リリカルなのは アナザーダークネス 紫天と夜天の交わるとき 作:観測者と語り部
○月×日
おかあさんがいなくなって、わたしのかぞくは変わってしまいました。
みんな、ぎすぎすしてるの。なんだか、こわいです。
こんなとき、おかあさんがいたら……
会いたいよ。どうしてしんじゃったの? おかあさん。
おかあさん……おかあさん!!
○月×日
しりつの小学校に通うことになってから、わたしはしゅぎょーを始めました。
身をまもるためのれんしゅうだと、お父さんは、そういってわたしをきたえます。
なぐられるのがいたくて、体力づくりはくるしくて、いやです。
お姉ちゃんも、でかけるようになって、なのはと目を合わせなくなってしまいました。
お姉ちゃん……なんだか、いやなにおいがするの。
こう、むせかえるような、よくわからないにおい。
お兄ちゃんは笑って、気にしないでというけど……
これも、なのはがわるい子だからいけないのでしょうか。
○月×日
今日は、がんばってお兄ちゃんといっしょに料理をしました。
なのは、へたくそで、ぜんぜんできなくて、ほとんどお兄ちゃんまかせ。
でも、いつも怖いお父さんとお姉ちゃんは、少しだけ笑ってくれたの。えへへ。
うん、がんばろうと思います。また、家ぞくみんなでやりなおしたいとおもいます。
むかしみたいに、毎日をわらってすごしたいです。
○月×日
あ、ああ! あああ!! 怖い、怖い! あの男がわたしを見ている。わたしに何かしようと手を伸ばす……
おかすとか、いたぶるとか、良く分からないことを言われた。でも、このままじゃ、わたしはころされてしまうのは分かった。
そしたら、お父さんの言葉が、頭に浮かんで……気がついたら、わたしの、りょうて、あかくて、あかいみずが手からこぼれて。
おとこの、ひとは、たおれていて、わたしはお姉ちゃんにだかれてた。
おねえちゃんが、やっつけた? でも、このむせかえるようなにおい、は、血……?
ああ、お姉ちゃんは……そして、わたしは……わたし……?
わたし……なにしたの……?
○月×日
お兄ちゃん、お兄ちゃん、お父さんとお姉ちゃんはどこなの?
いない、そばにいてほしいのに……どうして、いないの。なのはのことなんて、どうでもいいのかな……
くるしい、だれかたすけて、はきけがする。ごはんがたべれない。
あかいものがこわい。雨はきらい。
恭也おにいちゃん……なのはのとなりにいて……
お兄ちゃんのからだ。あったかい。あんしんするの。
ねぇ、そばにいて。おにいちゃん。
○月×日
最近、あの夢を見てばかりだ。私を襲う忌々しい悪夢。
夢を見て、目が覚めて、吐き気が止まらなくて嘔吐した。苦しくて、苦しくて、涙が出る。
悪夢を振り払おうと、嫌いだった修行に精を出す。
勉強をたくさんして、兄の盆栽を習ったり、色んなことに手を出した。
おかげで、学校の授業が退屈で仕方がない。習ったことばかりだ。
本当に憂鬱でしょうがない……
○月×日
雨が怖い。雨が怖い。雨が怖い。雨が怖い。雨が怖い。
いや、いや、いや、いや、嫌々嫌々!! わたしに近寄らないで! 私に手を伸ばさないで!
そうだ。殺せばいいんだ。その術をわたしは知っている。死にたくない。怖い!!
私の手から赤い血が零れ落ちる。ううん、溢れてくるんだ。私の手から私じゃない誰かの血が溢れる。
コンクリートの地面に落ちて、地面に血だまりができて、雨と混じって。
いやだ……もう、いやだ……
ごはんって、こんなに、おいしくなかったっけ……?
○月×日
はぁ、何をしているんだろう。私は今日、らしくないことをした。
最近、眠るのが怖くなって、睡眠時間を削っているので、日々の体調が優れなかった。
そんな、私の前で同級生の二人が喧嘩した。
カチューシャを取って虐めている方は別に気にもしなかった。
問題は、もう片方の虐められている気弱な少女。
返して、返してと五月蠅い。しまいには泣き叫んだ。
私の寝不足気味の頭に響いて不快だったので、喧嘩両成敗で下してやった。不破の技を使う必要もない。ちょっと煩いと脅してやればいい。
そしたら、私の顔を見てぎょっとした二人の女の子に心配されて……はぁ、らしくない。
確か、二人はアリサ・バニングスと月村すずかだったか?
