黒猫氏の異界滞在記 作:〈黒ウィズ二次を飽きるほど読む夢〉
書き直しと端末の機種変とで2回ほどリスタートを喰らっていました……。
今回の内容は
・アカリと夜明けの町
・アヤツグ、告白する
・ヨミチとお出かけする(多分続く)
本家に習って3本っぽく書きましたが、普通に一本の話です。
アヤツグの個人的に爆笑した深化ボイスを使いましたが、BLっぽくならないようにするの大変ですね。
八百八町〜つれづれ〜 春の豪華3本立すぺしゃる!
いろいろと忙しかった〝冬の盆踊り祭り〟の翌日、まだ朝早い気分屋で。
布団にくるまり眠っていた君は、顔を撫でる冷風で目を覚ました。
誰かが戸を開けたのだろうか。いや、昨日はみんな閉め忘れて開け放しだったのかもしれない……。そんな半覚醒状態の君の思考は、再び吹き付けた風に叩き起こされた。
眠気は寒気に飛ばされてしまったようで、そのまま二度寝を決め込むこともできない。仕方なく足元のウィズを起こさないようにそっと布団から抜け出し、君はローブを羽織った。
「やっぱこの格好じゃ寒いな……。上着上着……」
玄関に向かった君が目にしたのは、何事かを呟いているアカリの姿だった。微かに震えているところを見ると、外から帰ってきたところだろうか?
ひとまず君はおはようと挨拶した。アカリは驚いた様子でこちらを向いたが、君だとわかるとそのまま挨拶を返してきた。
「あれ……? おはよう、トモ。もう起きたの? あ……もしかして、起こしちゃった?」
申し訳なさそうな顔だ。そこに正直に答えるのも憚られるわけで、君は話をそらすことにした。何処かへ行っていたのかと質問することで、相手の質問をやり過ごしてみる。
「ううん、まだこれから出掛けようと思ってたところ。外に出てみたら、厚着しないと耐えられない寒さだったから」
こんな時間に何をしに外出するのだろうか。疑問は増えたが後で聞くことにして、君はひとまず厚着することを勧めた。
「うん、そうする。……それでさ、トモ、よかったらなんだけど……本当によかったらでいいんだけど……」
やけに長い前置きに、嫌な予感がした。……いつかにアヤツグに貸したお金が、即座に博打に突っ込まれたのを思い出す。結局別件で得た大金から返済されたとはいえ、さすがの君も呆れ果てた。
アヤツグはともかく。アカリはそんな人間ではないし、そんなことを頼まれる状況ではないのを君も当然わかってはいる。
君はわずかに身構え、本題を待った。うっすら消えない微妙な警戒心ゆえの、特に意味のない行動だ。
「……散歩に、付き合ってもらえないかな?」
そんな心中だけに、思っていた何倍も軽いお願いに君が即座に頷いてしまったのも仕方のないことだろう。頷いた後で、寒いし眠いのでは? と君は後悔した。
「わ、やった。ちょっと待ってて」
嬉しそうなアカリに、やっぱ二度寝したいからごめん、などと言えるはずもなく、君はこの寒空の下を歩く覚悟を決めた。
「お祭りの後って、ハレの気に押されて縮まってた禍魂がひょっこり出てくることもあるの。だから今のうちに祓っておきたいなって」
まだ薄暗い町を、アカリの話に相づちを打ちながらも君はゆっくりと歩く。吐く息は白いが、厚着してきたお陰で寒さは思ったほどではない。
昨日の大騒ぎが嘘のような静寂の中で、置かれたままの屋台と幟だけが祭りの気配を残していた。他に出歩く人は当然おらず、二人分の音だけが響いている。
それにしても、こんな早朝から見廻りとは、と君は感心した。誰に強制されたわけでもない、報酬が出るわけでもない。そんな行動をここまで貫き通せるのは、奉仕の心をモットーとする君から見ても中々に真似できない行動だ。
「あはは……。そう言ってもらえるのは嬉しいんだけど、今言ったのは建前なんだよね。祓うのは昨晩で終わっちゃってるし」
