side 石田雨竜
突然空から何かが降ってきたと思ったら、凄まじい威圧感を放つ髪が雲丹の針のようにとがっていてその先に小さな鈴がいくつもついている奇妙な風体の男と目が合った。
これはやばい。さっきのイカレ科学者とはまた別方向にやばい存在だ。純粋に強く、そしてひたすらに戦闘を求める戦闘狂の顔をしている。
だが、運がいいのか悪いのかはわからないがじっと見つめてくるばかりで襲い掛かってくる気配はない。殺気も無く、しかしただそこに立っているだけで凄まじい重圧が身体にかかる。乱装天傀によって無理矢理立っている僕はまだ大丈夫だが、井上さんは……
「……黒崎君と戦いました?」
「ああ。将来が楽しみな奴だったぜ。もうちっと強くなってくれねえと楽しい戦いにはできねえだろうが……まあ待つさ」
「なんでこの状況で普通に話しかけられるのかな井上さん!?」
以前から空気を読まない行動とか結構していたけれどこの状況でその行動は読めなかったかな!? と言うかなんであっちの方も当たり前のように応対してるんだ!? 流石に全く意味が解らないんだが!?
と言うか黒崎の奴はこれと戦って生きてるのか……思っていた以上に黒崎の奴は強くなっているのかもな。それがどの程度のものかは知らないが、僕より強いんじゃないか……?
「あいつの話ができるってことはお前らもあいつと同じ旅禍ってことでいいな……色々と話をしなきゃならねえことがある。ついてこい」
そう言うが早いかそいつはひょいっと井上さんを背負って走り始めた。僕も飛廉脚で後を追うが、凄まじく速い。見失う事こそなさそうだが、どう見ても相手には余裕がある。僕はかなり全力で走っていると言うのにこれだけ差があるのか……これが隊長格……。!
「一応言っとくが俺より速い奴も強い奴も霊圧の多い奴も上手い奴もいるからな。俺はどの分野でも二位か三位って所だ」
「強さの分野では?」
「…………殺し合いなら四……いや、三位、か?」
「ちなみに一位から五位の方の名前は?」
「織斑、総隊長の爺さん、俺、卯ノ花八千流、藍染だろうな。俺と卯ノ花は前後するかもしれねえが……今の俺なら勝てるだろうよ」
「ほわぁ……凄いんですね」
「はっきり『頭がおかしい』と言ってもいいぜ?」
「? 強い事は良い事だって言ってましたよ?」
「ほぉ? 俺と意見が合いそうだな」
なんで井上さんはほぼ誘拐されてるような状態でこんなに和気藹々と会話ができるんだ……? 僕の方がおかしいのか?
「あの、どこに向かってるんですか!?」
「あ? あ~……確かあれだ、旅禍が一人捕まってるらしくてな。そいつを引っ張り出して一護にくれてやって、その代わりにまた一遍やり合う予定だ。あいつなら乗るだろ。多分」
「あ、黒崎と戦うことが主目的なんですね……」
「たりめーだろ。ついでに他の隊長格とも戦えりゃ言うことなしだな」
戦闘狂ってこういうののことを言うんだろうな……と思いつつ後を追っていくと、壁に挟まれた道ではなくもっと開けた建物の密集地帯に出た。ただ、どこからも知り合いの霊圧を感じ取ることはできない。黒崎の霊圧はどこにあるのかはわからないけれど瀞霊廷中に散っているからここに居てもわからないかもしれないし、夜一さんの霊圧は猫の姿だった頃から非常に感じ取りにくいものだったからわからないでも仕方がないと思たけれど、茶渡君がここに居るならそのくらいはわかりそうなものだ。それすらわからないというのはおかしい。
「捕まった奴ってのは霊圧を封じる枷を付けられる。完全に抑え込むことはできねえらしいが、術を使おうとするとそれに干渉して使えなくなるとか言ってたな」
「へぇ……」
「それは、霊圧だったら何でも抑え込める?」
「そうなんじゃねえか? 詳しい事は知らねえが、昔それで武器を作ろうとして失敗したって話もあったな」
……なんと言うか、細かい事は考えていないし憶えてもいないけれど、浅く広いものに限定するならかなり知識があるんじゃないかこの人? あと、隠し事をすると何となく見つけられそうな気がする……。
でも、霊圧を感じ取れないんじゃ僕たちがどう頑張っても茶渡君を見つけることはできなかったと言う事だ。多分黒崎の奴でも同じだろう。ここで会うことができてよかったと思うことにしよう。
ただ、随分派手に壊しながら来ているのだけれど、これは大丈夫なんだろうか。主に直す時のお金とか、どこから出ることになるんだろう……。
「あ、そうだ。黒崎君の居場所は知ってるんですか?」
「? 知らねえのか?」
「探せばわかると思いますけど……今はちょっと」
「そうかよ。まあ暴れてりゃそのうち出てくんだろ」
思考回路は完全に脳筋のそれなんだけど、多分それもあの実力に裏打ちされてのものなんだろう。死神って言うのはどれだけぶっ飛んだ奴が多いんだ? 能力的に一番ぶっ飛んでいるのは織斑さんだし、性格が一番ぶっ飛んでるのはあのイカレ科学者。そして趣味嗜好が一番ぶっ飛んでるのがこの更木剣八。死神と言うのは個性の坩堝なのか……?
「おいヒョロモヤシ。お前今死神全体が濃すぎて呑み込めねえ、みたいなこと考えただろ」
「……ハイ」
「濃いのは上位席官の一部と隊長格くらいだ。他はそこまで濃くねえから安心しろ」
「アッハイ」
思考を読まれたのか……? いや、言ってる内容自体は大体あってたけど細かい所は外れてたから何となくそんな気がしたとかそう言う奴だこれ……こわ……死神の隊長格こわ……。
Q.石田君死神という種族に苦手意識出てきてません……?
A.出てきてますがお気になさらず。
Q.井上はよく当たり前に声をかけられたな?
A.原作でもそんな感じに会話してる描写がありましたしね。
Q.やちるは?
A.現在別行動。