リリカルなのは アナザーダークネス 紫天と夜天の交わるとき   作:観測者と語り部

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夏祭りの後に

 その日、海鳴の町は活気に満ち溢れた喧騒に包まれていた。

 独特の和笛の音が鳴り響き、和太鼓の心地よい音色が騒がしさを助長するように響き渡る。人々は、その音に惹かれるようにして町の広場に設けられた会場を目指す。それを迎える多くの屋台が客を引き寄せようと躍起になっている。

 

 そんな騒がしい広場の中にあって、なのは達は楽しそうに祭の中を歩き回っていた。今宵の日に着飾る浴衣は色取り取りであり、赤、蒼、水色、橙、若草、黒、黄色、薄桃とそれぞれの個性に合わせた布地が歩くたびに揺れていて。一部には装飾された紫陽花や桜などの花の柄がとても綺麗である。

 

 しかし、何人かは着慣れていないのか袖や襟元を頻りに気にしている様子。桃色の髪を一纏めに結ったシグナムや、この日の為に赤毛の髪を解いて、丁寧に結い降ろしているヴィータなどは特に戸惑っていた。

 

「浴衣という民族衣装は何と言うか、その、不思議な着心地だな」

「なんだか、袖がスースーします」

「あたしは草履がちょっと苦手だ。歩き辛いし」

 

 ザフィーラ以外の三人がそれぞれ感想を口にする。シグナムは着つけのように引締められた帯と、それによって強調された胸元を気にし。シャマルは広い袖口に手を突っ込んでもぞもぞする。ヴィータは歩きなれておらず、脱げそうになる草履で緊張し、たまに転びそうになっていた。

 

 はやての誕生日に現れた守護騎士一同。当然、先の海開きのように水着も持っていなければ、彼女達の浴衣などある筈もない。せっかくの夏祭りなんだし、家族皆で浴衣が着たいというはやての願いを叶えたのは、やっぱりバニングス家と月村の両家だった。

 

 特にバニングスは元は外国に住んで居た一族だというのに、倉庫から日本由来の民族衣装が出るわ出るわ。浴衣を初めとして、振袖から十二単衣。さらには戦国時代の甲冑と武具一式まで揃えているときた。もちろん展示用の物が殆どだが、本家で働く執事、メイドの全員に行き渡らせるくらいには浴衣のストックがあるらしい。何でも父親が密かな日本マニアだとか、アリサがため息交じりに教えてくれた。日本に移住しているのも、それが理由らしい。

 

 という訳ではやての願いを叶える為に、八神家全員分の浴衣を余り物から仕立て直し、それをプレゼントしたという逸話があるが、それはまた別の話。当然、申し訳ない気持ちと遠慮がちなはやてが断ろうとして、強引に押し付けられたのも想像に難くないだろう。

 

 人の好意を無視すんなっ、とはアリサの談である。

 

 そして娘から嬉しそうに祭りに行くという話を聞いて、密かに妻の桃子が使っていた浴衣を仕立て直し、娘に贈ったという士郎の苦労も余談ではある。

 

 祭りの前日。顔も合わせず、ぶっきらぼうな態度で折りたたまれた浴衣を差しだす父に、なのはは困惑したとかなんとか。そして当日に浴衣姿を披露してくれた娘の姿に、不覚にも桃子と重ねてしまい。泣きそうになって、そそくさと庭の縁側に逃げだした士郎の話も余談である。

 

 今頃、彼は祭の喧騒を聞きながら縁側で緑茶でも飲んでいるのだろう。いつもの胴着、袴姿で打ち上がる花火を見上げるつもりの彼は、一体どういう心境をしているのだろうか。その隣に居てくれるはずの愛する人もなく。楽しいはずの祭りも過ぎ去った過去を思い起こさせる一因でしかない。愛する妻と過ごした一夏の思い出。家族と一緒に過ごすはずだった夏の思い出。一人寂しく黄昏る彼が、娘と祭に出掛ける日は訪れるのだろうか。

 