くすぐったそうに笑って、アカリはそう言った。建前だというのなら、本音は別にあるということで。それは何なのか、君は尋ねた。
「この時間なら、まだ片付けも始まってないから。お祭りの風情を感じるのに丁度いいかなって……」
お祭りは参加してこそでは、と首をかしげた君を見て、アカリは苦笑いして言葉を止めた。
「トモは異界から来たのにお祭り慣れしてるよね……。ちょっと、羨ましいかも。知り合いとか友達とかがその場にいなくても、そこにお祭りがあれば飛び込んでいけそう」
流石にそれほどのノリと勢いは持ち合わせていない……と反論しようとした君は、初めて訪れた異界で〝グリモワールグランプリ〟だったり〝喧嘩神輿トーナメント〟だったりに参加していたことに気付き口を閉じた。きっかけは巻き込まれとはいえ、最後まで付き合ったらそれは立派な参加者だろう。
「私は……一緒に出かける友達もいなかったから。みんなでわいわいしてる中で、自分だけ一人だと、ちょっと寂しいよね。だからこうやって、余韻だけでも味わってた……んだけど」
前はそうでも、今回は違ったんじゃない、と君は尋ねた。途中でワンオペにさせてしまったり、最後に四天王との戦いがあったりはした。けれど確かに彼女はお祭りの参加者で、一人ではなかったはずだ。
「うん。そう、だね。皆といて、すっごく楽しかった。……だから今も、トモを誘ってみようって思ったのかも」
それは何よりと頷いて、君はお祭りの感想を聞くことにした。
「改めてどう、かぁ……」
考え込んだアカリを眺めていると、遠くで夜明けを知らせる鐘の音が鳴り響いた。いつの間にか白んだ空は、透き通るように晴れ渡っている。
いい日になりそうだ、と大きく伸びをした君を脇目に、顔をあげたアカリは歩いてきた道に振り向いた。
帰るのか、と問いかけた君に、アカリは首を横に振る。
「ううん、そうじゃなくて……」
つ、と彼女の白魚のような指が、お祭りの残滓を一つずつ辿っていく。
「ここの屋台はお面、だったよね」
ヨミチが狐のお面を買っていったこの屋台は、今は奇妙な口をした男のお面だけが風に揺れていた。おどけた顔が孤独に揺れる様は、奇妙な寂寥感を君に与えてくる。
それについて何か言うわけでもないアカリは、順番にそれぞれの屋台が何を売っていたか、思い返しているようだ。
「それで、こっちがりんご飴、そこはわた菓子であっちは金魚すくい……」
むこうに鍋のお店もあったね、と君も記憶を辿る。気分屋が魚介が味の主軸だったのに対し、あちらの屋台では豆腐の魅力を引き出すさっぱりとした味付けだった。
気分屋のお鍋は美味しい。それは自信を持って言える。が、それでも甲乙つけがたい完成度のお鍋だった……と君は語った。
……これでは師匠を食いしん坊だと笑えないような気がする。いや、むしろ師匠の食欲がうつったのだろう。きっと。
「へぇ……! 鍋は気分屋で食べるからって思って他の屋台は気にしてなかったけど……。トモがそんな鍋顔になるくらい美味しいんだね」
どうやら思い出すうちに鍋欲が顔に出ていたらしく、君は少々気恥ずかしさを覚えた。帰ったら、昨晩の残りの鍋を食すことに決め、話の続きを促す。
「来年もその屋台がやってたら……食べてみようかな」
来年はこの時期にお祭りをやるのかな、と君はちょっぴり無粋な疑問を投げ掛けた。ミコトの偉業でハレとケの周期が乱れたのが原因らしいが、そういったことは毎年起こるのだろうか?
「あ、そっか。今年が特別だっただけだもんね。……でも、あれだけたくさんの人が大騒ぎして楽しんだんだから。盆げーとうぇいが開かなくても、冬の盆踊り祭りはまた開催されるんじゃないかな」
アカリの言葉の節々から感じるものがあり、もしかして、と君は尋ねた。次のお祭り、かなり楽しみになってる?
