黒猫氏の異界滞在記   作:〈黒ウィズ二次を飽きるほど読む夢〉

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遅刻申し訳ございません!

戦闘シーンに苦戦しまくったので、多分これ以外には戦いを書くことはないでしょう。苦戦しすぎていろいろ省いてますが、ご容赦ください。


君と見た夢 Ⅲ

 門を目指そうと思う、と。わざわざ私たちを集めて〈夢〉は、そう言った。何があったのか、昨日には無かった戦意を目に乗せて。

 

 

 

 駆け出しながらカードを手に詠唱を始める〈夢〉の、進路を阻むようにラギトが踏み込んだ。伴って起きた轟音に、思わず石畳が砕けていないか確認したい衝動が芽生える。

 

「悪いが、あんたが相手じゃ加減は出来そうにない。最初から飛ばしていくぞ?」

 

 翼のように魔力を吹き出し加速する姿を視界に捉えつつ、私も詠唱を完成させた。そのままタイミングを合わせ、一斉に解き放つ。

 

「修羅なる下天の暴雷よ、千々の槍もて降り荒べ!」

 

「ブラストウィール!」

 

「流石の魔法使いさんでも、7人相手は厳しいんじゃないかしら!?」

 

 張られた障壁に突き刺さる雷、矢、銃弾。それらと共に叩きつけられたルリアゲハの挑発に、ニヤリと悪戯気な笑みが返された。何かしらの考えがあるのだろうか? 

 

 真意を測るより先に、ラギトがヒビの入った障壁を殴り抜いた。限界を迎えた障壁が砕け散る中をそのまま前進、ロストメアへ痛烈な一撃を叩き込もうとし──

 

 その結果を確認することなく私は全力で横に飛び退いた。すぐ側を暴雷が駆け抜けていく。

 

「ゲイルウィール!」

 

 咄嗟に加速したレッジを追いきれず、無数の光の矢が地面を削った。視界の端では、ラギトが魔性の鎖で絡め取られ、投げ飛ばされている。

 

 響く剣戟の音、先に回り込んでいた3人も状況は同じだろう。魔法の出所、屋根の上に視線を向ければ、秘儀糸を構えた〈私〉がいた。

 

 なるほど。

 

「そう来るか……!」

 

「ミリィの夢を思い出すわね。……人形もなしで魔方陣だしてるってことは、もしかして今のリフィルと?」

 

「厄介だな。前ほどの実力差がないと考えると、自分を相手取っている間はロストメア本体まで手が回らない」

 

 レッジの言う通り、先程の攻撃は私が詠唱して撃つのと同程度の火力があった。負ける気はないが、手早く殲滅して本体を追うというのは不可能だろう。人数は向こうの方が多いと考えられる以上、集団戦を挑むのも得策ではない。

 

 思考を走らせつつも敵を睨むが、動く様子はない。当然だ。時間を稼げば目的は果たされるのだから。屋根の上には私の、脇道にはレッジの姿をした悪夢のかけらが構えていて、容易には抜けられないだろう。ただ、一つ付け入る隙があるなら……。

 

「ルリアゲハの姿のかけらはいないようね?」

 

「いや、罠だろう。人手が足りているのにわざわざ三人に二人をぶつける理由もない」

 

 探査用のウィールを手に取り、レッジが続けた。

 

「先にそちらを炙り出す。相手の罠は利用してこそ、だ」

 

 安全策をとるならそれが正しいのだろう。しかしそれでは、恐らく間に合わない。とはいえ、こうして悩んでいる間も時間はなくなっていくが。

 

 そんな折、顎に手を置いて考えていたルリアゲハが突然苦笑いを浮かべた。

 

「……あー、わかっちゃったかも」

 

「何がだ、〈墜ち星〉?」

 

「あれ、多分個別のロストメアってこと。それなら……。あたしが突っ込んでくるから、二人は足止めをお願い」

 

 説明がまったく足りないが、今は時間が惜しい。中々に危険な作戦だが、ルリアゲハが何の考えもなく無茶を言うとも思えない。どちらにしてもこちらに策はないので乗るしかない。

 

「……わかった」

 

 私も頷き、自分の形をしたロストメア? を睨む。戦意を感じたのか、敵も警戒を強めている。

 

