リリカルなのは アナザーダークネス 紫天と夜天の交わるとき   作:観測者と語り部

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こんなはずじゃなかったのに

 不破士郎は武家屋敷のような家の中で空を見上げる。なのはが友達の見舞いも兼ねて、クリスマスに向かったので、再び行われようとしていた不破家のクリスマスは寂しいものであった。

 

 というか士郎と美由希のふたりぼっちのクリスマスはすぐに終了し、早くも解散となっていた。どこか恥ずかしくなった美由希は、後片付けをすると。そそくさと家の道場で鍛錬を始め、風呂に入って部屋に引きこもってしまった。

 

 どうやら懐かしい趣味の読書に耽ることにしたらしい。部屋はそのままにして、世界中を駆け巡っていたから懐かしいのだろう。もちろん、久しぶりに過ごす家族との生活が気恥ずかしかったのもあるだろうが。

 

 だから、士郎も同じように一人になって。熱々のお茶を飲みながら、降り積もり始めた雪を見ていた。

 

 アリシアと触れ合い考えを徐々に改めた士郎。そして、徐々に元の明るい性格に戻っていくなのはの様子を見守りながら、まだやり直せるだろうかと一人考え続けていた。

 

 息子の恭也が言うように少しでも傍にいることを、あの子は許してくれるだろうか。復讐に身をやつし、裏世界に娘を巻き込んだ自分を許してくれるだろうか。と、まだ悩んでもいた。

 

 だから、桃子の遺影に一人語りかけるのだ。今更、父親の顔をして良いのだろうか、と。

 

 当たり前だが写真に写る桃子は喋らず、ただ出会った当初と変わらない満面の笑顔を浮かべているだけ。

 

 物思いにふけながら、士郎は箪笥から一着の振袖を取り出した。桃子が幼いころに使っていたものを、なのは用にと打ち直したものだ。

 

 どうせクリスマスの後は大晦日があり、娘とゆっくり過ごすのは、その日でも構わない。その時に渡して、友達と初詣に行くであろう娘を着飾ってやろうと考えたのだ。

 

 復讐から足を洗うために色々と手も打たなければならない。街の盟主であるバニングス家と月村家に頭を下げて、街の治安を裏からよくするのも必要だ。

 

 娘たちが裏に関わらずに。表の世界で平和に生きていけるように。少しでも笑顔で日々を過ごせるように。親として裏から助けなければならない。その為にも士郎はできる限りの手は打つつもりだった。

 

 娘が帰ってきたら何を話そうか。いや、何を話せばいいのかわからない。たぶん美由希も同じだ。なのはだってそうだろう。不器用な不破家。きっとコミュニケーション不足で、話題の一つも上がらないに違いない。こう、元気か。とか。そんな一言を呟いて終わりそうな予感がする。

 

 できれば、おしゃべり好きな、あの小娘も。アリシアも連れてきて欲しいものだ。誰かが喋っているのを聞くのは苦痛ではないから。そう、明るい友人が語るクリスマスの楽しい時間を、相槌をしながら聞くのも悪くない。

 

 それから楽しかったかと聞いて、うんと頷くアリシアの頭を撫でてやる。そして、娘のなのはが構って欲しそうにしてたからと同じように頭を撫でてやろう。

 

 そうだ。お年玉も用意しなければ。娘が生まれた年に用意した羽根つきは残っているだろうか。娘たちが皆で遊んで、顔を墨だらけにした所を想像すると、厳つい士郎の顔は自然と緩んでいた。それに、独楽やけん玉なんかもある。みんなで一緒に挑戦するのもいいだろう。

 

「まずは……おかえりと言って、久しぶりに迎えてやるとするか」

 

 久しぶりにほほ笑んだ士郎の視線の先で、雪が降り積もり続けていた。まるでクリスマスの夜を祝福するかのように。

 

 

◇ ◇ ◇

 

 

「うあ、あ、あぁぁ」

『マスター。しっかりして下さい。マスター……』

 

 なのはは凍りついた世界で、激しいショックを受けた自分の胸を押さえた。思わず立っていられなくて、足元がふら付いてしゃがみこんでしまった。杖となったレイジングハートが必死に呼びかけてくるが、その声も遠く聞こえる。

 

 視線の先ではアリサとアルフが倒れていた。その肌には霜が降り、まるで冷凍庫に入れられたかのように凍り付いて動かない。視線が向き合い握り合った手。それから何が起きたのか分からないような唖然としたアリサの表情。それに、なのはは取り乱して、魔法による解凍と蘇生を試みる。