 そう考え、父を想うと自分も寂しくなってしまい。来年は父も誘ってみようと密かに決意し、一人頷くなのはだった。

 

「さて、ようやく祭りの会場に着いた事だし、はやて。何処か行きたいとこはある?」

「広場の真ん中で盆踊りをやってるんやろ? それも見て見たいし、でも屋台でたこ焼きとかも買って食べ歩きたいなぁ」

「それなら、色んな種類の食べ物を買い歩きながら、皆でお裾分けすればいいよ」

 

 アリサの提案にう~んと、迷いながら希望を口にするはやて。色々とありすぎて悩んでいる様子。

 それなら全部網羅する勢いで、会場全体を渡り歩けばいいよ。とは、すずかの提案。資金も、花火までの時間も余裕がある。

 

「ボク、かき氷食べたい。ブルーハワイ」

「あたし、いちごシロップな」

「わふ、わふ」

「アルフは串焼きだって」

 

 途端、横から口を出すのはお子様組のヴィータとアリシアだ。すっかりはやての料理に胃を掴まされた二人は、食い意地が張っている。

 ついでに仔犬姿でアリシアの腕に抱かれているアルフも食い意地が張っている。

 

 二人と一匹は瞳を星のように輝かせて、口から涎を垂らしそうな勢いだ。おまけに祭の喧騒に当てられたのだろう。初めてという事もあって、かなり興奮している。アリサやシグナムが抑えなければ、今にも祭会場に飛び出して行って迷子になりそうだった。

 

「はいはい。屋台は逃げないから、そうせっかちになんな。今日の主役ははやてなんだから」

 

 水色の浴衣姿になった自らの妹の襟を掴んで制しながらも、アリサは視線でなのはやシグナム達にそれでよいかと伺う。返ってくるのは静かな肯定。守護騎士は主に合せるのが基本だし、なのはも皆の後に付いて行くつもりらしい。

 

「じゃあ、アタシはたこ焼きの確保。すずかは人数分の焼きそばをお願い。花火を見る時に食べるやつね。なのははヴィータとアリシアの面倒を見て、ついでにかき氷を買ってあげて。何? シャマルは大判焼きが食べたい? じゃあ、シグナムと一緒に並んで買って来なさい。アンタ達はその後、荷物持ちで活躍してもらうから。その後は会場の中央で合流しましょ。くれぐれも迷子になるんじゃないわよ?  あっ、はやてはアタシと一緒に行動ね。すずかはザフィーラを連れてきなさい。それじゃあ行動開始」

 

 アリサはてきぱきと全員に指示を下しながら、自身もたこ焼き屋の屋台の前に並んだ。勿論、はやての乗った車椅子を押すのも忘れない。

 

 ちらりと横を見やれば隣の屋台は焼きそば屋なのか、夜の星空を想像させる浴衣を着こんだすずかがいる。彼女はアリサの視線に気が付くと、微笑んで小さく手を振った。行列に並ぶの大変だけど、頑張ってね。何となくそう言っている気がして、アリサはとりあえずサムズアップしておいた。

 

「う~ん、おいしそうな、ええ匂いやなぁ」

「昼から何も食べてないんだから、お腹がすいて仕方がないものね」

「でも、甘い物は別腹なんよ? 初めての祭りやし、一度リンゴ飴も食べてみたいなぁなんて」

「分かったわ。後でそっちも確保ね」

「よっしゃ、リンゴ飴ゲットや! でも、お代はちゃんと出すから安心してなぁ」

「何言ってるのよ。アタシのおごりに決まっているでしょ。というより奢らせろ」

「アリサちゃん男前や。あまりの懐の深さに姉御って呼んでしまいそうやね。でも、やっぱり……」

「ストップ。はやてはリンゴ飴がプレゼントされて嬉しい。アタシもはやての喜ぶ顔が見れて嬉しい。それで良いじゃない」

「……かなわんなぁ」

 

