流星のロックマン Arrange The Original 2.5 ~ツカサ外伝~   作:悲傷

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2020/08/12
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第4話.君なんて

 少々薄暗い空間にヒカルはいた。ここはTK空港の電脳だ。周りにはコンテナや金属探知機などを象ったデータが多数並んでいる。普段は休みなく動いて、空港で行われる多忙な業務データを処理しているのだが、今は全く動いていない。理由は単純、ヒカルとジェミニがシステムダウンを起こしたからだ。

 今、彼らはあるデータを探していた。絶えず動いているとお目当てのデータがどこに流れていくのか分からなくなってしまうため、やむを得ぬ対応だった。

 

「畜生、どこにあるんだ?」

 

 ヒカルは舌打ちをして手にしたプレート型のデータを放り捨てた。隣のアタッシュケースの形をしたデータを手に取り、エレキソードで無理やり開いて中を見る。先ほど投げ捨てた物と同じ、プレート型のデータが何十枚と入っていた。

 

「まるで宇宙の中からちっぽけな隕石を探すようなもんだな」

 

 ジェミニの例えはよく分からないが、海の中から小石を探すようなものだと言いたいのだろう。

 

「そう思うのなら手伝えよ」

「カリカリしてんな。前みたいに仲良くやろうぜ?」

「そんな気分じゃねえ……」

「……ったく、俺はお前の手下じゃねえんだぜ? あくまで、お前に力を貸してやってるだけだ」

「俺のおかげで自由になれたんだろうが。お前、ロックマンと戦いたいのか?」

 

 空港のシステムダウンなどという大きな事件を起こしたのだ。遅からずロックマンは駆け付ける。

 

「……その言葉を二度と口にするな」

 

 ジェミニはヒカルの隣に降りて、別のアタッシュケースを開いた。

 言われるまでも無い。ヒカルだって、ロックマンのことは思い出したくもない。ツカサの元を離れて幾ばくもしないうちに、ロックマンに見つかった。『ツカサくんからの電話を受けて探してみたら、やっぱり』とか口にしていた。

 戦ってはみたが無駄だった。まるで歯が立たなかった。斬撃が受け止められるとか、攻撃を避けられないとかそんなレベルではない。小さな子供が格闘家に挑む様なものだった。以前戦った時はこれほどの実力差は無かった。単にロックマンが強くなっていたのも理由だろうが、地球人の肉体を手に入れていないためジェミニの実力が出せなかったのが大きな原因だろう。

 あっという間に組み伏せられた。だから恥を忍んで頼んだ。「見逃してくれ」と。スバルとウォーロックの驚いた顔を思い出すと怒りが沸騰する。ああ、こっちだって死ぬほど嫌だった。今までに何度も邪魔をしてきたロックマンに、命乞いをするだなんて。その後隙をついてなんとか逃げ出した。尻尾を巻いて逃げる負け犬のように。

 それでもやらなければならなかった。どれだけ恥をさらしてもやらなければならないことがあるのだ。

 目を閉じれば思い浮かぶ。自分を見下ろす連中。嘲笑う声。醜い笑み。

 ああ、燃える。燃えてくる。怒りが込み上げてくる。殴っても殴っても、殴っても殴っても殴っても止まらない。むしろ激しく燃え上がってくる。治まらない。納まらない。

 それは至極当然という物だろう。あいつらは八つ当たりの的にすぎない。根本的な解決にはならない。そう、問題の原因は別にある。

 あいつらだ。あいつらが悪いのだ。ツカサを、自分たちを捨てたあいつらが……。

 

「見つけたぞ」

 

 ハッと我に返った。

 

「おいおい、俺を働かせてさぼってんのか。良いご身分だなてめえ」

「うるせえよ」

 

 ヒカルが物思いに耽っている間に、ジェミニは幾つかのアタッシュケース型のデータを開いていた。ジェミニが持ってきたプレート型のデータと、ここに来る前に手に入れた名簿データを照らし合わせる。

 

「……間違いないな」

「ああ、これがアクセスキーだ。お前の両親が乗る飛行機のな」

 

 飛行機の電脳には厳重なアクセス制限がかかっている。幾らジェミニ・スパークBの力でも入るのは困難だろう。だがこのアクセスキーがあればなんら問題は無い。

 

「おらよ、大事に持っとけ」

 

 ジェミニはアクセスキーを放り投げるように渡した。受け取りながらヒカルは尋ねる。

 

「おいジェミニ、なんでお前は俺にそこまで力を貸す?」

「決まってんだろ。ツカサの体から離れて自由になるためと……ウォーロックと星河スバルに吠え面かかせてえだけだ。その為だったらなんでもするぜ、俺は」

「……そうか」

 

 まあなんだっていい。ジェミニの目的にはさほど興味は無い。彼の力があるから、こうしてツカサから離れて行動できるのだ。ありがたく利用させてもらおう。

 

