流星のロックマン Arrange The Original 2.5 ~ツカサ外伝~   作:悲傷

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連載再開です!
お待たせして申し訳ありません。

以前の1~4話を修正しており、完全な別物へと変わっております。
まずはそちらから読んでいただくことをお薦めします。

ではどうぞ。


第5話.僕は…

 TK空港は一応の落ち着きを取り戻した。現在は管理システムが再起動し、不備が無いかチェックをしているらしい。復旧するまでは、TK空港に離着陸する予定だった飛行機を、他の空港と協力して捌いていくことになるだろう。

 そのアナウンスを聞いて、バスターミナル近くのベンチに腰掛けていたツカサは少しだけ胸をなでおろした。空港への被害は最小限に抑えられたと言っていいだろう。サテラポリスもすでに到着しており、空港内部と爆発のあった駐車場へと展開している。もうこの空港は大丈夫だ。ヒカルが大きな事件を起こさなくて良かった。

 おずおずと隣に座っているスバルを見る。彼は空港を見上げたまま、こちらに見向きもしない。先ほどのミスを怒っているのだろうか。

いや、彼はそういうことで腹を立てるような人ではない。

 

「あの、スバルくん……」

 

 話しかけようとすると、スバルはベンチから立ち上がった。

 

「ツカサくん、僕は空港の電脳を調べてくるよ」

 

 どうやら怒っているわけでは無いらしい。

 

「電脳に?」

 

 ツカサも立ち上がる。

 

「うん、ヒカルとジェミニが何をしていたのか探ってみるよ」

 

 ヒカルとジェミニがここで探していたものを、スバルはまだ把握していない。ここに来た時には、あの2人は用事を終えていたのだから。

 どうやらそれで空港を睨んでいたらしい。先ほどよりも数十倍ホッとした。

 

「そっか、分かったよ」

「うん、それじゃ」

 

 スバルが電波変換をしようとすると、スターキャリアーからウォーロックの声がした。

 

「おい、スバル。いい加減にしやがれ」

 

 なにやら不機嫌そうな声だった。

 

「さっきのを見て、まだお前は何も言わねえのか?」

 

 スバルにではなく、ツカサのことを言っているのだと理解した。スバルは目をそらして黙っているだけだ。

 

「……ねえ、ウォーロック」

 

 思い切ってツカサは尋ねた。

 

「あ?」

「僕のこと……だよね?」

「ああ、そうだ。お前の卑怯っぷりに腹が立ってんだ」

 

 不意打ちのように胸を刺す一言だった。

 

「ひ……きょう?」

「ロック!」

「なんだよ、本当はお前が言うべきことだろうが」

 

 怒鳴るスバルをウォーロックは一蹴した。

 

「おいツカサ。お前はスバルの親友だ。俺の相棒の親友だ。だがな、そのスバルが言わねえってんなら、俺が代わりに言ってやる。お前はに……」

「待って!」

 

 引き裂くようにスバルが叫んだ。

 

「言う。言うから……僕の口で言うから……」

「……最初からそうしろってんだ。回り道しすぎなんだよ」

 

 スターキャリアーが静かになった。スバルが深呼吸をする。目を開ける。

 

「ツカサくん、少し厳しい事を言うよ?」

「……うん」

 

 まだウォーロックの言葉から立ち直れてはいない。だが聞かないという訳にはいかなかった。

 スバルは唇をかむと、ゆっくりと口を動かした。

 

「逃げないで」

「……え?」

 

 何を言われているのか分からなかった。

 

「逃げないって、僕が何から? 僕は自分にできることを探しているつもりなんだけれど……何もできていないけれどね」

 

 この事件が起きてからツカサにできたことは何一つない。スバルに連絡を入れて丸投げして、町の中を歩いて自分の気持ちと改めて向き合って、この空港に駆け付けてヒカルに怒鳴っただけだ。

 これでも自分なりに何とかできないかと考えた結果だ。

 

「少なくとも、僕は逃げてなんかいないよ」

「違うよ。君はヒカルから逃げている」

 

 あっさりとスバルは首を横に振った。

 

「ヒカルから……? 何を言っているんだい。スバルくんだって、さっき見ていたじゃないか。僕はヒカルに立ち向かった。いや、失敗しちゃったけれど……」

「違うよ。ツカサくん、あれは逃げているだけなんだよ」

「……何を言って?」

 

