流星のロックマン Arrange The Original 2.5 ~ツカサ外伝~ 作:悲傷
あの日から数日経った。TK空港のトラブルに、飛行機の異常。一日に大きな事件が2つも起きたことで世間は少々沸いたが、それもあっという間に忘れ去られた。
ツカサは窓の外を見ていた。アナウンスの声が次の駅の名を呼ぶ。ゆっくりと減速して、電車が止まった。乗ってくる人たちを意味も無く眺めて、また窓の外を見た。
「コダマタウンからどれくらい離れたのかな?」
その声に応える者はいない。聞いている者もいない。今の彼は一人なのだから。
いや一人だけ反応した者がいた。携帯端末からブラウズ画面が開かれた。そこには現在地からコダマタウンまでの距離が書かれており、画面の下のほうでは灰色の仮面をつけたジェミニが無邪気に飛び回っていた。
「ありがとう、ジェミニ。でもね、答えて欲しかったわけではないから、こんなことしなくてもいいんだよ?」
画面に映った灰色のジェミニを、指先で撫でるように触れてあげる。嬉しそうにピョンピョンと飛び跳ねた。伝わっているのかなとツカサは苦笑した。
「今ごろ、皆はどうしているかな」
スバルたちと次に会えるのはいつだろう。住む場所が変わるのだ。今まで通り会いに行けるなどと言うことは無いだろう。
ツカサはあの日のことを思い出した。あの後、スバルと共に両親に会いに行った。あの姿のままでだ。頭からゴミを被ったままのツカサを見て、生まれて初めて会った両親は驚いた顔をした。立会人になった保母さんや、役所の偉そうな人もだ。
構わずツカサは両親の前に座った。見せつけるようにだ。それがツカサの答えだった。その後のことはよく覚えていない。体から沸き起こる熱に任せて両親を罵倒した事は覚えている。あれが怒りという感情なのだろう。自分でも驚くほど口が悪くなったと思う。
だがこれがツカサなのだ。ヒカルという側面を受け入れた、本来の自分なのだ。
「これで良いんだ」
それでもツカサは今の自分が好きだった。あれから感情の幅が広がった気がする。今までは無感情だったり、関心が持てなかったことが多々あったのだが、今は違う。電車が再び走り出して、窓の外の景色が後ろへと流れていく。それを眺めているだけでも少し楽しい。
今なら分かる。ヒカルの正体は憎しみなどではない。自分に最も欠けていて。この世で最も美しい感情……愛だったのだと。
「……強くなるんだ」
感情の幅が広くなったということは、揺れ動きも激しくなったということだ。今まで感じたことのない感覚に戸惑うことも多い。それでもこれが自分と向き合うということ、ヒカルと生きていくということだ。楽しむことはあっても、恐れることは何も無い。
「スバルくん、僕は強くなる。そして、いつか君にブラザーバンドを申し込む」
ポケットから赤い花を取り出した。以前、スバルが摘んできてくれた花だ。今のツカサはようやくまともな人になれただけだ。もっと強く、胸を張れる人になって、スバルに会いに行く。
「だから、もう少しだけ待っていてくれ」
そして胸に手を当てた。
「君も力を貸してくれ、ヒカル」
目を閉じた。
「悩みは解決したかい?」
「え!?」
横から声をかけられて、ツカサは肩を飛び上がらせた。そこに立っていたのは一人の青年だった。
「バイクのお兄さん!?」
「やあ、また会ったな」
笑いながら青年は隣の席に腰かけた。
「いるかい?」
そして胸のポケットからうまい棒を取り出した。流れるようにだ。
「い、いただきます……」
胸ポケットにうまい棒を携帯する人を初めて見た。
「はまっちゃったんですか?」
「ああ、もう手放せなくってね」
手品の如く高速で封を開けると、青年はサクサクサクと軽快な音を立てて食べていく。とても幸せそうな顔だった。残念なイケメンって、この人のためにある言葉だなと、失礼なことを思ってしまった。
ツカサも封を開けて口にする。
「そうだ、ここで会ったのも何かの縁だ。次の駅で降りないかい?」
「え、次の駅でですか?」
断ろうかと考えたが、バイクで送ってもらえたことを考えると無理な話だった。
◇
降りた駅は小さいもので、近くには自然公園があった。小川が流れていて、面して木造りの椅子と机が並んでいる。のんびりと散歩するには最適のスポットだろう。
「良いところだろう?」
「ええ、そうですね」
