黒猫氏の異界滞在記 作:〈黒ウィズ二次を飽きるほど読む夢〉
月一更新の予定です。よろしければお付き合い下さい。
9月16日:サブタイトル変更
「わはは、黒猫のひと、ぎゅー……」
「……」
感動のままアリエッタを抱き締めたは良いものの、エリスが怖い。威圧感を背中に感じる。
「キミ、あばばされる前に離すにゃ」
君は眠たげなアリエッタを離し、アパートから出てきた皆を迎えようと歩きだした。
一歩、二歩と踏み出した所で違和感を感じ手を見る。あの光に再び包まれはじめていた。
「にゃっ!?」
魔法が失敗したのだろうか。アリエッタ達ですら歪みに太刀打ちできない事実に、君は肩を落とした。
しかし、即座に反応したエリスが君の肩に手を置く。すると光は再び散っていった。
どういうことなのかさっぱりわからない。君はエリスに疑念の籠った視線を向けた。
「私も詳しくあの魔法を理解してる訳じゃないのよね。アリエッタ、説明任せていい?」
眠たげなアリエッタはカクンと頷くと、説明を始めた。
「今回開発した魔道は、黒猫のひとが猫とは一緒に異界に移動できることを利用することで空間αの展開を阻止している。研究の結果から黒猫のひとと猫を除く人間が空間αに巻き込まれないような仕組みがあることを発見した。この機構は空間αが別の方法で展開されたときには備わっていない独自なものである。さて、この魔法は発動者を強制的に空間αの移動領域に含ませる、つまり先述の機構を無理やり機能させるためのものだ。この移動領域に含ませる際に猫のぶんの移動枠に発動者を割り込ませている。その結果魔法の有効距離が短く、更に常時維持のための魔力が必要となっている。余りに短い開発期間故に生まれた欠陥だが、急造の魔道にしては成果を出している部類だろう」
あの口調に自分が出ると違和感あるな。南の島以来だっただろうか。
理解が追い付かなかった君は、そんないたってどうでもいいことに思考が逸れていた。それを察して、ソフィが補足を加えてくれる。
いつの間にか肩から降りた師匠がアパートに帰っていくのが見える。聞くのを放棄したのか、アリエッタの説明で理解できたのか。いずれにしても勝手に放置していくのは勘弁してほしいところだ。
「うーんと、簡単に言うとね、黒猫さんと誰かが一緒にいれば空間αは開かないってこと。……だけど、魔法を維持するためにずっと一緒にいる必要がある」
自身も確めるように頷きつつソフィは説明を続けた。
「うん、皆で一日ずつ交代するとかなら大丈夫かも。ソフィ、リルムちゃんたちに詳しいこと教えてくるね」
常に近くに、か……と君は肩におかれたエリスの手を見て、そのままエリスに視線を向けた。
「そんな顔しなくてもいいわよ」
君の顔を見たエリスが微笑んで言う。
「あなたが社会性はなくてもいい人だってこと、わかってるから。多分、私たちの迷惑になりそうとか考えてるんじゃないかしら」
ばっちり内心を読み取られ驚いたのを、社会性の話は余計だと口を尖らせて誤魔化した。
「あらごめんなさい。でも、否定はしないのね。ふふ、あれだけ一緒にいたいって言った割には、気を使ってくれるのね」
楽しそうな様子から、先程の言葉をからかってきているのがわかった。何となく照れ臭くて君は目を逸らす。
顔を背けつつも、実際のところ近くにいなきゃいけないのは迷惑でしょと口にする。特にソフィやエリスは、相当忙しい立場のはず。ソフィの言ったような交代制にしたとしても、負担がかかるのは間違いない。かといって、誰か一人に頼むというのは論外だ。
エリスはそれを笑顔でかわし、最早ふらふらしてきたアリエッタに声をかけた。笑顔は苦手と言っていたはずだが、その割には自然な表情だった。
「アリエッタ、眠いなら先にアパートに戻ったら?」
「んん……えいっ」
突然、アリエッタは君の背中に飛びついてきた。君は慌てて落ちないように背負い直しつつ、どうしたのかとアリエッタに尋ねる。
「また勝手にいなくなっちゃうと寂しいから……こうして寝れば安心できる……すぅ」
肩越しに囁いたアリエッタは、眠気が限界を迎えたのか君の肩に頭を預けてくる。そのまま穏やかな寝息をたて始めた。
「ふふ、この子、あの魔法を完成させるのに寝ずに研究してたのよ? あなたともっと遊びたいって。成功して安心したら疲れが出ちゃったみたいね」
思わず視界の端の柔らかな金髪を撫でる。口元が綻んだ。さっきの質問の答えだけど、と前置きして、エリスは微笑んだまま続ける。