なぜだか、友達になってしまった……どうして、こうなった? あれですか、孤立組だから親近感でも覚えましたか?
友達なんて……必要ないのに。私と関わったら不幸になってしまうから……
はぁ、ほんと、私らしくない。
○月×日
……意外なことに、友達ができてから、悪夢を見なくなった。
少し嬉しい。アリサ、すずかとバスに乗って、一緒に通学して、勉強と運動をする。
楽しみなのが、お弁当の時間だ。最近、家族とますます疎遠になって、全員で食事をする日が減った。
だからだろうか、皆と一緒に食事をする時間は、存外楽しい。何より、食べ物が美味しく感じる。
うん、私は充実している。悪くない気分。嫌なこともたくさんあるが、その分、小さな幸せが、大きな幸せに感じるから。
アリサに、笑った方が可愛いわよ。とか言われて恥ずかしかった……すずかも、微笑んでるし、もうっ!
わたしは照れ屋さんじゃないもん! アリサちゃんだって、ツンデレさんのくせに!
○月×日
何故か。魔法少女になった。どうしてこんな事になったのかわからない。
けれど、放っておくと街が大変なことになるらしいので、仕方がなく動くことにする。
個人的に誰かの為に力を振るえるなら構わない。それは嫌ではない。
人を殺してしまうよりはずっといい。この力で人を助けられるなら――
それにユーノさんは放っておけない。
責任感が強い人みたいなので、一人でなんでも解決しようとするかもしれない。
とても心配だ。
きっとアリサが見たら、お人好しというんだろう。
けれど、それでいい。
私は、私の力で、誰かを救えたならきっと、変われる気がするのだ。
この血塗られた手でも、誰かを救えるんだって。
復讐鬼に落ちてしまった不破の人間でも誰かを助けられるんだって。
証明したい。証明するんだ。私が。
そうすれば家族とも和解できるかもしれない。
まだ、やり直せるんだよって、言えるかもしれない。
天国のお母さん。なのはにほんのちょっとでもいいから勇気をください。
おとーさんとおねーちゃんと仲直りできる勇気を。
なのはは友達になれそうな男の子を助けるために頑張ります。
かしこ。
○月×日
今日は勇気を出して友達に相談した。
家族に相談するのは気が引けたので、話さない。話せるわけがない。
そんな事をしたら、せっかく助けたユーノさんが原因だとして、彼は追い出されるに決まっている。私としては断固として容認できないことだ。
だから、友達に相談。
その、困ったときは何でも相談してくださいと言われたから。
そしたらとっても驚かれてびっくりしました。まあ、私もアリサや、すずかが魔法少女になったら、内心で動揺を隠せなかったでしょうけど。
でも、ジュエルシードの事を話して、それがどんなに危険なものか話したら、できる限り協力してくれると約束してくれた。
原因となったユーノさんの事でちょっとひと悶着あったけれど、概ね納得してくれた。
私以外にレイジングハートの力が使えないことには、ちょっとがっかりしていたけれど。
やっぱり、年相応の女の子は魔法とか、不思議な力に憧れるものなのでしょうか?