 はやてと二人でそんなやり取りをしながらも、アリサは屋台のおっちゃんに頼んで、たこ焼きを三つ購入。

 透明な容器に入れられたたこ焼きを、レジ袋に包んでもらい、アリサは腕にぶら下げた。

 

「じゃあ、次はリンゴ飴。大きい奴より小さい方がオススメね」

「その理由はどうしてなん?」

「えっと、恥ずかしい話なんだけど。昔、大きいリンゴ飴を買って食べきれなかったのよ」

「あはは……初めて味噌汁作った時、作りすぎて食べきれない。そんな、ヘマしたのをを思い出したわ」

 

 楽しそうに話しながら、はやてとアリサは街行く人々をかき分けて次の屋台に向かう。

 

 

 

 一方で、なのは組はかき氷を抱えながら足を止めていた。何を隠そう、好奇心旺盛のアリシアが興味津々である場所に駆けていってしまったからだ。

 それは射的や金魚すくいといった遊戯コーナーが集中する屋台だった。景品や楽しそうな遊びに多くの子供達が集まっている場所である。

 

「まったく、アリシアのバカは何やってんだよ。アタシらを置いて先に行くなっつうの。迷子になったらどうすんだ」

「すいません。わたしが面倒見なければならないのに。ちょっと目を離したら遠くへ行ってしまいました」

「別に、なのはが謝る必要はねぇだろ? 屋台で買い物を済ませている時にいなくなるアイツが悪い。でも、迷子になってたらどうすりゃいいんだ?」

「その時は中央広場で迷子の放送をしてもらいましょう」

「あの、でっけぇ櫓が立ててある場所だよ、な――」

 

 人込みに紛れていなくなってしまったアリシアを追いかける二人。どう対処しようかと相談しながら人の列をかき分けて進む中で、ふとヴィータが足を止めた。

 

「どうしました。ヴィータ」

「………えっと、何でもねぇよ」

「そうですか」

 

 どこか恥ずかしそうに、でも少しだけ高揚した様子でそっぽを向くヴィータ。その姿に何でもない筈がないだろうと思い、そっとヴィータの向いていた視線の先を見やれば。

 

「あぁ、成る程」

 

 そこにはヴィータくらいの子供が抱き抱えられそうな人形があった。のろいうさぎと呼ばれるちょっと不気味な兎の人形。八神家に何度か遊びに行くうちに、はやてとヴィータの寝所に飾ってあったのを思い出す。景品より少し小さめのサイズだったが、確かにアレと同じのろいうさぎだったはずだ。

 

 きっとヴィータは、あの景品を一目見て、欲しいなと思ったに違いない。だけど、射的屋に挑戦する子供たちの惨敗ぶりを見て、きっと取れないだろうと諦めてしまったのだろう。ゲームの景品は儲ける為に簡単に取れはしない。子供の夢をぶち壊す悲しい話である。

 

「ちょっと遊んできますね」

「あっ、おい!」

 

 そこまで思い云った少女の行動は早いものだった。まるで散歩に行くような気軽さで射的屋に向かうと、驚くヴィータを余所に五百円を取り出す。

 

「へい、お嬢ちゃん。いらっしゃい!」

「お金です。かき氷を台に置かせてもらっても?」

「構わねえぜ。氷菓子が溶けねえうちに遊んじまいな」

 

 射的屋は一回、三百円。それで三発撃たせてもらえる。五百円なら六回だ。

 勿論、おもちゃのピストルからコルクの弾を撃ち出すだけなので威力は余りない。なのはの狙う景品の大きさから考えると少しも動かないだろう。それなら下の段に並べられている駄菓子を狙う方が建設的だ。特大のろいうさぎは絶対に取れないのだから。

 

 だから、ちょっとだけ悪戯(ずる)をすることにした。

 

 一発、二発、三発と続けざまにコルク弾を撃ち出す。やはりというべきか人形は少しも動かない。その度の横から見ているヴィータが残念そうな顔をした。

 

『レイジングハート』

『all right』

 

