その大きな手に恋心を!   作:ピカしば

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前編

―――初めて彼の手に触れたのは紅魔の里に向かう途中だった。

 

彼の手は思った以上にゴツゴツしていて、一緒にいればなんでも出来そうだと思わせてくれる安心感があった。そのまま眠ってしまう程に…

 

 

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朝。私は少し意地悪気味に彼に声をかけた。

 

「カズマ、今日は早起きなんですね!」

 

「お、お前こそいつもより少し起きるの早いんじゃないのか?」

 

彼は少し照れて上擦った様な声でそう返してきた。

 

こういう所は初めての時から何も変わらない。

 

そう、今日は『デート』である。

 

 

 

「そ、そうですか??私はいつも通りですが!!」

 

彼が「ふーん…」と言いながらニヤニヤしてこちらを見てくる。

 

顔が熱くなる、じっと見つめられると気恥しくなるのでやめて欲しい。

 

そんなかんなでチラチラやってると彼の方から、

 

「なぁめぐみん、今日は王都の方まで行かないか?」

 

王都?

 

「まさかカズマ、私とのデートを利用して『アイリス』に会おうという魂胆では無いでしょうね?」

 

「そ、そんなわけ……。めぐみんそれ良いかもな!」

 

この男!!!

 

 

 

 

 

 

 

―― 「冗談で言っただけなのに、何も飛びかかって来ることないだろ……」

 

「カズマが言うと冗談に聞こえないんですよね…少しロリコン疑惑もありますし………」

 

「それは前にも言ったけど、俺はダクネスぐらいに大きいのが理想だぞ。何度も言うけど、アイリスは妹枠であって恋愛対象には入ってないんだよ!」

 

彼はそう言うが、彼はたまに目の前の私より城のアイリスを優先させる時があるので、正直なところ1番警戒しなければいけないのがアイリスだと思っている。

 

とはいえ、彼女が今の彼の言葉を聞いたら酷く寂しい顔をしそうだが。

 

「まぁ、これを議論し始めると戦争になって終わらなくなるから今はやめとこう」

 

なんだろう、この議題は以前も同じように後回しにされた気がする。

 

今度徹底的に問い詰めてみよう。

 

 

 

 

――朝の支度を終えてからしばらくして、私は彼と2人で王都に来ていた。

 

「…あの、カズマ?今更ですが、どうしてわざわざ王都なのです?何かのイベントでもあるんですか?」

 

私はふと疑問に思っていた事を尋ねる。

 

「……まあ、そんな感じだよ。王都ならではの店もあるし、そういう新鮮味があるのも悪くないかなって」

 

なるほど、確かに……

 

「そうですか、だったらしっかりエスコートして下さいね」

 

「お、おう…」

 

彼は少し照れながら、私から目を逸らしつつそう呟いた。

 

すると……

 

 

「あれ?あそこに居るのって『サトウ様』じゃない?」

 

「え?嘘!『あのサトウ様』!!!」

 

何やら嫌な予感がしてきた。

 

「なぁめぐみん、聞こえたのは多分俺だけじゃないよな。俺、今あの娘達から『サトウ様』って呼ばれたよな?」

 

「……カズマ、きっとそれは幻聴です。悪化する前にアクアに治してもらいましょう」

 

そんな私の小さな抵抗も虚しく……

 

「サトウ様!こんにちわ、私、サトウ様に憧れてベルゼルグで冒険者を始めたんです!」

 

彼が魔王を倒して以降、こういった輩が増えてきた気がする。

 

「え、そうなの!?いやー、俺も冒険者の憧れの的になったのかー!」

 

女冒険者に詰め寄られ、鼻の下を伸ばしてドヤ顔になる彼に少しイラつく。

 

「ちょっと、あんただけズルいじゃない! 私もサトウ様に憧れて冒険者になったんです、えっと、あの、私と一緒にお食事でも!!!」

 

ヤバい、これはダメなパターンだ。

 

「あんたこそ図々しいわよ! サトウ様、私はサトウ様を真似て職業も冒険者にしたんですよ!憧れのサトウ様に教わりたい事、聞きたい事がたくさんあるんです!私と一緒にお食事しましょ?ねぇサトウ様!!」

 

「はぁ??あんた単純にステータス足りなかっただけじゃないの!!私が先にお誘いましたし、私とお食事してくれますよね!!」

 

「いや~、どうしようかなー。もう2人とも俺と一緒にしょく………」

 

私の方を見て、彼の顔が真っ青になる。

 

1人話の置いてきぼりにされ、沸点が爆発している私に彼はようやく気付いたらしい。

 

「「サトウ様?どうしましぐへぇ!!?」」

 

遂に我慢の限界を超えた私は彼に近寄ってきた2匹の蝿をぶっ叩いた。

 

「はぁ!?なにこのガキんちょ。」

 

「突然殴るなんて信じられない!一体何なのこの子!!」

そんな彼女達の言葉に私は堂々と、

 

「私ですか?私は彼の仲間であり、恋人ですよ。そして今日は私たち2人でデートに来たんです、残念ながら、彼は今日あなた達とお食事する時間はありませんよ」

 

と返した。

 

すると2人とも、それは嘘だと言ってくれとも言いたげな顔になり彼の方に視線を向ける。

 

そんな彼は彼女達の方から視線を横に逸らし、汗をダラダラと垂らしている。

 

「ついでに言えば、私は彼と既に一線を超えた間柄なんです。あなた達のような輩に立ち入るような隙はもうどこにもありませんよ」

 

「おい!めぐみん!外でそういう事は言うなって!!」

 

「「!!」」

 

彼の言葉がトドメとなり2人は一気に狼狽えだして、

 

「嘘よ…サトウ様はロリコンだったっていうの……うぅ……」

 

「あぁ……私の夢が、希望が、壊れていく……」

 

2人が何やらそんな事を言い出した。

 

最後にもう一押し。

 

「カズマ!今日のデートは『いつもより』イチャイチャしましょう!そして帰ってたら今夜は2人でお楽しみしてスッキリしましょうね!!」

 

そういって私は彼の腕にギュッと抱きついた。

 

「「あぁ…あぁ…」」

 

そして何かに縋るように彼に手を伸ばす彼女達に向かって私は、不敵に口元を歪めて。

 

「フッ!」

 

鼻で笑った。

 

「「うわああああああああああああぁぁぁ!!」」

 

こうして、彼に寄ってきた2人は泣きながら逃げ出した。

 

 

 

 

「なぁ、めぐみん。流されそうになった俺も悪いけど、このままだと王都でどんどん俺の評判が悪くなるからあそこまでやるのはやめてくれないか?」

 

「デート中に自分の男がナンパされたら誰だってあれぐらいやりますよ。後、カズマの悪口を言った奴は私が全員ぶっ飛ばすので大丈夫です」

 

「そういう話じゃないし、サラッと評判落ちる前提の話はやめてくれ……」

 

しかし、彼がここまでモテるようになっているとは予想外だった。ダクネスやアイリスの様な、身近な人物より気をつけなければならないかもしれないと、私は気を引き締めるのだった。----------------

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 




読んで頂きありがとうございます。

一応後編があります。

※後編はちゃんととデートします(多分)

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