side 黒崎一護
山田花太郎。恋次を預けようとしたらなんでか協力してくれると言ってきたそいつに連れられて地下通路に入る。ここにルキアの牢に入るための鍵があるらしいんだが、俺にはどれが何だかさっぱりわからねえ。
「……なあ、なんでお前は協力しようと思ったんだ? 俺一応旅禍だぞ?」
「あはは……ちょっとだけ、付き合いがあったんですよ」
そう呟いて、花太郎は話をしてくれた。ルキアが懺罪宮に入る前に六番隊の隊舎牢に居たこと。そして花太郎がそこの清掃を任されていたこと。話しかけて、優しくしてもらったこと。少しずつ打ち解けていき、色々な話をしたこと。
そして、その話の内容の多くが俺の事だったと言う事。
……ほんと、馬鹿野郎だ。いや、男じゃねえから野郎ではないかもしれないが、ともかく馬鹿だ。そしてそんな馬鹿を助けようとここで色々とやってる俺もまた同じくらいの馬鹿野郎なんだろうな。
だが、今は疲れた。周囲の警戒を続けながら慣れない瞬歩を連続して使い、その上戦闘を四回。しかもそのうち一回は集中力を限界付近まで引き上げた超加速状態だ。一瞬しか使わなかったとはいえ、流石に疲れた。身体の状態には慣れたつもりでいたんだが、流石にまだ無理があったか。
身体の状態は悪くないが、良くもない。軋むほどの負担はかかっていないが、じくじくと蝕むような痛みはある。俺の意思で静血装を常時発動できていれば自分の霊圧や動きで身体が軋むような事は無くなるんだろうが、瀞霊廷の中にいる間は滅却師としての力は極力使わないようにすると約束しちまったからな。そもそも俺じゃなくってまだ斬月のおっさんの方に力を貸してもらわないと使えねえし。
斬月を両膝に乗せて刃禅をする。こうしていれば身体は休まるし、頭の中で修業もできる。出ようとすればすぐに出れるようにもしてあるから大丈夫だろう。少なくとも感知能力に関しては俺よりよっぽど上手い奴が二人も揃ってる。
「……花太郎」
「! はい、なんでしょう?」
「……少し、休む」
返事を聞くことも無く意識を内側に仕舞い込む。そうして俺が目を開けると、そこにはすでに見慣れた俺の精神世界が広がっていた。
そして、そこには俺を除いて三つの影があった。
「よう、また来たのか、王よ」
虚の俺。ある意味じゃ俺の戦い方の師匠とも言える存在。こいつにはこいつの思惑があると言うのはわかっているが、結局のところ俺が強くなれば同じだけ強くなる以上本能によって俺が騎馬になるか王になるかが決まると言う。理屈はわからなくもないが、負ける気はない。
「さて、ここに来たと言う事は修業の続きか? 身体を休めながらなのだろうが、最悪の場合身体の方に傷がつくことは覚えておけよ」
斬月のおっさん。本当の名はユーハバッハと言うらしいが、俺にとってはやっぱり斬月だ。滅却師の力の制御を教えてくれている。
「精神修行なら任せろ。態々俺に感染してまで力を求めるような奴は中々いないからな。手伝えるだけ手伝ってやるよ」
織斑さん……の姿をしているが、実際には織斑さんではない。織斑さんの斬魄刀の開放形態の一つ、毒刀の名を持つ刀、鍍。刀を握れば人を斬りたくなる、刀の毒そのものとも言えるそれを俺は受け取り、そしてその毒を飲み干した。お陰で俺は他人を斬ることも他人に斬られることも躊躇わずに済んでいる。
ただ、この毒は少しずつ薄れて行っている。この毒が完全に無くなる前に、俺はしっかりと他人を斬ること、そして自分も斬られることについて覚悟を決めなければならない。
……しっかし織斑さんの刀ってどこまで無茶苦茶なんだろうな。驚きだよマジで。
さてさっきも言った通り、ここは俺の精神世界だ。それさえわかっていれば俺はこの世界では何でもできる。自分を一度三人に分けて、ここに居る三人の教師にそれぞれの事を習って統合することもできる。その状態で戦うと当然弱くなるが、まあ仕方ない。意志で強さをある程度ひっくり返せるこの場所で虚の俺と戦って引き分けるくらいのことができないんだったら、ルキアを助けることなんざ夢のまた夢みたいなものだろう。
「また頼む」
「おう、今回も念入りに殺してやるよ」
「わかった。私の知る全てを教えよう」
「無論だ。俺を乗り越えて見せろよ」
こうして俺の修行は未だ続く。虚の俺を降し、斬月のおっさんから学べるだけ学び、鍍の毒を飲み干して精神を鍛え上げる。恐怖を殺すのではなく手懐け、力をただ振るうのではなく自在に操り、無数の経験を積み続けていく。届かない星に手を伸ばすようにと織斑さんは表現したが、俺にとって星は届かないものではない。必ず、ルキアを救い出して見せる。俺が俺にそう決めた以上、俺は絶対にそれを実行する。
ただその、パンジャンドラムだけはほんとに勘弁してもらってもよろしいですかね? できればパンジャンドラムを思い出させるような円形の物も使わないでいただけると……。
「俺は使わねえよ。使えねえしな」
「私は使えるが使わんから安心しろ」
「駄目だ、使うね」
鍍は本当に毒を吐いてきやがるな……(吐血)
Q.鍍はパンジャンドラム的なものを使ってくるの……?
A.んなわきゃない。
Q.鍍の能力はそういうのにしたのね。
A.まあ、真庭鳳凰が四季崎記紀に乗っ取られてましたし、こういう使い方もありかなと。