流星のロックマン Arrange The Original 2.5 ~ツカサ外伝~   作:悲傷

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2020/08/12
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第2話.無力な僕

「なんだよそれ!」

 

 ツカサの話を聞いて、スバルは机を叩いた。別に怒られているわけではないのに、ツカサはビクリと肩をすくめた。

 

「それ……保母さんはいつ話を聞いたの?」

「今日、だって……僕たちが海に行ってる時に……」

 

 保母さんから話を聞いた後、ツカサはスバルの家を訪ねた。もう夜だということは分かっているのだが、どうしても誰かに聞いてもらいたかったのだ。思い浮かんだ相手はスバルだけだった。

 スバルは吐息荒く座り直した。隣ではスターキャリアーから出てきたウォーロックが浮遊している。

 

「……で、もし仲を取り戻せるのなら、コダマタウンに住んでも良いって言ってるの?」

「……うん」

 

 ツカサを10年以上も放っておいた両親からの配慮なのだろう。住み慣れた町で、友人とこれからもいられるようにと。

 

「……ねえ、どうしたい?」

「え、どうしたいって……?」

「ツカサくんはどうしたいの?」

 

 この問いにツカサは迷った。いや答えられなかった。頭の中が真っ白になるのだ。何も考えられない。何も浮かばない。

 

「……急いで答えを出さなくていいよ」

「え?」

 

 ツカサが顔を上げると、スバルは一転して明るい声をあげた。

 

「今のツカサくんはさ、疲れてるんだよ」

「……そう、かな?」

「そうだよ。だって、今日海に行ったばかりなんだから」

 

 言われてみればそうだった。

 

「疲れているときに考えても仕方ないよ。一晩寝てから考えても良いんじゃないかな?」

「でも、両親が来るのは明日だよ?」

「来るまでに考えたら良いよ。来てもらったけれど、やっぱり会わないって言うのも手だと思うよ」

 

 それはさすがに悪い事なのではないだろうか。という疑問が浮かんだ。だが、今考えても仕方ないというスバルの意見は正しい気がした。

 

「そうだね。今日は帰って寝ることにするよ」

「それが良いよ」

「じゃあ、僕はこれで」

 

 ツカサはスバルに礼を言うと部屋を後にした。階段まで来て気づいた。「夜遅くにごめん」と言うのを忘れていた。流石にこの時間に押しかけて、詫びの一言も無いのは悪いだろう。戻って部屋をノックしようとした。

 

「スバル、これで良いのか?」

 

 ウォーロックの声が聞こえた。話の間一言もしゃべらなかった彼が、スバルに何を尋ねているのだろう。耳を澄ました。

 

「……どうしようもないよ……これは、ツカサくんと両親の問題だから……」

 

 ツカサはノックしようとしていた手を遠ざけた。

 

「僕は、ツカサくんの両親が許せない。だからもう二度と近づくなって言ってやりたい。けれど、両親とどういう関係になるのかは、ツカサくんが決めることだから」

「まあ、当然だな」

 

 ツカサはドアから一歩後ろに下がった。2人の言う通りだ。スターキャリアーと共に、ポケットから抜き取った物を見る。

 赤い押し花だ。これはスバルが摘んできてくれた花だ。ドリームアイランドにある、名前も無い花畑……ツカサの最も好きな場所で、スバルを裏切った最も忌み嫌う場所……。いつかそこでスバルのブラザーに……それが彼の夢だ。

そう、夢だ。

 

 

「夢は……叶わないから夢……なのかな……」

 

 スターキャリアーを手に持ったまま、ツカサは一階へと降りて行った。

 

 

 ツカサは真っ暗なところにいた。ああ、夢だなとすぐに理解した。こういう場所には何度も来たことがある。それに記憶が正しければ、今は自室で眠っているはずだ。

 周囲を見渡すと、やはりいた。小さいころのツカサがいる。その周りには意地悪そうな顔をした子供たち。この世界で何度も繰り返し見た光景だ。

 

「お願いだ。やめてくれ……」

 

 いつも呟く。だが止まらない。子供たちは小さいころのツカサの周りに集まり、叩いてくる。親無し。捨てられた。いらない存在。子供たちは思いつく限りの言葉でツカサを虐めてくる。

 そこに大人が駆け寄ってきた。虐めている子供たちを後ろに下がらせて、蹲っていたツカサを蹴飛ばした。私の子供に近づくな。親がいない子供はロクな大人にならない。こんな子に関わってはいけない。低くても知性がある分、その言葉は子供たちの物よりも暴力的だ。

 

「好きで捨てられたんじゃない……」

 

 聞こえていないと分かっていても、ツカサは呟いた。

 愚かな大人は、もう近づくなとツカサを再度蹴飛ばした。

 