「なあヒカル、この計画だが全部俺に託してみねえか?」

「体を寄越せと言いたいのか?」

 

 ツカサの体が無いのに体と呼ぶのもおかしい気がした。

 

「話が分かるじゃねえか。そうすれば俺たちの戦闘力が上がる。全力には程遠いが、ロックマンとも善戦できるはずだぜ」

 

 ロックマンと戦えるようになるというのは、確かに魅力的な話ではあった。だがヒカルは首を横に振った。

 

「断る。両親への復讐は俺の手でやる」

「そうか。ならせいぜい頑張れよ」

 

 ヒカルは名簿データを見つめた。今までは存在することしか知らなかった両親。彼らの顔と名前が載っている。年齢、職業、現在の住所とスターキャリアーのアクセス番号……あらゆる個人データが書かれている。それを叩き壊した。

 

「俺はやるぞ、ツカサ……」

 

 自分にはこれしかないのだ。

 他にもやり方はあるのかもしれない。それでも、自分の目的のためにはこれしか思い浮かばない。これしか分からないのだ。

 それがヒカルという存在なのだから。

 アクセスキーを握りしめて、ヒカルは電脳空間から外に出た。

 

「見つけたぞ!」

 

 嫌な声がした。ウェーブロードの真ん中にロックマンが立っていた。

 

「よくもこんな酷い事を……」

 

 相変わらず小奇麗な目で、これまた綺麗言を口にする。ご立派な正義のヒーロー様だとヒカルは鼻で笑った。

 

 

 ツカサはバスから駆け降りた。目の前の大きな建物はTK空港だ。無駄だと分かっていても周囲に目を走らせる。

 

「スバルくん、どこ?」

 

 空港の入口に向かって走って、すぐに足を止める。入口には警備員と大勢の人たち。どうやら空港は現在封鎖中らしく、怒った客が無責任に喚いているらしい。

 

「また、ヒカルがやったのか……」

 

 原因は間違いなくヒカルだろう。あいつはまた悪事を働いているのだ。

 

「こんなに大勢の人に迷惑を……」

 

 入り口前で騒いでる人たちのほかには、電話で会社と電話をしているらしいスーツ姿の男性や、大きな旅行鞄を持った若い夫婦らしき人がいる……いや、その人の腕の中には赤ん坊がいて、泣き始めてしまった。

 ツカサはあやしている夫婦をしばらく見てから走り出した。

 

「このままじゃいけない。僕が、僕が何とかしないと……」

 

 何はともかくヒカルを見つけなくてはならない。ヒカルを見つけさえすれば、スバルに連絡するなり、説得したりはできるはずだ。

 どこに行けばいいのだろう。どこを探せばいいのだろう。空港の中に入ることはできない。ならば外だ。可能性は低いかもしれないが外を探そう。もし外にいるとしたら、すぐ近くのはずだ。

 そうして訪れたのは駐車場だった。沢山の車が並んでいる中をツカサは走った。耐えず左右に首を振って、2人の姿を探す。見つけた。空港の奥の方、人目につかないところにロックマンとジェミニ・スパークBがいた。

 

「スバルくん!」

 

 ロックマンとジェミニ・スパークBがツカサに気づいた。ロックマンはロックバスターをジェミニ・スパークBに向けていた。スバルとウォーロックの目だけがツカサの方を向いていた。

 ジェミニ・スパークBはというと、全身に赤い傷が出来上がっていた。顔も腕も腹も、腰にも足にも大小の傷がある。もう戦うことはできないようで、膝をついて肩で息をしていた。丸くした目で、銃口を突きつけられているのを忘れたかのように、ツカサを見ていた。

 もう戦いは終わっていた。ツカサの出る幕などなかったのだ。分かってはいた。分かってはいたのだ。最初からツカサにできることなどないのだと。だがそれがどうしたというのだろう。それで納得できるのなら、ここに駆け付けたりなどしない。

 

「ヒカル!」

 

 気づけば叫んでいた。彼の名を呼んでいた。

 叫んでから言葉に迷った。何を言えばいいのだろう。何を伝えたいのだろう。だが考えてる余裕が無かった。

 

「なんで……なんでこんなことをするんだ!」

 

 スバルがゆっくりと後ろに下がった。

 

「なんで、だと? 決まってるだろ、復讐だ」

 

 訊くまでも無い事だろという態でヒカルは言った。

 

「そんなに両親が憎いのか……」

「ああ憎い。憎くて憎くて……頭がどうにかなっちまいそうだ!」

 

 ヒカルの拳がアスファルトの道路を砕いた。

 

「お前だってそうだろ、ツカサ!?」

 

 ぎらついたヒカルの目を見て、ツカサは一歩後ろに下がりそうになった。だが浮かせた足を前に踏み出す。

 