 そして、五発目まで撃ち終えると、なのはは首から掛けられているレイジングハートに合図を送る。最後の弾丸を装填すると、密かに魔法の準備を整えた。誘導弾一発程なら魔法陣を展開する必要もない。それを銃身の内部に生成。

 

 狙いを定めてピストルをぶっ放す。コルク弾が同じように飛び出し、力なく人形の顔面を撃ち抜いたが、その瞬間。玩具のピストルから常人には認識できない速さで誘導弾が射出された。そのまま、のろいうさぎの眉間を続けざまに直撃。的となっている台の上から人形が落ちていく。

 

「取れました」

「はっ……? あ、いや、良かったな嬢ちゃん」

 

 景品が取れて嬉しそうな表情を浮かべるなのは。呆気に取られた様子で、口をあんぐりと開けるおっちゃん。恐らくだが落ちない筈の景品が落下した事実を信じられないのかもしれない。

 それでも景品が取れたのは事実である。顔に疑問符を浮かべながらも、おっちゃんは快く人形を手渡してくれた。

 

「どうぞ、ヴィータ。わたしからのプレゼントです」

「お、おう……なのは」

「何でしょう?」

「その、ありがと……」

 

 恥ずかしそうに俯きながらも、小さな声でお礼を言うヴィータに、何でもない事のように受け取るなのは。でも、優れた魔導師であるヴィータは最後の悪戯(ズル)に気が付いていたようで。なのはは指摘されると、ばれちゃいましたか、内緒ですよ。と悪戯っぽく微笑んで、ヴィータが一瞬だけ見惚れた。それは、コイツ、こんな顔も出来るんだなという驚きと、浴衣を着た少女の微笑みが儚くも美しかったからだ。

 

「ねぇ、みてみて! なのは、ヴィータ!」

「アリシア、一体どこ行ってやがったんだ!? こっちは随分と探して……」

 

 そこに颯爽とアリシアが現れて、ヴィータが無駄に祭り会場を探しまっくった愚痴を言おうとした。しかし、それもアリシアの手に持っていた代物が黙らせる。それは所謂、ヨーヨーという玩具で、水風船に少量の水を入れ、ゴムひもを通した夏祭りでは定番のアイテムのひとつだった。

 

「ほらこれ! びよん、びよ~んって! おもしろいよ!?」

「なんだ、それ! すげぇ! おい、何処にあったんだよ、それ!」

「こっち! すごく親切なおじさんがいてさ」

「あっ、二人とも待ってください!」

 

 何処か大人ぶっていても、中身背丈は子供のヴィータである。アリシアに対する文句もたちまち忘れて、ヨーヨー風船の虜にされた彼女は、手元に抱いたのろいうさぎを大事そうに抱えながら、祭りの喧噪のなかに消えていく。

 それを慌てて追いかけるなのはだった。

 

◇ ◇ ◇

 

 はやてにとって今日ほど楽しいと思った日はなかった。

 初めての夏祭り。遠くから聞いている事しかできなかった賑やかな喧噪。二階の窓から眺めた浴衣姿の家族連れや、友人たちの集団。その全てがはやての傍にあるのだ。やさしい家族に、初めてできた親友。買い食いに、盆踊り、屋台の遊戯。今まで知らなかった"初めての経験が"そこにはある。

 

「あははははははっ、あははははっ!」

「もう、はやてったら、さっきから笑いすぎ「食らえアリサ! 水鉄砲!」うわっ、冷た! やったわねっアリシア~~!!」

 

 はやてに何かと世話を焼いていたアリサが、義妹のアリシアに玩具の水鉄砲を浴びせられたことも。たこ焼きうめぇと頬張りつつも、ザフィーラにちゃんとお裾分けしているヴィータの喜ぶ顔も。これ美味しいとシャマルが綿飴を頬張って、横からどれ、私にも食わせてもらおう。と大部分をおちゃめに掻っ攫うシグナムも。

 

 どれもこれもが楽しくて、面白すぎて、とても幸せで。はやての顔から笑顔が消えることはなかった。

 

「はやて、見てください。花火が上がりますよ」

 

