流星のロックマン Arrange The Original 2.5 ~ツカサ外伝~   作:悲傷

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2020/08/12
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第3話.僕の望み

 まだ日も登り切っていないのでコダマタウンは灰色だ。夏の暑さが幾分か和らいでいるこの町中をツカサは歩いていた。

 今頃スバルはヒカルと戦っているのだろう。あの後もうひと眠りなどできるわけもなく、かと言ってじっと待つこともできず、できることもなく、今はこうして当てもなく歩いている。

 

「意外と人はいるんだね……」

 

 こんな時間だから人は少ないと思っていた。だが、もう出勤しているスーツ姿の男性や、ランニングをしている人がいる。あの大きなカバンを持っている高校生は部活だろうか。皆やることがあって、すべきことがあって……この時間に何の意味もなく歩いているのは、世界中を探しても自分だけではないのだろうか。

 

「……あ」

 

 気づけばコダマ小学校の校門前に立っていた。毎日登下校していたので、無意識に足を運んでいたのだろうか。白いというには少し汚れている校舎を見上げた。

 この大きな建物の二階に、ツカサたちの5-A組がある。とても良いクラスだったと思う。少々我儘ではあるが、強いリーダーシップと優しさを持っているルナと、腰巾着のゴン太とキザマロ。多少の喧嘩こそあれど、虐めなどもない、こんな平和なクラスはそうそう出会えないだろう。

 引っ越し先の学校はどんなところなのだろう。虐めが横行しているのだろうか。それどころか虐めっこのリーダーがいるクラスに編入するのだろうか。いや、ツカサが入ったことでクラスの調和が乱れて、虐めの引き金を引いてしまうかもしれない。

 もしそうなったら、担任教師は相談に乗ってくれるだろうか。育田道徳先生の顔を思い出した。顔の幅は少々大きく、何より爆発したようなアフロ頭が印象的だ。授業の合間に聞かせてくれる話も面白く、なによりも子供たちの味方をしてくれる理想の先生と言えるだろう。そんな育田先生とも離れることになる。

 校舎の右側に目を移すと、体育館の屋根が見えた。文化祭の思い出が蘇る。ルナの提案で、当時は謎のヒーローだったロックマンの劇をした。今思えばツカサがロックマンの役に抜擢されたのは何の因果だったのだろうか。まあ、結局スバルが代行することになったのだが……。ロックマンがロックマンの役をする。今思うと笑ってしまう。

 そんな良い思い出がこのコダマ小学校には沢山ある。だがもう、ここに通うことは無いのだ。

 

「もし、両親と暮らしたら……」

 

 彼らはこの町に住んでもいいとすら言っているらしい。

 俯いて、足先を右に向けた。引きずるように校門から離れて行った。

 少し歩いて、ふと階段が目に停まった。学校の裏山へと続く階段だ。フラリと吸い込まれるように登っていく。長い階段が終わると広場へ出る。隅に展示されている機関車に、小さなベンチと花壇。それらを通り過ぎて鉄の階段を上ると、そこは見晴らし台だ。町を一望できる、コダマタウンで最も高い場所だ。

 手すりにもたれかかるようにして、ツカサは町を見下ろした。

 

「ここ、スバルくんのお気に入りの場所なんだ」

 

 スターキャリアーに話しかけた。白いジェミニは飛び出すと、景色を見て小さく飛び跳ねた。こういう時、話しかける相手がいるとありがたい。

 

「こんなに、名残惜しいと思う日がくるだなんてね」

 

 正直に言って、この町が好きかと問われたらツカサは返答に困る。別に嫌いなのではない。好きでも嫌いでも何でもないのだ。何の感情も抱かないから感想すらないのだ。

 やはり今ツカサを縛り付けているのはスバルなのだろう。彼と出会えてから、それなりに良い程度だった生活に、光が差した。彼がいたから、この町での生活が楽しい物になった。もう少し長く住んでいたら、この町を好きになれていたのかもしれない。

 

「やっぱり、僕は……この町を離れたくないよ」

 

 もっとスバルと一緒にいたい。共に学校に行って、ルナたちとももっと仲良くなりたい。今の暮らしを続けたい。

 だがそれは、両親と暮らす道を選ぶということだ。

 

