黒猫氏の異界滞在記   作:〈黒ウィズ二次を飽きるほど読む夢〉

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上中下編の上になる予定です。

時系列は黄昏メアレス4の直後から6thアニバーサリーストーリーの手前ですね。ノクトニアポリスまでのメインストーリーのネタバレを含みます。ご注意ください。


『かつて魔法文明が栄えながらも、今や魔力を失って久しい異界』
〈ウィズメア〉:君の見た夢 Ⅰ


「……魔法使いが昨日もこの街に?」

 

 穏やかな昼下がりの〈巡る幸い亭〉、注文されたデザートを片手にリフィルは首を傾げた。

 

「そんなひょいひょい行来できるもんだったか? 一昨日帰ったばっかだよな?」

 

「そうなんだがな……。黒いローブにカードで魔法を使うやつが、他にいるとは思えん」

 

 先ほど店にやって来たレッジが切り出したのは、黒猫の魔法使いが再びこの街に現れたという話だった。

 

 客はいつもの面子のみで、先の戦いの休暇も兼ねて祝勝会でもしようかというタイミング。

 

「今から呼んでこれば祝勝会、全員でできますね! ちょっとひとっ走り行ってきます!」

 

「ほんとにそうならいいんだけど。本人だとしたらちょっと妙なところもあるし──。魔法使いさんに憧れた誰かさんの見果てぬ夢、なんてこともあるんじゃなくて?」

 

 つ、とリピュア、そしてリフィルへ、意味ありげに視線を送りつつルリアゲハが口を挟んだ。視線を向けた先で無言で睨まれ、肩をすくめてくるりと見渡せば、各々が思案気な顔をしている。

 

 昨日は借家に帰ってきていないこと、顔を見せに来ないこと。

 

「あまり考えたくはないが……」

 

 ラギトが口を開いた。しかし、その先を言い淀む。

 

 誰もがまず思いつき、また誰もがそうであって欲しくはないと願った可能性。

 

 つまり──

 

「……魔法使いさん自身の〈ロストメア〉だってことも、ありえないわけじゃないですよね」

 

 コピシュの言葉に、場の空気が重くなった。普通は、先にそう考えるはずなのだ。誰かの姿をした〈ロストメア〉なら、願い主はその人物だと疑う。

 

 それでも。

 

「あいつが、夢を諦めるようなタマかね? 俺にゃあちょっと、信じられないんだが」

 

 夢を見て、追って、叶える。自分達には出来なかったことで、だからこそあの大切な友人には叶えてほしい。そんな勝手な期待と、誰かのために戦うお人好しな彼が報われてほしいという願いがあって。

 

 そして何より、彼が夢に懸ける想いの強さを知っている。敬愛する師匠を人に戻し、並び立つ。何があって何処にいたとしても、そこだけは揺らがないという確信があった。

 

 そんな彼が夢を諦めることがあるとするなら、それは──。

 

「いやいやいや!」

 

 葬式染みた雰囲気を強引にでも吹き飛ばそうとしたのか、大袈裟な身ぶりを交えてミリィが話し始めた。

 

「まだ魔法使いさんの〈ロストメア〉って決まったわけじゃないっすよね? ルリアゲハさんが言ってたみたいに別の誰かが見た夢だったとか、というかそれこそ本人って可能性だってまだ──」

 

「それはないわね」

 

 リフィルに斬って捨てられ、ミリィは口を中途半端に開いて止まった。なんでっすか!? と器用に伝える顔に、リフィルはいつも通りの淡々とした口調で、淀みなく言い切った。

 

「魔法使い本人だったら、最初に私のところに来る筈だもの。私がどこにいても、ね」

 

 重量級の信頼に、その場の皆が顔をひきつらせた。なにか言おうと口を開いて、なにも言えずに口を閉じる。

 

 なぜ妙な空気になったのかと、リフィルは疑問符を浮かべていた。

 

 ゼラードが、年長者として若人の青春を弄ってやろうと口を開く。或いは、空気を換えたかったのかもしれない。

 

「──お父さん?」

 

 そしてなにか言う前に娘に怒られた。へいへい、と肩を竦める子煩悩の代わりに、レッジがなんとも言えない顔で疑問を投げ掛けた。

 

「その……なんだ、〈黄昏〉。おまえと魔法使いはそういう関係なのか? あ、いや、たいした信頼だと思ってな」

 

