黒猫氏の異界滞在記 作:〈黒ウィズ二次を飽きるほど読む夢〉
お話の都合上、リフィルさんがあまり勇ましくありません(戦闘はない)。独自解釈タグはありますが念のため。
次回はバリバリやってくれる予定です。
隣にいてほしい──だなんて、口には出していないけれど。きっと誰しもが、そんな夢を見ていた。
気のいい友人として、頼れるパートナーとして、或いはもっと大切な何かとして。
叶わない願いを、どうしようもなく抱いてしまった。
「いやはや流石というべきか。メアレスに夢を魅せたとは、悪い魔法使いもいたものだ」
巨大ロストメアが倒され、魔法使いが帰った夜。言葉とは裏腹に、アフリトは楽しげに月夜を仰いだ。
「ロストメアが生まれないとはいえ、願う力がないわけではない。──黒猫の魔法使いの夢、少しばかり利用させてもらおうか」
その夢は、思考を止めるのに十分な衝撃を持っていた。だって、それは。
「ほうほう。いーい夢だね!」
リピュアの嬉しそうな声に、一度吹き飛んだ思考が、意思とは無関係に口を動かした。
「……いい夢ね、本当に」
噛み締めるような言い方をしたところに、ちらりと視線が飛んでくる。どうやら思ったことは皆同じだったらしい。
ただ、気になる点はある。
「ウィズのことがある限り、魔法使いはそれ以外の夢は持たないと思っていた。……どうしてお前という〝夢〟が──」
目線がぶつかり、〈夢〉からレッジが顔を逸らした。気持ちはよくわかる。どうにもあの顔に見つめられると、後ろめたさが胸を刺してくる。
だからと言って、ここで話を終えてもらうのは少々困るから、私が言葉を引き継いだ。
「街に来る度に命を懸けた戦いに巻き込み続けて、何かを返すこともできていないのに。……魔法使いは、こんな場所で生きたいと、本当にそう夢見たの?」
ぶつけた疑問がどんな表情を呼んだのか、確認するのが怖くて目を伏せた。らしくもない面倒なことを言っている自覚はある。使い倒すだなんだと言いつつも、内心は情けないほどに臆病だった。
ディルクルムに大敗したとき魂が崩れるのも厭わず手を伸ばされたこと、夢の繭から生まれたあの巨大ロストメアに呑まれたときは、その体内にまで助けに来られたこと。普通は大切に思われていると信じるのに十分な行動だろう。
そこまでして助けたいと想う大切な人がいる、だからその異界で生きたいと願った、なんて都合のいい論理で納得できれば良かったけれど、ここまでされても私はまだ信じられない。
あの人なら、どこでも、誰にでも、きっと同じことをできるだろう。『人のために戦うのに、否やはない』といつか言っていたけれど、それは冗談でもはったりでもないただの事実だ。
だったら、何が特別なのかなんてわからない。特別でないものに生まれるほど、〝夢〟は軽いものじゃない。
だから──
「散々助けてもらったのに、まだ信じられないみたい。だから、我儘で悪いけど教えて。なんであなたという〝夢〟が生まれたのか」
苦笑いを浮かべるその〈夢〉に、顔を上げて視線で答えを急かす。
一つ頷き困り顔を引き締めて、ゆっくりと〈夢〉は口を開いた。
──この街の皆が好きで、もっと皆と一緒にいたくて、やってみたいこともたくさんあって、この街で生きたいと夢見てしまった。自分はそういう〝夢〟だ、と。
この場の一人ひとりを順に見つめながら、そう言った。飾らない言葉は魔法使いとそっくりで、でも声色には〈夢〉としての誇りが詰まっている、嘘偽りのない本音だった。
誰も何も言えなかった。欲しかった言葉をこの上ない形で出されたから、当然だ。ただ、出口が見つからない感情が跳ね回って、鼓動が喧しい。
もちろん師匠も大切なんだよ。だけど、自分っていう夢が生まれたくらいには、この都市のことも、皆のことも、大好きだってことで。
