BLEACH~ほんとはただ寝たいだけ~   作:真暇 日間

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BLEACH~94

 

 side 茶渡泰虎

 

 以前戦った時に比べ、少しだがこの男の背が伸びている。霊圧もそれに合わせて増加しているように思えるし、膂力や速度も同じくだ。

 一撃の威力が重い。盾で防いでも身体の芯まで響く。だが、逆に言えば盾で防げる程度の攻撃でしかない。防いだのに撃ち抜かれて右腕から肉を削ぎ落とされたり、防いだのに貫通して内臓をかき回されたりするわけでもない。精々気を抜いたら盾が軋むくらいだ。

 

 俺の戦い方は変わらない。攻撃を防ぎ、近付き、殴る。俺にはそれしかできないし、それしか知らない。相手が何か言ってきている気がするが、今の俺にはそれに返す余裕はない。お前が強いから、会話している余裕なんてないとだけ言葉にして俺は今までと変わらず相手を殴る。鋼皮の強度が俺の貫けるぎりぎりまで上がっている。虚化を習得したことで完現術の全体的な能力が少し上がっていなければ何もできずに嬲り殺されていたところだ。鍛えておいてよかった。

 相手からの言葉がなくなった。相手も俺と同じように余裕がなくなったのか、それとも会話をしようとしない俺を殺すことに集中し始めたのかはわからないが、俺に当たりに来る拳の速度が上がり始めている。左腕を攻撃ではなく攻性防御にも使い始めたが、それでも相手の攻撃の速度がどんどんと上がっていくのについていくのがやっとだ。

 

 だが、お互いに致命傷は受けていない。敵の攻撃は盾で防がれ、俺の攻撃は効果が薄い。このまま続けば体力の問題で俺の方が不利だろうが、この状況を打開できるような技を俺は持っていない。鎧のような皮膚を抜くには一瞬の溜めが必要になるが、その溜めを作ることが非常に難しい。

 一護は二人を相手に勝つ戦いをしているというのに、俺はここで一人を相手に負けないように戦うのが限界とは、情けない。一護と共に立ち、一護の背を守るにはこの程度ではだめだ。これからも一護はより強くなっていくだろう。それに置いて行かれることのないように、もっともっと強くならなければならない。

 そのためにも、こんなところで負けるわけにはいかない。こんな所でこんな奴に殺されてやるわけにはいかない。しかし、そう思ったところで決め手がないのも事実。虚化すれば威力は上がるが、制御に失敗すると虚化どころか完現術すら不安定になる諸刃の剣だ。もう少し練度があるならやっていたかもしれないが、今の状態では難しい。こちらばかりが消耗するのがわかりきっている。

 

 だからこそ、やる意味がある。

 

 虚化し、殴りつける。今までのように防がれる感覚も無く、一撃で鎧のような皮膚も筋肉の防御も全て抜いた感覚があった。俺の虚化の実用時間は現在十二秒弱。この十二秒が過ぎる前に一度戦いを仕切りなおす必要がある。

 殴りつけ、肉を削ぎ落し、骨を砕き、歯をへし折り、吹き飛ばす。拳を弾き、腕の肉を削り取り……仮面が砕ける寸前に自分で外す。仮面が自壊した場合に比べて自分で外した方がいくらか余裕ができるというのは何度も繰り返し虚化して来たからわかっているが、やはり十秒と言うのは長いようで短い。

 反撃を受ける。肉を削ぎ落したから威力が落ちているはずなのに、虚化する前より強く感じる。やはり虚化は消耗が激しいな。吹き飛ばされ、叩きつけられ地を転がる。完現術で身体を強化し、更に地面を柔らかくして俺の身体を受け止めさせていなければ危ない所だった。一護たちと違って俺の身体は生身だからな。尸魂界に行ったときのように無茶はできない。

 

 しかし、今この町で戦えるのは俺と一護だけじゃない。

 

 遥か遠く。俺の霊圧知覚領域から外れた距離から閃光のような速度で矢が走る。俺の頭に迫る男の腕が貫かれ、逸れる。それに合わせて俺は左腕を纏い直し、顔面に拳を叩き込む。矢が飛んできた方向に顔を向けることはしない。敵の目の前でそんなことをしたらあっという間に死んでしまうからな。今回の敵はかなり強いし。

 石田は飛ばした矢を自分の意思である程度操れるようになったらしく、二発目以降は一発目が飛んできた方向とはまるで違うところから飛んできた。三発目も同じように違う方向から。ただ、何十発も見ているとおよそ方向はわかってくる。流石にわざわざ一旦通過させてから反転して当てるなんて真似はしないだろうからな。

 ただ、わかったところでこっちからの攻撃が通るかというとそんなわけがない。俺もこいつも肉弾戦が本領で、手が届かない奴を相手にするには難がある。一応俺は拳から霊圧を飛ばせるし、こいつも虚であるなら虚閃が使えるだろうが……そういったただ放出する系統の技は滅却師である石田にはいいカモでしかない。特にこれだけ離れていては届くまでに完全に分解されてしまうだろう。

 だが、石田の矢は致命傷には遠い。かなりの霊圧を感じるが、やはり現世では霊子の薄さもあって滅却師の本領は発揮しづらいんだろう。尸魂界に居た時の矢はこんなものじゃなかったしな。

 

 しかし石田の矢が致命傷に遠くとも、俺の拳はこいつの命に届く。拳一振りの間仮面を被り、鎧を撃ち抜く溜めを経て、俺の拳は大男に突き刺さる。衝撃が大男の腹を貫き、背中から抜き出ると同時に潰れた内臓が肉と一緒に飛び散った。

 仮面の上から男の吐血を浴びるが、仮面が砕けると面と一緒に崩れて消える。男の拳がゆっくりと振り上げられるが、石田の矢によって肩から先が千切られ地面に縫い付けられる。

 

「ち、くしょうが……イラつくぜ……!」

 

 男はそれだけ言って崩れ去った。血も、肉も、骨も、全て綺麗に消えていった。……死神が関与していない虚の消滅というのは、まずいんだったか?

 とりあえず俺はこれから来るだろう四季崎たちへの言い訳の言葉を

 

「ここか!?」

 

 ……考えられずに終わってしまった。

 




Q.チャドが強い……!?
A.チャドは原作においても人間の中では有数の強さでしょうに。

Q.そう言えば居たね石田君。
A.能力も失っていない石田君です。

本編完結後にこの話の外伝的な物を書こうかなと思うのですが、大雑把な内容をアンケートします。なお、ちくわ大明神が頑張ることでこれらの話は実現されますので無理だろとか思わないで大丈夫です。

  • 原作世界に一護達in
  • 事前に見えざる帝国滅ぼしてなかった世界
  • 尸魂界でP1グランプリ開催
  • 虚圏でP1グランプリ開催
  • 全部やろうか(マジキチスマイル)

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