 

「ああ、あぁぁ、アリサ、アリサ。どうして、どうして」

 

 身体の氷を溶かし、仰向けに寝かして。心臓マッサージを施して、気道確保と人工呼吸を行う。必死だった。とにかく必死だった。

 

 泣きながら心肺蘇生を行い、流れ落ちた涙がアリサの頬を濡らして。何度も何度も諦めたくないと行為を続ける。レイジングハートはそれを静かに見守り、好きなようにさせていた。無駄だと分かっていても、主の好きなようにさせてあげるべきだと判断して。

 

 心臓の音を聴く。どうして動かない。動いてくれない。まだ、死んだわけじゃない。死んだわけじゃない。生き返る可能性はあるはず。目を覚まして、いつものように名前を呼んで欲しい。あんたバカねって叱ってほしい。いつもみたいに勇気づけてほしい。

 

 慣れない回復魔法を試し、冷たくなった身体を魔法で温め、時には自分の肌でアリサを摩っても彼女は目覚める気配はなかった。開いたままの瞼が動く気配すらない。アルフも同じで魔力を分け与えてみてもピクリとも動かなかった。ただ、幼い狼の姿のまま力尽きていた。

 

 認めたくない。こんなこと認めたくない。二人が死んじゃったら、残されたアリシアだって深く悲しむ。なのはの心がどうにかなってしまいそうなのだから、アリシアはもっと悲しむだろう。まるで、本当の家族のように二人を愛していたあの子は、ひとりぼっちになってしまう。なのはに二人を託したすずかも酷く悲しんでしまう。心優しいはやてだって、同じだ。

 

「そんな、嘘、ウソ、うそ!! いや、いやぁぁぁぁ……こんなのやだよぉ……」

 

 なのはは慟哭しながら、両手でアリサの頬に触れる。それから熱でも測るかのようにおでこを合わせて、瞼を閉じた。涙がとめどなく溢れて止まらなかった。固くなったアリサの体に、その胸に顔を埋めながら静かに瞼を閉じてあげた。

 

 本当は手遅れなのだと心のどこかで分かっていた。分かりたくないのに不破として冷静な自分が、手遅れだと判断してしまう。開き切った瞳孔と唖然とした死の表情をしたアリサの姿など見たくなかった。ただ、ただ酷く悲しかった。怒りすら湧かなかった。深い絶望に似た感情だけがあった。

 

 こんなの見たくなかった。認めたくなかった。これが夢なら覚めてほしい、これが性質の悪い冗談ならどんなにいいだろう。

 

 でも、これは悲しいくらいに現実だった。あの雨の日と同じくらいに現実だった。

 

『マスター……お気持ちはわかります。でも、今は、アリシアとはやてを探すのが先決、です』

「アリシア……はやて……」

 

 躊躇いがちに呟かれるレイジングハートの声を聴いて、なのははゆっくりと顔をあげた。それからよろよろと体を起こして、白いバリアジャケットに付いた霜を払う。

 

 幼い狼のアルフも同じように開いていた瞼を閉じてあげた。それから、なのはは冷たくなったアリサを背中におぶさり、小さなアルフを抱き上げて動き出す。その姿はどこか虚ろでもあった。

 

『……マスター。二人をどうするおつもりですか?』

「――いっしょに、連れて、行きます。こんな寒くて、冷たいところに置いていくのは、あまりにも可哀そうです」

『……私にも、身体があれば、良かったのですか』

 

 普段は小さくとも力強いマスター。そんな彼女の想いをレイジングハートは支えることにした。こんな状況で、そんなことは無意味だと口が裂けても言えなかった。ただ、彼女のさせたいようにさせるべきだと判断した。バルディッシュと同じように。

 

「ううん、その気持ちだけで充分です。行きましょうレイジングハート」

『………』

 

 それでも思考の奥底で、なのはに逃げてほしいという想いがあったのも事実だった。もはや、なのは一人の手に負えないほど状況は切迫しており、できれば一人でも脱出してほしいと考えていた。

 

 ただ、この心優しい少女に、自分よりも大切な友人を置いていけなどと言える筈もなく。レイジングハートはなのはをできる限り支えようと再び沈黙した。でも、その心には迷いがあった。レイジングハートが考える限り、今の状況では己のマスターもいずれ……

 

 けれど、何も言うことはなくレイジングハートは沈黙を貫くのみである。

 

