流星のロックマン Arrange The Original 2.5 ~ツカサ外伝~   作:悲傷

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第6話.僕にできること

 ロックマンはスカイウェーブを駆けていた。空港の電脳でヒカルとジェミニの狙いを知った彼らは、大急ぎでこの道を走っている。

 雲の間を突き抜けていくと、見えてきた。一機の飛行機が飛んでいた。あれにツカサの両親が乗っている。そしてジェミニの攻撃はもう始まっていた。機体は右に傾いて上昇している。このままでは速度が落ち過ぎて失速の恐れすらある。

 

「なんてことを……」

 

 両親のみならず、乗客乗員全てを巻き込むつもりだろう。

 

「よし、ぶっ飛ばしに行くぞ!」

「うん。ウェーブイン!」

 

 電脳へと飛び込むと、飛行機の内部を思わせるデータ群が視界いっぱいに広がった。その中枢にジェミニ・スパークBがいた。

 

「ジェミニ!」

「待ちくたびれたぜ」

 

 ジェミニはニヤニヤとした笑みを浮かべていた。これから戦うというのに、この余裕は何なのだろう。

 

「さあ、観念しやがれ!」

 

 ウォーロックの意気込みに任せて左手を前に出した。ウォーロックの口にエネルギーを溜めて、ロックバスターをチャージしていく。

 

「君じゃあ僕たちには勝てない。これで終わりだよ」

 

 この状況、追い詰められたのはジェミニの方だ。だがなぜだろう。彼は微動だにしない。顔を曇らせるどころか、より一層口角を持ち上げた。

 

「良いのか、そのまま攻撃しても?」

「何言って……」

 

 ようやくスバルは気づいた。

 

「ジェミニ、お前の後ろにあるのは……」

「ご名答」

 

 ジェミニが一度逃げて、ここで待ち構えていた理由。簡単だ。人質を取るためだ。

 

「この飛行機のメインプログラムだ。これに傷一つつけようもんなら……分かっているよな?」

 

 ウォーロックも口に溜めていたエネルギーを霧散させた。

 

「てめえ、鼻からそのつもりで……」

「当たり前だろ」

 

 メインプログラムが壊れれば、飛行機は上空1万メートルからまっさかまだ。そうなればロックマンでもどうにもできない。

 

「抵抗するなよ?」

 

 ジェミニ・スパークBが歩み寄って来た。

 

「少しでも抵抗すれば、逃げようとすれば……」

 

 こいつは何の躊躇もなくメインプログラムを壊す。ツカサの両親もろとも、この飛行機に乗っている人全員を殺す。そういうやつだ。

 だからロックマンは動けない。仁王立ちしてジェミニを睨むことしかできない。

 

「そうだ。それでいい。お前がここに来た時点で……いや、俺が来た時点で、お前は負けたんだよ」

 

 スバルの顔が右に飛んだ。ジェミニの右拳が振るわれたのだ。

 

「おら、どうした?」

 

 続いて左手。

 

「ええ、なんか言えよウォーロック!?」

 

 ウォーロックの顔が蹴飛ばされた。

 

「いや、お前にはこっちのほうが苦しいか?」

 

 スバルの首を掴んで持ち上げた。呼吸ができない。苦しい。

 

「ああ、これだ。ずっとこうしてやりたかったんだ。俺の栄光を阻んだお前らを……そう、こんな風に……こんな風にだ!!」

 

 ジェミニの拳が数発顔に入れられた。スバルの鼻から血が飛び散る。

 

「足りねえ。足りねえ足りねえ足りねえ!」

 

 ジェミニの目は血走り、歯はむき出しにされていた。

 

「もっと、もっともっと……もっともっともっとだ! 苦しめ! 苦しめウォーロック!」

 

 拳と蹴りがスバルとウォーロックに振るわれる。2人は痛みに悶えることしかできない。彼らの振る舞い一つで、多くの命が消されるのだ。

 

「まずはお前らを徹底して甚振る。その後にツカサの両親とこの飛行機の地球人たちだ」

 

 スバルの胸倉を掴んで起こしながら、ジェミニはニヤリと笑った。

 

「もしそうなったら……ツカサはどう思うだろうな? 両親を恨んだりしたから、関係の無い連中が沢山犠牲になったと、自分を責めるだろうな。傷つくだろうな。そして絶望する。……なあウォーロック、知っているか? 脆くて簡単なんだぜ、そんな地球人

