side 黒崎一護
誰だかわからねえけど虚と死神の中間っぽい奴で、チャドと戦っていなかった細身の方を相手にしている。平子相手にしたときには小さい方の刀を使っていたから、今度は大きい方の刀を使う。
まずは軽く剣を振るう。剣圧が飛び、男に向かう。男はそれを片腕で弾こうとするが、寸前で留まって大きく回避した。……なるほど、これで斬れるのか。なるほど。
「ほう……中々の威力だな」
「そいつはありがとさん。で、一応聞いておきたいんだが、お前の名前とここに来た目的を教えてくれねえか」
「……。俺の名はウルキオラ・シファー。藍染様の命により、お前を見に来た。そして、邪魔になりそうならば殺せ、という命も受けている」
「ああそうかい。で、どうする? 俺と殺し合うか? 多分だが今のお前相手なら俺の方が強えぞ」
「そうだな。お前の実力は先の一撃で見て取れた。あれは全力ではないだろう?」
「おう。あれはただ剣圧を飛ばしただけで、技とも言えない曲芸みたいなもんだ。今みたいに井上が空間を閉じておいてくれなかったら使えない、物騒すぎる曲芸だけどな」
まあ、多分だがこいつくらいなら十分勝てる。少なくともあの剣圧を避ける理由が命に届きうる威力だったから、ならばだが。もしどこかの誰かさんのように支給された隊長の羽織を汚すと怒られるから、という理由で避けられたわけじゃないならまあ……うん。
あれは、へこんだ。ぶっ飛んだ人だってのはわかってたつもりだったんだが、俺の理解していた以上にぶっ飛んだ人だった。なんで天鎖斬月に月牙を纏わせて斬りつけて一番にすることが服の心配なんだよ……?
ともかく、今のを避ける理由が服の心配であると言うのじゃなければまず間違いなく勝てる。剣圧はあくまで剣圧であって技ではない。霊圧もほぼ籠っていない。月牙と比べれば月牙の方が遥かに威力がある。そしてやろうとすれば剣圧と月牙を同時に出すことも不可能ではない。
「お前は危険だ。藍染様に届くとは思えないが、万が一重要な時にほんの一手邪魔をされることもあり得る。
故に、ここで殺す」
「できもしない事をさもできるように言うのはやめとけよ。少なくとも今の俺は、今のお前には負けねえぞ」
月牙を研ぎあげる。ただ放っただけでは三日月のような薄い板のように広がるそれを、一本の細い糸のように圧縮して切れ味を上げる。相手が固くて斬る時に衝撃が欲しい場合には不適な行動だが、剣圧で斬れるような相手であればこうした方が速度や切れ味自体は上がるから効果的だ。
……この状態で重さが欲しいなら、刀に纏わせてそのまま行けばいい。そして多分だが、こいつの剣はそこまでやれば折れるだろう。霊圧からくる硬度の感知は滅却師の霊子感知が一番なんだが、かなり密度が高い事だけはわかる。つまり霊圧によって結構な強度になっていると言う事だが……斬月には及ばねえ。
斬る。俺の意思を霊圧に込めて、天鎖斬月ではないただの斬月のまま黒い月牙を纏わせる。そして一息に振り切った。
井上の張った盾の結界。これが無ければこんな真似はできなかっただろう。井上の盾によって包まれた場所は、井上の意思によってさまざまな事象が拒絶される。一度張ることさえできれば、中でどれだけ暴れたとしても最後には井上の力で元に戻せるわけだ。
今はまだ最後に全部を元通りにすることしかできないようだが、更に上手くなれば戦闘中に受けた傷を拒絶して治すこともできるらしい。今はまだ治すと決めたら全て治すことしかできないようだが、敵を倒しきった後であれば敵を復活させないように治すこともできるらしい。織斑さんの言ったとおり、井上は一番凄まじい能力をしているな。真似できない。何しろあの織斑さんですら完全に真似するのは無理だと言い切ったからな。
……疑似的にだったら真似できる辺り織斑さんマジ織斑さん。普通事象の拒絶だのなんだのを真似しようとか思わないしそもそもやり方とか絶対わからねえだろ? なんで真似できるんだかマジでわからん。
月牙が音を超えて飛ぶ。衝撃波が伝わるはずの大気の壁すら斬り捨ててウルキオラに迫った薄く鋭い月牙は見事にウルキオラの身体を上下に両断し……しかしウルキオラは即座に自身の身体を引き寄せ、繋げた。刀は折れているが、身体に傷はすでに残っていない。斬られた名残は胴から下を斬り落とされた服だけになっていた。
そして斬られた服の裾から見えるのは、4の文字。何が四なのかはわからないが、推測はできる。
一つ。藍染の所に所属した順。まあこれは恐らくだが無いと思われる。藍染は脳筋で戦闘狂の気がある(自己申告)ものの、かなり効率主義者で頭もいい。そんな奴がたかが入った順で数字を刻むわけがない。
となるともう一つ。藍染の部下としての強さの順。恐らくこっちだろう。だが、この程度で四番目と言うのはおかしい。多分だが、尸魂界に入ったばっかりの時の一回目の修行直後の俺でも倒せる程度の実力しかない奴に四番の数字を与えるような甘い男ではないはずだ。
……そうなると、やっぱ刀か。あれを解放するとなんか起きると考えた方がいい。死神としての霊圧は、多分あれから来ているはずだからな。
チャドの方は……堅実に、しかし確実に削っていっている。あのでかいのは多分ウルキオラよりも弱い。ウルキオラとチャドだと、多分ウルキオラの方が優勢になるだろう。やっぱりここは俺が行くしかねえ。
「―――鎖せ。『黒翼大魔』」
「……斬月」
仕舞い込んでいた小刀の方を出し、恐らくだが本気になったと思われるウルキオラに向き合う。なんとも重い霊圧だ。こんなのが近くに居たら息苦しくて仕方がないし、周りの奴らも魂が押し潰されてしまうだろう。本当に、井上がいてくれてよかった。
そして分かったことがもう一つ。あいつらは斬魄刀を解放すると姿が変わり、強くなるらしい。それがどのくらいまで上がるのかはまだわからないが……まあ卍解の剣八よりは弱いだろうな。多分。霊圧の感じからしてそんなところだ。
……チャドを巻き揉まねえようにしないとな。
Q.井上の盾便利遣いしすぎじゃね!?
A.実際便利だからね。仕方ないね。
Q.と言うかその効果どっかで見たことあるような……?
A.灼眼の……ゲフンゲフン