 なのははとても重くなったアリサを背負い、小さな狼のアルフを抱っこして元の部屋まで戻っていく。すずかの安否を確認しつつ、アリシアとはやてを探す。それからどうすべきか考えよう。まだ、自分の為すべきことは残っているのだ。一日中泣き腫らすのはその後でも構わない。今は残った三人だけでも助けないと、心が潰れてしまいそうだった。この悲惨な現実を直視し続けられるほど、なのはの心は強くはないから。

 

 冷たくなった世界で、命を凍らせた人々の死の光景は、なのはの心を追い詰めるには充分だった。階段を上る途中で、開いた部屋の扉から見える人々の動かない姿が、嫌でも先ほどのアリサとアルフの姿を連想させる。それがとてつもなく辛くて悲しい。二人の冷たい感触も、なのはを悲しませるのに充分で。零れ落ちた涙すら、床に落ちて凍りつく。

 

 いっそのこと悲しむ心すら凍ってしまえばいいのにと思う。早く、夢なら醒めてほしい。

 

「……すずか。お待たせしました……すずか?」

 

 白い吐息を零しながら、すずかの居る病室に辿り着くなのは。頭の中では、すずかにアリサ達のことをどう説明すべきか迷っていたが、それも病室の扉を開けたことで杞憂に終わった。

 

 杞憂は放心するほどの悲しみと胸の痛さに変わり、なのははよろよろと病室の中に入っていく。

 

「すずか……すずか……」

 

 ベッドの上ですずかが、アリサ達と同じように動かなくなっていた。身体を揺すってみても、呼びかけてみても、閉じられた瞼が開く様子もない。その肌の感触は二人と同じように冷たくて、硬かった。寂しそうな表情で固まったまま、肌には霜が降りて動くことすらない。

 

「…………ッ」

 

 なのはは泣かなかった。泣きすぎてしまって、涙が出なかった。ただ、ふらつきそうになる身体に鞭打って、抱えている友人たちを、すずかと同じベッドに寝かせるので精一杯だった。

 

 部屋の壁に背を預け、膝を抱えてうずくまった。白く凍り付いていく部屋の中で何度も嗚咽を漏らした。こんな事なら離れなければよかった。すずかが眠るように死んでいる。その手は置いて行かないでというように伸ばされていて。なのははすずかの傍にいなかった事を酷く後悔した。胸を締め付けるような苦しみが止まらない。心は凄まじいほどに悲鳴を上げていて、普段、冷静でいるなのはがどれほどショックを受けたのか物語っている。

 

 そして、いくら泣いても、悔やんでも、物言わぬ友人たちは慰めてくれないし、励ましてくれない。

 

 やっぱり涙がでないなんてのは嘘だ。今の自分はこんなにも心が泣いている。涙は出ずとも嗚咽が止まらない。

 

 あの明るくて勝気な声も、静かで優しい声も聞こえてこない。なのはの小さな嗚咽だけが、静かな部屋に響いて。それがより一層、なのはの心に寂しさを募らせた。悲しみすぎて心は虚ろになっていき。それに引っ張られるように身体も動かなくなっていく。

 

「―――ッ!!」

 

 ただ、叫んだ。声にならない叫び声をあげた。そうしないと悲しみで狂ってしまいそうだった。いっそのこと、皆と一緒に動かなくなってしまえばいいとさえ思った。もう永遠に眠ってしまいたいと。それでも、なのはは止まることができない。まだ、助けるべき人たちがいる。

 

 気を抜けば意識を失ってしまいそうだった。もう、何も考えたくなかった。

 

 それでも、杖にしたレイジングハートを支えに何とか立ち上がると、なのはは動かなくなった三人の身体を魔法で暖めた。それから彼女たちの眠っている姿勢を整えると、寒くないように毛布と掛布団を敷いて、部屋を後にする。

 

「………アリサ。すずか。アルフ。おやすみなさい」

 

 心が壊れかけた少女は、ふら付きながらも杖を支えに、屋上を目指す。せめて残された最後の希望を救うために。

 

 

◇ ◇ ◇

 

 

 怒り狂ったアリシアの魔法は台風そのものだった。暴風雨のような攻撃の嵐は、雷鳴とともに大気を轟かせる。邪魔する相手を殺し、何らかの術を施している奴を殺し、遠巻きに空から見守っている連中も殺す。

 

 それは子供の八つ当たりだったのかもしれない。ただ、技もなく力任せに戦斧を振るう、相手を薙ぎ払わんとする。死神の鎌をした戦斧から振るわれる一撃は床抉り、黄色の閃光が大気に煌めいては残光となって消えていく。相手が避ければそれを追って飛び上がり、再び切り伏せんとバルディッシュを振るう。