 そして車椅子に座るはやての目線に合わせ、屈んだなのはが指差した夜空には、まさに轟音と共に色鮮やかな花が咲き誇った。

 

「うわあああ~~~」

 

 思わず感嘆の声が漏れた。

 本当に綺麗だと心の底から感じたのは何時以来だろうか。目の前に浮かぶ光景を遠くから眺めたことはあったが、これほど近くで眺めて、肌で感じ取った花火は初めてだった。

 そりゃ、満天の星空。夕焼け、臨海公園から眺める海の景色。テレビやドラマで放送される感動的な光景を見て感じることはたくさんあっただろう。でも、楽しくて、嬉しくて、思わず泣いてしまいそうなほど感情が溢れるというのは、久しくなかった気がするのだ。

 それもこれも、きっと守護騎士の皆や、友達が傍にいるから。

 

「すごい! すごい! アリサ、なのは! どか~んって! どか~んて空に花が咲いたよ!?」

「はいはい、分かったから大人しくする! ああもう、口元にお好み焼きのソースが付いてるじゃないの。拭いてあげるからじっとしてなさい」

「なのはちゃん。久しぶりに笑ったね。よかった」

「そう…ですか……? すずか、わたしは、笑って? いえ、そうですね。とても気分がいいのは事実です」

「このような光景。"前"の時は見たことも、楽しむ余裕もなかった。これも主はやてのおかげだ。だからこそ我々は」

「ええ、そうですねシグナム。この幸せをずっと護ってきましょう。私たち守護騎士(ヴォルケンリッター)にはその力がある」

「ははっ、すげ~~な! ザフィーラ! 火花が咲いて、扇になったり、打ちあがったり――うわっ、動物の形になった!?」

「わん」

 

 ああ、楽しい。いつまでもいつまでも、こんな光景がずっと続けばいい。秋には運動会もあるし、たくさんの食べ物が旬になる季節だ。それに、冬にはクリスマスがあって友達とプレゼント交換もできる。

 ヴォルケンリッターの皆にもプレゼントを用意して、ケーキや素敵なご馳走で祝ったら、びっくりするくらい喜んでくれるかな。その時には腕によりをかけて、料理の腕前を披露しよう。ヴィータはサンタさんの存在を信じそうだし、ザフィーラあたりに頼んでサプライズもしてもらわないと。

 

 そんな風に満面の笑顔を浮かべて、頭の中でいろいろと楽しい予定を組んでいた八神はやて。

 

 けれど、運命というのはいつだって、こんなはずじゃなくて。残酷で。唐突に訪れるものなのだ。良くも悪くも……

 

(……? なんやろ、胸に違和感が……ッ、う)

 

 急に襲ってきた胸の痛み。最初は軽い発作だけど平気だと高を括っていた。

 でも、しだいに強くなるどころか、いきなり激しい痛みに襲われて……はやては、声を漏らしてはいけないと思った。せめて、この楽しい時間を台無しにしたくない。皆に心配を掛けたくない。せっかくの祭りに最後まで参加していたい。そう思い頑張ろうとした。我慢しようとした。

 

「はやて!!」

 

 けれど、身体は無意識に痛みに反応して、気が付けば蹲りながら、胸を押さえていた。必死に声を押し殺そうとして、うめき声が漏れてしまっていた。異変にいち早く気付いたなのはが背中を摩り、シャマルが反射的に魔法を使おうとしてシグナムに止められ。動揺しながらも、自分がしっかりしなきゃとアリサが必死に指示を下す。

 

 誰かが電話する声が聞こえる。意識が朦朧としてよく聞き取れない。

 目に映る景色が揺らいでいく。花火の音だけがやけにはっきりと聞こえて。

 

(ああ、せっかく楽しかったのに……わたしのせいで……)

 

 この日、はやてが意識を失うほどの発作で倒れることが切っ掛けとなり、平和な日々は終わりを告げることになるとは、誰も予想していなかった。

 絶望に至る未来が始まろうとしていた。

 


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