side 黒崎一護
結局帰るのは夜になっちまったが、ともかく帰れた。今日一日で何回あいつボコったっけか……? 八……いや九? まあともかく結構ボコったわ。仮面だけの虚化にも慣れたし、なかなか実りのある一日だったと言っていいだろう。斬魄刀の上澄み化計画は失敗ってかデメリットがメリットを大きく上回ったからやらない方向で決めたしな。弱体化が凄すぎて無理だわ使えねえ。
まあそれはともかく、これからしばらく昼は学校、学校が終われば修行で夜は寝るって生活が続きそうだ。昼も修行できればいいんだが、流石に勉強しながら内在世界で戦闘訓練とか死ねる。比喩でなく。
流石に結構上の方の部下を殺された直後に何も考えず攻め込んできたりするようなやつはいないだろうし、もし居たとすればそれはまず間違いなく藍染の差し金ではなく独断によるものだろう。そういう奴を殺したところでどうこう言ってくることはないだろうし、ついでに言うと四番目があの強さならそれより下の奴らは物の数じゃないし、まず間違いなく藍染一人でそいつら全員殺せるだろう。今の俺でも届くかどうかわからねえしな。
最後の月牙天衝を覚えたはいいが、これは一回使うと即座に俺自身が無力化してしまう。要するにまともに使うことはまずありえないという事なんだが……万が一使うとしても何らかの形で保険は残しておきたいよな。石田の使ってる銀筒みてーに今のうちに霊圧をため込んでおいて力を無くしたら俺自身の死神の力をもう一度俺に譲渡する形で復活させるとか。
『無理だぞ』
無理なのか? できそうな気がするんだが。
『いや無理だ。お前の死神の力は父親からのもんだが、母親から来た滅却師の力と虚の力と混じりあって離れなくなってる。死神の力が消えれば他の力も当然消えるし、たとえ事前に死神の力を保存できたとしても滅却師の力や虚の力は失ったままになっから全体でみりゃあとんでもねえロスにしかなんねえよ』
マジかよ。
『死神の力だけならできなくはねえと思うけどよ。全部は無理だろうな』
そうか。だったら余計に使えねえな。
……そう言えば、今回の修行の副産物で最後の月牙天衝を覚えて以来、今まで以上に斬月が手に馴染むようになってきた。これは多分俺自身を月牙にするという特性上、俺と言う存在と斬月と言う存在の境界が曖昧になったことによって起きているんだろう。多分だが、卍解したら俺の身体と完全に同化するんじゃないかと思っている。
必要になったら使うだろうが、できる限り使いたくはない。何しろ文字通りの意味での最後だ。織斑さんに頼めば何とかなる可能性も無くはないが、霊力も何もかもを失った俺には織斑さんにコンタクトを取ることもできはしないわけで。考えたくはないが、一応そういう未来も十分あり得るってことだけは頭に入れておこうと思う。
いや、だけどほら、俺の魂魄から死神の力が失われたとしても人間の魂魄である以上虚になれる可能性は残ってると思うんだが?
『俺はお前だがお前の母親の方から来た存在だ。純粋におまえ自身が完全に虚になったら多分俺よりやべえのが出てくるぞ』
具体的には?
『なんかパンジャンドラム転がしてきそうなやつになるだろうな。多分』
マジかよ怖えなオイ。失っても虚になるのはやめます。
『そうしとけ』
……だが、そうなるとこれからより強くなるのに色々と問題が出てくるな。最後の月牙天衝は使えないものとしても使えるようになったことで俺の能力は大分上がった。俺は斬月で斬月は俺だという認識がしっかりできたからだろうが、今まで以上に斬月を扱いやすくなったし斬月の能力である月牙の改造も上手くいくようになった。じゃねえと流石に月牙天輪なんかできるわけがない。
あ、いや待て。確か俺の覚えていない新しい力ってのに覚えがある。確かあれは会ったばっかりのころに織斑さんが言ってたはずだ。
確か……そう、井上とチャドに言ってたはずだ。
完現術について一番詳しいのは俺の知る中ではまず間違いなく織斑さんだろう。織斑さんが一体どこまで知ってるのかとかは知らないが、ともかく教えてもらえないか交渉してみようと思うが、その前にチャドと井上にも聞いてみよう。あの二人も俺が織斑さんから色々教えてもらっているのと同じように完現術についてはいろいろと聞いているはずだし、アポイントメントの取り方もわからなければそもそも仕事を増やされることが大嫌いな織斑さんに直接会いに行くとか正直勘弁してもらいたい。俺はまだ死にたくはないんでな。
……織斑さんに聞きに行くのは最後の手段ってことにしよう。いきなりラスボスはちょっとな……聞きやすい方は……やっぱチャドか。今度学校で会った時に軽く聞いとくか。
Q.マジで? ここで完現術覚えにかかるの?
A.まあ覚えられるとは限りませんが一応。何しろ存在を知っているわけですから力を求める一護がやろうとしないわけも無く。
Q.最後の月牙天衝使えんのかよ……。
A.使う機会があるかどうかは未定にして不明ですが。