side 井上織姫
じっと見ていた。茶渡君と相手の戦いを。
じっと見ていた。敵と戦う茶渡君を。
じっと見ていた。戦いを見る私を。
あの人は、じっと見ていた。
戦いの場から目を外し、私を見つめるその人と視線を交わす。お互いに見つめ合い、私は何となくこの人の事を知った。
何もない、訳ではない。ただ、この人は自身の中にあるものを理解していない。虚無と言いながら大気の詰まった空間のように、その場に自然にあるものをあって当然と思うが故に理解することなく成長してしまった子供のような、そんな感じ。
じっと見て、じっと見つめて、じっと見つめられて……
『おいしそう』
私の中の私が呟いた。
『とってもおいしそうだね?』
そうだね。
『よく出てくる虚って薄いもんね?』
そうだね。
『私もそう思うよね?』
うん、そうだね。おいしそうだと思うよ。
でも、固そうだね。
『そうだね。多分食べられないね』
料理すれば食べられるかな?
『わからないけど、やってみる?』
虚って死んだら消えちゃうからね。無理かなぁ……?
『わからないね』
やってみる?
『やってみようよ』
でも、いきなり本命だと失敗したときに悲しくならない?
『じゃあさ。そこにいいのがあるじゃない?』
そこ……ああ、うん、なるほど。
『ね?』
そうだね。それじゃあ―――やってみようか。
茶渡君と身体の大きい人が殴り合って飛び散った肉片を烏頭と狐花で回収していく。少しつまみ食いしているのは……まあ見なかったことにしてあげようかな。どうせ必要になるんだし。
そして肉片は少しずつ隠していくけれど、やっぱり飛び散るのを集めたところで大した量にはならないね。茶渡君の肉は飛び散ってないけれど、それでも作った盾と腕には少しずつ凹みができているように見える。圧縮された霊子を纏った相手の両手も血まみれになっている。純粋な強度だけなら茶渡君の方が上だけれど、相手は腰に刀を差しているからそれが抜かれたら形勢逆転もあり得るかな?
でも、戦い方からして武器を使うよりも素手で戦うのが得意そうなんだよね、あの人。なんでだろう? 死神の人たちみたいにあの刀が変形して鎧や籠手にでもなったりするんだろうか? 茶渡君みたい。
「……女。何を見ている」
「……あ、私? えっと……戦い方を?」
「では、お前はどう見る?」
「うーん……多分、現状有利なのは茶渡君。ただ、一番初めにいいのを入れたからであって、実際の実力は多分そっちの人の方が上……? あと、剣を使わないみたいなのに剣を持ってて、しかも切札みたいなものに見えるから……死神の刀みたいに解放すると何かあるんじゃないかな、って思う」
「ほう……」
「あなたは?」
「答える理由はない」
「そっかー」
残念。でもまた少しわかったかな。
ふと、空から何かが下りてくる。真っ黒で、重くはないのにとても強い霊圧。黒崎君だ。
私はたつきちゃんや他のみんなを三天結盾で守りながら茶渡君が吐き出させた魂の誘導と抜け殻になってしまった身体の移動を舜桜とあやめにしてもらっている。魂は少しずつ戻ってきていて、けれどすぐ近くに大きな霊圧が二つぶつかり合っているせいでなかなか近寄れないみたい。三天結盾の後ろからなら近づけるのがわかってからは少しずつ集まってきているけれど……このまま時間が過ぎると霊圧で潰されちゃうかもしれない。せっかく茶渡君が吐き出させてくれたんだから、それはよくないよね。
でも、黒崎君が来てくれたから多分大丈夫。二つに分かれた刀のうち、大きいほうだけを出しているのはきっと手加減のためじゃなくて相手に自身の力を誤認してもらうためだと思う。
「井上。待たせたか?」
「ちょっとだけ。でも大丈夫だよ」
「そうか。チャド!そっちのは任せていいか?」
「―――ああ、任せろ!」
黒崎君は私に背を向けて、細身の男の人と向き合った。茶渡君も今まで以上に張り切って大きい方の人に向き合った。
『……おいしそうだよね』
そうだね。
『ずっと、我慢してるんだもんね』
そうだね。
『きっと、おいしいよね』
そうだね。食べたらきっとおいしいだろうね。
でも、駄目だよ?
『黒崎君は食べたらなくなっちゃうからね』
そうだね。
『黒崎君と一緒じゃないのは、いやだね』
そうだね。一緒に居たいね。
戦うと決めた黒崎君と茶渡君、そして敵の二人の周りを大きな大きな盾で囲う。内側を拒絶し周りに被害を出さないように、舜桜、あやめ、椿鬼、烏頭、狐花によって隔絶された戦いの場を作る。この中で起きたことならば私はそれを拒絶して治すことができるから、この中であれば黒崎君たちがどれだけ暴れまわっても大丈夫。
それに、椿鬼くんのおかげで外から中の事に気付かれにくくしているし、とても便利な術であることは間違いない。双天帰盾を元にしているこの盾はかなり頑丈だし、早々壊されることはない。壊されたという事実その物を拒絶してしまえるからだ。
……人間の領分を超えた力だと言われたけれど、使える物はなんだって使わないと黒崎君に置いて行かれてしまう。置いて行かれるのは嫌だ。だから、私は―――私達になったんだから。
盾の中での戦いは少しずつ激しくなってきているけれど、私はそれを封じ込める。同時に周りに散っていった魂を集めて元の身体に戻る手伝いをする。ただ魂を身体から抜かれただけで体に一切傷が残っていないなら、結構生き返らせることはできるみたいだしね。
『黒崎君の霊圧おいしー♪』
あっずるい私も食べる!
Q.烏頭&狐花is誰?
A.新しくできた六花(?)です。詳しくは目次に戻って一番上のオリジナル設定集をどうぞ。
Q.ちなみに井上が使ってた技、名前あんの?
A.あります。詳しくは同上。