黒猫氏の異界滞在記   作:〈黒ウィズ二次を飽きるほど読む夢〉

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毎月投稿は保ちたい……!

今回はからふる!エニグマフラワーズです。サブタイトルは「がちがちエニグマ」みたいな読みです。多分。

書きたいところまでたどり着く前に5000字到達してしまったため変な位置で切れてます。申し訳ない。

入力の関係上エニグマ勢を本名で呼称しています。原作とは表記が異なるのでご注意下さい。


『光と闇が争い続ける異界』
現実現実エニグマ


 愉快でエニグマな仲間たちに手を振って、バスに乗り込んだ君とウィズ。長いようで短い停泊時間も終わり、やがてバスはゆっくりと発車した。

 

 空席が目立つ車内の、後ろの方に君は腰を下ろした。目立つ位置で発光するわけにもいかないだろうという配慮だ。

 

 異界移動に備えウィズは君のローブの中へ、旅の荷物は膝に抱えて、君は車窓を眺めていることにした。

 

 しかしバスはいつものバイト現場を通り、マジスクスポットも通りすぎ、名前だけ聞いた隣町も通り抜け……何事もなく、終点へと到着してしまった。

 

「──―駅、こちらが終点となります。荷物をお忘れないように気をつけてお降りください」

 

 君は、呼び掛けてくるアナウンスを呆然と聞いていた。サンフラワーの言葉が脳裏をよぎり、不安が膨れていくのを感じる。

 

 周りがほとんど降車した頃に我に返り、君はため息をついて座席から立ち上がった。

 

 心許ない残金のカードをスキャンして君はバスを降りた。クエス=アリアスの通貨が使えないのが辛い。ありがとうございましたと笑顔を向けてくる車掌に、君はなんとか微笑みを返した。

 

 循環バスとはいえ、一周したら一旦乗り換えなければならないらしい。次のバスまで凡そ10分、君はため息を着いた。折角の快晴も、どこか曇って感じる。

 

「まぁ、そんなこともあるにゃ……。何周か乗っていれば帰れるかもしれないにゃ」

 

 前向きな師匠の言葉も、どこか上滑りしていた。一周しても何も起きなかった時点で、多分駄目だろうなという予感をひしひしと感じているのはウィズも同じだろう。

 

 それでも一縷の望みを賭けて、君とウィズはやって来たバスへと乗り込んだ。

 

 

 

 

「あ、黒猫、お帰り! ……ってあれ?」

 

 居候先の花隈家へと君が帰ってきたのは日が傾き始めた頃だった。パタパタと若菜が出迎えてくれるが、君を見て首を傾げた。元の世界に帰る、と伝えて出発しただけに、当然の疑問だろう。

 

 何周もバスに乗っても帰れなかった旨を君が伝えると、そっか、と小さく呟いて、若菜は冷蔵庫から何かを取り出してきた。

 

「はい、若菜のチョコあげる! 元気だして!」

 

 暖かい気遣いに君は感動した。ただバスに乗り続けるというのは、思った以上に精神が疲弊するのだ。

 

「うんうん、疲れたーって顔してたから。そんなんじゃマジスクもできないでしょ?」

 

 それなら、食べ終わったらやろうか、と微笑んだ君に、とびっきりの笑顔が返ってきた。

 

 

 

 もらったチョコを食べ終え、買い足したお茶の残りを飲み干せば、気持ちも前向きになってくる。今やるべきは、全力でマジスクの相手をすることだろう。

 

「よっしゃー! 今日こそ全勝!」

 

「レディ……」

 

 スクラム! 

 

 

 

「……うんうん、その手、罠だよね?」

 

 ……何だかんだと君はマジスクにかなり熱中している。殆ど勝てないとはいえ、若菜とそれなりに白熱した対戦ができるくらいにはなったくらいであるから、相当のものだ。

 

「へっへーん! 若菜の勝ち!」

 

 とはいえ相手はチャンピオン、余程の幸運か彼女の集中力切れかでしか君が勝利したことはない。今もまた、本日4敗目を喫したところだ。

 

「……そろそろお姉ちゃんが帰ってくる時間だから、この一戦で最後ね」

 

 

 

「たっだいまー……」

 