 

 受けるロッテはそれを飛び退って避け、時には防御魔法で往なし、逸らし、決して受けることはしない。そこには魔導師としての技量という絶対的な差が存在した。

 

「あああぁぁぁぁっ!! ブリッツアクション! ブリッツアクション! ブリッツアクション!」

 

 それでもアリシアは果敢に攻めて、攻めて、攻めた。ロッテの背後から遠距離魔法を得意とするアリアが弾幕を展開する。それを避けもせず、ひたすら愚直に突進して、真っ直ぐロッテに追従する。単に一番近くにいるやつをぶった切るという本能に従って。それすらもリーゼ姉妹の策の内だとも気付かずに。

 

 すべては術の要を担う。ギル・グレアムに接近させないため。

 

 防御すら忘れたアリシアの全身はボロボロだった。顔を逸らし、片腕を捨てて胸をかばう。そうして致命的な一撃は防ぐのだが、ダメージが全身に蓄積していく。身に纏う防護服はボロボロで、黒衣のマントは千切れて見る影もない。服が破けて露出した太腿やわき腹からは血が滲んでいる。リーゼ姉妹による攻撃を受け続けた結果だった。

 

 ずっと非殺傷設定の魔力ダメージが蓄積させられたのだ。それでも痛みを超越したアリシアは微塵も止まることはなかった。常人ならば痛みと疲労で動けなくなるはずなのに。少女は限界を超え続けてまで、動き続ける。

 

「かはっ……くぅ、痛っ……」

「もう分かっただろう。お前じゃアタシ等には勝てない。大人しくしてれば楽になれる」

「――っうるさい! うるさい! うるさい! アリサを返せ! アルフを返せ! 母さんを……かえしてよ……!!」

 

 ロッテがカウンターで腹に蹴りをくれてやっても、吹き飛ぶだけで、再び立ち上がってくる。もう、このやり取りを何回も繰り返している。そしてロッテが「もう、やめろよ」と告げてもアリシアは、五月蝿いと一蹴して向かってくる。全身から血を流し、床を一滴ずつ赤く染めながら、それでも向かってくる。

 

 抵抗しなければリーゼ姉妹はアリシアを文字通り"楽に死なせていた"。意識を眠らせてしまえば、そのまま二度と目覚めることはなかったのだから。それでも下手に抵抗されれば、こうしてなぶり殺しにするしかない。

 

 アリシアの魔法の素質がなまじ高いだけに、下手に手加減できない結果だった。一手間違えれば、本当に胴を切り裂かれそうな威力が、あの斬撃にはある。かといって派手な大技を使えば封印術や覚醒を迎えていない闇の書にどんな影響があるか分からない。

 

 だけど、それもすぐに終わる。

 

(あと一撃で本当に身体は動かなくなるだろう。そして、凍結魔法をレジストできなくなれば、他の人間と同じように凍り付いて死ぬ)

 

 本人は気づいていないが、ダメージの蓄積で身体が思うように動いてない。牽制の射撃魔法はなくなり、繰り出される斬撃も精彩を欠いている。さらに言えば、吹き上がる無尽蔵ともいえる魔力で身体能力を極限まで上げたようだが、逆にダメージを受けているのだ。放っておいても遠からず自滅する。

 

 あの忠実なデバイスが主を必死に支えていたようだが。それも、もう終わりだ。主から供給される魔力がなければどうすることもできない。

 

 今、アリシア・テスタロッサの魔力は大幅に乱れている。複数の魔力を持つ原因は分からないが、それが乱れれば乱れるほど体の内側を傷つけているようだ。噛みしめた唇の隅から血が溢れ出し、鼻血だってさっきから止まってない。

 

「ああああああぁぁぁぁ―――」

 

 振りかぶる大鎌の一撃をロッテは受けた。受けて弾き、アリシアを掴んで投げ飛ばそうとして。

 

「サンダー……スマッシャァァァーーーっ!」

 

 至近距離で。密着したとも言える状態で。アリシアは左手でロッテに触れ、なりふり構わず繰り出した砲撃魔法を放つ。文字通り捨て身の一撃で、暴発させたに等しかった。自爆したとも言っていい。

 

 ロッテに弾かれた右手からバルディッシュが零れ落ちて、それから魔法を繰り出した左腕は完全に焼け焦げて。アリシアは反動で屋上の入口へと吹き飛んでいく。

 

『―――!!』

 