話を合わせるためではなく、心から同意した。川のせせらぎと虫の鳴き声の合唱など、ずっと聞いていたいと思える。
「ハハハ、良い顔をするようになったね、ツカサくん」
「はい、おかげさまで……」
ハッと声を失った。今になってようやく気付いた。あの時の違和感の正体に。
「なんで僕の名前を知っているんですか!?」
ツカサは名乗ってなどいない。
「やっと気づいたかい?」
青年は毒気のない顔と声で答えた。どうやらからかっていただけらしい。それが反って不気味だった。
半歩後ろに足を引いた。後ろに下げた手で、携帯端末を握りしめた。
「……何者なんですか、あなたは?」
「ハハハ、そう身構えなくって良い。俺はこういう者だ」
青年は携帯端末を取り出すと、ブラウズ画面を開いた。映し出されたのは顔写真や肩書が書かれた名刺ではなく、マークだった。
大きさの違う三つの円があり、それぞれの頂点が重なっている。一点から大中小の円が描かれている常態だ。一番小さな円の中には、十字を思わせる星のような絵がある。
彼の自己紹介はそれで充分だった。なぜなら、このマークはとてつもなく有名で、ツカサも当然よく知っている物だったからだ。
「サテラ……ポリス?」
「そう、俺は警官なんだ」
青年はブラウズ画面を閉じると、警戒しないでと両手を振った。無理な話だ。先日の事件に深くかかわっていたツカサにとっては。携帯端末を持った手に汗が滴った。
「……サテラポリスが僕に何のようなんですか?」
「そうだな、ここまで来たんだ。単刀直入に言おう。俺たちの庇護下に入って欲しい」
予想していなかった言葉が出てきた。ツカサは額に皺を作った。
「庇護下……?」
「そうだ」
「……えっと」
「おっと君が言おうとしていることは察している。なぜそんな話を? だろう。分かるとも」
勝手に話が進んでいく。青年は人差し指を立てて、にこやかに言った。
「君の中のジェミニを監視するためだ」
ぞくりと悪寒が走った。ツカサが「……え?」と言うまでの数秒間、青年はニッコリとした笑みを一切崩さなかった。
「な、なんで……」
言葉にしたが、すぐに理解した。
「空港で僕をバイクに乗せてくれたのは!」
青年は頷いた。あの時からずっと目をつけられていたのか。
「僕とジェミニのことは……」
「それどころかヒカルくんのことも知っているよ。君と一つになったこともね」
これがサテラポリスの情報網なのだろうか。ツカサのことは全て把握していると見て良いだろう。
ツカサは携帯端末から手を放した。これは逆らっても、逃げても無駄だろう。
「ツカサくん、ジェミニは今も君の中で眠っている」
青年の顔が真剣な物に変わった。ツカサが初めて見る物だった。
「今までは君の人格が二つになっていたこともあって、ジェミニは本来の力を出せずにいた。だが、次は違う」
何を言いたいのか理解した。なぜ言われるまで気づかなかったのだろう。
ツカサはヒカルを取り戻したことで、感情の揺れ幅が大きくなった。それは制御が難しくなったと言うことでもあり、孤独や怒りに捕らわれる危険性が増した事を意味する。ツカサの中にいるジェミニはその隙を逃さないだろう。
ツカサの感情一つで雷神ジェミニは復活するのだ。それも今までとは違う、完全体として。
「取り繕わずに言わせてもらう。君は危険人物だ。よって、サテラポリスの庇護下……および監視下に置かせてもらう」
「そんな勝手な事。横暴ですよ!」
やっと前に進めたのだ。なのに監視下におかれるなど、まっぴらごめんだった。
「ジェミニの危険性は、君が最も理解しているだろう?」
青年の言葉は正論過ぎた。サテラポリスよりも、スバルよりも、この地球の誰よりも、ツカサが一番よく知っている。
なにも言えなくなってしまったツカサに、青年は少しだけ態度を柔らかくした。
「庇護下と言っても、刑務所に入れるわけじゃない。君には予定通り、孤児院に行って学校に通ってもらう」
「……え?」
驚くほど緩い態勢だった。
「いや、さっき……僕を危険人物って……」
「ああ、だがすぐにジェミニを復活させてしまうということは無いだろう。君はヒカルと一つになって、ジェミニを封じ込めたのだから」
サテラポリスはどこまで知っているのだろう。だがツカサを信頼してくれているらしい。
「むしろ監禁なんてしたら、君はストレスですぐにでもジェミニを復活させてしまいかねない。そんな真似、俺たちサテラポリスもできればしたくない」