私には分かりません。むしろ、幸せな家庭や平穏な日常のほうが大切です。
それはきっと大切なことで。当たり前のように過ごせることはとても幸せなことで。
もしも、おかーさんとおとーさんが笑っていられる日々があれば、それはきっと尊い事なのだと思うから。
それにしても今日は悩みを相談――うん、相談して、良かったと思います。
私が同じ立場で、友達が人知れず危険な事をしていると知ったら、それを止めるでしょう。
そして、どうしようもないことだと知れば、どんな事をしてでもアリサとすずかを助けたでしょう。出来る限り二人を支えたでしょう。
だって、二人は大切な友達だから。
なのはの大切な、大切な友達。
はじめてなまえを呼んでくれた親しい友達。
街もみんなも、家族の平和も、なのはが絶対、絶対守って見せるから。
修行の日々はとっても辛いけど、それでもなのははがんばります
大切なおとーさんとおねーちゃん。
それに、近々結婚する予定のおにーちゃんと忍さん。
一緒に遊んでいて楽しくて、安らぎを与えてくれるアリサとすずか。
そして、困っていると放っておけなくなるユーノさん。
みんな、みんな、なのはが護って見せます。
だって不破のお家は、護ることを信条とする御神のお家でもあるんだから。
なのははとっても頑張ります。
天国のおかーさん。
なのはを優しく見守っていてください。
かしこ。
○月×日
今日も大変でした。
反応があった二つ目のジュエルシードを鎮めて、事件を解決するつもりでしたが。
何というべきかユーノさん以外の魔導師に襲われました。
年はわたしと同じくらいで、あんまり食べてないのか見るからに痩せていて、顔がやつれていた女の子。
彼女にいったい何があったのでしょう?
おかあさんの事必死になって叫んだ少女。
もし、何か事情があるのなら助けたいです。
なのはにはおかーさんがもういないから。
とりあえず、病院食も食べてくれましたし、一安心です。
再び目を覚ましたら、今度はお風呂に入れてあげて、それからゆっくり寝てもらいましょう。
睡眠は体力を回復させる一番の近道ですから。
追伸
アリシアをお風呂に入れてあげたら、何故か泣かれてしまいました。
なのはは、何か悪いことをしてしまったでしょうか。
もしかして、友達になるの嫌だったでしょうか。余計なおせっかいだったのかも……うぅ、とっても不安です。
とりあえずゆっくり眠ってくれたので、なのはも今日は眠ることにします。
父の説得に骨が折れそうですが。それはまあ、考えないことにしましょう。
ユーノさんにも慣れない魔法の行使で、身体に負担が掛かっているだろうから寝たほうがいいと言われましたし。
明日も頑張りましょう。おやすみなさい。
追伸2
あの子が脱走するので、やっぱり眠らないことにしました。
今日ほど気配に敏感なことに感謝したことはありません。
病人は大人しく寝てろとユーノさんと軽く脅したので、もう大丈夫だと思いますけど……
これ以上逃げるならバインド。いえ、縄抜けできない拘束術で、布団と一緒にぐるぐる巻きの刑です。
まったく……おとなしい印象に反してやんちゃな子ですね。気が抜けません。はぁ……
でも、助けられてよかったです。
本当に――あの子を救えて、よかった。
○月×日
今日は月村邸に行って、改めてユーノさんとアリシアを二人に紹介しました。
二人とも、私やアリシアと、ユーノさんの三人を、自分のことのように心配してくれて。友達に何かあれば絶対に助けるんだと仰ってくれて。
素直に嬉しかったです。
けれど、やっぱり魔法の力や才能がないことには少しがっかりしていました。
まあ、すぐに気持ちを切り替えて、次の行動に移そうとするあたり、アリサはさすがだと思います。ちょっと羨ましいです。
すずかはちょっとだけ悩んでました。あの子は優しい子で色々と考えてくれます。
だから、一緒にいて安心できるというか、包容力があるんでしょうか。傍に寄り添ってくれる人という感じです。
その日はジュエルシードの対処方法について相談し、事件が起きればわたしとアリシアで対応することに決まりました。
ユーノさんはわたしたちの後方支援を担当します。役割分担ですね。
あと、アリシアに家族のお見舞いに誘われました。
何でも病気で眠っているお母さんに紹介したいので、会って欲しいのだとか。
アリシアの衰弱具合を見て虐待されているのかと心配してもいましたが、そんなこともなさそうで一安心です。
でも、どうしてそれなら病院とかに入院しないのでしょうか。ちょっと、不思議ですね。なにか事情があるのでしょうか。
それとも……ジュエルシードに願いを託さなければいけないほどに、重い病気を患っているのでしょうか。
心配です。
アリシアの住む時の庭園という場所に付いたら、少し調べてみましょう。