「……は?」

 

 心底意味がわからないと言いたげな返答をしたリフィルに、ニヤニヤ笑うルリアゲハが追撃を加える。

 

「リフィル~。あなた、自分が何を言ったかよーく思い出してみ?」

 

 五秒ほど考え込んで、リフィルは勢いよく顔を上げた。

 

「いや、あの子のカードが繋がってるのが私だから魔法使いがこの世界に来るなら私の近くに出るはずだってことでほら森に行ったときでもそうだったじゃないだから魔法使いなら絶対会いに来るとかそういう自信満々な態度って訳じゃないわよ本っ当に付き合ってるわけでもないのに、言葉だけならストーカー扱いしてるようなものじゃないっていうかあなたたちもカードのことは知ってるはず」

 

 複雑な呪文を唱えてきただけあり、息継ぎなしで叩き込まれる怒濤の言い訳には誰も口を挟めなかった。何とか仏頂面を作ったつもりのリフィルに、頬が赤いと突っ込みを入れられる人物もまた、いなかった。

 

「おぉ~、一息で言い切った。すごい肺活量だね」

 

「確かに凄いが今はそこじゃない。ピュアメアのカードか。そんな効果があるとはな」

 

「……リフィルさんのあんな顔初めてみる気がするんすけど、中々の破壊力ありますね~」

 

「あぁ、魔法使いにも是非見せてやりたいところだな。いや、案外もう見ていたりするのか?」

 

 リピュアの妙な感心に律儀に突っ込みを入れるレッジのいつものやりとりと、ひそひそと会話するラギトとミリィ。

 

 落ち着いたところで、仕切り直すようにラギトが尋ねた。

 

「そういえば、どういう報告があったんだ、〈車輪匠〉。詳しい話があった方が余計な想像をしなくて済む」

 

「あぁ、わかった」

 

 そういうと、レッジは鞄から書類を取り出し捲り始めた。紙面を広げて見せて、説明を始め──ようとしたところで、店の扉が開いた。

 

「生憎だけど、今は貸し切り中よ。出直し……て……」

 

 リフィルが応対に向かい、何故か硬直した。何かあったのだろうかと、唯一それに気づいたミリィが様子を見ようと立ち上がった。

 

「魔法使いに助けられた、助けるところを見た、という市民は何人かいる。ただ気になるのが、ウィズらしき目撃情報が無いんだ──」

 

 背後で気になる話題が流れ、思わず振り向く。さっさと片付けて後で聞こう、そう考えて視線を扉に向けた 。

 

 そこには、魔法使いがいた。

 

「おー、うすうす、魔法使いさん。丁度話題になってるところなんで此方のテーブルにってええええ本人!?」

 

 手を引いて案内しようとして、唐突に一人叫んだミリィ。流石にその叫びには気づいたのか、一斉に視線が魔法使いを突き刺す。そこで、気付いた。

 

「……〈ロストメア〉?」

 

 驚きや警戒の視線を一身に受け、魔法使いは──

 

 

 ──いや、〝君の見た夢〟は冗談めかして、どうも皆さん〝黒猫の魔法使いの夢〟です、と挨拶した。

 

 行動が読めないために、メアレスの各々は自らの武器に手を掛け、注意深く〈ロストメア〉を見つめる。知り合いの顔をしているとはいえ、〈夢〉と本人の性格は一致しないことはメアレスにとって常識だ。

 

 〈夢〉は舞台俳優の如く大きく一礼し、笑顔で視線を巡らせる。その笑顔に違和感を感じた。押し殺された感情が、漏れだしている。

 

「……そうか。本当に、魔法使いのままなんだな」

 

 確信を持った呟きと共に、一つ息を吐いて武器を下ろした一同に、〈夢〉は首を傾げた。警戒しなくていいのかと問いかけてくる。

 

 〈ロストメア〉なのに〈メアレス〉を気遣うことを言う、それがまた〝らしく〟って、自然と笑みを溢していた。

 

「警戒されて寂しいけど、笑顔で誤魔化そう──って顔してるの、気づかれないと思ったか?」

 

 そんなゼラードでもはっきりわかる顔をしているのか、とショックを受ける〈夢〉に、こちらも微笑みを浮かべたコピシュが声を掛ける。

 