 君が若菜から通算3回目の勝利をもぎ取った頃、エニグマチェリー……ハルコが帰ってきた。疲れを滲ませる声からして、今日もまた追試対策の勉強をしてきたのだろうか。

 

「あ~負けた! もう一回! ……あ、お帰り」

 

 張りのない声と同様に気の抜けた顔でリビングへ入ってきたハルコは、君を見てへにゃりと眉を下げた。

 

「うん、ただいま。……んで、黒猫っちは帰れなかった感じ? 大変だね~」

 

 またお世話になります、と苦笑いを浮かべる君に、

 

「ま、実家だと思って寛いでくれていいよ」

 

 と、ハルコは相変わらずの姉御肌を見せつけた。善意につけこんでいるようで君の心が痛むが、本格的にいつ帰ることができるのかわからなくなった今、頼るしかないのが歯痒い。

 

 

 

 花隈家を始めとしたさまざまな厚意により君の生活は成り立っている。食、住とハルコに面倒を見てもらい、衣服はローブ姿を見かねたハカマダが貸してくれたものをありがたく着ている。

 

 しかしそれでも外食だったり移動だったりと、何だかんだお金は減っていくもので、カードの残金は元の1割を切っていた。この異界に移動する直前に手持ちのカードの整理、換金を行ったのが非常に悔やまれる。

 

 一日をバスで過ごした翌日、君はいもぴーに会いに会社を訪れていた。昨日のうちに連絡はつけておいたので、大して待たされることもなく応接室へと通される。

 

 神都での勤務先とどこか似通った空気を感じるオフィスは、この世界では一般的なものらしい。手触りのいいソファーに腰かけて、君は話を始めた。

 

 ひとまず帰る手段のあてがなくなったこと、それに伴いまたサポートメンバーとして働くことを伝える。

 

「中々に難儀だね……。復職の件は問題ないよ。こちらとしても大歓迎だからね」

 

 ひとまずの懸念が消えて、君はほっと一息ついた。その後、慎重に本題を切り出す。

 

「君のバイト代?」

 

 そう。君はエニグマのサポートメンバーとして契約し、働いていたはずだ。しかし、その代金を受け取った記憶がない。

 

「うちの会社は、月末に纏めて賃金を振り込む方式だからね。一週間後に受け取れるよ」

 

「昨日帰られてたら賃金未払いになるところだったでもす。怪我の功名でもす」

 

 そういえば契約のときにそんな感じのことが書類に記載されていた気もする。それはそれとして、一週間。その間は今の残金で過ごすことを強いられるわけだ。

 

「バス代で全部なくなるんじゃないかにゃ?」

 

 ウィズの言う通り、恐らくあと数回のバス移動でカードの中身が空になる。とはいえ、お金を借りるのは最終手段だ、と君は考えている。まだその時ではない。

 

「かっつかつでもすね……」

 

「うーん……。あぁ、そういえば前に原付に興味あるって言ってたよね?」

 

 確かに、以前乗せてもらって以来、興味を持っていた。しかし今聞かれる理由がわからず、君は疑問符を浮かべた。

 

「いや、当部門にもう一人足が欲しくてね。サポートメンバーで自由に動ける人間ってのはあまりいないんだよ。それに、免許ってのは身分証明書としても便利だからね……。悪くないんじゃないかな」

 

 

 

 三日後、君は小型バイク(ゲンツキ……原付とは似て非なるものだ)の免許を取得した。戸籍も学費もいつの間にか用意されていることに困惑したが、いもぴーが何とかしたということで納得できてしまうのがエニグマだ。

 

 出来る限り教習を詰め込めば二日で試験を終えることも可能らしいが、出動の関係上それは無理だった。

 

「ヒマリには感謝しないといけないにゃ」

 

 この異界では一般常識からして危うい君が試験に合格できたのは、エニグマサンフラワーことヒマリが勉強に手を貸してくれたからだ。

 

「へぇ、バイクに乗る魔法使い……。いいじゃんいいじゃん、リアル路線で。勉強が不安? いーよ、あたしが教えるよ」

 

 とのことで、想像以上に親身になって協力してもらえた。……リアルとは何なのかは、未だに聞けていない。

 

 

 

