「ああ、石動。これは『荒野○動』というものだ」
「准将…」
「いや、これがなかなか馬鹿にできない。面白い。石動、お前もどうだ」
「准将…」
「フフ…そうだ!もっとお前の力を見せろォ!…で、どうだ」
「わたしは」
「?」
「わたしは、p○bg派です」
「」
「てめー今、おれのこの頭のことなんつった!」
そう叫んでリーゼントヘアの学生は、オルガに向かってズンズンと近づいてくる。
オルガは、今自分が「そんな気はなかった」だの「許してくれ」だの弁明しても無駄だと言うことを理解した。
同時にオルガは、殴るんなら殴ってくれ、とも思った。
オルガには、秘策がある。
数歩歩いて、リーゼントの動きが止まった。オルガから、距離にして一・五メートル。
(来るか)
オルガは全身にぐ、と力を入れる。彼の拳を半端に受けないためである。
だが、リーゼントの拳は動かなかった。
代わりに何か得体の知れない半透明の腕が、肩あたりから現れるのを、オルガは見た。
そしてそれが頰に叩き込まれるまで、一秒とかからなかった。
幸い歯をくいしばっていたので、歯が折れることはなかった。しかしそのあまりにも強すぎるエネルギーは、オルガの二メートル近い巨体をブッ飛ばすのに十分である。
殴られたダメージとアスファルトに叩きつけられたダメージで、オルガの意識は遠のく。
(死んだな)
オルガは、自分の命が『一つ』消えるのを理解した。
『無限』のうちの『一つ』、だが。
オルガは、死んでも死なない体を持っていた。いわゆる『不死身』である。だが死ぬときは必ず、怪我の有無にかかわらず出血する。
赤黒い静脈血が、オルガの周りに流れていく。無意識的に、いつものポーズを取る。
左手を挙げ、人差し指を立てる。台詞を口にする。
「だからよぉ、止まるんじゃねぇぞ…」
この一連の動作が、オルガが死後転生した際に与えられた『希望の華(オルガはそう呼んでいる)』の発動条件である。
希望の華は、何事もなく咲いた。
流れた自分の血が全て体に戻っていく、ちょうど逆再生のように。そのままの勢いで立ち上がると、オルガは首だけをぐるりとリーゼントの方に向けた。
そして殴った。
リーゼントはよろめくと鼻を抑えた。少し、血が出ている。
オルガは、
「何もいきなり殴ることはねーだろ」
と口の端に笑みを浮かべながら言った。
リーゼントは殴られて我に返ったのか、困惑した表情を浮かべる。
しばらくの沈黙が二人の間に流れる。次に口を開いたのは、意外にもリーゼントでは無かった。
「まさかとは思っていたがな…やれやれだぜ」
さっきオルガが地図を見せてもらった、あの帽子の男がこちらを見てそう呟いた。帽子はリーゼントの方に指を指し、
「お前が、東方仗助だな」
『東方仗助』と呼ばれたリーゼントの表情は、さらに困惑を重ねたように見える。「あ、はい」とだけ答えた。
「おれの名は空条承太郎。奇妙だが、血縁上ではお前の甥ってやつに当たる」
「お…甥…ッスか」
「そうだ。詳細は追って話す…そして」
帽子の男…空条承太郎は突然こっちに顔を向けて
「お前が、オルガ・イツカだな」
確かに、そう言った。
「…はい?」
オルガは、
(何故俺のことを知っているんだ?)
そう思って、
俺の名前をどこから聞いた、と問うてみた。
すると何故か、承太郎は怪訝な顔をする。
「スピードワゴン財団から聞いた。おれの調査の助手にひとり配属したと通達が来た…まさか何も知らずにここにきたのか?」
オルガは、脳をフルに回転させて考える。
(俺がここに来た、理由)
決まっている。
(そうか)
間違いない。間違いなくあの金髪バエル馬鹿…マクギリスの差し金だ。オルガは今度こそマクギリスに殺意を覚えた。
こんなにうまく使われてはまるで、俺があいつの部下のようだ。
オルガははぁ、と一度溜息をついて、
「オルガ・イツカだ。あんたのことについては何も知らないが…仕事ならやらせてもらう」
オルガがそういって承太郎の助手を引き受けたその時、プシュー、と音を立ててバスが近づいてきた。
ぶどうヶ丘高校前行き、である。
「…じゃあその、承太郎さん、オレは学校があるんで…」
「ああ、すまなかったな。仗助」
仗助はバスの方へかけていく。無事に乗ったのを見送ると、承太郎はまたこっちに体を向けて、
「というわけだ。幸い、おれも『杜王グランドホテル』に泊まる」
と言った。
オルガは天を仰いで
(嗚呼クソ、マクギリス。休暇っつーのはどういうわけだ)
と心で悪態をついてから、
「こちらこそよろしく頼む。承太郎」
最高の苦笑いをしてみせた。
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