アクア・ネックレス
STAND MASTER
片桐安十郎(通称:アンジェロ)
破壊力 C / スピード C /
射程距離 A / 持続力 A /
精密動作性 C / 成長性 E
「仗助ッ!」
殺人鬼アンジェロのスタンド…『アクア・ネックレス』を喉に突っ込まれた東方仗助にオルガが叫ぶ。仗助は咳き込もうとしているのか。とても苦しそうな顔をしている。
「待ってろ!今出すからよぉ…」
「待てッ!オルガッ!」
仗助の口に手を入れようとするオルガを制止したのは承太郎。
「良く見ろオルガ。仗助…コイツは初めっから『負け』ちゃあねーようだったぜ…」
「?…!!こ、コイツは!」
仗助が背中を仰け反らせ、その勢いで吐き出したのは緑色の『ゴム手袋』!
「そうか、手袋に奴を閉じ込めたのかッ!」
「奴のスタンドは水。確かに出入口を無くせば閉じ込めらるが…やれやれ、それをやってのけるとはな。全く『クレイジー』な奴だぜ」
数回咳をし、膨らんだゴム手袋をしっかり掴んで仗助が立ち上がる。
「さっきゴム手袋をよー、粉々にして喉に入れといたんスよ。スタンドが入った時点で『戻す』…そうしたら瓶の時みたいに閉じ込めらるんじゃあねーかと思ってよッ」
最後の「よ」に合わせて仗助は思いっきり腕を振った。ゴム手袋の中で水が上下に動く。
すると、外から雨音の間に男の悲痛な叫び声がかすかに聞こえた。
「アンジェロは外だ!近くにいるぜ」
走り出した承太郎に続いてオルガ、仗助も声のした茂みへ向かう。
仗助は何度も何度もゴム手袋を振り続けた。スタンドのダメージは本体へのダメージ。茂みに倒れているアンジェロを見つけた頃には、もう身体がボロボロであった。
「アンジェロ、てめー…」
仗助の表情の怒りがあらわになる。仗助を少し鎮めるように承太郎が肩に手を置いた。そして話し始める。
「アンジェロ、お前いつ、どうやってスタンド能力を身につけた?」
「ハァーッ、ハァーッ、クソッ、てめーら、いい気に、なりやがってェ…」
会話が成り立たない。仗助のスタンドがアンジェロの右手を不意に殴った。打ち付けた先には大きな岩。右手と岩が一緒に砕ける。
「ーーッ」と声にならない叫びを発するアンジェロ。そしてその右手は案の定、『直』された。砕けた岩とともに。
「お、お、おれの手がァーーッ!?」
「おい、アンジェロ」とオルガがドスの聞いた声を発しながらアンジェロの髪の生え際を掴む。
「…矢だ」
「は?矢?」「!」
「矢だよ。おれが服役してたころだ。独房にブチ込まれてたおれの元に、突然学生服の男が現れたんだ」
アンジェロはちら、とどこかへ目を走らせた。そしてまた続ける。
「そいつがおれを『矢』で撃ち抜いたんだぜ…痛かったさ」
そこでアンジェロの独白は終わった。承太郎が言葉を継ぐ。
「それでスタンドを身につけたって訳か…やれやれ」
そこまで言いかけた時である。三人の後ろで水音がした。雨ではない。
「なんだ」
後ろを振り返ったオルガに目には、薄くなったゴム手袋が落ちていた。薄くなった?
「まずいッ!結び目が甘かったんだッ!」
オルガが横目で動く水を捉える。と同時にその水…アクア・ネックレスがオルガの方向へ飛び込んだ。
一瞬の反応。オルガの頬をアクア・ネックレスが横切る。切り傷ができ、飛び出した血が二滴、三滴濡れた道路に飛び散る。
「てめーらもう終わりだーッ!いい気になりやがってェェェーッ!」
アンジェロの笑い声が響く。その視線の先には、口をぽかんと開けた子供。
「やべーっすよオルガさん!早く!」
「ちっくしょおおおお!」
子供の方向へオルガが走り出す。が、到底及ばない距離だった。
(クソ、クソ、間に合えッ!)
オルガは死に物狂いで子供の方向へヘッドスライディング。しかしもう届かない…
「え?」
「何ッ!?」
届いた。
アクア・ネックレスを腹に直撃させたオルガは「ウ ゙ウ ゙」と叫んで例のポーズ。「だからよ、止まるんじゃねぇぞ…」
「仗助ッ!今だッ!」
「分かってますッ!」
岩から必死に手を抜こうとしているアンジェロの正面に立つ仗助。
「永遠に供養しろ、アンジェロ。じいちゃんも含めて、てめーの殺した人間のなッ!」
恐怖に目を見開いたアンジェロに、仗助のスタンドの拳が無数に叩き込まれる。
「ドラララララララララララララララララーッ!ドラァッ!」
そして『直す』。アンジェロはついにッ!岩と一体化したのだ!
「アギ」と声か音か判別できないような断末魔を上げて、アンジェロは完全に沈黙した。
ーーよく見れば人間の顔のようにも見えるその岩は、誰が付けたか『アンジェロ岩』などと呼ばれ、杜王町の人気スポットとなった…
「お疲れ様ってやつだな、オルガ」
その夜。オルガの提案で二人は居酒屋に入って酒を酌み交わしていた。
「どうってことねぇよ。前は肉体労働だったからな」
ついでに命も張っていた、と付け足そうと思ったがやめた。
「仗助のスタンドだが、名前、なんか付けてやらなければって思うんだが」
承太郎の立案。名前があった方が利便的らしい。ちなみにアンジェロのスタンドはアクア・ネックレスと呼ばれていたことも今知った。
「仗助のスタンド?…『クレイジーダイヤモンド』…どうだ?」
「クレイジーダイヤモンド」
「そうだ、承太郎が言ってたじゃあねーか。コイツはクレイジーな野郎だとかなんとか」
「それに加えてあの外見から…なるほど、良いな」
話は次第に、オルガの話題へ移る。
「オルガ、あの謎の瞬間移動についてだが」
「あ?…あったなそんなこと」
オルガは大分酔っている。酒に特別強いわけではないのだが、どうも飲みすぎるきらいがある。
「届くはずのない、距離だったが」
子供を助けようと飛び込んだオルガのあれである。絶対に届くはずのない距離だったのは間違いない。
「俺は、あれがスタンド能力ではないかと思っている」
「?」
「お前は、ダメージを受けると血を流して倒れ、そのあと蘇る」
「おう」
「そして今日のあれだ。お前、あの移動の前に血を出していただろう」
確かにアンジェロに頬を傷つけられ、多少の出血があった。
「ああ。で、それが?」
「お前の真の能力は、おそらく」
「血を介して、肉体を移動させる能力だ」
「血を介して肉体を移動…?」
「ああ。いつもの蘇りは本当に死んだわけではなく、血を流してその血から自分の身体を『再構成』してる、と考えている」
「正直、ピンと、きませ、せ、…」
オルガは机に突っ伏し、寝息を立て始めた。
会計は承太郎がした。オルガはなんとか起き(少し吐いたが)、フラフラと立っている。
「おい、オルガ…スタンドの、名前とかないのか」
「…ィトキングラット…」
「なんだ?」
「グレイト・キング・ラット…火星ネズミの、王だ」
「そうか。グレイト・キング・ラット…か」
承太郎は居酒屋を出てホテルへ歩き出す。オルガのことはあまり気にしていなかった。大の大人だ、自立はしてるだろうと考えている。
「まだ寒いな」
四月の夜空は、澄んでいた。
グレイト・キング・ラット、Queenの曲から拝借。