 同じように吹き飛ばされたバルディッシュが何か言っているような気がした。黒の戦斧は、金色に輝くペンダントに戻って屋上から落ちていく。

 

 吹き飛んで、背中を強打して、転がり落ちて、それから何かにぶつかって止まった。アリシアは抱きしめられた。

 

 歪んだ視界の奥に、大好きな親友の姿があった。

 

 目の前になのはがいた。

 

 

◇ ◇ ◇

 

 

 なのはは、泣きそうな顔でアリシアを見た。腕の中で眠る少女は、見るも無残にボロボロで、元気にはしゃいでいた姿は見る影もなかった。

 

「けほっ……ゴホッ……」

 

 咳き込んだ口から血が吐き出されて、なのはの防護服を血で染めた。慌てて、アリシアをうつ伏せの状態にして血を吐き出させた。それから背中を摩る。服や手が血で濡れても、なのはは気にしなかった。そんな余裕はどこにもなかった。

 

「アリシア……」

 

 なのははアリシアの名を呼ぶ。けれど大切な親友は定まらない視線でなのはを見ていた。なのはを見ているのに、なのはが見えていないような気がして。それでも伸ばされた震える手を、なのははそっと掴んだ。それぐらいしかしてやれることはない。

 

 拙い治癒魔法で必死に傷を塞いでも、アリシアの血が止まらない。治りきらない。ユーノが言っていた複数の癒着したリンカーコアの暴走で、アリシアの全身が傷ついた。そしてついに限界を迎えたのだ。傷つくたびに自身の治癒能力で癒していた身体の傷が塞がらないのはそういうことだ。

 

 もう、アリシアの限界はとっくに超えていた。只でさえ人より少なかった寿命を一気に使い切るように。ろうそくの残りを燃やし尽くすように。アリシアは自分の命を捨ててまで立ち向かっていった。

 

 それくらい義理とはいえ姉になってくれたアリサを奪われたのが許せなかった。ずっと一緒にいようと約束したアルフを奪われたのが許せなかった。友達を家族を傷つけられたことを許せなかった。アイツ等を殺してやりたいくらい憎くて、許せなくて、悔しくて。悲しかった。

 

 それは家族の仇を討てなかったからだろうか。それともユーノとの約束を破って魔法を使ったことだろうか。

 

「なの…は……?」

「……っアリシア」

 

 それとも泣きそうな顔で、自分を見下ろしているなのはを見てしまったからだろうか。

 

 さっきまでアリシアの全身は痛くて叫びだしそうで。なのにそれを感じさせないくらい熱かったのに。心臓だって馬鹿みたいに激しく動いて、リンカーコアも信じられないくらい熱くて、沸騰しそうだったのに。

 

 なのにそれを今は感じなくて、ただ寒くなってきて全身が冷たくて。なのはの手がとっても暖かかった。膝枕された頭は呆けていて、なんだか眠いみたいで。なのはの声もぼんやりとしか聞こえない。全身に力が入らない。寒いけど暖かい。

 

 ああ、なのはの頬っぺた触りたいな。叶うなら義姉と同じように後ろからじゃれついて、追い掛け回されて、二人で駆けっこして、いつの間にアルフも加わって。一緒に走り回って、疲れて。整備された草地で寝転んで、叱られて。お母さんがそれを見守ってくれて。自分の知らない本当の名前で呼んでくれて。それから、それから……

 

 アリシアの意識が途切れていく。なんだかとっても眠い。ひどく眠い。瞼が重い。何も考えられない。

 

「……っ!!」

 

 なのはの声がよく聞こえない。

 

「………」

 

 最後に擦れた声で、なのはの名前を呼んだ。呼べたらいいなと思う。

 

 暗い瞼の奥で、大好きな皆が微笑んだ気がした。

 

 

 

 

 

 アリシアが死んだ。

 

 




たぶん次で最後。

今後の予定。
一章と二章をコピー削除して、没として別に作った小説に移す。
三章をリリカル『なのは』編として微修正した上で一章にする。いわゆる本当の過去編に変える。じゃないと矛盾が気になって書けない。

番外編の、この世界のその後を描いた復讐者のレクイエム編。

お楽しみの並行世界編

二章リリカル『なのは』チェンジ。幼年期編
三章リリカル『アリシア』メモリーズ。無印編。
四章リリカル『はやて』アナザー。As編
五章リリカル『ユーリ』ダークネス ????編
最終章 紫天と夜天の交わるとき。 

それで完結まで書けるはず。

 
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