 否定してはいる物の、ツカサはあの時にスバルが向けてきた目を思い出していた。落胆したときの物だった。ツカサに何らかの落ち度があったのだろう。

 

「今の君は無意識のうちに、心のどこかで否定しているだけなんだよ」

 

 それにねとスバルは付け加えた。

 

「君はもう気づいているはずだよ。今、何をすべきなのか……」

 

 話している間にスバルの声はだんだんとか細くなっていった。

 

「……スバルくん……」

「……ごめん、僕が言えることは、これで全部だ」

 

 スバルは膝を持つように前屈みになり、「ハー」と息を吐き出した。スターキャリアーから「まあ、お前にしては頑張ったんじゃねえか」という声が聞こえた。

 

「じゃあツカサくん。僕は行くね」

「……うん」

「……信じているからね」

 

 それだけ言うと、スバルは電波変換して消えてしまった。

 またツカサは置いてぼりだ。だが寂しいという気持ちは無かった。

 

「僕が……ヒカルから逃げている? 気づいている?」

 

 スバルの優しさを、ツカサは改めて認識した。そんな彼が自分を傷つけてまでしてくれた忠告……いや、アドバイスというべきか。

 

「……分からないよ、スバルくん」

 

 自分はヒカルの何から逃げているのだろう。何に気づいているのだろう。それがこの事件を解決するカギになるのだろうか。電波変換すらできなくなった自分が、何の力になれるのだろうか。

 

「……いや、分からないじゃダメなんだよね」

 

 もうすぐ引っ越すことになるかもしれないのだ。スバルのいないところへ行くのだ。自分で考えて答えを出さなくてはならない。

 

「やろう。できることを、思いついたことを、なんでもやってみるんだ」

 

 結局、人はそれしかできないものだ。

 ツカサが少し考えて思いついたのは、あの場所に行くことだった。

 

「ゴミ捨て場……あそこに行こう」

 

 ツカサが捨てられた場所。ツカサが両親への憎しみを作り、ヒカルが生まれた原因の場所。あそこに行けば、ヒカルを理解できるかもしれない。

 論理的根拠などない。ただ「こうすれば少しはマシかもしれない」という甘い希望論でしかない。それでもツカサが思いついた、今できることはこれしかないのだ。

 

「よし!」

 

 思い立ったツカサはバスターミナルへと走り出した。そしてすぐに足を止める。

 

「あ……ダメだこれ……」

 

 幾つもあるバス亭の前には長蛇の列ができていた。空港が機能しないと分かった人たちが一斉に引き上げているのだ。タクシー乗り場の方も同じ様子だった。

 

「これじゃあ移動できない……」

 

 今から並んでも、順番が回ってくるのはどれくらい先だろう。

 

「どうしよう……?」

 

 素直に並ぶしかないのかと、肩から落胆したときだった。その肩にバシリと手が置かれた。

 

「困っているみたいだな、少年」

 

 驚いて振り返ると、一人の青年が立っていた。白い服と藍色の髪の毛が特徴的だった。眉は太く、目はキリッっとしていて、鼻は適度に高い。控えめに行ってかっこいい顔立ちだ。そんな彼は、驚きで声も出ていないツカサにスッと手を差し出した。

 

「お近づきのしるしにどうだい。うまいぞ」

 

 彼の手に持っている物を見て、ツカサは更に硬直した。

 

「……うまい棒?」

「そんな名前なのか。さっき空港の売店で買ったんだが、美味いよなこれ」

 

 ツカサに持っていたうまい棒を渡すと、背負っていた鞄からもう一本別のうまい棒取り出し、1秒で封を切ってサクサクサクと軽快に食べ始めた。

 ツカサはただただ固まるしかない。

 

「うん、本当にうまい!」

「……あの……」

「おっと悪い、本題を忘れるところだった。見たところ移動手段が無くて困っているんだろう?」

「あ、はい……」

「よし、なら俺のバイクに乗ると良い。送っていくよ」

 

 青年の行動がインパクト過ぎて気づかなかったが、彼の後ろにはこれまた白いバイクが壁に立てかけられていた。駐車違反ではないのだろうか。

 青年は慣れた手つきでツカサの傍までそれをひいてくる。

 

「あ、あの……」

「さあ乗った乗った」

 

 青年はヘルメットをかぶりながら、ツカサにも渡してくる。これは誘拐か何かだろうか。だが悪人と言う風には見えない。むしろ彼の爽やかさには惹かれるものがあった。青年に促されるまま、ツカサは青年の後ろに跨った。