○月×日
今日は……今日はいろいろ、そう、色々ありました。
まず、アリシアのお母さんですが、とても重い病気に掛かっていて寝たきりでした。
記憶障害も患っていて、何処か遠くを見ているかのようでした。アリシアを見て笑っているのに、まるで別の誰かを見ているような、そんな感じで。
アリシアもお母さんを泣きながら心配していて、けれど、自分を見ているのか分からないようで、浮かべる笑みも悲しそうで、とても寂しそうで。
ユーノさんのおかげで容体は安定しましたが、予断を許さないそうです。
次元世界を渡って病院に入院しても治るかどうかの保証はないくらい悪化していて。
それこそ、過程を無視して願いを叶えるような力。ジュエルシードの力が必要になるとユーノさんは仰いました。
本当は遺失物を勝手に使うなど許されないそうですが、人助けのためにユーノさんは快く承諾してくれました。
迷惑かけた分。これで恩返しできるならいくらでも力になると。
ユーノさんはとてもいい人です。
わたしもアリシアに家族を失う苦しみを知ってほしくありません。
絶対、助けたいと思います。レイジングハートとユーノさんがくれた魔法の力で。
アリシアが虐待を受けてなくて本当に良かったです。
それから、アルフさんという使い魔の女の子を紹介していただけました。
リンカーコアに障害を抱えているアリシアに負担を掛けないように、幼い姿で眠ったままでしたが、何でも狼系の使い魔だそうです。
性格は自分よりも明るくて、甘えん坊なんだとか。いずれ目が覚めたらちゃんと紹介してくれるとのことでした。
それと、何処かの部屋に通じている固く閉ざされた扉。
あの部屋の向こうは……血の臭いがしていて……わたしは嗅ぎなれたそれに思わず…………
わたしは、わたしは、どうすればいいのでしょう?
あの部屋の向こうにはきっとアリシアが隠したいものがあるのです。
それを暴くべきではないのでしょう。でも、放置してよいはずもなくて……
わたしは、どうすれば……
○月×日
アリシアのお母さんの体調が悪くなる前に、急いでジュエルシードを集める必要があります。
わたしとアリシアとユーノさんの三人がかりで、時には二手に分かれてジュエルシードを集めていきます。
やっぱり友達に相談したのは正解で、いくつかのジュエルシードを発動前に確保することができました。
わたしとアリシアの二人でジュエルシードの封印に動き、ユーノさんが探索などのバックアップをする。
おかげでジュエルシードは残すところ六個というところまで集められました。
アリシアの為にも、アリシアのお母さんのためにも、残りも早く集めたいですね。
もちろん、街に被害を出さないようにするのも重要な事です。平和が一番、ですから。
すっかり体調が回復したアリシアは、天真爛漫で色々なことに興味を示しました。
たとえば兄の盆栽を眺めて、誘われてみたり。月村邸で猫の群れに囲まれたり、すずかにお世話されたり。
あと、バニングスの屋敷ではアリサが強引にいろいろなことに参加させたそうです。本人も楽しそうだったので、なによりでしょう。
アリシアが元気いっぱいな性格なのに、どこか臆病なところがあります。
初めてな事に触れるのが怖いのかもしれません。アリサはそんな彼女を放っておけなくて、何かと面倒を見ているようでした。
こう、頭はいいのに。知識や常識が欠けていてチグハグなんだそうです。
それと、ユーノさんは、お見舞いに行ったあの日から、恐ろしいほどの集中力で探索魔法を行使。休みなしでずっとジュエルシードを探し続けているようでした。
わたしとアリシアがいくら言っても休もうとしないので、出かけようと誘うことにしたのですが……
わたしは、その、口下手ですので。どう切り出せばいいのか困ってしまいました。そしたら、アリシアがすぐに誘ってしまいました。
アリシアはわたしと違って行動力があります。ちょっと羨ましいです。わたしにも怖気ないような勇気があれば……
とりあえず、明日は散歩にはちょうどいい海鳴臨界公園に出かけることにしました。
○月×日
鯛焼きが甘くて美味しかったとか。夕日が綺麗だったとか全部頭から吹き飛びました。
今日の日記になんて書けばいいのかわかりません。だって、アリシアがユーノさんのほっぺにちゅうして。ちゅうして――ちゅう――
やっ、やっぱりミッドチルダの人は、す、進んでます。
兄と恋人の忍さんだって、人前でキスしたりとかはしない筈、う、うぅ……アリシアとユーノさんのちゅうする光景が頭から離れない。
夕日に照らされた丘の上で、ベンチに座って綺麗な女の子が、好きな男の子にキスをする。まるで恋愛映画さながらのような光景で……
はっ、わたしは何を書いてるんでしょう!?
