチルダ式がなぜ汎用性に優れているか説明するよ。さっき説明した魔力放出を応用して、ある運用方法が考案されたからなんだ」

 

「ある運用方法?」

 

 ナハトの疑問にレヴィは頷くとバルニフィカスからプログラムデータを公開する。

 空間に表示されたミッドチルダの文字列はパソコンのプログラムに似ていた。

 

「あらかじめデバイスにプログラムを保存しておいて、使う時にプログラムに対して魔力を通し、術式を発動する使い方。こうする事で様々な効果を持った魔法が簡単に発動するようになった」

 

「あれ? でもベルカ式でも同じ方法を使っているよね」

 

「うん、でも最初に発見したミッドチルダ式と違ってベルカ式の術式はやや遅れてた。優れた使い手でもないかぎり補助魔法は数段劣ってしまう。効果は高いけど汎用性にすぐれなくて、誰でも気軽に扱えなかったんだね」

 

「そうなんだ」

 

「とにかく、この方法によってミッドチルダ式は多種多様な種類の魔法を使えるようになった。射撃、砲撃、収束、バインド、転移、幻術、ブースト魔法がね。そして、ミッドチルダ式魔法に合わせて、デバイスも処理能力と記憶容量拡大の方向性に進化した。それがストレージデバイスやインテリジェントデバイスさ」

 

 レヴィは大き伸びをすると、息をついた。

 ここまでしゃべり続けたし、何より同じ姿勢は疲れが溜まる。

 アスカやナハトも立ち上がって身体をほぐしていた

 

「少し長時間の休憩をとったあと二人の魔法を考えてみようか。そしたら今日は休んで明日、模擬戦ね」

 

「ホントに!レヴィちゃん!!」

 

「ほっ、本当だよ?」

 

 レヴィの言葉にナハトは目を輝かせてレヴィを見た。突然のナハトの行動に驚きつつもレヴィは頷くしかない。

 その様子を見てアスカは苦笑するしかなかった。ナハトは生前、姉を手伝う為に機械工学を学んでいた。その関係で魔法のプログラムに興味があるのだろう。

 

(しかし、今日のレヴィはやけに頭が良くて、饒舌だったわね。どうして普段はアホの子なのかしら?)

 

 ふと、今日のレヴィの様子に疑問に思ったアスカは、気になって本人に聞いてみることにした。

 

「ねぇ、レヴィ」

 

「なあに、アスカ?」

 

「今日はやけに博識だったじゃない?どうして普段からそうしないの」

 

「むぅ~、なんだか馬鹿にされた気がする」

 

 アスカの言葉に可愛らしく頬を膨らませて不機嫌になるレヴィ。

 そんな様子のレヴィにアスカは苦笑した。

 

「ごめん、ごめん。でもあの知識をどこで覚えたのかは気になるじゃない」

 

「ああ、それはねアスカ」

 

「それは?」

 

 アスカは今日の講義で魔法の知識を披露したレヴィを尊敬していた。アスカは魔法の事については素人同然で、だからこそ優れた知識と魔法の技術を持つレヴィを、この時だけは敬っていた。

 

 しかし、アスカの幻想は次のレヴィの一言で打ち砕かれる。

 

「全部、紫天の書の受け売りだよ。あんな難しい話ボクが知ってるわけないじゃないか」

 

「アンタは……アンタは……!」

 

「ん?どうしたのアスカ?」

 

「アタシの感動を返せ! 少しでもアンタを尊敬したアタシがバカみたいじゃない!」

 

「なんで~~~!!」

 

 魔力で生成されたハリセンを右手にレヴィを追いかけ回すアスカ。

 レヴィは涙目になりながら洞窟内を、追いかけてくるアスカから逃げ回った。

 その様子を見ながらナハトはこう呟く。

 

「正直に言わなければあんな目にあわないのに、どうしてばらしちゃうんだろう」

 

「こら~~! おとなしく捕まりなさい! そして逃げるなっ!」

 

「ボクが何をしたって言うのさぁぁぁ~~~」

 

「でも、正直で素直な所がレヴィちゃんの良さだよね」

 

それから二人の追いかけっこは、魔法プログラムの構築をやりたいナハトによって止められるまで続いた。

 


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