「うん。人混みが辛いなのは変わらないけど……。どんなお店があってどう楽しむか、そういうのを考えるのはわくわくする。今までどんな屋台があるかは想像とだいぶ前の記憶が頼りだったけど、昨日のお祭りでちゃんと色がついたから」
そんな折角の機会に、店番を任せきりにさせてしまったという罪悪感が君の胸をつつく。そんな君に、アカリは困ったように笑った。
「私がやるって言ったことなんだから、そんなに気にしなくていいと思う。ヨミチに楽しんでもらうのも大事なことだったし……」
それでも何かこう……むずむずしてしまう。君は、借りはできる限り返す主義なのだ。
君のそのこだわりはアカリに伝わったようで、悩みはじめてしまった。我ながら面倒な性分をしているな、と君は少しばかり反省をする。
「だったら……えっと、次のお祭り、一緒に、回ってくれないかな……? なんてね。別に断っ」
それならお安いご用だ。君は小さく呟かれたお願いに、力強く頷き返す。
しかし、なぜか提案した側のアカリが申し訳なさそうな顔をしている。
「でも……。トモは異界の人だから次のお祭りの時にいるかわからないし、そもそも次のお祭りがいつやるかもわからないし、多分私みたいなのと回ってもあんまり楽しくないと思うし……」
大丈夫。
君はそう言ってアカリのねがてぃぶな発言を遮った。適当な励ましではなく、明確な根拠がある時の大丈夫、だ。
「え、でも……。異界からいつ飛ばされるかはわからないって……」
その通り。君が自ら望んで異界に行くということはほぼ不可能だ。そう、
でも、今の都には、ミコトがいる。
「いやいやいやトモ、確かにあの人なら異界移動くらいできるかもしれないけど、そんなおいそれと足に使えるような人じゃないと思うな! あ、でも知り合いっぽい感じだったよね。猫神様関連の知り合いだったりするの?」
その反応で君は、ミコトがどこか遠い存在であるように感じた。そうだ。彼女はもう偉業をなした英雄で、君が気軽に手を引いて祭りに繰り出せるような存在ではないのかもしれない。
過去を語って聞かせるのはやめて、質問にはちょっとした知り合いだと答えた。
それなりの親しさであることを話したとして。ミコトに思うところはないとしても、周りはどう考え動くか。旅を途中までしか知らない君では、何も言えない。
それでも、もう一度会いに行こうと思った。誤字はしなくなっても、神から人、人から神へと変わっても、きっと結んだ縁は消えていない。
“『祭りね』と、君は私の手を引いて──”
……都合のいい解釈だ。でも、この句が使われたことに意味はあると、君は思った。
「……ちょっとした知り合い、かぁ。そんな関係性で頼み事とかできるのかな」
君は曖昧に頷いて、そろそろ帰ろうと持ちかけた。周りの店はもう営業が始まり、通りに人も増えている。
「あ、そうだね。長々と付き合わせちゃってごめん」
楽しかったから謝らないで、と君が返すと控えめな笑顔を向けられた。
君たちが気分屋に帰ってきたのは、朝食の真っ最中だった。いい香りに君の腹は限界寸前だ。
「おう、朝帰りかお供とアカリ。止めはしないがほどほどにしとけよ〜?」
「痴れ者ね」
「えぇ……?」
肘で君をつついて冗談を飛ばしてくるアヤツグとばっさり切って捨てたヨミチ。アカリは慣れていないのかオロオロとしている。見かねたウィズがアヤツグに爪を立てた。
「ぃでででっ! ちょっ猫神!?」
「うちの弟子は純真にゃ! あんまり変なことを吹き込まないでほしいにゃ!」
「だぁわかったわかった冗談だから! お供もそんくらいわかってんだろ? なぁ……」
喧騒をよそに、さっさと食事を始めた君は口いっぱいにご飯を頬張っていた。散歩のおかげか、食欲が止まらない。
「お供の方、漬物いりますか?」
ありがとう、と器を受け取り、君は箸を再び進め始めた。
……アヤツグもウィズも、一連の動作を見て気が抜けたようだ。
「めっちゃ食ってんな……」
「キミはそのままでいてほしいにゃ」
「いやまぁ色気より食い気って感じだよな。……猫神のお供だし」
「それはどういう意味なのかにゃ?」
折角落ち着きかけた空気に、再び火がつく。既に食事を終えていたミオとイヨリがツッコミを入れに立ち上がった。
「アヤツグさん!」
「どーして猫神には微妙に当たりが強いのよアヤツグ!」
「これはあれだな! 好きな子にはちょっかいをかけたくなるというあれだ! 意外な組み合わせが恋愛に発展する……。いいじゃないか」
「意外も意外ですけど……。あ、でも、魔学舎にも結構そういうことはあったので、そういうものなのかもしれませんね」
(なんだろう……。違うと思うんだけど言い出せないこの空気……」
混沌とした空気の中、君は食事を終えた。とんでもない事態になっているが、恋愛脳な必中神が悪い。というわけで君は、熱いお茶をすすって正気を保っている。冷静に考えればいいのだ。冷静に。
師匠はへそを曲げて君の横で丸くなっていた。これは後でご機嫌を取らねば、と苦笑が浮かぶ。
「いや違うってお前ら! そんな操られたわけでもねぇんだからそんな動物に恋なんてしないって!」
「狸も!?」
「そんな照れ隠ししていては、叶う恋も叶わなくなってしまうぞ? さぁもっと攻めろ。なんなら告白までしてしまえ!」
「やかましい! ……お供お前、随分優雅に茶ぁ飲んでんなぁ?」
イヨリやら憑依したマトイやらに詰め寄られたアヤツグの目が、君を捉えた。何事かを呟いたようだが、君には聞こえなかった。ただ、嫌な予感がする……。
「あぁ、わかった。俺も覚悟を決める」
そう言うとアヤツグは、真剣な顔になった。そうなると、囃したてていた周囲もいきなり静かになる。いわゆる本当にやるとは思わなかった、というやつだ。
ウィズは跳ね起きて、ふしゃー! と威嚇音を鳴らしている。
「え、え、本気なの……?」
アヤツグは、ゆっくりとこちらを向いた。君を挟んだところにいるウィズを向いているのだろう。どこうとした君は、ウィズの爪でその場に固定された。弟子を盾代わりに使うのは止めてほしい。
覚悟を決めた顔つきは、一切の誤魔化しを許さないかのような圧があった。思わず君はごくりとつばを飲み込む。
そしてアヤツグは──
がばり、と
「頼む! 猫神じゃなくて、俺のお供になってくれ」
へ?