 免許取得の翌日、いもぴーから社用車として受け取ったバイクを駆って、君はバイト先へと出掛けている。

 

 ……後ろにヒマリを乗せて。

 

 出発時にハルコとウィズがバスに乗るのを見送っていたら、突然ヒマリが降車してきたのにはかなり驚いた。バイクに乗りたかったというのはわからないでもないが、遅刻のリスクを恐れない胆力はかなりのものだろう。

 

「おぉ~。この疾走感は原チャじゃちょっと出せないな~。もっと飛ばせる?」

 

 背中越しに聞こえる楽しげな声に、まだ二人乗りは違反だとか制限速度をかなりオーバーしているだとか苦言を呈したくなった君だが、彼女に関しては今さらかと思い直して無言を貫いた。

 

「あ、次の交差点で右ね」

 

 実のところ、君に土地勘がまったくないために、彼女の案内はかなり助かっていた。バス移動ではあまり道を覚えることができないのだ。

 

 〝ナビ〟という機械が地図がわりになるというのを聞いたことがあるが、生憎このバイクには装備されていなかった。

 

「そこのコンビニに停めて……ほい、ご苦労」

 

 教習でない初めての運転、しかも二人乗り。君はかなりの疲労感を感じていた。無意識にバイクをカードの中に仕舞おうと動いているくらいなので相当だ。慌ててカードを懐に戻す。

 

「んじゃ、バイトに行きますか。送迎のお礼ってことで、帰りにアイスでも奢ったげるよ」

 

 べしりと気安く君の肩を叩き、にかりと笑うヒマリ。アイスという単語に釣られてやる気を出す自分の単純さに苦笑いして、君も歩き出した。

 

 

 

 現場までは3分も歩けば到着するような距離で、バイク通勤も悪くないと君は深く頷いた。通勤時間の合計はかなり短くなるのだ。

 

 バス組はそれから15分ほどして到着した。ハルコからウィズを受けとり、予定時間まで雑談で過ごす。

 

「おお、早いなお前ら。一本前のバスで来たのか?」

 

 これから戦う相手との会話がそれでいいのだろうか。何度か目の疑問が過るが努めて無視して、君はバイク通勤を始めたことを伝えた。

 

「ほぉ~、バイク通勤か。……よく免許とれたな。異世界出身だったよな、君?」

 

「今、異世界転生の話しました?」

 

「いや違う……違わないのか? いや、違うだろう。違うぞ」

 

「隠さないでいいんですよハカマダさぁん……。誰しもチートで無双するのを妄想したことはあるはずですから」

 

「だから違うって!」

 

 話が有耶無耶になっているうちに時間が来て、いつも通り戦闘が始まった。いもぴーの闇に触れる前に話が変わって、君は安心した。

 

 ゴショガワラやオノウエが転職したが、まだ人材補充はされていないようで新規怪人などは特に出てこず、戦いはエニグマフラワーズの勝利に終わった。

 

「「お疲れ」様です」

 

 さっくりと解散し、帰宅する運びとなった。君の金欠はどうやら皆に知れ渡っているらしく、どこかによって帰ろうとは誰も言い出さなかった。

 

 君はありがたいとは思ったが、ひどく複雑な気分になった。いやに寒さが身に沁みる。

 

 ……それはさておきウィズはハルコに預け、君はヒマリと帰路についた。

 

 

 

「好きなやつ選んでいいよ。このナポリタン味のとかどう? アホみたいに安いけど」

 

 ナポリタンとやらが何なのかを君は知らなかったがひとまず拒否して、洋梨味を手に取った。

 

「それ? オッケー。あたしはー……こいつにチャレンジしてみっかな」

 

 改めてパッケージを見るにパスタ味のアイスのようだが……。まぁ、食べたいと言うならあえて止める必要もないか、と君は諦めた。

 

 

 

「あざっしたー」

 

 やる気のない挨拶を背に買い物を終え店から出ると思わぬ寒さで、君はぶるりと震えた。

 

 他にも買うものがあるとのことで先に出てきてしまったが、店内で待っていた方が良かったかもしれない……。

 

 などと考えてくる内に買い物を終え出てきたヒマリは袋からアイスを取り出し、君に差し出す。

 

「ほい」

 