「止めてくれ……」

 

 それ以上はいけない。それ以上やると……あいつが出てくるのだ。

 大人に蹴られた小さなツカサが、ゆっくりと立ち上がる。もう一度蹴飛ばそうとした大人の足を払いのけ、思いっきり押し倒した。倒れた大人に馬乗りになり、手に持っていた石で顔を殴りつけた。大人の悲鳴が上がり、虐めていた子供たちが縮こまる。大人が血を流して悶えているのを他所に、小さなツカサ……いや、ヒカルは子供たちに襲い掛かった。

 

「止めてくれ……」

 

 そこまですることは無いじゃないか。確かに、彼らがやったことは酷い事だ。それでも、ヒカルがそこまでして良い理由は無い。

 ツカサは駆けだした。泣き叫んでいる子供に、なおも拳を振り下ろそうとしているヒカルの左手を取る。

 

「もう止めてくれ、ヒカル……」

 

 ヒカルが振り返る。それは、今の自分と同じ年頃になったヒカルに代わっていた。

 

「ヒカル、君が暴力を振るって良い理由なんてない。もうやめてくれ」

 

 ヒカルは何も答えない。ただツカサを見ているだけだ。このまましばらくしたら、この世界はいつの間にか消えている。それがいつもの結末だった。

 だが二人の世界に割って入ってくる声があった。

 

「ククククク、止めてくれだってよヒカル」

 

 ヒカルの背後に黄色い塊が生まれた。ツカサは目を疑った。こいつをツカサは知っている。忘れたい、けれど忘れてはならない存在。

 

「ジェミニ!?」

 

 黄色い塊に黒い仮面が浮かんだ。

 

「御名答。雷神のジェミニ様だ。お前らの中から蘇ったぜ」

 

 雷神のジェミニ。ツカサのスターキャリアーにいる白いジェミニの元となった存在だ。

 かつて地球に侵略してきたFM星人の一人……いや、その首謀者だ。実際に侵攻を決定したのはFM星王ことケフェウスだが、彼に戯言を吹き込み、疑心暗鬼に陥らせ、甘言で裏から操っていたのは、この男だ。

 悪事はそれだけにとどまらず。地球に来てからはツカサに憑りつき、ヒカルと意気投合して共に多くの事件を引き起こしていた。

 ツカサの何よりの汚点は、彼とヒカルに惑わされて、スバルを裏切ってしまったことだ。

 そのジェミニが目の前にいた。

 

「なんでお前が……」

「残留電波って知ってるか? 俺は確かに死んだが、お前の体内にデータとして残っている。お前が生きている限り、復活するんだよ。何度でもな」

「そ、そんな……嘘……」

「嘘じゃねえよ。お前が電波変換できていたのもそれが理由だ」

 

 ジェミニの力が体内に残っていたことはツカサも知っている。だがこの凶暴な人格まで残っているとは思わなかった。白いジェミニが生まれたことから、人格は消えたと思っていたからだ。

 

「なんで今になって……」

「分からねえか?」

「……両親?」

「なんだ、やっぱり分かってるじゃねえか。お前が大きく動揺してくれたおかげでな、お前の体内の奥深くから出てこられたってわけだ」

 

 悔しさで自分を殴りつけたくなった。

 

「ったく、苦労したんだぜ。お前ら二人分の精神があるからよ、複雑に絡み合っていてほとんど身動きが取れなくて、地獄みてえだったぜ」

「そのまま永遠に出て来なかったら良かったのに……」

「だからこそ、お前のおかげだぜツカサ」

 

 ジェミニはスッとヒカルの側に移動した。

 

「聞けヒカル。お前の願い、俺なら叶えてやれる」

 

 ずっと黙って2人を見守っていたヒカルが、ジェミニの方を見た。

 

「止めろヒカル! そんな奴の言葉に耳を貸すんじゃない!」

 

 だがヒカルはジェミニから目を離さなかった。

 

「ツカサが協力しない以上、地球人の体は手に入らねえが……お前の精神とだけ電波変換することはできる」

 

 ヒカルの眉がピクリと動いた。口がゆっくりと開く。

 

「そんなことができるのか?」

「力は大きく落ちちまうがな。だが、電脳に入って中から操作することに支障はねえ。俺もこんなところからは、さっさとおさらばしたいんだ。自由になろうぜ?」

 

 そんなことされてたまるものか。ツカサはいまだに掴んでいたヒカルの左手を引っ張った。

 

「やめろヒカル!」

 

 ヒカルがようやくツカサの方を見た。数秒間見つめ合った後、ヒカルはジェミニの方を見た。ヒカルの手が、ツカサの手を振り払った。そのままジェミニに手をさし伸ばした。

 