「相談は終わりかしら」

 

 あちらの私が、最終通告を投げ掛けてきた。悪夢のかけらに会話能力はないので、やはりロストメアなのだろう。自分と会話する、というのは妙な気分だ。

 

 あのロストメアは私の見た夢なのだろう。初めての、見せられたものでない夢。夢だとは知らなかった、わからなかったままなくしたものだけれど、やっとわかった。あれは私だ。強がって笑って見せた裏の、みっともなく引き留めようとした。

 

 だったら尚更負けられない。また会おうと約束して送り出したのに、無理矢理繋ぎ止めるようなことはできないから。

 

「ええ。お前の相手は私」

 

 宣言して、駆け出した。

 

 

 

「っとに無茶苦茶するよなぁ……。いやまぁ、あいつの夢ならこんくらいやって当然か? 斬り甲斐はありそうで何よりだが」

 

 親父の夢の残骸も斬って、いよいよ自分くらいしか越えるものがなくなったかとは正直思っていた。だからと言って本当に対峙させてくるとは思わなかったが。

 

「やっぱ最後にゃ斬れない相手は自分だけになるよな? まぁ、悪くない」

 

 踏み込めばすぐ斬り合いが始まる程度の距離に、腹の立つ薄ら笑いを浮かべた俺のロストメアがいる。数合剣を合わせれば、こいつは悪夢のかけらなんかじゃないことは理解できる。となれば自らの夢に剣を向けるのは二度目で、いつの間にか前回のことを吹っ切っていた自分に我ながら驚いた。

 

 背後では既にコピシュが熾烈な斬り合いを繰り広げている。目の前のをさっさと片付けて加勢したいところだが、まったく同格の相手に迂闊に手を出す訳にはいかない。

 

 周りの爆音やら何やらとは無縁の静かな戦場に、足音が響いた。まぁ、あいつのロストメアだろう。そっちを斬りに行くか、と思考を巡らせる。距離を詰めきればこちらの勝ち、近づけなければあちらの勝ち。俺と魔法使いの力量差はこんなもんだろう。

 

 分の悪い賭けだが、試してみる価値はある。最悪、二人を引き付けて夜まで逃げれば門を潜られることもない。

 

「っらぁ!」

 

 静止状態から一呼吸で剣を繰り出す。あちらからすれば予想外の行動だったのだろう、一瞬の硬直を見せた。にも関わらずそこから転がるようにして剣を潜られ、虚空を切り裂いた。だが、とカットラスを突き出す。

 

 二刀持ちの相手してるなら捨て身の回避はよくないぞ、と本人に次会ったら教えてやろうかと思ったところで、剣の軌道を円に変え、後ろからの剣閃に噛み合わせた。

 

「おいおい、自分を斬れるなんて機会、もう滅多にあるもんじゃねえぞ? いいのか、そっちを斬りに行って?」

 

「うるせぇ。……そういう日もあんだよ」

 

「はっ、そうかよ」

 

 押し込まれる前に強引にブロードソードを跳ね上げる。体を捻り氷の弾丸を避け、回転のまま蹴りを放つ。運よく命中、しかし追撃しようにも魔法の壁が既に出来上がっている。そのまま俺のロストメアが剣を振るってきた。

 

「ちったぁ加減しろ!?」

 

 大丈夫、死にはしないからと笑う姿に、やっぱ夢は夢なんだな、と妙な感慨が湧いた。

 

 

 

 乱れ飛ぶ炎、雷、氷に、磨き続けた剣の奥義。自分の剣を外から見るいい機会だとか考える暇もない。ただ至った境地で捌き続けた。

 

 しかしまぁ……じりじりと追い詰められている。同格以上を二人相手にしているのだからむしろ善戦しているのではないだろうか。

 

 カットラスに込めてあった魔力が切れ、壁から吹き出した炎に刀身が歪む。慣れない重心でそのまま撃ち合い、当然ながら打ち負け、剣が手から弾き飛ばされていった。

 

 そうなっても容赦のない攻撃の数々を、相手を盾にし街灯を盾にし、時に残ったブロードソードで切り払い、何とか避けていく。

 

 いよいよ逃げに徹するか、と覚悟したが。

 

「剣なら、何だったかしらねぇ?」

 