「あなたはあなたが自分で思っているより皆から大切に想われてるの。あなたと一緒にいるのが迷惑だなんて誰も思わないわよ」
暖かいエリスの言葉に、君の目の奥がまた熱くなる。こんなところまでキワムに似なくてもいいのに、と自分の涙脆さを内心で笑った。とはいえ、目の前で号泣するのは憚られる。
皆ってことはエリスも大切に思ってくれてるのかな、そう答えのわかりきった疑問をぶつける。君の涙腺は決壊寸前で、咄嗟に浮かんだ言葉以外は口に出せなかった。
何かを言おうとして止まり、エリスの顔が赤くなっていく。エリスが照れている間に、君も落ち着きを取り戻した。
「言わなくてもわかるでしょ」
たっぷり30秒ほど押し黙った後、未だ赤い顔でエリスがそう呟いた。君の悪戯心が擽られる。ちょっと兎な女神の加護を受けてしまったのかもしれない。
やっぱ口に出してくれないとなー。難しいからなー、相互理解ってやつはなー。君は白々しく呟く。
「あなたねぇ……。確かに私もからかったけど、そういうやり方はちょっとどうかと思うの」
匣が舞いそうな予感がした。君は間髪いれず謝罪する。あばばは遠慮願いたい。
しかし、迷惑に思われていないか不安なのは事実ではある。からかうためだけにした質問ではなかったのだが。
「あーもうそんな目で見ないで。わかった、わかったわよ。ちゃんと言うから……」
一度大きく息を吸って吐いて。
「わ、私だってあなたのこと、大切だって思ってるから!」
吃りつつも言い切った顔は、朱色に染まっていた。思ったよりもずっとはっきりと告げられて、君もまた顔が熱を帯びているのがわかる。が、エリスの後ろから近づいてくる爆発娘を見て血の気が引いた。
「あれ、あれれ? エリスが告白してるー!」
ニヤニヤしながらからかい始めたレナに、君は無駄だと悟りつつも、多分レナの勘違いだよと言った。
言いつつも、取り敢えず爆発ではなく煽る方向に行ったことに心底ホッとした。そちらはそちらでアレだが、誤解からリア充爆発しろとしばかれるよりはいいだろう。
「そうよ、あなたの勘違いよレナ。えぇ、ほんとに」
「まったまたぁ。あんだけ顔真っ赤にしてあなたが大切だから、なんて告白以外の何物でもないでしょー?」
そう見えてしまうのかと、その状況に追い込んだ側として君の胸を罪悪感がつつく。伝統ある一族の跡継ぎでもあるエリスに、君が妙な噂を撒き散らすのは良くないだろう。
そのせいでエリスの顔を見れず、レナと視線を合わせる。そして、気づいた。
「んで、んで? 返事は?」
ニヤニヤしていると思ったのだが、先ほどの自分の様に何か堪えているのではないだろうか。というか目は、今にも泣き出しそうな……。
「うっ……いやいや、そんなことないって」
レナの反応から図星だとわかる。君は何かあったのかレナに尋ねる。
「だーかーらー何も無いってば。あんまりしつこいと爆発させるよ?」
レナは指先に炎を灯して脅してきた。いや、でも今さ、と君はそれでも追及しようとするが、エリスに止められた。
「あぁ、そういうことね……実はレナはね、あなたのことが──」
「ストップストップストォーップ! 駄目! それは駄目! というかエリス告白したタイミングでそれはどうなの!?」
そこで区切られると非常に気になる。しかし、レナに振り向き様に涙目で睨まれ、君はエリスの話の続きを聞くのを諦めた。
「だから最初からそうじゃないって言ってるでしょ」
「誤魔化してるかと思うじゃん! どう見ても告白してる現場だったしさぁ! ……んーでもそっかぁ」
呆れたようなエリスの言葉でようやく納得した様子のレナ。勘違いは解けただろうと思い、二人に一声かけて君はリルムたちの方へ歩いていった。
リロデ3にキワムがでて狂喜しました。実は一番好きなキャラなんです。ストーリーも良かった……んですけどもっと盛り上がる展開を、とか思ってしまうのは欲深いですかね。
解説は次回からは省略するかもしれません。
『レナ』…アリエッタと並ぶこの異界の最強候補。破壊衝動と理性の間をバランスよく綱渡りする爆破魔。君とは以前手合わせしたが、諸事情で全力を出されなかったのを不満に思っている。好きな人はからかいたくなるタイプ。
『キワム』…別の異界にいる君の親友。友達や仲間は大勢いる君だが、親友は彼一人。心配性で泣き虫で、仲間のためなら暴走をも厭わない英雄。