「ジェミニ、お前の力を貸せ」

「おう、任せておけ」

 

 ヒカルの手がジェミニに触れようとする。ツカサはなりふり構わずにジェミニにつかみ掛かった。ジェミニをヒカルから遠ざけようとする。だがびくともしない。ツカサがどれだけ動かそうとしても、ジェミニはその場から少したりとも動かない。

 

「な、なんで……?」

「ククク、ここは精神の世界だ。意志の強さがそのまま強さになる。つまり、てめえはこの程度だってことだ」

 

 ジェミニが雷撃を放った。ツカサは大きく吹き飛ばされて転がった。

 

「ま……待、て……」

 

 起き上がろうとしても体が動かない。これがツカサの意志の弱さだと、世界全体が笑っているようだった。動けずにいるツカサが最後に見たのは、ヒカルの手がジェミニに触れるところだった。

 

 

「止めろーーー!!」

 

 ガバリとツカサは身を起こした。

 

「ハァ、ハァ……ハァ……」

 

 全身から滝のような汗を流しながら、ツカサは周囲を窺った。幸い部屋の中は薄明るい。時間帯は明朝と言うところだろう。ここは自分の部屋だ。孤児院に設けられた自分の部屋だ。小さいが布団を敷けるスペースはある。その布団が目に入った。いつの間にか這い出て、タンスの側にまで来ていたらしい。

 ようやく自分が持っている物に気づいた。スターキャリアーだ。寝る前には、タンスの上にいつも置いておくのだ。中では白いジェミニが不安そうにこちらを見ている。

 

「……あ!?」

 

 胸を抑えた。いない。いないのだ。

 

「ヒカル……」

 

 ヒカルがいない。自分の中にいたヒカルがいなくなっていた。

 

「夢じゃない!?」

 

 慌てて立ち上がって、スターキャリアーを掲げた。

 

「電波変換 双葉ツカサ オン・エア!!」

 

 いつもの合言葉を叫んだ。だが何の変化も無い。白い光が出て来てツカサを包み込むはずなのに、何も起きない。

 

「やっぱり……」

 

 先ほどのは夢ではなかった。ヒカルはジェミニと電波変換をして、出て行ってしまったのだ。

 

「ヒカル……あ! ジェミニ、スバルくんに電話!」

 

 スターキャリアーの中で白いジェミニが慌ててブラウズ画面を開いた。ヒカルとジェミニはスバルとウォーロックを恨んでいる。もしかしたら、襲われているかもしれない。

 コール音が何度もなる。お願いだ。無事でいてくれ。心臓が張り裂けそうなほどに鳴り響いている。無限のように長い十数秒の後に、ブラウズ画面にスバルが映った。

 

「どうしたの、ツカサくん?」

 

 寝ぼけた顔をしたスバルがいた。後ろではウォーロックが欠伸をしながら頭を押さえている。どうやらスターキャリアーの中で寝ていたウォーロックが目を覚まし、スバルを起こしたらしい。

 

「ス、スバルくん。大変なんだ!」

「大変?」

 

 スバルはまだ眠そうな目を細くした。ツカサの鬼気迫った雰囲気には気づいたらしい。

 

「あ、あのヒカルが……ジェミニが……」

「ジェミニ!?」

 

 スバルが叫ぶと、後ろにいるウォーロックが目を見開いた。

 

「どういうこと!?」

「あ、えっと……あの……ヒカルとジェミニが……その」

 

 スバルが尋ねてくるが、ツカサは焦って言葉が出てこない。何から説明をすればいいのか。

 だがここはウォーロックがまとめた。

 

「スバル、詳しい話は後だ。電波変換して外に出るぞ。あいつらのことだ。何か事件を起こしているはずだ!」

「わ、分かった! ツカサくん、後でね」

「う、うん……」

 

 電話が切られた。ツカサは胸に溜まっていた空気と焦りを盛大に吐き出した。すると手足が震えてきた。力が入らずに膝をつき、倒れそうになって手で体を支えた。白いジェミニが慌てて外に飛び出して来た。

 

「だ、大丈夫だよ」

 

 心配そうなジェミニの頭を撫でてあげる。

 

「ち、力が抜けただけだから……」

 

 とりあえずスバルは無事だった。それどころか、もう全てが大丈夫だ。ジェミニは言っていた。力が落ちると。ならば今のヒカルとジェミニはスバルとウォーロックの敵ではない。あの二人に任せておけば、ヒカルとジェミニはすぐに捕まるだろう。

 そう、もう安心していいのだ。それなのに胸から熱が込み上げてくる。それは目へと移動して、熱い滴を滴らせた。

 

「情けない……」

 

 力の入らない手で、床を叩いた。

 

「僕は、何もできないのか……」

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