「「は?」」
「──弟子の引き抜きは許さないにゃ!」
……ウィズの鋭い爪が冴え渡っていた。
痛みでのたうち回るアヤツグに回復魔法をかけ終え、それから君は丁重にお断りの旨を伝えた。話を有耶無耶にするための冗談とか狂言とかそういったものだろう、というのはわかっていたが、念の為だ。
それを聞いたアヤツグは、少し寂しげな笑いを見せた。
「だろうな。それはわかっちゃいるんだが……。気が変わったらいつでも言ってくれ。鍋ならいつでも食わせてやるぞ?」
それは中々魅力的……と心揺れる君は、ウィズに後ろから叩かれた。爪が出ないあたり、やりすぎたという自覚はあるのだろう。
「まったく、ここまで食いしん坊になったのは、誰の影響なのかにゃ? シューラとかリフィルとかかにゃ?」
ウィズの影響だと思うよ。君は間髪入れず答えた。
「にゃ!?」
「ははっ! そりゃ違いねぇ」
「もう一回わからせないといけないかにゃ?」
「待って、待ってくれって!」
どうにもウィズの沸点が低いのは、アヤツグが君を勧誘しようとしている気配を察知していたからのようだ。とはいえ、まだ小競り合いも微笑ましいの域を出ないものだが。
「そ、ういえばお供、朝は何をしてたんだ?」
急カーブな話の転換に、君も乗ってあげることにした。……再び回復魔法をくだらない負傷に使うのは面倒だったのだ。
「ほぉ、お祭りの跡を楽しんだ、と。いいねぇ、なかなか風流じゃねぇか」
ぽんと手を打ったアヤツグに対し、ウィズは食事のない屋台を眺めることにはあまり関心がないようだ。
一方、金魚に餌をやっていたヨミチは、君に詰め寄ってきた。
「お供は痴れ者、いえ、痴れれれ者ね」
何か気に触ったのだろうか。思い当たることのない君は素直に尋ねた。
「別に楽しみたいわけじゃないけど、祭りの最初から最後まで実態調査して楽しみたいって最初から言ってるじゃない。なのに最後にそんな粋なことがあるのを黙っておくなんて……」
いや、自分はアカリから誘われただけで、その楽しみ方はそこで知ったんだし……と反論する君の手をがっと掴み、見た目に反する膂力でヨミチは、君を引っ張り始めた。
「いいから付き合いなさい、お供。まだ間に合うかもしれない。実態調査に行くわよ」
抵抗を諦めた君からウィズが飛び降りた。巻き添えはごめんだにゃ、と顔で訴えかけてきている。
「行ってらっしゃいにゃー」
なんだかんだ言ったとはいえ、ヨミチを案内することに不満があるわけでは勿論ない。
昨日は帰りそびれたとはいえ、いつかは黄泉に帰る彼女にできる限りの思い出を残すのも、とても大切なことだ。
掴まれた手を握るように持ち替え、君とヨミチは八百八町を歩きはじめた。
メインストーリーが大きく動きMARELESSが終わりアレヴァンが来てと神イベラッシュで嬉しい悲鳴があがる今日この頃、いかがお過ごしでしょうか。
アンケートはこの話を書き終えた時点でクロスディライブと異界を越えるコラボで同数だったので、両方書こうと思います。思いますが、コラボの方は組み合わせとか話の主軸とかで、かなり時間がかかるかもしれません。いいアイデアをいただければ即書き始められるかもしれませんが……。
というわけで次話の予定は、アンケートからうっかり共鳴クロスディライブとなります。恐らくエニィがメインです。あまりssがないのはなぜなんでしょう……。かわいいのに。