 

 

 バイクは風を切り、景色を後ろへと飛ばしていく。と言ってもヘルメットのせいで視界は狭く、青年の背中に掴まっているのでほとんど見えないのだが。それでもバイクは便利だなとツカサは思う。車両が並んで止まっている側をすり抜け、赤信号の前まで進めるのはちょっと得した気分だ。これならバスを使うよりもよっぽど早くつけるだろう。

 そして少しばかり申し訳なくなった。この親切な青年に甘えた分の成果を、自分は果たすことができるのだろうか。

 川を超える大きな橋に着いたとき、青年が声をかけてきた。

 

「悩んでいる顔だね」

「え。分かるんですか?」

 

 青年はずっと前を見て運転している。当然ツカサの顔など見てはいない。

 

「フフフ、ヒーローに見抜けないものないのさ」

「……ヒーロー?」

「なんてね。空港で見かけたときから、なにか思い悩んでるなと思ってみていたんだ」

「……あ、はい」

 

 反応に困る冗談だ。黙ることもできるが、バイクに乗せてもらっている身を考えると、それは申し訳ない気がした。

 

「ずっと、ずっと悩んでいることがあるんです」

「ずっとと言うことは、何時間も悩んでいるのかい?」

「いえ、何年もです……」

「そんなにかい!?」

 

 驚いたように青年が背中を逸らした。ツカサの体も後ろに傾いて、少しヒヤッとした。バイクの上でバランスを崩すなど自殺行為だ。

 

「ってことは、難しい問題なんだな」

「……はい。そして、何も進歩してないんです。どうにかしようとは思ってきたんです。でも……」

 

 その先を口にできなかった。

 

「情けないですよね……」

 

 泣きそうになるのを堪えるのに、言葉を飲み込むのが精いっぱいだった。

 

「俺はそうは思わないな」

「……え?」

 

 思わず顔を上げた。

 青年は少しスピードを落として、初めてツカサに振り返った。澄んだ藍色の瞳と目が合った。

 

「悩んでいることの、何か悪いのかい?」

 

 てっきり頷かれるか、言葉を濁して流されるかのどちらかだと思っていたツカサは、返答に迷った。

 

「いやだって……何年も悩んでて解決できなくて、上手くいかなくって……情けなくないですか?」

「ハハハ、誰にだってあるよ、そんな悩み。俺だってそうさ」

 

 青年は正面に向き直って、バイクの速度を更に遅くした。耳を騒がしくしていた風の音が小さくなる。

 

「俺もな、ずっとずっと悩んでいたことがあるんだ。どうにかしたいって、子供のころからずっと困ってて、解決したくって、足掻こうにも足掻けなくて……無力な自分を殴ってやりたかったよ」

 

 同じだとツカサは思った。青年の悩みがなんなのかは分からないが、彼はツカサと似たような経験をしてきたらしい。

 

「そして最近……ほんと数日前にね、ようやく解決の糸口が見えてきたんだ」

「え、じゃあ……!」

「まだだ。まだ足りない」

 

 ツカサから青年の顔は見えない。それでも容易に想像がついた。今青年は前方を睨んでいるのだろう。

 

「挑むだけの力とチャンスを手に入れただけだ。まだ入口に立ててすらいない。まだだ……まだまだ俺には力が足りない……」

「力……」

「ああ、力だ。それでも俺は諦めない。成し遂げるんだ、必ず!」

 

 青年の言葉ひとつひとつが、ツカサの頬を打ったように感じた。熱が背中から伝わる。掴んでいる体から沸き起こる。薄っぺらい人間には決して出すことのできないオーラのようなものを彼から感じた。

 

「だからだ、少年。君も悩め。君は決して逃げてなどいない。それだけ悩んでいるってことは、大切な事だってことだろう」

 

 そうかもしれないとツカサは思った。

 

「君は大切なことについて向き合っている。闘っている!」

「……それが空振りでも?」

「ああ、もちろんさ。全力で空振りしてやれ。次当てれば良い」

「それも外したら……」

「また全力フルスイングだ。何度でも振るんだ」

「……はい」

 

 青年が笑ったのをツカサは感じた。

 

「少し遅くなったかな。飛ばすぞ」

「はい!」

 

 ツカサが青年のツカサにしがみつくと、バイクの速度が上がった。

 この先でできることが何なのか、ツカサはまだ分からない。ただ、全力で向き合おう。それだけは心に決めた。




だ~れだ?
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