ち、違う。違うの。決して羨ましいとか、そういうことではなくて。でも、ちょっと気になり――はわ、はわわ。
と、とにかく日記を書くのは後回しにしましょう。次のページ。次のページです!とりあえずお風呂に!!
追伸
よし、落ち着きました。前のページのことは考えないようにしましょう。そうしましょう。
ユーノさんいわく残りのジュエルシードは海の中にあるのではないかとのこと。
海中に魔力を流してジュエルシードを強制的に励起させ、活性化させるそうです。
そこをアリシアとわたしの二人がかりで封印するとのこと。少し危険な気がしますが、他に方法がない以上やるしかありません。
海流に流されたり、人知れず覚醒したりして、目の届かない場所で被害を出されても困りますし。
ユーノさんも危険な方法しか取れない自分の無力さに歯噛みしていました。ユーノさんは責任感の強い人ですから仕方ないのかもしれません。
でも、ジュエルシードの事は事故です。起きてしまった事は仕方がない。だから、そんなに思いつめないでほしい。そう言ってもきっと無駄なんでしょうね。わたしも同じ立場だったらきっと同じように思い悩んでいたでしょうし。
そして、二人して危険なことに、どうするべきかとうんうん唸っていたら、アリシアが一人で事件を解決しようとしたので、思わず「そんなの出来るわけない!!」とユーノさんと二人で叫んでしまいました。
だって、アリシアを放っておけるわけがないんです。
アリシアのお母さんは病気で、姉妹同然に育ったアルフさんはアリシアに負担を掛けないように眠ったまま。
そして頼れる親も保護者もいない状況で、お母さんにために一人で頑張って。一人で一生懸命考えて。幼いながらに縋ったすべてを解決する方法がジュエルシードだったんですから。
正直、すごいことだと思います。あの広い時の庭園でひとりぼっちになってしまって。親も友達も頼れる状況になってしまったとしたら。
わたしだったらきっと不安で泣いているだけに終わってしまっていたでしょう。
わたしが言うのもなんですが、アリシアはもっと人を頼ることを覚えるべきだと思います。
だって、アリシアは友達ですから。掛け替えのない大切な親友。助けるのは当然です。アリサとすずかも同じ立場だったらそうしていたでしょうし。
そしたら、感極まったのかアリシアは嬉し涙を流しながら、内に秘めた想いをいっぱい、いっぱい叫んで泣いてしまいました。
思わず放っておけなくて。わたしが兄にそうされて嬉しかったように。抱きしめて背中を擦りながら、安心するようにぎゅっとしてあげて。不安だったことや、わたしたちと出会えて嬉しかったこと。初めて友達になれたのが二人で良かったことなど。彼女の想いをいっぱいいっぱい聞くことができました。
だから、わたしも少しだけ涙目になってしまいました。ユーノさんも泣いていたように思います。もちろん、恥ずかしさと嬉しさからくる涙でした。
アリシアの言葉が嬉しい。
わたしもアリシアに出会えて良かった。ユーノさんに出会えて良かった。そう思います。
この純粋で明るくて、素直で子供っぽい。アリシアを助けられて良かったと、そう思います。
わたしの魔法の力で、きっと二人を助けて見せます。
そしたら、わたしもきっと前に進めると思うから。
事件が無事に解決したら。みんなと笑いあえるような明日が来るといいなぁ。
やっぱり物語はハッピーエンドが一番だから。
○月×日
わたしは、わたしは何てことをしてしまったのでしょう……!