「……僕は……」

 

 その時だった。ツカサの後ろでヒュンと音が鳴った。振り返ると、青い光がロックマンに変化するところだった。

 

「スバルくん!」

「ここにいたんだね」

 

 スバルは電波変換を解くこともなく、ツカサに頭を下げた。

 

「ごめん、ヒカルとジェミニに逃げられちゃった……」

 

 

 スバルの説明によると、コダマタウンのウェーブロードでジェミニ・スパークBを発見したらしい。彼らの戦闘力は低く、以前戦った時よりも数段弱くなっていた。やはり、地球人の肉体を手に入れていないというのが原因らしい。

 FM星人もAM星人も、地球では本来の力を出せない。依代として地球人の肉体を手に入れる必要があるのだ。それも自分と相性のいい体でなければならないらしい。ジェミニがヒカルとツカサに執着するのはそれが理由だ。

 つまり、今のヒカルとジェミニが電波変換した、ジェミニ・スパークBはロックマンの敵ではない。それでもある家のガス給湯器の電脳に逃げ込まれ、誤作動を起こされてしまった。寝ている住民を見捨てることなどできるわけもなく、スバルは電脳の修復に勤しむしかなく……その間に逃げられてしまったらしい。

 

「とりあえず、その家の人はもう大丈夫だよ。起きたら壊れていることに気づくと思うし」

「そっか、ヒカルがそんなことを……」

 

 顔も知らない人に、また迷惑をかけてしまった。

 

「どうして、そんなことができるんだ……」

 

 何の関わりも無い人にどうしてそんな酷い事が出来るのだろう。自分の為だけに、そんな使い捨てのようなことができるのだろう。

 口を悲しく結ぶツカサの肩に、ポンとスバルの手が置かれた。

 

「ツカサくん、考えるのは後。今はヒカルを止めるのが先だよ。彼の行き先に心当たりはないかな?」

「行き先……」

 

 ツカサは考える。ヒカルの行き先と言えばどこだろうか。それほど悩む時間は必要なかった。ヒカルの目的は両親への復讐だ。そして彼らは今日、何で来ると言っていただろうか。

 

「TK空港……」

 

 そう、飛行機で来ると言っていた。ならばヒカルたちが空港へ行く可能性は高い。

 

「なるほど。じゃあ行ってくるよ」

 

 ウェーブロードへと飛び上がろうとするスバルの手を、ツカサは飛びかかるように掴んだ。

 

「ま、待って。僕も行く!」

 

 驚くスバルに、ツカサは舌に躓きながら訴えた。

 

「ヒ、ヒカルを止めたいのは、僕も一緒だ。僕だって、じ、自分にできることをしたい。い、いや、探したいんだ。だからスバルくん、僕も行くよ。って、そっか。今は電波変換できないから、勝手にバスで行けば良かったんだ……」

 

 必死になり過ぎていて変な行動をとってしまった。恥ずかしそうに頭を掻いた。

 ツカサの苦笑いはすぐに疑問に変わった。彼を見るスバルの目が微妙な物に変わっていたからだ。

 

「えっと、スバルくん?」

 

 てっきり、応援してくれると思っていた。一緒に頑張ろうと言ってくれるとも。だが彼は特に反応を示すことなく、もの言いたげな目でツカサを見ているだけだった。

 嫌な沈黙が起きてしまった。それを払うように声が上がった。

 

「おいスバル、ツカサに言わなくていいのか?」

 

 ずっと黙っていたウォーロックだった。彼の言葉に、スバルは数秒黙ってから首を横に振った。

 

「いや、良いよ」

「……そうか……」

「あ、あの二人とも。何の話をしているの?」

 

 スバルとウォーロックの間だけで話が終わってしまった。何か自分に関係がありそうな雰囲気であってにもかかわらずだ。

 

「良いんだよ、ツカサくん。じゃあ、僕は先に空港に行くね?」

「……うん」

 

 頷くが早いか、スバルは青い光になってウェーブロードへと消えてしまった。きれいにはぐらかされた気がする。

 だが考えても、ここにいても仕方がないだろう。ツカサが階段を降りて行くと、すぐ近くのバス停に、TK空港行きのバスが来たところだった。


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