そう付け加えて、ウィズには内緒にしといてね、とおどける〈夢〉。やっと感情が追い付いた私には、呆けたような笑いが込み上げていた。
「本当にあんたは……っ!」
「……敵わないわね、やっぱ」
珍しく肩を震わせ声を上げて笑うラギトに、しみじみと呟き、でも確かに口角が上がっているルリアゲハ。それ以外の面々も、目に涙が浮かぶほどだったりただただ愉快そうにだったり、全員が笑っていた。
「んじゃ、改めて乾杯と行くか!」
皆が一頻り笑い終えた頃、酒を片手にゼラードが音頭を取って宴会が再開した。既に酔っているかのような機嫌のよさだ。今なら一食くらい奢ってくれるかもしれない。
「あんたの分は俺が出しておこう」
あの〈夢〉も、当然のように輪に入れられていた。魔法使いに奢ろうとしては遠慮されていたラギトが、念願かなって奢りに成功していた。どことなく得意顔をしているが、それでいいのか。
「本人じゃないがいいのか……?」
堪えきれなかったレッジのツッコミを尻目に、取り敢えず追加の料理と酒を運び、私も輪に加わる。次はあなた本人が参加してくれるといいのだけれど。
宴会を楽しんだ帰り、後片付けをするというリフィルとリピュアを残し、〈夢〉とルリアゲハはいつものアパートへとのんびりと歩いている。
本人ではいえないあれやこれやをこっそり暴露したりと話は弾んだが、ふと会話が途切れ、無音の時間が生まれた。
するりと前に出たルリアゲハは酔いを感じさせない足取りで、〈夢〉に振り向き様に問い掛けた。
「あなたは、これからどうするの? 〝夢〟は叶ってるから、そのままこの街に住むのかしら? それなら家は魔法使いさんの部屋を使うとして、申し訳ないけどロストメア狩りには──」
自分よりもルリアゲハはこれからどうするの、と。どこか確信をもった疑念がぶつけられる。ちょっと冷静じゃなかったわね、とルリアゲハは溜め息を吐き、そしてぽつりと呟いた。
「妹に、会いに行くわ」
止められそうかな、と心配そうな声に、ルリアゲハは笑顔をなんとか作って返答した。
「正直言って、どうなるかさっぱりわかんないのよね。そのまま向こうで領主になることだってあるかもしれないし。だから申し訳ないけど、組む相手は新しく探してちょうだい」
笑顔が崩れないうちに畳み掛けるように言い終えて、ふらりと立ち去ろうとした背に、いつまでならこの街に居るかな、と質問が飛んできた。
「明後日の黄昏時に発つつもり。そこで一旦はさようなら、その後は神のみぞ知るってね。それじゃ、おやすみなさい」
話すうちにいつの間にやらアパートに着いていて、ルリアゲハはひらりと手を振り部屋に入っていってしまった。それを見送った〈夢〉は、思案気な顔で壁にもたれかかる。
ふと見渡した近くの街灯の明かりに、煙が漂うのが見えた。その後すぐに、足音もなく気配が〈夢〉の背後に現れる。
「……お悩みかい、〝魔法使いの夢〟よ」
んー、ちょっとね、と曖昧に返事をされ、アフリトは相変わらず真意の読めない笑みを向け、囁いた。
翌日、黄昏時。〝魔法使いの夢〟は、メアレス達と対峙していた。なぜか他のロストメアは全く動きを見せない。
「前にも似たようなことがありましたっけ。この街にいれば叶うんだったら、ここで生きればいいと思うんですけど、それは人間の傲慢っすかね」
「ピュアメアもあいつも、変わらず〈夢〉だからな。叶わずにはいられない。ただ、あの時みたく横で棒立ちしているわけにはいかないだろう」
「無駄口を叩いている余裕はない。……何が飛び出してくるやら」
〈夢〉がカードを引き抜き、リフィルが〈秘儀糸〉を伸ばし。それを合図に、戦闘が始まった。
MARELESS3良かった……。いたずら女神良かった……。アレヴァン良かった……。語彙力なくなっちゃいますホントに……。
最近良イベ続いてますね、最高です。
なんで戦闘シーンを入れてるんですかね、自分。