「そろそろ夕食の準備始めるか、行こうぜハル」
対局室で皆の麻雀を見ているとキョウが話しかけてくる。時計を見てみると午後5時をまわるところだった。
「あぁ、もうそんな時間か。わかった先に行っててくれ」
俺は持っていた牌譜をテーブルに置き、食堂にいるキョウのもとへと向かう。
「あの、少しいいですか…?」
対局室から出ようとしたとき、横から声をかけられる。見るとそこには巫女服を着た少女が手をこちらに近づけていた。
「神代さん…?」
直接話すのは初めてであったが俺は名前を知っていた。永水の2年、神代小蒔。清澄とインターハイで戦ったのもあるがもともと有名だったのもあってすぐにわかった。
「すいません、あの、聞きたいのですが、ここでのお料理はあなたが作っているのですよね?」
「え、えぇ。俺ともう一人の須賀ってやつが作っていますけど、もしかして何か不満がありましたか?」
「いえ、違うんです。言いにくいのですけど…」
「お料理を教えてください!」
「おい、どうしたんだよハル。なんで神代さんが付いてきてるんだ?」
調理場に行くとキョウに小声で話しかけられる。俺の後ろにはやる気に満ち溢れた神代さんが調理場をキョロキョロと見回していた。
「いや、実はな、料理を教えてほしいんだとよ」
「料理? 何でだよ」
「そんなことは知らないけど、キョウはあんな状態の神代さんの頼みを断れるのか?」
キョウは俺から目線を外し神代さんの方を見る、とすぐにため息をついてこちらに向きなおす。
「無理だな…」
「だろ?」
キョウもすぐに無理だと判断する。だって、なぁ。
「じゃあ始めましょう! まずはなにをすればいいのですか?」
(あんなキラキラした目は久しぶりに見たなぁ。あんなん断るとか無理すぎるだろ)
神代さんに気づかれないように心のなかでため息をつく。とりあえずここまで連れてきたのは俺だし責任はとりますか。
「キョウ、神代さんの面倒は俺が見るから大丈夫だ。邪魔はしないと思うし人手が増えると思えばプラスだしな」
「頼んだぞ、あんまり夕食が遅れたら部長とかになにされるかわかったもんじゃないからな」
あぁ、と短く返事をして神代さんに近づく。神代さんは握りこぶしを胸の前に持ってきてこちらを見ていた。
「今日はなにを作るのですか?」
「えっと、予定ではハンバーグを作ろうかと、そこで神代さんに主に俺の手伝いをしてもらいながら料理を教えたいと思ってます」
「よろしくお願いします!」
神代さんはペコリという擬音がとてもあうようなお辞儀をしてくる。あまり会ったことがないタイプなので少しやりにくさを感じる。
「じゃあまずは玉ねぎをーー」
なにはともかく料理開始だ。
「後はこれを焼くだけですね」
神代さんに様々なことを教えながらの料理は案外スムーズに進めることができた。神代さんは料理はあまりしたことがなさそうではあったが、まったくの初心者ではないような感じのため、教えたことはけっこううまくできていた。
「よかった、うまくできましたよね?」
「そうですね、神代さんは手際もよかったし少し練習すればすぐに上達できますよ」
そこで会話が途切れ、俺と神代さんの間に気まずい雰囲気が流れ始める。この雰囲気に耐えるのはきついと判断した俺はキョウの手伝いという名の逃亡をしようとするが、
「あ、あの!」
神代さんは俺の袖を引っ張ってくる。さすがに振り払ってキョウのところへと行くわけにはいかないので立ち止まり、神代さんの方に視線をやる。神代さんはうつむきながらもこちらをチラチラと見ていた。
「いきなりで失礼だと思うのですが、一つだけお願いがあるんです」
「お願いですか? また料理関係か何かですか?」
「いえ、そうではなくて…私のことはどうか小蒔と呼んでくれませんか?」
「名前で呼んでほしいってことですか?」
「は、はい。あ、でも藤堂さんが嫌なら別に強制はしませんしそこまで無理してもらう必要はないといいますかなんといいますかーー」
神代さんは急に慌て出して手を自分のまえで降りながら捲し立てる。その様子がとてもじゃないが年上には見えなく、むしろ年下に見えてきて口元から笑みが溢れるのがわかった。
「やっぱりいきなり過ぎましたよね、忘れてくださってもーー」
「そんなことは言ってませんよ、小蒔さん。コレくらいのお願いならいくらでも聞きますよ」
「え、今なんて…?」
「だから、名前で呼ぶくらいなんてことありませんよ。小蒔さんが呼んでほしいのなら俺はそう呼びます」
「あ、ありがとうございます!」
小蒔さんは顔を赤くしながら微笑む。たかだか名前呼びぐらいでここまで喜んでくれるのは予想外だ。
「じゃあ、後一ついいですか?」
「えぇ、なんですか?」
「藤堂さんのことを悠斗さんって呼んでいいですか?」
「はい、好きにしてくれて構いませんよ」
「よかったぁ、実はちょっと憧れだったんです。同じぐらいの年の男の人と名前で呼びあうのが」
「憧れ、ですか?」
「はい、私のお家柄から男の人とあまり仲良くなることが出来なかったのです。永水を女子高だから同じぐらいの年の男の人と触れあうこともなかったですし」
「それに仮に仲良くなることが出来たとしても私のことを姫と扱う人ばかりだったので普通の女の子として扱ってくれる人はいなかったので」
「だから悠斗さんは私の初めての男の人のお友達なんです」
そう言って小蒔さんは満面の笑みを浮かべた。初めての男の人の友達、か。そんなんが俺でいいのだろうか。
「ハルー、こっちは終わったぞ。そっちはどうだ」
「ん? あぁこっちもあと少しで終わる。先に盛り付けでもしててくれ」
まぁ考えるよりまずは料理を終わらせますか。
結果として夕食には時間通りだったし特に問題もなかった。小蒔さんが来たとしてもなんとかなったようだ。
「悠斗さん、これからも料理を教えてほしいのですが、いいですか?」
小蒔さんが夕食後こちらに来て話しかけてくる。料理を教えるといってもそこまで教えることもないとは思うのだが。
「じゃあ、来れるときに夕食の準備を一緒にしましょう。その時に色々と教えますから」
「はい!」
小蒔さんが笑顔でうなずく。その顔には一切の曇りがなかった。
「それでは悠斗さん、また明日」
手を振りつつ遠ざかっていく小蒔さんをみながら、久々に自分のなかに不思議な感情を感じた。
~3日目、神代小蒔の日誌~
3日目が終わりました。今日も対局の途中に寝てしまって皆さんにご迷惑をかけてしまいました。どうして寝てしまうのでしょうか、わかりません。でも今日は悠斗さんと仲良くなることができました。初めての男の人のお友達。悠斗さん、私のことを姫として扱わないのでなんだかとても心地よく感じました。これからも悠斗さんとのお料理頑張りたいです。そういえば今日、日本麻雀協会の人が明日明後日の土日はお休みだと言っていました。私も霞ちゃんと遊びにいきますし皆さんどこかに出掛けるのでしょうか?
どうも第11話です。
今回は小蒔の話です。敬語と敬語だとどっちが悠斗でどっちが小蒔だか分かりにくいですね。
次回は休みと言うことでどこかに出掛ける話、または留守番の話になりそうです。
これからもよろしくお願いします!