を陥れるのはよ……」

「……てめえ、まさか……」

「ああ、そういうことだ」

 

 ジェミニは勝ち誇ったように言った。

 

「ツカサの心をボロボロにして乗っ取る。これで地球人の体が手に入る。ツカサとヒカルの心も乗っ取れている……ようやく、俺の本当の力が出せるって訳だ」

「てめえまさか、前に戦った時は本気じゃなかったのか!?」

 

 ウォーロックのいう前とは、FM星人侵略の時のことだ。ツカサとヒカルと電波変換した、白と黒のジェミニ・スパークと戦った時のことだ。

 

「そうだ。あの時は俺の力が二分されていた。ツカサとヒカルの影響で体が二つに増えるというメリットはあったが、やはり力が半分になっているってのは、大きな欠点だった」

「もし、てめえの言う『本当の力』ってものを出せるようになりゃ……」

「一つの体に俺の力が凝縮され、完全体になる。そうすれば、お前らなんざ敵じゃねえ」

 

 上機嫌で答えていたジェミニはウォーロックの口を殴り飛ばした。

 

「まあ、お前らに見せられないのが残念だがな」

 

 まずはロックマンを殺して、次に飛行機、そしてツカサという順番だ。完全体のジェミニがロックマンと戦うことは無い。

 

「良いのか、俺たちより強いっていう証明ができねえぜ?」

 

 赤く腫らした頬で、ウォーロックは無理に笑って見せた。再びウォーロックの顔が殴打される。

 

「調子にのるんじゃねえ! お前が俺より強いだ? そんなことはない。俺がお前らごときよりも弱いわけがねえだろうが!」

 

 今度はスバルの顔が蹴られた。

 

「地球人の体を手に入れるのに手間取っただけだ。体を二つに分けちまうのが失策だっただけだ。今度こそ、俺は完全体となって、地球を手に入れ、軍を組織し……FM星を奪いに行く!」

 

 これは聞き捨てできなかった。スバルの大切な人たちが傷つけられる。加えてFM星には友人たちがいるのだ。

 

「させないよ、そんなこと! ケフェウスと三賢者にだって……」

「てめえ立場分かってんのか!?」

 

 スバルの腹が蹴り上げられた。思わず苦悶の声を漏らしてしまう。

 

「次、生意気な口をきいてみろ。飛行機を落とすぞ」

 

 これを言われると、スバルもウォーロックも黙るしかない。

 

「そうだ、それで良い」

 

 血の味を噛みしめるスバルをもう一度起こす。

 

「お前らを殺すのも、ツカサを手に入れるのも、時間の問題だ。もうしばらく楽しませてもらうぜ」

 

 スバルの鳩尾に拳が突き立った。悶絶する彼を蹴り上げる。スバルとウォーロックの長い時間が始まった。

 

 

「ここで良いのかい、少年?」

「はい、ここで」

 

 ツカサを乗せたバイクはドリームアイランドの入口で止まった。側にはバス停、目の前には島に続く橋。以前、スバルとここに来た時はバスだったなと、少しだけ思い出に耽った。

 

「本当にありがとうございました」

「なに、困っている人を助けるのがヒーローさ」

 

 青年はキレのある動きでビシッと腕を伸ばした。何かのヒーローの真似だろう。

 

「さあ、行くといい。ここですることがあるんだろう?」

「はい。じゃあ行きます」

「うん、機会があればまた会おうツカサくん」

 

 青年はバイクを走らせてあっという間に去ってしまった。

 

「よし、行こう」

 

 橋に向かって歩き出す。

 

「……あれ?」

 

 なんだろう、何か引っかかる。だが気にしないことにした。今はするべきことがあるのだから。

 ツカサは橋を渡って、ドリームアイランドへと足を踏み入れた。右側には公園の入り口があった。その奥には花畑があって、更に奥には小さな草原がある。ツカサが一番好きな場所。雑草と名前も知らない花が咲き乱れる憩いの場所。スバルとブラザーバンドを結ぼうと約束して、それを裏切って戦った場所。