「まぁまぁ、魔法使いさんは〈夢〉も魔法使いさんそのままなんだってことですよ」

 

「ほーんと、ウィズちゃんがいない以外は何にも変わってないわね?」

 

 ウィズがいないのは自分がそういう夢だからだよと、〈夢〉は苦笑した。そこにミリィが疑問を投げ掛ける。

 

「魔法使いさんの夢って、ウィズさんを元の姿に戻すことじゃなかったんすか? てっきり人間に戻ったウィズさんの姿の〈ロストメア〉が出てくるのかと……あ、それともその夢はもう叶ってたり?」

 

 残念ながら、まだウィズを人間に戻すことは出来ていない。けど、手掛かりを探す旅はまだ続いているから。〈夢〉はそう答えた。

 

 その旅は、〝君〟にとって夢と言うよりは義務に近いものだ。夢なら諦めることもあるかもしれない。だが、それが義務ならば、〝君〟が止まることはないだろう。〈夢〉は内心溜め息を吐いた。

 

 そんな内心はおくびにも出さず、実はウィズを元に戻せるチャンスは一回だけあったんだけどね、と別の話題に切り替えていく。

 

「あんたはそういう機会を掴むのが上手い人間だと思っていたんだが……逃したのか?」

 

 意外そうな顔のラギトから視線を外し、その〈夢〉はノクトニアポリスでの顛末を思い返す。

 

 ──逃したというか、師匠の元の姿と世界の危機を天秤に乗せたら、師匠から怒られた。

 

 説明の面倒な諸々を省き端的にそう表現した〈夢〉に、呆れと驚愕の視線が向く。

 

「それはまた、えらく壮大な話っすね……。こう言っていいのかわかんないですけど、そのまんまそういう劇のクライマックスになりそうな」

 

 実際、願い主のクエス=アリエスでの戦いはそこで一区切り付いたから、クライマックスというのは強ち間違いじゃない。劇にはならないと思うけどね。そうおどけた〈夢〉に、目を丸くした。

 

「魔法使いさん、元の世界でもそんな世界を懸ける派手な戦いしてたの? まっったく聞いたことなかったんだけど」

 

 じっとりと見つめてくるルリアゲハに、思わずごめんと〈夢〉は謝罪した。

 

 別に本人でもないのに、別の存在なのに、そうしてしまった。記憶と夢に引き摺られているのを認識して、〈夢〉は自嘲する。

 

「結局、話してはくれないのかしら?」

 

 いつもの淡々とした口調──ではなく、どこか拗ねた声色でリフィルがそう言った。

 

 一方的に知られて一方的に手を貸される、それはフェアじゃない。こっちだって事情を知りたいし、できることなら手を貸したい。言葉に詰まった困り顔を隣から覗き込む。

 

 別に無理強いするつもりはない。どうしても話せないならそれでも構わなかった。だが反応を見る限り、そうではないのだろう。そう判断したリフィルは、〈夢〉の目をじっと見つめ続ける。

 

 数秒迷って、〈夢〉は吹っ切れたような顔をした。今の自分は別物だから、いっか。誰にともなくそう呟くと、何から話せばいいか纏まらないから、そっちから質問してほしいと頼んできた。

 

「……えっと」

 

 そう言われるとむしろ言葉に詰まる。なにせ、謎が多すぎるのだ。経歴はおろか名前すら知らない。この都市に来るのは必ず事件があるときで、ゆっくり話す暇もない。飛び抜けた人柄のよさがなければ、こうも仲良くなることはなかっただろう。

 

「はいはいはーい!」

 

 そういった人間どもの躊躇いを他所に、ピュアの化身な妖精が手を挙げた。

 

「やっぱりまずは自己紹介から行こーよ! その後で、魔法使いさんのお話を聞かせてほしいな」

 

 よしきた、と思いの外乗り気な彼は名乗りを上げた。〝夢〟の例に漏れず、高らかに、誇らしげに。

 

 ──改めまして〝黒猫の魔法使いの夢〟もとい〝この街に生きる夢〟です。

 




アンケートご協力ありがとうございます。やっぱりメアレス強い!コミカライズ、2の書籍版発売決定おめでとう!

黒猫氏不在のため三人称視点擬きのお試しですが、いかがでしょうか。というかこのお話、今後も黒猫氏が登場しない予定ですね。間接的にいちゃいちゃさせてるのでなんとか……。
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