「まだ斬られてないから負けてねぇよ」

 

 頼もしい援護射撃が墜ちてきた。

 

「魔法使いさんのロストメアはあたしが相手するから、自分の相手は自分でよろしくね」

 

「おう、悪いな。お前さんは自分の夢に苦戦しなかったのか?」

 

 答えず笑ってロストメアに銃を連射した姿に肩を竦めて、こちらも自分を斬りに行くことにした。

 

 

 

「やーっと追い付いた」

 

 追い付かれるとは思ってなかった、と惚けた言葉を口にする夢に、銃口を向ける。

 

「後でアフリト翁からも聞くつもりだけど……狙いは何?」

 

 狙い? 目的なら自分を叶えることだけど。そう言ってみせたのに、視線が泳いでいるせいで嘘だと断定できてしまう。嘘に慣れていないのが丸わかりで、気が抜けそうだ。

 

 取り敢えず、邪魔をするなら容赦はしないってことで。そう言い放ってカードを構えたロストメアに、先手必勝と銃弾を叩き込んだ。

 

 正直なところ、魔法使いさんと戦って勝つのは難しい。ラギトやリフィルのような防御を抜く一発、というものがない。今も銃弾が情けない音を立てて障壁に阻まれた。接近しても、この刀では攻撃が通らないだろう。

 

 けれど、幸い今は最高の弾丸を持っている。園人の魔方陣を破壊するために用意してもらった弾丸、その残りだ。

 

 刀と銃とで障壁に細かな傷をつけていく。そして、障壁が張り直された瞬間に合わせ、切り札を切った。

 

 弾に触れた瞬間あっという間に砕ける魔法を他所に、残った銃弾を3連発。そのまま一気に距離を詰め、回避したその夢に、刀を突き刺した。

 

 明らかに避けられたタイミングだったのに、と思わず顔をしかめ、問い詰めてしまう。手応えからしてこれが本体なのは間違いないから、罠だという不安もないのが余計に妙だ。

 

「全然本気だしてないんじゃない? こんな簡単に倒せる夢じゃないでしょ?」

 

 いや、魔法使いにその弾丸はちょっと対処できないから。腹部に刃物を刺されているのにただ呆れたように言う夢は、それでも清々しい表情をしていた。

 

「作戦ももっと勝てるように作れた筈だし、もしかして負けるのが目的だったり?」

 

 半分正解。勝てるなら勝ってたかな。夢だし。なんて曖昧な言葉に、質問を重ねる。

 

「でも負けを選んだのよね?」

 

 皆と〝一緒に〟生きるってのは、誰かの夢を踏み台にしたら叶わないってことだから。

 

 その言葉に、昨日の夜を思い出す。

 

「あー、あたしのこれからってのとあなたは確かに相容れないわね。だから素直に叶わないことを選んだ、と」

 

 頷く夢は、端から消滅が始まっていた。

 

 皆の夢も、自分が起点になってカードを媒介にロストメアとして喚び出したからそろそろ消えると思うよ。

 

 それだけ言って、後は満足と口を閉じてしまった夢に、ふと気になることを尋ねた。

 

「……ロストメアにとって叶うことは生きることと同意義なのよね?」

 

 そうだね、と答えが来る。

 

 それだと、命よりもあたしの夢の障害にならないことを選んだ、なんて解釈もできてしまうのだけど……。まぁ、確かめなくてもいいだろう。

 

 あぁ、そういえば。まだ最後に聞きたいことがあった。

 

「魔法使いさんがあなたを諦めたのって何が切っ掛けだったのか、聞いちゃっていい?」

 

 この街にいなくても、一緒にいきていなくて、また会えるから。そう言って、一息吐いた。

 

 そっちが今の夢になったから、古い自分は叶わざる夢になったんだよ。そう言い終えた〈夢〉はもう殆どが消失していた。

 

「成る程ねぇ……。それなら、別れの挨拶はさようならじゃなくって……」

 

 ……またね。

 

 お互い笑って手を振って、お別れした。

 

 




これにて3話分の中編は終わりです。多分ひねもすとかに繋がる流れです。

黒ウィズは書きたいネタの増加ペースに書くのが全然追い付かないですね。

次はリクエストいただいたエークノームのお話を予定しています。
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