 だがそれでもスバルは言ってくれたのだ。またブラザーになろうと。こんな自分に言ってくれたのだ。

 足先を戻して、ツカサはまた歩き出した。

 ゴミ処理場の受付には制服に身を包んだ強面の警備員さんがおり、顔を見せると「久しぶりだね」と笑顔で顔パスさせてくれた。

 中に入って、知り尽くした道を進む。そして足を止めた。目の前にはゴミの集積所。まだ赤ん坊だった自分が捨てられていた場所だ。

 ツカサは胸を抑えた。自分の身の上を知ってから、何度かここを訪れた。その度に苦しくなる。ならば来なければいい話なのに、それでも足を運んでしまった。なぜだろう。帰巣本能というものなのだろうか。

 

「きっと、ここに……」

 

 スバルは言った。逃げているだけだと。

 

「僕は……何に気づいているんだろう?」

 

 ジェミニは言った。ヒカルについて何も理解していないと。自分がヒカルに対して酷い事をしていると。

 

「……大切なことのはずだ」

 

 あのバイクの青年は言った。大切なことだからこそ悩んでいるのだと。

 

「……なんなんだ……」

 

 ヒカルについて何を理解していないのだろう。気づいているのに、逃げているのだとしたら、あと一歩……あと一歩で理解できるはずだ。大切な何かがここにあるはずだ。

 ツカサはゴミの中に一歩足を踏み入れた。土は何かが混ざったような液体で湿っていた。酷い汚臭がする。染みこんだこの靴はもう履けないだろう。構わずにツカサはゴミの山に手を触れた。

 

「……ここにあるはずなんだ……」

 

 分からない。分からない。分からない。スバルは分かっているのに、分からない。そんな自分が悔しくて、思わず項垂れる。足元にバケツがあった。底に穴が空いていて、泥だらけで汚い。何を思ったのか、それを手に取った。

 一瞬躊躇した。だが歯を食いしばった。ゴミを掴んで中に入れる。それを頭からかぶった。汚水が混じっている。臭い。瞼を流れる。口に入りそうになった。二度、三度と繰り返す。

 

「同じように……同じように……」

 

 あの時と同じ。捨てられたときと同じように。ゴミに埋もれた赤ん坊のころに自分を近づける。

 口に少し入ってしまった。吐き気がする。口元を抑えたが、その手も汚物まみれだ。自分の姿を見てみる。服は黒っぽい茶色になっていて、形容できないほど気持ち悪い。

 

「あの時の僕も……こんな姿だったのかな……」

 

 汚い布一枚にくるまれていたと保母さんから聞いた。雨の日に、長い時間置き去りにされていたらしいとも。きっと今よりも酷い有様だったのだろう。目に入ってしまったのとは別の意味で、涙が出てくる。

 

「よく、そんなことができたよね……」

 

 あの両親はなぜこんなことができたのだろう。止むに止まれぬ理由があったのかもしれない。それでもなぜ手放したのだ。手放すにしても、なぜこんな場所を選んだのだ。

 なんでそんな両親の間に生まれてしまったのだろう。もっとしっかりした両親の間に産まれたかった。世間を見渡せば見渡すほど惨めになる。誰にも当たり前に両親がいて、愛情を貰っている。スバルやルナたちも、クラスの皆も……今まで出会ってきた子供たちには皆親がいた。そう、親がいないということを理由に虐めてきた奴らにだって、両親がいた。皆、両親から愛されていた。

 

「……なんで……なんで僕が……」

 

 子供を育てる両親の方が圧倒的に多い。なのになぜ、なぜ自分だったのだろう。なんで……。

 

「なんで……僕を愛してくれなかったんだ……それなら、産まなければ良かったじゃないか……」

 

 涙がボトボトと出てきた。苦しい。ただひたすらに苦しい。両手で二の腕を掴んだ。

 

「………………あれ?」

 

 そしてふっと気づいた。自分の異様さにだ。

 

「……なんで、僕……怒ってないんだろう?」

 

 辛くて悲しい。その感情はある。だがなぜだろう。怒りが無い。

 

「普通は怒る……はずだよね」

 

 さらに言うなら憎しみもない。今のツカサは、ただただ悲しいという現実を見ているだけに過ぎない。

 

「……変だよね……なんで僕は……」

 

 普通なら怒りのあまりに……。

 

「……………………あ」

 

 そしてようやく理解した。

 

「そっか、そういうことだったんだ」

 

 手をだらりと下げた。ゴミの山を見上げる。もたれかかるように頭をつけて、一度だけ拳で叩いた。

 

「僕は……なんて卑怯者なんだろう……」

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