 今さらだが今日のような冷え込む日ににアイスは合わないのでは? 感謝して受け取りながらもそんなことを君が考えていると、表情からそれを察したのか、笑われた。

 

「あえて寒いからアイス。それがいいんじゃん」

 

 そう言って、ヒマリはナポリタン味のアイスの封を切った。まったくわからない思想だったが、君もそれに倣って食べ始めることにした。

 

 

 

「うわまっず! えぇ……何これ。一周回って逆にリアルだわ」

 

 顔をひきつらせるヒマリの横で、君は寒さに震えていた。美味しいことは美味しい。が、やっぱり寒いじゃないかと呪詛を吐くも、スルーされる。

 

「流石にこれ完食は無理だな……。ちょっとこっち向いて」

 

 振り向いた君の口に、暴力的な味が突っ込まれた。冷……甘……トマト……? 反射で吐き出しそうになるのをこらえ、齧り取ったぶんを飲み込む。

 

「いやーアイスを二つも奢っちゃうとか、あたし太っ腹過ぎない?」

 

 けらけら笑うヒマリに君はじっとりした視線を送るも、意にも介されない。捨てるには忍びないので食べ進めるが、冷たさと味で口内の感覚が消えてきた。

 

「あたしは別に気にしないから、無理だったら捨ててきなよ」

 

 笑い顔から一転してこちらを心配する顔に、むしろ君は笑ってしまった。口から棒を取り出し、食べ終えたことを見せつける。

 

「うっわよく食べきったな……。うん、完食記念にこいつをやろう」

 

 ひょいと投げられたペットボトルには温かいコーヒーが入っていて、冷えきった君の手にじんわりとした熱を伝えた。

 

 キャップを開けて一口飲むと、苦味と熱で体の芯から温められた気分になり、君は思わずほう、と息を吐く。

 

「寒い日のアイスのよさ、わかったっしょ?」

 

 したり顔のヒマリに、君は素直に頷いた。

 

 

 

 その後、君はバイクでヒマリを自宅まで送り届けた。彼女の自宅から花隈家に行くのにはそれほど複雑な道を通るわけではないというのを知っていたからこそできた行動だ。

 

 別にいーよとは言われたが、送迎の報酬としてアイスを受け取ったから、と君が言い返せばまぁいいけどさ、とあっさり引き下がった。

 

 君は車庫の隅にバイクを停め、少しばかり雑談してから帰ることを決めた。

 

「わりと運転は丁寧だよね。まぁまだ危なっかしいところはあるから、素人との2ケツとかウィズを乗せるとかは慣れてからのがいいと思うけど」

 

 それなりに運転に慣れた目線からの意見は貴重なものだ。君は休みの日は運転の習熟に力を入れることにした。

 

「おっ、どっか出掛ける? そんならちょっと付き合ってほしいんだけど」

 

 元々バイト以外に予定はないので、君は快く了承した。その上で、何をするのか尋ねる。

 

「ちょっと最近体が鈍ってきたから、市営の体育館で運動しようと思って。寒いとあんま動かなくなるんだよね」

 

 軽く言われたが、重大な何かを隠しているように君には見えた。加えて何かを期待されているようにも。

 

「あんたは、バスケってやったことある?」

 




書きたいイベントが多すぎて辛い!執筆速度がほしい!なんて思う今日この頃です。

前回からのアンケートにご協力いただきありがとうございます。今のところかなり拮抗しているので、次回投稿のタイミングで何を書くか決めようと思います。

今回やけにいもぴーが協力的ですよね。これはいもぴーが黒猫の魔法使いに対して極大の警戒を抱いているのが原因だったりします。(独自設定)
異界を移動した事例は数例しか観測されていないのに、それを複数回経験していて、かつ戦闘力が高めな存在……。地球制圧が目標らしい彼らにとってはかなり厄ネタですね。恩を売るに越したことはない……みたいな感じで。

二人乗り、間接キス、いずれもラブコメの定番イベントなのに照れもしない二人に、作者も困惑しています。端から見ていればイチャイチャしやがって、となるでしょう。

次は八百八町2のお話だと思います。あれはずるかったですね~。魅力的なキャラがただでさえ多い上に八百万勢の合流とかもう……。
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