「いや、助かるけれど良いのかな?」とツカサは内心思った。とりあえずこの青年は自分の敵ではないのだと思うことができた。
「……庇護下に入ると、どうなるんですか?」
「ちょっと待ってくれよ」
青年は携帯端末からブラウズ画面を開いた。書類を見ているらしい。
「まず、週に一度サテラポリスの地方支部に通ってもらう。そこで君には電波変換の練習をしてもらったり、戦闘訓練を受けてもらったり、機器で体を調べたり、カウンセリングを受けてもらったり……と、色々だな。ようは、君がジェミニに屈しない、強い人になってもらいたいってところだ」
ツカサは全身から力が抜けるのを感じた。なんだ、大げさな言い方をする人だ。庇護や監視と言うよりは、サポートではないか。それならツカサも問題は無かった。成長の機会を貰えるなら、むしろありがたいくらいだ。
「分かりま……ちょっと待って下さい」
慌てて返事を止めた。さっきの青年の言葉を思い出せ。一つ引っかかる項目があった。
「戦闘訓練って、どういうことですか?」
「うん、ちゃんと気づいてくれたか」
「試したんですか?」
「そうだよ」
ムッとするツカサに臆することなく、青年は告げた。重い声でだ。
「ツカサくん、近いうちに事件が起きる」
「……事件?」
「ああ、FM星の侵略や、ムー大陸の復活と同じか、それ以上のだ」
今何と言った。話が突拍子過ぎる。
「ちょ、待ってください。話が飛び過ぎていませんか?」
「飛ばしたつもりはないし、当然ふざけてるつもりもない」
青年の目を見てツカサは察した。冗談を言っているものではない。
「そのために、今は戦力を集めている。君もそれに加わって欲しい」
「……僕は危険人物ですよ?」
「言っただろ。君を強くすると」
「……毒を以て毒を制するってやつですか?」
「そう思ってくれていい」
ツカサは大きく深呼吸をして気を落ち着かせた。ようやくサテラポリスの狙いを聞き出せた。
「この戦い、スバルくんも参加するんですね?」
「近日中にスカウトするつもりだ」
これを聞ければ、もう悩む理由は無かった。
成長して強くなれば、スバルと共に戦えるかもしれない。望むところだ。
「分かりました。お願いします」
「良かった。君ならそう言ってくれると思っていた。ありがとう、双葉ツカサくん。よろしく頼む!」
青年は大股で近づいて、握手を求めてきた。
少しためらってから応えた。口を開こうとして……あっと気づいた。
「そう言えば。お名前は何ですか?」
「おっと、俺としたことが。まだ名乗ってなかったな。そうだな……」
青年は斜め上を見上げると、子供のような笑顔を見せた。
「ヒーロー……さ」
「好きですね、それ」
冗談なのかよく分からない名乗りに、ツカサは苦笑いを浮かべた。
お し ま い ?
これにて
「流星のロックマン Arrange The Original 2.5 ~ツカサ外伝~」
はおしまいとなります。
最後までお読みいただき、ありがとうございます。
いや、こんなに時間がかかってしまって申し訳ありませんでした。
ツカサくんを通じて描きたかったことは描き切ったと思います。
もう少し面白くできたのではないかという、自分への力不足は感じますが、
それでも今出せる全力は出せたかなと思います。
今回は物語の展開に非常に悩みました。
面白くする方法が分からず、あれはどうだろう?こんなネタはどうだろう?
と悩んで、ネタを過剰に入れてしまってまとまりがつかなくなり、
なにがなんだか分からなくなって、迷走し……という感じでした。
今回ほど執筆が嫌になったことは無いです。
それでも、友人たちのアドバイスをもとに修正し、なんとか書き切ることができました。
この場を借りて、友人たちに改めて感謝の言葉を述べさせていただきます。
本当にありがとうございました。
さて、この続きは3ですね。
あの人も出てきましたし、布石も用意しましたしね。
現在の3の連載開始日は未定となっております。
リプレイなどもしなくてはならないので……。
それでもやっぱり、どれだけ時間がかかっても、
3まで描き切りたいという気持ちが私にはあります。
3の連載が再開された時、
またここに足を運んでいただければ、一人の執筆家として、
これ以上に嬉しい事はありません。
それでは皆さん、またお会いしましょう。