アリシアを、この手でわたしが……それにユーノさんもわたしのせいで傷ついて、みんなボロボロで。
わたしのせいで。わたしのせいでっ……
ごめんなさい。ごめんなさい。ごめんなさい……
○月×日
今日は声を押し殺して泣いてしまいました。もう泣かないと決めていたのに、なのはは情けない子です……
ユーノさんは、わたしをかばったせいでぼろぼろで。なのに全然怒ってなくて。
あの子に、アリシアに合わせる顔がないと、不安になっているわたしの事を支えてくれて。
わたしを助けるためにアリシアだって無茶をして。だから、しばらく安静にしないとけなくて。
首にはわたしが本気で絞めた痕まで残っていて。とても痛々しい姿なのに明るく元気に笑っていてくれて。でも、首の痕はわたしが犯した罪の象徴そのもので……だから、見ていられなくて……
心が、苦しい……辛いよ。
ううん、こんなこと……なのはに書く資格なんて……
なのはは二人にどうしてあげたらいいんだろう。どんな顔をして会えばいいんだろう。
本当になのはは二人のことを護れるのかな……
力になって、あげられるのかな……
○月×日
学校の授業のことでアリサとすずかには助けられっぱなしです。
二人には感謝してもしきれません。事件が無事に解決したら、お礼をしないといけません。
その、あまり実感はないのですが、でも、友達というのは良いものでしょうか?
支えてもらってもいいのでしょうか? 迷惑かけても大丈夫なのかな。
ユーノさんとアリシアの二人が回復して、看病が終わった時です。
前の海での事件のことでわたしの犯した過ちのことを相談したら、アリサは何も言わずに抱きしめてくれて、よく頑張ったわねって言ってくれて。でも、それがやっぱり、どこか苦しいんです。たぶん、わたしは許されてほしくないんじゃないかと思います。
何故かワンワン屋敷で、子犬にもふもふされて、ペロペロされました。顔がよだれまみれになりました。
すずかもわたしの話を静かに聞いてくれて、辛かったら逃げてもいいんだよって言ってくれて。支えてくれるように手を握ってくれて。それから猫屋敷でいっぱいもふもふされました。猫たちに。それから悪いことをしてない子を叱るなんてできないよって言われました。
二人には絶対、わたしの内心を見透かされている気がします。
いつも厳しい父も、何も言わずに二人の看病や、学校を休むことを黙認してくれました。
兄が父に掛け合ってくれたのだと聞いています。兄も忍さんの事で忙しいのに、わたしは迷惑かけてばかり。
なのはは……悪い子です……
そんなネガティブな気持ちで、食事もあまり喉を通らない日々を過ごしていたら、レイジングハートに心配されてしまいました。
まるで、お母さんみたいな口調で心配されるので、その事を指摘したら動揺して黙ってしまいました。
ペンダントにして首にかけているレイジングハートのコアは、その日はずっと明滅してましたけど、大丈夫だったでしょうか……それとも、悪いこと言ってしまいましたか?
それから、父のことや母のこと。どこか歪んでしまった不破家のことで、その日は珍しく悩んでしまいました。
いつもなら、考えないようにして、気にしないようにしているのですが……
考えてはいけないのに……こんな、こと……
会いたいよ。おかーさん……
どうして、なのはやおとーさんを置いて、違う……違う違う。
こんなこと書きたいんじゃなくて、でも……
……なんだか今日はつらくて、かなしい。
……さびしいよ。
……おかーさん。
〇月×日
出かける前に、寝る前に書いている日記を書いていきます。
これを書いて気持ちを切り替えて。それから心を落ち着かせて。
今日、なのははユーノさんとアリシアを連れて時の庭園に向かいます。
それからジュエルシードを使って、アリシアのお母さんの病を治してきます。
アリシアのお母さんを助けたいと想う気持ちは真剣そのもので。ユーノくんもジュエルシードを必死に調整してくれて。
わたしは二人を支えたり、生活の面倒を見たりするしかできません。
いよいよ、ジュエルシードでお母さんを治せるかもと、期待と不安でいっぱいになっているアリシアを励まして、手を握ってあげて、一緒に眠ったりとか。必死に問題がないか見直し続けているユーノさんを、根を詰めすぎないように支えたりとか。
それくらいしか出来ません。
でも、わたしたち三人ともやれるだけのことは、やりました。
必死になって頑張りました。
だから、だから、今日くらいは笑って帰ってこようと思います。
アリシアとわたしと、ユーノさんの三人で。
天国のおかーさん。
なのは達のことを見守っていてください。
必ずアリシアのお母さんを助けて帰ってきます。
行ってきます。
かしこ。