「違う。僕はこんなこと望んでいない!」

 

 ヒカルが心底意外な顔をした。

 

「何言ってんだ。お前だってあの時……」

「確かに、あの時は君たちの誘惑に負けてしまった。けれど、もう昔の僕じゃない!」

 

 先ほどコダマタウンを見て回って来た。以前と違って失いたくないという思いがあった。

 

「皆とも仲良くなれた。まだ本当の友達とは言い辛いかもしれないけれど、もっともっと仲良くなりたいって、今は思っている……そうしておけば良かったとも後悔している……」

 

 そうだ、今の自分はこれだけ積極的になれているではないか。

 

「臆病で、誰かと関わるのが怖くって、ビクビクしていた僕じゃない。僕は変われたん

だ! 両親のことは……今でも許せない。けれど、こんな大勢の人に迷惑をかけてまで、復讐したいだなんて思っていない!」

 

 だから言うべきなのだ。ヒカルにこの言葉を。

 

「ヒカル、君なんていらない!」

 

 言ってやった。やっと言葉にできた。自分がヒカルについて思っていることを、やっと言ってやったのだ。

 ヒカルの目から光が消えた。腕をだらりと垂らして、全身の力が抜けたかのように項垂れた。

 満足そうにツカサは頷いた。

 

「や……った……。スバルくん、止めをお願いしていいかな?」

 

 ようやくスバルの役に立てた。今のヒカルは抵抗どころか逃亡すらしないだろう。そう思って振り返ったツカサが見たのは、スバルの責めるような目だった。

 

「……スバルくん?」

 

 なぜだろう。なぜスバルはこんな目をするのだろう。ウォーロックに至っては、軽蔑の眼差しだ。

 

「てめえ、自分が何を言ったのが分かってんのか?」

「……何?」

 

 分からない。自分はスバルとウォーロックの力になりたくて、精一杯のことをしたのだ。なぜ責められなければならないのだ。

 

「ククク、クヒャーハハハハ!」

 

 突然ジェミニ・スパークBが大声で笑い出した。耳触りの悪い、人を逆なでするような笑い声だった。

 

「いやあ、ありがとうよツカサ。おかげで体が手に入ったぜ」

「……ジェミニ!?」

「その通りだ」

 

 ニヤリと笑ったその表情はヒカルの物とは毛色が違っていた。ジェミニだ。ジェミニがジェミニ・スパークBの体の所有権を得たのだ。

 

「ヒカルは……?」

「お前が心を折ってくれたからな。すかさず奪い取らせてもらったぜ」

 

 ああ、なんてことだろう。ヒカルが戦意喪失してくれたおかげで、スバルの負担を減らせたと思ったのに……。FM星人は地球人の心を完全に乗っ取った方が力を発揮できるのだ。これでは敵を強化してしまったことに等しい。結局ツカサは足を引っ張ってしまっただけだ。

 

「いやあ、愉快愉快。地球人ってのは恐ろしいな。俺でもなかなかできねえよ今のは」

 

 ジェミニにまでバカにされた。ツカサの口が震える。

 

「ま、まるで僕が君より酷い事をしているみたいに言わないでくれ!」

「みたい、じゃねえよ。その通りだからだよ」

「違う、僕はただスバルくんの力になりたくって……」

「あ? ああ、そっちじゃねえよ」

 

 ジェミニは手でヒラヒラと否定した。

 

「ヒカルに対してだ」

「……ヒカルだって。ヒカルがどうかしたって言うんだよ」

「本当に何も理解してないんだな、お前は」

「な、なにが……」

「ああいい。もういいぜお前は」

 

 しっしと手を振ると、ジェミニは近くにあった車に、手を置いてもたれかかった。

 

「さてと、真に自由になったのは良いが……」

 

 ジェミニはもうツカサを見ていなかった。ずっと趨勢を見守っていたロックマンを見ている。

 

「認めたくねえが、今の俺じゃお前らには勝てねえ。ダメージも負っているしな」

「逃がさないよ」

 

 ロックマンは剣を構えて駆け出した。だが遅かった。

 

「ツカサを守らなくていいのか!?」

 

 ロックマンは何かに気づいたように急ブレーキをかけると、ツカサを抱きかかえて空に跳躍した。あっという間に空を舞うツカサ。下の方で大きな爆発音がした。見ると、先ほどジェミニ・スパークBが触れていた車が大爆発を起こしていた。ツカサがいた辺りには細かい破片が飛び散っている。あれに当たっていたら入院ものだっただろう。

 

「スバルくん、ジェミニは……」

「逃げただろうね……」

「……そっか……」

 

 最初から余計な事などしなければ良かった。という後悔と同時に、別の理由で胸が苦しくなった。なぜだろう。ジェミニの言葉が耳から離れなかった。

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